あの「Pepper」に生成AIが搭載されて教育現場での活用
第165回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.11.8 Fri
あの「Pepper」に生成AIが搭載されて教育現場での活用</br>第165回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は、2024年828日、ソフトバンクロボティクス株式会社 教育事業推進室の長﨑 徹眞氏を招いて、「人型ロボット『Pepper』を活用した生成AI教育~生成AIで子どもたちに最先端の学びを」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、長﨑氏が新たに生成AIを搭載したPepperの教育現場での活用事例と可能性について紹介し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「人型ロボット『Pepper』を活用した生成AI教育~生成AIで子どもたちに最先端の学びを」

日時:2024年828(水) 12時~1255

講演:長﨑 徹眞氏
ソフトバンクロボティクス株式会社 教育事業推進室 

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

長﨑氏は、約30分の講演において、生成AIを搭載した人型ロボット「Pepper」の教育現場における活用事例とその効果について紹介した。主な講演内容は以下のとおり。

 

Pepper2017年から教育分野への提供を始め、2023年秋からChatGPTの機能を追加しました。これまでの取り組みと、新たに追加された生成AI機能、実際の活用事例とその成果・効果について説明します。

 

ソフトバンクロボティクスは、ロボット革命で人々を幸せにという社命のもと、サービスロボットを提供してきました。人型ロボットのPepperから始まり、清掃ロボットや配膳ロボットのほか、最近ではオートメーション技術を活用した物流事業も手掛けています。

 

Pepperは世界で初めて「感情を持ったロボット」として世に出て、接客や介護のほか、教育機関で利用されています。教育機関向けの「Pepper for Education」は、プログラミング教育や探究学習の領域で活用されています。

 

▲ スライド1・教育領域での
「Pepper for Education」の活用

 

小学校でプログラミング教育が必修化され、中学校、高校では少しずつ高度な内容を学ぶようになりました。弊社では、子どもたちがパソコンで「自分が動かしたい挙動」や「喋らせたい言葉」をプログラミングしてPapperを動かせるツールを提供しています。このツールを活用することで、自由にPepperを動かしながらプログラミングを学べます。Pepperが動くと目の前にいる人が何を感じるだろうか、何をPepperにさせるとみんなの役に立つだろうかということを考えながら設計し、Pepperで試して、自分の想像と違うところがあったらプログラミングを書き換えていきます。このように、Pepperは、コーディングのスキルを学ぶというよりも、トライアンドエラーを繰り返しながら課題解決に挑戦できる「課題解決型学習教材」です。単純にスキルや知識を習得するだけではなく、Pepperを活用しながら、子どもたちが「世の中で役立つものをどうすれば作れるのか」を考え、実践していく学びができるのが特徴です。

ChatGPTの機能を搭載したPepperの教育現場での可能性

ハードとプログラミングソフトを組み合わせた教育用教材は数多くありますが、それらと比べてPepperは特徴的です。もともとPepperは商用のプロダクトとして開発され、店舗などで活躍しています。つまり、すでに社会実装されているのです。Papperが机の上で動くだけの教材と大きく違うところは、Pepperが世の中の人々に対してアプローチができていて、それによって人の行動を変えることができるというところです。子どもたちからすると、例えばソフトバンクのショップにいるPepperなど、リアルな場面で活躍しているロボットを「自分で動かせる」ことが大きなモチベーションになります。さらには、実際に多くの人たちに使ってもらえるものを「自分たちが作って改良する」という体験を通じて、社会に対して「自分が何をできるのか」ということを考えることにもつながります。

 

一方、学術的な視点では、東京工業大学との共同研究において、Pepperを活用したプログラミング教育で「批判的思考態度」が高い結果を示しました。これもPapperの教育用教材としての特徴です。

 

▲ スライド2・Pepperによる
プログラミング教育の教育的効果

 

教育機関への具体的な提供内容は、まずPepper本体とプログラミングツール、そして学校の先生方や教育機関の方々が授業を進行しやすいようにまとめた250ページほどの指導者向けテキスト、先生がそのまま授業できるようなパワーポイント提供など、多角的なサポートを行っています。

 

そして、2023年秋から、ChatGPTの機能をPepperで使えるようにアップデートしました。

 

▲ スライド3・Pepperに新たに搭載した機能

 

Robo Blocksと呼ばれるPepperのプログラミングツールにChatGPTAPI連携させています。具体的には、ChatGPTが生成したものをPepperが発話できるようにしました。子どもたちがプログラミングしたものをすぐに「バーチャルPepper」で試せるようにもなっています。会話のアプリケーションにもChatGPTを活用し、Pepperが子どもたちの会話の相手となれるようにしています。会話アプリケーションは日本語、英語、中国語に対応しているので、日本語以外の言語の練習相手としても活躍します。

 

付随するエンターテイメント系アプリケーションでも一部で生成AIを使い、例えば「即興パフォーマー」と呼ばれるアプリケーションでは、生成AIを活用し、テーマやキーワードに基づいて作詞・作曲を行い、その曲に合わせ歌唱しながら即興のダンスを行う機能を提供しています。

 

Papperは、プログラミングの授業での活用はもちろん、それ以外にも活用できます。例えば、Pepperがアシスタントティーチャーとして授業をしてくれるコンテンツも提供しています。日本では大雨など災害が多いので防災教育が非常に重要です。そこで、Pepperが防災についての知識をアシスタントティーチャーとして教え、そのインストラクションをもとに子どもたちも自分でワークシートを使って学ぶという授業を展開できるようになっています。気象庁などの専門家の監修を受け、内容についても担保したうえで、教育現場で使っていただいています。

 

子どもたちのリテラシーに関する教材も同時に提供を始めました。デジタル教材が世の中にたくさんあり、子どもたちがデジタルデバイスを当たり前のように使う中で、生成AIに関するリテラシーを学ぶことができます。

 

▲ スライド4・生成AIリテラシーを
学ぶ教材を提供

 

総合監修を落合 陽一氏にお願いし、理解編と実践編に分けて発刊しました。理解編では、まず生成AIを使う時に気をつけるべきことや禁止事項を学ぶ教材になっています。1枚のワークシートで、15分から20分くらいで実施できます。実践編は、Robo Blocksに追加されたChatGPT機能を使って「世の中で役立つPepper」を考えてみようという内容です。プログラミングと共に学びつつ、生成AIに対する指示文(プロンプト)の書き方も実践の中で学ぶことができます。それぞれ、情報リテラシー教育で貢献してきた静岡大学 教育学部 准教授の塩田 真悟氏と、プロンプトエンジニアリングの第一人者であるハヤシ シュンスケ氏に監修していただいています。AIの特徴やChatGPTの使い方を知ったうえで、プロンプトデザインを学んで実際にアイデアをプログラミングするという内容です。

生成AIを搭載したPepper学校での活用事例

さて、生成AIのパイロット校として文部科学省から指定を受けている学校が全国にあります。2023年度と2024年度にパイロット校で、実際にPepperを利用していただきました。その内容をご紹介します。まずは、札幌市立発寒東小学校での活用事例です。

 

▲ スライド5・札幌市立発寒小学校での事例

 

同校では生成AIの会話アプリのPepperと会話ができる機能を活用し、英語の会話の練習相手として使っていただきました。Pepperはしっかり発音を聞き取れますので、間違った発音だと会話が成立しません。自分の発音が正しいかどうかを確認しながら会話できるということで評価をいただいています。人間相手だと恥ずかしくてお喋りできないところもあるでしょうが、中間的な存在と言いますか、人としてコミュニケーションは取れるけれどロボットであるというところが相まって、恥ずかしさもなく積極的に英語で会話してみようという意欲が見られたと聞いています。

 

また、Pepperはクラスメートとしての会話もできるのが魅力です。「好きな食べ物は何?」など簡単な会話から、「飛行機はどうやって空を飛んでいるのか?」といった質問をしていくところまで含めて、クラスメートとして会話の相手をしたという報告をいただいています。

 

Pepperに生成AIを搭載するよりも前から指摘されていたことですが、特別支援学級の生徒は友だちになかなか話しかけられないが「Pepperになら話せる」ということがあるようです。Pepperと会話の練習をして、他の生徒とも話すことができるようなったという事例もあります。特別支援教育での活用も今後、期待されるというコメントをいただいています。

 

プログラミングにもトライしていただきました。Pepperのプログラミングを勉強して、6年生が4年生に教えるという内容です。学年間交流や、学年を通じたカリキュラムマネジメントの観点でPepperを使っていただけると感じました。

 

次に中学校の事例を紹介します。つくば市立みどりの学園義務教育学校と春日井市立藤山大台中学校の事例です。

 

▲ スライド6・つくば市立みどりの学園義務教育学校と
春日井市立藤山大台中学校の事例

 

つくば市立みどりの学園義務教育学校では、Robo BlocksChatGPT機能を使い、子どもたちが使うタブレット端末の中にバーチャルPepperを作り出しました。画面上のPepperと英会話の練習をしたり、英語でのディベートの練習をしたりする取り組みをしています。子どもたちがプログラミングできるので、自分がこう会話を返してほしいというように指示文を書き換えると、Pepperの発話が少し変わります。こうしたPepperの活用を英語の授業の中に組み入れていただきました。先生がおっしゃっていたのは、自分がこう返してほしいというのをPepperに指示する、つまり会話がしやすくなるような設定を自分でする体験を通じて、自分も相手に対して分かりやすく話さないと相手は分かってくれないということを理解することを目標にした、ということです。

 

春日井市立藤山台中学校では、不登校の生徒の登校支援に活用しています。コミュニケーションの難しさがある生徒たちの手助けになるようなPepperの使い方をしていただきました。Pepperと一緒にダンスをしたり、会話をしたりすることで、教室の中の雰囲気を改善したほか、Pepperに会いたいから学校に来るといったモチベーションの観点で活用していただいています。生徒同士の会話もPepperを介することで生まれて、雰囲気が良くなったというコメントもいただいています。生成AIではハルシネーションと呼ばれる誤った情報を生成することがあるので、しっかりと自分で調べることも大事だということを体験できたというコメントもいただいています。

 

最後に高校の事例を紹介します。大分県立情報科学高校です。

 

▲ スライド7・大分県立情報科学高校の事例

 

弊社が提供している生成AI教材を使って授業をしていただきました。まずは、生成AIの仕組みを知ろうということでゲームを行いました。これは、「漢字から何となく想像はできるけれど意味を正確には知らない、分からない」という言葉、授業では「二外(ニガイ)」という言葉を取り上げ、その意味を考えるゲームです。生徒たちに順番に自分が考えた「二外(ニガイ)」の意味合いを示す文章を書いてもらって、最終的にはクラス全体でそれをもとに文章を作って「二外(ニガイ)」の定義を作るというワークです。

 

このワークは、学級全体を生成AIと見立て、色々なところから情報を収集して文章を繋げていき、ひとつのアウトプットを出していくという体験です。生成AIの仕組みを体感的に学べたということで、評価をいただきました。ちなみに「二外(ニガイ)」は、大学の一般教養課程に含まれる「第二外国語」について大学生が使う略語です。大学生としては分かっていますが、それを知らない人が何とか自分が知っている情報の中からそれらしいものを繋ぎ合わせてみると、全然違う言葉になり得るということで、ハルシネーションの理解もできる内容になっています。

 

その後にはChatGPT機能の使い方を勉強して、プロンプトの書き方を勉強し、最終的には校内で活躍するPepperをプログラミングしていただきました。保健の先生として活躍するPepperや、部活の練習メニューを考えるPepperを作りました。

社会で役に立つPepperどう作る?子どもたちが考えるイベントを開催

他にも弊社では年に一度、子どもたちに「役に立つPepper」をプログラミングして作ってもらい、それを審査して表彰するという「STREAMチャレンジ」というイベントを開催しています。超教育協会の石戸 奈々子理事長にも毎年、コメンテーターとしてご参加いただき、作品に対するフィードバックをしていただいています。

 

▲ スライド8・子どもたちが考えた
社会で役立つPepper

 

2023年度は、ChatGPT×ロボットのアイデアコンテストということで、今まではPepperを使った作品だけだったのですが、他のロボットを使ったアイデアも募集しました。子どもたちの教育の成果をアウトプットとして皆様にお届けしたいという思いで実施しています。このイベントの中では、それぞれの子どもたちが作った作品に対するフィードバックも専門家から動画で送っていただいています。ごみ問題であればごみ問題の専門家の方、SDGsに関することであればSDGsの啓蒙をしている団体の方にお願いしています。子どもたちと社会の接点を企業として作っていきながら、将来的にデジタル、ITの世界で一緒に世界を変える仲間を増やしたいという思いでこういったイベントを開催しています。

地域企業や学校と連携してPepperを使った教育を広める取り組み

最後に、我々の特徴的な取り組みについて紹介します。ふるさと教育支援という取り組みです。新しい取り組みを行うときには予算が必要になりますが、現実には自治体を中心になかなか予算が取れない状況です。すぐにやりたいけれど、予算がつかず、検討すると3~4年後になってしまうという行政的な課題があると思います。そういった場合に、地元の企業を中心にPepper利用にかかる費用をご負担いただき、学校で使っていただくというスキームを、「弊社と地域企業と自治体(学校)の三者」で連携して実現しました。この取り組みを通じ、Pepper活用した生成AI、プログラミングの教育のさらなる普及を推進しています。

 

「Pepperふるさと教育支援」と名づけて展開していますが、九州を中心に全国で40件ほどに広まってきました。こういった取り組みを通じて最先端の教育を子どもたちに届けています。

 

もともとこのPepperを活用した教育事業は、社会貢献事業として完全に無償で提供するところから始め、現在は有料ではありますが、社会貢献料金で提供しています。今後もPepperの新しい機能を検討していきますので、こういった活動を深めていきたいと思っています。

 

>> 後半へ続く

 

※「Pepper」はソフトバンクロボティクスの登録商標です

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