概要
超教育協会は2024年6月5日、株式会社みんがく 代表の佐藤 雄太氏を招いて「教育特化の生成AIプラットフォーム『スクールAI』で現場の課題を解決」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では佐藤氏が、教育現場での生成AIの活用の「3つの可能性」について説明。教師自身が生成AIを活用して独自の学習アプリを作れる「スクールAI」の活用事例を紹介した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「教育特化の生成AIプラットフォーム『スクールAI』で現場の課題を解決」
■日時:2024年6月5日(水)12時~12時55分
■講演:佐藤 雄太氏
株式会社みんがく 代表
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
AI時代を生きる子どもたちに求められるのはロジカルに言葉を紡ぐ「言語化」の力
石戸:「いくつか事例も見せていただきましたが、生成AIの登場によって、自学自習が極めてやりやすくなったと思います。そうすると、学校や塾の役割も大きく変わると思います。学校という視点でいうと、このサービスは、まず学校に導入されていくご予定だと思いますが、『授業をどのように変えていくべきだと思われているのか、そしてそれを踏まえて学校はこれからどう変わっていくとよいのか』について、ご意見を伺えればと思います」
佐藤氏:「これから求められる人材ももちろん変わっていくとは思いますが、変わらないところは、いつも信頼関係を取り結んでいる先生からの指導です。これはより価値が高まっていくと思います。単なる知識やシンプルに分からないところを聞くのはAIでできるかもしれないし、これまでも参考書や動画の授業であったかもしれませんが、リアルな場で、普段から信頼している先生からの一言、あるいはその先生と将来どうなっていくかを一緒に話していくとったところに、重要度が集中していくと思っています」
石戸:「仰ることに同感ですが、生成AIにはカウンセリング的に機能している側面もあると思います。子どもたちからしても、内面のことは、相手がAIだからこそ言いやすいこともあるようです。さらに、そのような可視化されにくいことについては、データの蓄積があるAIのほうが各個人についてより深い情報を持ち、より的確なアドバイスや適切なコメントをくれるケースも出てくるのではないかと思います。すると子どもたちが、教師よりも生成AIを信頼していく可能性もあるのではないでしょうか。ネガティブな言葉でいえば『依存していく』、よい意味では『信頼していく』可能性です。どうなのでしょうか」
佐藤氏:「仰るとおり、人間だと少しハードルが高い相談もサクッとできて、しかも結構、良い感じの答えが返ってくることは実際にあると思っていますし、教育現場の先生方からは『もうすでに、そうしたことが起こり始めている』とも聞いています。ただAIは、物理的な身体を持っていないことが大きな弱みだと思っています。物理的な会話ならAIに頼むことができるかもしれませんが、そこから先のアクション、例えば何か問題が起きて一緒に解決していくことは、生身の先生にしか対応できないと思います。
あと、同じことをシンプルなアドバイスとして聞くのはAIでよいのだけれど、『これまで生きてきた人間だからこそ、この人の言っていることには重みがある』ようなこともあると思います。かなり抽象的ですが。子どもたちの中には、『どうせAIだから』ようなものもまだ残っていて、先生が言うからこそ信頼して受け止めることはあると、すごく感じています」
石戸:「ありがとうございます。『実際にこのサービスを利用した現場からの反応や評価について』の質問もいくつかきています。学校の先生、それからそれを使って授業を受けた子供たちについて、いかがでしょうか」
佐藤氏:「レスポンスが遅いなど、そういうテクニカルな評価もいただいていますが、生徒側の反応は非常によいです。例えば作文を一つ提出するにしても、これまでは早くても数時間後にしか評価が返ってこなかったのが、その場で返ってくるので、勉強しやすくなったという声は非常に多くいただいます」
石戸:「次は、『テンプレートがいくつかあるということですが、一番人気があるのはどういうものなのか、もしくは人気の傾向はあるか』という質問です。いかがでしょうか」
佐藤氏:「傾向としては労力がかかるもので、みなさんが望んでいるものが非常に人気です。具体的には自由英作文などです。入試などでもそこで差がつきますので、本当は添削してあげたいが、リソースが足りなくてできていなかったというところです。英語のスピーキングも大学入試で重視されていく中で、マンツーマンのプライベートレッスンをリアルタイムで受けられる、そんなところも非常に人気が高いです」
石戸:「さきほどシンポジウムの冒頭で、『学校が変わるのではないか』という話とあわせて『学習塾はどうなるのか』とお話をしました。もともと学習塾をやられている中でこのようなAIサービスを作っていらっしゃって、これから学習塾の役割や、そもそも学習塾の存在に関して意味合いが変わってくるのではと思いますが、どのように考えていますか」
佐藤氏:「少し前に動画の授業が出てきて、分かりやすく教える先生が動画で説明することが進んできたと思いますが、そのときの状況と似ていると思っています。教えるのは確かに上手ですが、結局、生徒は動画だけではぜんぜん勉強しないのです。目の前に先生がいることがモチベーションになっています。生徒は、なぜこの勉強する必要があるのか、これから先の人生どうやったら豊かに生きられるか、生きる意味やその勉強をする意義のようなところを伝えていける塾が伸びてきています。その傾向はより強くなっていくのではないかと思っています。AIは、答えられる個別の質問を答えていくようになるのではないかと思っています」
石戸:「視聴者から『AIは協働的な学習にどのように活用できますか』という質問がきています。個人が学習するにあたってより効率的な学習の手法を提供してくれるツールとしての生成AIの活用が多かったと思いますが、それ以外の生成AIの使い方もあるのではないかと思います。協働的な学習をはじめ、個別最適化された学習ではないところについて、教えていただければと思います」
佐藤氏:「個別最適化された学びに強いことはもちろんなのですが、実際には例えば英作文の授業だとしても、最初にAIと対話をしながらしっかりと自分自身の意見を固めていき、それをベースにみんなで協働的にディスカッションしていくことは結構やられていて、すごくうまくいっているケースがあります。先生がファシリテーターとなって生成AIをうまく使うことで、協働的な学びや対話的な学びにもつながっていくと思います」
石戸:「最後に、オーソドックスでよく聞かれる質問かと思いますが、生成AIがでてきたからこそ、これからを生きるにあたって、より必要とされる力も変わってくるのではという議論が再燃していると思います。改めて、生成AI時代だからこそ子供たちにより一層力を入れて育んでもらいたいことがあるとすると何でしょうか」
佐藤氏:「それは、言語化する力だと思います。先ほど申し上げたように、どんなにAIが発展しようと、結局はAIに指示をして、どういうことをアウトプットしたいかは、言語として規定されていきます。そのためにも英語、国語、あるいは数学もロジカルに言葉を紡ぐ意味で言語的な要素があります。言語化できる力は、ますます重要になってくるのではないかと思います」
最後は石戸の「生成AIの黎明期だからこそ、いろいろな実践事例をというお話がありましたが、学び方、それから教育のあり方も変革のときと思います。ぜひ引き続き新しい事例をたくさん共有いただければと思います」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。