300年先の未来に影響を及ぼす教育を
第166回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2024.10.25 Fri
300年先の未来に影響を及ぼす教育を</br>第166回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2024年94日、株式会社ソニー・グローバルエデュケーション プロダクトマネージャーの池長 慶彦氏を招いて、「テクノロジーを使いこなす理数脳を育む学習アプリ『LOGIQ LABO(ロジックラボ)』と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、池長氏が子どもの「正解を論理的に導く力」と「正解のない答えを探究する力」を育む自宅学習アプリ「LOGIQ LABOの機能と用意されている学習コンテンツについて紹介し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「テクノロジーを使いこなす理数脳を育む学習アプリ『LOGIQ LABO(ロジックラボ)』」

日時:2024年94(水) 12時~1255

講演:池長 慶彦氏
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション プロダクトマネージャー

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

子どもたちや保護者からの実際の反応や今後の開発の方向性など視聴者から多数の質問

 石戸:「たくさんの質問がきています。まずは、『LOGIQ LABOをリリースして少し時間が経ちましたが、子どもたちからの反応はいかがですか。また、親御さんからの反応もありましたら教えてください』というものです」

 

池長氏:「学童や学校へ出張授業に行き、実際に触ってもらうイベントを行っています。子どもたちが実際に触っている姿を見て教材やアプリをブラッシュアップしているのですが、ゲーム感覚でやっているような、本当に楽しんでやっているところが、他の教材とは違うと思います。勉強をしているというよりは、クイズやパズルを解いている感覚で学んでいるところが印象的です。保護者に関しては、問題の質がよいですねという声をいただいています。考える力を伸ばすというところを評価いただいていると思っています。そのほか、塾の関係者や学校教育の関係者とお話する機会があるのですが、やはりそこでもコンテンツの質が非常に評価されています」

 

石戸:「『子どもたちが自発的に学びたくなるようにどのような工夫をしているのでしょうか』この教材が他社のSTEAM教材とは違い、子どもたちが自発的に学びたくなるような工夫をされていましたら教えてください」

 

池長氏:「特に読解問題というのは子どもが嫌う問題なので、親しみやすいイラストと親しみやすい文章、すぐ生活に紐づくようなシチュエーションなどを盛り込んで、すっと問題に入れるようにしています。そこは他にはないポイントだと思っています」

 

石戸:「問題の質が高いという評価があったということでしたが、視聴者から『質の高い問題はどのように作成されているのでしょうか』という質問がきています」

 

池長氏:「算数オリンピックの問題作成を手がけたさまざまな知見やノウハウを持つ問題作成のプロが我々のチーム内にいます。その方のノウハウをチーム内に共有し、アイデアを出し合って作っています。自社で問題からソフトウェアを一気通貫で作れるので、そこは他にはない強みと思っています」

 

石戸:「評価の部分について、自動化された評価でプロセスの評価をどのように行っているのですか。非常に興味があります。視聴者からもこのような質問がきています。『自動化された評価に興味を持ちました。何度も試行錯誤していたり、途中で間違えた考えになったとしても、プロセス的にはトライ&エラーの姿勢として評価してもよいと感じます。反面、探究力がついたかどうかのアセスメントの評価も必要だと思います。どのように分けて評価するのが良いとお考えですか』というものです」

 

池長氏:「まず、プロセスの評価は今の状態ではまだ完全ではないと思っています。今後、そこを深めていきたいということを前置きします。そのうえで可視化することが、最初にやるべきことです。いきなり評価するのはなかなか難しいので、例えば保護者が見て、これはこんなに時間をかけて取り組んだとか、このアイデアを子どもが出したなど、そういった取り組み内容を可視化して評価していくことが大切だと思います。その後に、我々として考えているのが『他者評価』です。LOGIQ LABOのアプリ内で自分が作った作品を我々の世界の中で公開することができます。それに対して、ここのポイントが良いねとか評価を集めてそれを可視化することも、見える化に繋がると思っています」

 

石戸:「このような質問がきています。『理数脳といっても文系脳との差がなくなりつつあるように感じますが、どのようにお考えですか』というものです。敢えて理数脳を前面に出したその心はなんでしょうか」

 

池長氏:「昨今は、文系理系の垣根はなくなっていて、文系の職業でも理数の力が必要とされている時代になっていると思います。どちらかというと、文系だけの力というのは薄れてきて、基本に理数の力があって、その上で文系的な科目を選択することが多い印象です。文系であっても分析をしたり、批判的に考えたりロジカルに組み立てたりするので、母体となる力は理数の力ではないかと感じています」

 

石戸:「正解を論理的に導く力と正解のない答えを探究する力という二つの軸を掲げていらっしゃって、ともすればそれが二項対立のように言われることがあるなかで、それを両輪で回しながら進めていくというのは、よいコンセプトと思いました。どういう力を育むかについて社内で議論があったのですか」

 

池長氏:「そうですね。最初は、論理的な力を育む方向でサービスを企画するところから始まりましたが、やはりこれからはそれ一本やりでは駄目だということで、二つの力を行き来しながら育むというコンセプトに切り替えました」

 

石戸:「その二つの力の相関は見えたりするのですか。行ったり来たりで相関関係がやはりあるのではないかと思いますが、いかがですか」

 

池長氏:「実際はあると思いますが、サービスを始めて5カ月くらいで十分な分析ができていないです。あと探究自体の成果物をどう評価するか。そこの評価が決まらないとなかなか相関関係を把握できないと思います。そこの評価のところがもう少し見えてくると、二つの力の相関関係が見えてきたり、こういう学習を辿っていけば両輪が回ってうまく効率的に学べるといったところも見えてくるのではないかと思っています。今後の課題です」

 

石戸:「視聴者からの質問です。『他のSTEAM教材と比べてどこに強みがありますか。LOGIQ LABOの強みについて改めて教えてほしい』というものです」

 

池長氏:「強みというと探究活動をデジタルに落とし込んで、学習者一人で進めていけるという教材は他にはなかなかないと思っています。近しい部分だとプログラミングがあると思いますが、そこを一歩超えて、例えば絵本を作ってみたり、コミュニケーションやディベート力を養ったりといったところまで行っている教材はなかなかなくて、そこは尖っている部分ではないかと思っています」

 

石戸:「プログラミングというお話がありましたが、視聴者からこのような質問がきています。『AIによるプログラミングが可能になりつつあるようですが、その点をどのようにお考えですか』というものです」

 

池長氏:「プログラミングも段階があると思っています。小学校の時はいわゆるプログラミングを学ぶというよりは、プログラミング的思考を学ぶことが大事だと思っています。最近ではAIがプログラムを書いてくれますが、その指示をかなり的確に出さないと求めるものができないので、仕様をきちんと作れる能力、正しく指示を出せる能力を養うことが必要だと思います。それこそまさにプログラミング的思考で、ものごとを抽象化して整理してというところに繋がっていくのではないかと思っています」

 

石戸:「LOGIQ LABOの構想が始まった時は、生成AIはまだブレイクしていなかったですよね。その頃から生成AIを使ったカリキュラムは想定していたのですか」

 

池長氏:「ChatGPT 3.5が出た時に、これで間違いなく教育業界が変わるなと感じました。性能もすぐに上がっていくだろうとかなり確信を持っていたので、その時点でどうやって活用するかをいち早く考えていたとは思います」

 

石戸:「生成AIを組み込むことによって、LOGIQ LABOとしての構想に変化はあったのですか。生成AIはこれから広まるであろう、だからこそこの教材はこう変化させようなど、生成AIの存在が変化を及ぼした部分はありますか」

 

池長氏:「論理的思考力と正解のない答えを探究する力の二つの力のうち、探究する力については、オンラインで講義しながらすすめるといったことも構想していました。生成AIが出てからは人で行う部分はテクノロジーで置き換えられると考え、そこはシフトチェンジしました」

 

石戸:「AIとのディスカッションを通じてディベート力や表現力を育むということで、これからAIをどんどん活用するという話がありましたが、それ以外にも教育での生成AIの利用の可能性について議論されていることがありましたら教えてください」

 

池長氏:「テーマとしては山のようにあって、次にやりたいと思っているのが、旅行の計画を立てることです。生成AIGoogleアースを使って、バーチャル空間で現地を視察するような、他のテクノロジーと生成AIを組み合わせて展開するということは考えています。あとディベートについても数年は必要かもしれませんが、会議に生成AIが何人かいて、リアルな人もいて、一緒にディスカッションするなど、他のプレイヤーと協調しながら探究活動をするということも目指していきたいと思っています」

 

石戸:「複数の視聴者から、『これから生成AIが発展していく時代において、学校の課題や方向性はどのように考えていけばよいか。学校の学びはこれからどのように変化していくべきだと思うか』という質問です」

 

池長氏:「個人的な意見ですが、学校現場のありようは変わってくるのではないかと思っています。AIが入ってくることによって、個人最適化はより進むと思いますので、専門的な分野はAI任せて、メンタルのケアや道徳教育、コミュニケーションの方法などを学校がサポートしていくような形に、徐々に時間をかけて変わっていくのではないかと思っています」

 

石戸:「学習塾を運営している方からこのような質問がきています。『このような教材ができれば、小学生用の学習塾は必要なくなると思いますか。仮に小学生用の塾が存続するとすれば長期的にどのような点にフォーカスすべきだと思いますか』というものです」

 

池長氏:「難しい質問ですね。AIもどんどん発展していくと思いますが、やはり人とのコミュニケーションは消えないと思っています。いかにモチベーションを喚起させてゴールに向かわせる姿勢を作るかというところも重要な要素になってきます。学習塾も、AIを活用しながらも人の良い部分をきちんと学習者に返していくような、そういったところで共存は十分にあり得るかと思っています。ただ、10年後20年後どうなっているかというのはちょっと難しいです」

 

石戸:「LOGIQ LABOについて、いくつか質問がきています。まずは、年齢に関するものです。『無学年型ということですが、主に小学生対象で今後中学生など対象を広げていく予定はありますか』というものと、『実際には、どのくらいの年齢の受講者が多いですか』というものです」

 

池長氏:「今のサービスは小学1年生から6年生が対象です。ただ、お客様から中学生用や高校生用を作ってほしいというお声はいただいています。我々としてはまだサービスをローンチしたばかりで、まずは課題を潰して小学生を対象に完璧だというところまで集中してやりたいと思っています。その後、中学生や高校生に展開することは十分にあり得ると思います。利用しているユーザーで一番多いのは3年生、2年生、4年生、1年生の順で、一番少ないのが6年生です」

 

石戸:「教材を作る側としては、主に3年生ぐらいをターゲットに作り、利用者もその通りであったという感じですか」

 

池長氏:「実は私の長男が小学3年生だったのです。それが反映されたのではないかという話は笑いながらしていますが、実際に情報読解の問題のところで壁に当たるのは3年生くらいからです。我々がコンセプトとして最初に立ち上げた課題感を一番持っているのが3年生だったと分析しています」

 

石戸:「先ほど、LOGIQ LABOをプラットフォームという言い方をされていました。今はソニー・グローバルエデュケーションさんが作った教材が乗っているかと思いますが、今後の展開では、プラットフォームとして他社の教材も乗せていくイメージですか」

 

池長氏:「そこは構想として持っている段階です。まずは自社のコンテンツを乗せるということで作っていますが、いずれは他社の教材も乗せて、それも込みでAIがカリキュラムを作ってくれて、将来の夢のサポートしてくれる世界を作りたいと個人的には強く思っています」

 

石戸「ここから先の展望についての質問もいくつかきています。『この学びをマイクロクレデンシャルやデジタルパーティーに接続する可能性はありますか』というものです」

 

池長氏:「現時点ではないですが、そういったことはやりたいとは思っています。受験なども今後、長い期間かけて変わってくると思っています。今は一発テストの受験ですが、今後はどういったプロセスで何をやってきたかがかなり重要になる時代が来ると思っています。この学習アプリをどのように成長したかをきちんと可視化して、第三者に提供できるようにする仕組みが求められてくると思っています。将来的にはそういったこともケアしていきたいと思っています」

 

石戸:「今後の展望に関してもうひとつ質問がきています。『海外では、どのような展開をされていくのでしょうか』というものです」

 

池長氏:「もちろん海外でもやりたいと思っていますが、我々の会社の規模がそれほど大きくないので、まずは日本市場で目の前のお客様を全員満足させて、そのあとで学年を広げたり海外に展開したりというような利用シーンの拡大はやっていきたいと思っています」

 

石戸:「学年を広げる時に、上に行く方が先なのか下へ行く方が先なのかはどうでしょうか。というのも『幼児教育におけるデジタル教育、理数教育のメリットについてお考えを聞きたい』という質問がきているからです。まず、展開としてどういったステップを踏んでいくつもりなのかということと、未就学児、幼児教育に関しての考えについてお聞かせください」

 

池長氏:「すでに幼児教育向けは始めています。七田式教育は皆さんご存知と思いますが、LOGIQ LABO共同開発をした幼児向けのコンテンツをリリースしております」

 

石戸:「幼児教育におけるデジタル教育や理数教育に関してどのようなメリットを見い出していますか。ソニー・グローバルエデュケーションさんとして幼児教育を提供するにあたっての思想について教えてください」

 

池長氏:「幼児教育について、私自身もデジタルだけやっておけばよいという考え方ではなくて、幼児のうちは色々なものに触れさせて、興味関心を持たせることが重要だと思っています。なので、ペーパーもやりつつデジタルも活用して、知識を繋げていく意味で色々ある選択肢のひとつとして活用していただくのが良いかと思います。これがあれば完璧というものではなくて、ワンオブゼムで取り組んでいただければ良いと思っています」

 

石戸:「このような質問もきています。『AI活用で教材を作るのが上手だなと感じました。社内でこういうアイデアを出せる人が多いのですか』というものです。ソニーさんは教育や人材育成に対する思いが強い会社だと認識しているのですが、なぜこんなに教育の分野において非常に面白い、技術的にもデザイン的にも高いプロダクトが生まれてくるのか、企業のカルチャーについて教えてください」

 

池長氏:「ソニーでは、年齢問わず良いアイデアはきちんと採用され、色々な年代の方が色々な意見を出し合える社風があると思っています。なおかつ、アイデアをプロジェクト化して製品化までするところまで会社全体としてサポートしてくれる社風もあるので、タケノコのように色々なアイデアが出てくるのではないかと思っています」

 

石戸:「最後に、300年先の未来の教育はどうなっていて欲しいか、ひと言お願いします」

 

池長氏:「300年先は、人間自身が自分の夢を語れて、それをAIやコンピュータが実現に向けてサポートしてくれるような世界があるべきだし、それを成し遂げたいと私自身は思っています」

 

最後は、石戸の「LOGIQ LABO300年後の未来の教育を先導してくれることを大いに期待したいと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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