画像生成AIの活用で子供たちの学びのスタイルはどう変わる?
第154回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2024.5.24 Fri
画像生成AIの活用で子供たちの学びのスタイルはどう変わる?</br>第154回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2024410日、アドビ株式会社 教育事業本部執行役員本部長の小池 晴子氏を招いて「アドビが目指す次世代の教育とAIの活用可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では小池氏が、アドビの画像生成AIAdobe Firefly」の機能と教育現場での活用事例を紹介した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「アドビが目指す次世代の教育とAIの活用可能性」

■日時:2024年4月10日(水)12時~12時55分

■講演:小池 晴子氏
アドビ株式会社 教育事業本部執行役員本部長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

これからの教育に求められるのは生成AIを活用するベースとなる力を養うこと

石戸:「ありがとうございました。私は20年前にCANVASというNPOを設立し、すべての子どもたちのクリエイティビティの底上げ、特にテクノロジーを使った創造力を育む場づくりに取り組んでいます。アドビさんとは、活動当初からいろいろとご一緒させていただきましたので、思いは同じだと思いながら聞いていました。

 

さて、生成AIが出てきてクリエイティブな作業も生成AIがやってくれるようになり、創造力とはなんだろう、人間だけにできるクリエイティビティとはなんだろうという議論がよくされるようになりました。視聴者から、小池さん、そしてアドビは、このようなツールを使っても残る人間としての創造力、クリティビティに関してどのように考えていらっしゃいますか?という質問がきています。いかがでしょう」

 

小池氏:「すごく重要な観点ですね。ありがとうございます。画像生成AIに限らず生成AIが出力したものは、人間がその上にさらに創造性を発見していくスターティングポイントだと思っています。人間だけで試行錯誤しているよりも速く、インスピレーションの幅を広げることを手伝ってくれる便利な相棒が出現しただけであり、この相棒が一人でスターになって輝いていくのではないと考えています。あくまでも相棒が出してくれたものの上に、人間ならではの創造性を広げていく。人間の創造力が奪われるものではなく、むしろ広げる機会がさらに出てきた、ということだと思っています」

 

石戸:「これまでもアドビのPhotoshopIllustratorやPremiere Proを使って表現したアウトプットはいくつもありました。そう考えると、『そのツールがより高度になった』ということだと思います。

 

視聴者からも『このようなツールの登場で、技術的に難しくて今まで描けなかったことが誰でも描けるようになったこと、頭の中だけにあった世界を表現できるようになったことに驚き、ワクワクしています』といったコメントがきています。教育現場でも、これまではツールの操作技術の習得に割いていた時間をクリエイティブなことに使えるようになると思いますが、『子供たちの創造力を高めていくために、今後どのようなことを学び、身に着けていくとよいと思いますか』という質問です。いかがでしょうか」

 

小池氏:「仰る通り、ツールを学ぶことに多くの時間を割く必要がなくなったことは、重要です。その上でやはり生成AIだけではなく、デジタルの力を活用して自分が持っているアイデアを人にわかりやすく伝える力、形にする力を伸ばす、時間と機会をより増やしていくとよいのではと思っており、我々もその部分でご支援したいと思っています。

 

我々は『想像力のベースとなるものには、クリエイティブ・コンフィデンスがある』という考え方を支持しています。学校は、安全な場所でいろいろなツールも使い、自分の身体表現も含めて試行錯誤をしてみることができる場です。失敗も成功も含めてその人のコンフィデンスができあがり、その結果、大人になったときに自信を持って、自分の創造性を発揮できるようになるのではないかと考えています。子供たちは、このような新しいツールも活用しながら、試行錯誤の形を変えながら、学校教育で学んでいけることが理想ではないかと思います」

 

石戸:「クリエイティブ・コンフィデンスに関連しますが、アドビさんの創造力に関する国内外の調査で、日本人はクリエイティビティが高いと世界から評価されているのに、日本人の自己評価は低いというデータがありました。それを調査した企業として、そのツールを提供する側、そして教育現場にも提供している立場として、どのように分析されていますか。このギャップに、この生成AIのツールはどのように影響を与えるかについても、ご意見を伺えればと思います」

 

小池氏:「ご指摘の調査は2016年頃のものだったかもしれません。現在、同じ項目で調査し直すと回答が変わるのではないかと思いますが、確かにそのような調査結果がありました。これに関してアドビとしては当時、もしかするとそもそもクリエイティビティ、創造性という言葉の捉え方が、日本ではすごく狭いからなのではないかと分析していました。この調査結果以降、我々は選ばれた特別な人だけが生まれ持つセンスやアーティスティックなことだけを言っているのではなく、日常生活の課題解決の中の創意工夫の力なのだと捉え直しています。先ほど申し上げた『試行錯誤』がやはり肝であり、試行錯誤の中でちょっとずつ創意工夫をすることがクリエイティブ・コンフィデンスにもつながり、それ自体がとてもクリエイティブであるとも考えています。そのツールとして、デジタルツールや生成AIをより活用できる時代がやってきた、それが今なのだと思っています」

 

石戸:「仰る通りですね。創造力にはいくつかのレイヤーがあって、世紀の発見のような創造力もあれば、特許を取ることや著作物を作る創造力もありますし、日常生活の中で例えば冷蔵庫にあるものの中で料理を作ることや、日々の生活の中で何か新しい発見をする、そのようなスモールクリエイティビティもあると思います。CANVASの活動においても、我々がいう創造力は、そのような日常的なクリエイティビティを指しているのだという話をよく話していました」

 

小池氏:「スモールクリエイティビティ、よい言葉ですね」

 

石戸:「そういうところの、認識のギャップもあるのかもしれないと思いました。ところで、国内外の意識の差について、生成AIに絡んでもう少し教えていただきたいことがあります。先ほど、生成AIの導入状況についていろいろな数字をお示しいただきましたが、あれは海外も含めた数字ですよね」

 

小池氏:「はい、グローバルな数字です」

 

石戸:「何かの資料で、生成AIの受け入れに対して、日本人一人ひとりは海外に比べてあまり抵抗がないというデータがありながら、一方で企業での導入の視点では海外と比べて日本はあまり導入されてないという、デジタルの導入のときのような遅れを既に取っているというデータもあると、読みました。御社のこれまでの調査を踏まえて生成AIに対する個人の受容度に関する国内外の比較と、企業や教育現場それぞれの受容度に関する実態で感じることがありましたら教えていただければと思います」

 

小池氏:「仰る通り、確かにビジネス現場では日本の方が、緩やかに導入が進んでいるという調査結果が出ています。ただし、それは抵抗感というよりは日本社会の特性として、様子を見ながら慎重に進んでいるのではないかと捉えています。すごく遅れを取ったと焦る状況ではないと思います。

 

教育現場については、GIGAスクール以降の日本の学校、教育現場の先生方の取り組みは本当に素晴らしいと思っています。アンテナを高く持ち、さまざまな情報を集めて試している先生方に日々触れる機会がとても多いです。我々はアメリカ、イギリス、オーストラリア、シンガポールなどさまざまな国の先生方とも情報交換をしますが、日本の教育現場は全く遅れを取ってはいません」

 

石戸:「先ほどメディアリテラシーに関する教材の話がありました。生成AIを使うにあたってのリテラシーは、デジタルのリテラシーと大きく違うわけではないと思いますが、一方で生成AIだからこそ気をつけるポイントもあると思います。特に教育現場に導入するときには、どういうことに注意して子供たちにどう伝えているのか、教えていただければと思います」

 

小池氏:「我々もこれから突き詰めていかなければいけないポイントだと思っていますが、『このツールを使う場合の教育』と『ツールの使い方の教育』という2つの観点があると思います。例えば、著作権では『人の著作権を守る』観点と『自分自身の著作権をどう捉えるのか』の観点での教育が必要でしょう。自分のプライバシーでは、ネット情報やデジタルツールを使う中で『自身のプライバシーをどう守り』、何に気をつけなければいけないのかを教育する観点です。その意味でもこのツールは、教材として有効に使える側面もあると思っています」

 

石戸:「もうひとつ視聴者からの質問です。『学校教育における生成AIの利活用促進浸透による、子どもたちの資質能力向上の最大課題は何だとお考えでしょうか』というものです。いかがでしょうか。生成AI時代だからこそ、より一層こういう力が大切なのではないか、それを育むにあたって現状だとこういう障壁があるのではないかということだと思います」

 

小池氏:「回答になるか分かりませんが、こういう時代だからこそなお一層、子どもたちの学びの機会として『良質なインプット』が重要だと思っています。生成AIが相棒としてスターティングポイントに出してくれたものに、よりインスピレーションを加えていくのはやはり、人間ならではの創造性、想像力です。その材料になるものをいかに持つか、普段から良いものに幅広く触れて、自分の中に引き出しとして持つことが次の勝負になってくると思います。子どもたちが自分なりのインスピレーションの源を築いていける機会を作って行くことが大切なのではないかと思います」

 

石戸:「リアルな体験の大切さも、最近、改めて指摘されています。まさにそういうインスピレーションの元になるようなインプットは、生成AIだけに限らず幅広く必要かと思います。このような質問もきています。『教育現場での生成AIや活用について、思考力の低下を懸念する指摘がよくあります。リスクに関するお考えを知りたい』というものです」

 

小池氏:「生成AIが出してくれたものを、そのまま右から左に使うことを仮に許容し続けるならば、思考力の低下は懸念すべきポイントだと思います。逆に言うと、繰り返しになりますがそれをスターティングポイントとして個性ある創造力を付加していくと考えるならば、むしろ思考レベルは高まっていくと思います。ベースラインとして、右から左を良しとしないことは必要なのではないかと思います」

 

石戸:「生成AIが登場してから、クリエイターの方々からさまざまな声が上がっています。訴訟問題も起きています。その中でこのような質問もきています。『これまでのユーザーであるクリエイターの方々の反響、リアクションなどあれば知りたい』というものです」

 

小池氏:「アドビはずっとクリエイターの方々に使っていただくツールを開発してきて、クリエイターの方々のおかげで成長してきた会社です。生成AIがクリエイターの方々の創造性を妨げたり、仕事を奪うようなものであってはいけないという考えを持っています。クリエイターの方々からもさまざまなお声を頂戴していますが、決して批判的な声だけではありません。

 

Adobe Fireflyの学習モデルに使っているAdobe Stockは、そもそもクリエイターの皆様が自身の作品をアップされたものです。それら生成AIのモデルに使われた素材に関しては、それをコントリビュートいただいたクリエイターさんに対価をお戻ししていく仕組みを作っています。我々の責任としても、新しい時代においてもクリエイターの皆様とともに成長していけるイノベーションを作っていきたいと考えています」

 

石戸:「視聴者からです。『このようなツールが出てくることによって、コンテンツを作る側にこれからより一層求められるスキルとは何でしょう』という質問です。いかがでしょうか」

 

小池氏:「子供も大人もすべての世代が今、一斉に新しいツールを手にしたので、そこにいかに自分ならではの個性や創造性を発揮していくか、根本はそれに尽きると思います。一人ひとり、自分らしさはどこにあるのか考え得意分野を深めていくことで、人間全体としての文化がより豊かになっていくのではないかと思います」

 

石戸:「教育現場での導入事例をいくつかお伺いしました。文部科学省もパイロット校を選出して、生成AIを使った授業づくりの実証実験を行っています。御社としてはこれから先、教育現場への導入という視点でどんなことに取り組んでいきたいと思われますか。一歩踏み込んでお話いただけますか」

 

小池氏:「教育現場の皆様には、先ほどご覧いただいたAdobe Expressオールインワンツールのデモでご覧いただいたように、Adobe Fireflyで生成したものを目的に合わせて編集していくことができる、ツールの中でのご案内を一番強化しています。ただこれはあくまで道具のため、その授業や活動の中でどのように使うのがよいのかは、先生方と一緒に考えて事例を増やしていきたいと思っています。アドビは、Adobe Education Leaderという先生方の認定をしています。今年から名前がAdobe Creative EducatorACE』と言いますが、ACEの中のさらにイノベーターの先生方ということで、ACE Innovatorという名称に変わりました。その認定された先生方に核になっていただき、具体的な事例を増やして、我々もより学びを広く深め、さらに広く支援していきたいと思います」

 

石戸:「最後に質問を2つします。一つめは、『AIを含むデジタルクリエイティブスキルを磨くことが、子どもたちの未来にどのような影響を与えるか』です。もう一つは『AIを筆頭としたテクノロジーの進化で、今後、教育はどのように変化すると思われるか、もしくは変化すべきだと考えられるか』です」

 

小池氏:どちらのご質問も、同じお答えかなと思います。学校教育現場は、社会の最先端のことを子どもたちに伝えていき続ける場であるのが一番望ましいのではないかと思います。もともとの学校のありようもそれが目的だったのではないかと思っています。生成AIに限らずデジタル技術の変化は目まぐるしく進んでいきますので、子供たちが将来、活躍するために必要なことは、そのときどきに最新の情報を、自分の必要に応じて集めて、自分なりに活用できるベースになる力を作ってあげることだと思っています。学校現場に求められるのは、そのような経験と試行錯誤と、自信を子供たちに作ってあげて、送り出して行くことだと思います」

 

最後は石戸の「子供たちに、安全安心に最先端のツールを使って創造力を発揮する機会が提供されることは、本当に素晴らしく、恵まれたことであると思います。より多くの子供たちにこの手段が届くことを期待したいと思います」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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