画像生成AIの活用で子供たちの学びのスタイルはどう変わる?
第154回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.5.24 Fri
画像生成AIの活用で子供たちの学びのスタイルはどう変わる?</br>第154回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2024410日、アドビ株式会社 教育事業本部執行役員本部長の小池 晴子氏を招いて「アドビが目指す次世代の教育とAIの活用可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では小池氏が、アドビの画像生成AIAdobe Firefly」の機能と教育現場での活用事例を紹介した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「アドビが目指す次世代の教育とAIの活用可能性」

■日時:2024年4月10日(水)12時~12時55分

■講演:小池 晴子氏
アドビ株式会社 教育事業本部執行役員本部長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

小池氏は約30分の講演において、20233月にリリースされたアドビ株式会社の画像生成AIツールの「Adobe Firefly」の機能と小・中学校や高校、大学での活用事例を紹介した。

【小池氏】

アドビは、1982年アメリカ・カリフォルニア州で創業しました。その10年後の1992年に日本でもビジネスをスタートし30周年を迎えました。「世界を動かすデジタル体験」のミッションを掲げて、3つのクラウドソリューションを持っています。

 

Creative Cloudは、IllustratorPhotoshopといったクリエイティブツール、Document Couldは、PDFでおなじみのAcrobatを中核とする文書のデジタルワークフロー、Experience Cloudはマーケティングオートメーションのコンテンツエコシステムを通して、ビジネスのお客様の顧客体験創出を実現するソリューションです。そして、この3つの根底にAdobe Senseiという人工知能と機械学習のプラットフォームがあります。

 

2023年3月にはAdobe Senseiが次の段階に進み、製品として皆様にご利用いただける画像生成AIの「Adobe Firefly」をリリースしました。

教育現場で安心・安全に利用できるアドビの画像生成AIAdobe Firefly

Adobe Fireflyはこの1年間で世界100以上の言語のテキストプロンプトに対応し、世界中で利用されています。1年間で65億枚以上の画像が生成され、公開中のWeb版は無料で、どなたでも利用できます。PhotoshopIllustratorAdobe Expressの各製品の機能としても搭載されています。

 

Adobe Firefly Web版は、Adobe IDというアカウントを取得してログインすることで利用できますが、個人で取得する場合は、米国の児童オンラインプライバシー保護法の規定より13歳以上からという制限があります。

 

▲ スライド1・Adobe Firefly Web版で
公開されている機能

 

そこで、アドビでは教育機関向けの特別なライセンスをご用意し、13歳未満の児童生徒もアドビツールを利用できるようにしています。Creative CloudまたはAdobe Expressの小中高校向けライセンスは、GIGAスクールのIDをアドビのFederated IDとすることができ、アドビで個人情報をお預かりしないことで13歳未満の方でも利用可能となります。

 

学校教育でのAdobe Fireflyの活用については、Adobe Expressの機能としての活用をお勧めしており、小中高校向けに無償提供しています。

 

▲ スライド2・学校教育では
Adobe Expressの機能での活用を推奨

 

Adobe Expressは、2020年のGIGAスクール構想で、たいへん多くの教育委員会様にご導入いただいたAdobe Sparkがブランドチェンジしたものです。このほど、Adobe Fireflyも搭載されてパワーアップしました。

想像力や創造性を強力にサポートしてくれるAdobe Fireflyの機能

実際の画像生成の機能を紹介します。「テキストから画像生成」の例です。家庭菜園のレシピ集を作りたい。「みずみずしいキュウリとトマト」とプロンプトを入力し、スタイルとして写真を選びます。すると、みずみずしいきゅうりとトマトの写真が4パターン生成されます。

 

▲ スライド3・Adobe Fireflyが
プロンプトの指示に合わせて
画像を生成する様子

 

例えば、水彩画のようにしてみようという場合には、プロンプトを追加して生成し直すと、水彩画のようになります。4つの選択肢の中から気に入ったものを選び、次にAdobe Expressのデザイン機能で画像のサイズを大きくして、切り抜きをして、レイヤーの順序を変えます。これでレシピ集の表紙ができあがります。

 

▲ スライド4・Adobe Expressの
デザイン機能で、レシピ集の表紙が
約1分でできあがった

 

次は、「生成塗りつぶし」の機能です。例えば、写真の背景に映り込んでしまった人を少し減らしたいといった場合、場所を指定するとそれだけでAIがうまく背景を作り、人がいなかったように変更してくれます。

 

▲ スライド5・選択範囲の
周りに合わせて塗りつぶして、
消したいものを消してくれる機能

 

次は「テキストからテンプレート生成」です。日本語はまだβ版なので英語でご紹介します。今回はカードを作ろうということで、まずサイズを選び、プロンプトは「バースデーカード、風船、紙吹雪」と入力します。すると、4種類のおすすめデザインが生成されます。

 

▲ スライド6・「テキストから
テンプレート生成」
機能の紹介

 

4枚の中から一つを選び、さらに「バリエーション」を出してほしいとクリックすると、背景が違うパターンを作ってくれます。気に入ったものを選んで、Adobe Expressで細かく修正していくことができます。

今の子供たちには生成AIの活用能力も重要なデジタルリテラシーのひとつ

アドビが教育現場で積極的に生成AIの活用を推奨している理由は、グローバルで把握している社会背景にあります。今、生成AIが急激にテクノロジー変革の波を牽引しています。

 

2027年までに予想される世界のAI市場規模は407ビリオンドル、日本円に換算すると60兆円以上になるとされています。日本の国家予算の約半分に相当する大変に大きな金額です。昨年は87ビリオンドルでした。4年間で実に5倍になるという爆発的な普及が予測されています。また、これまでのテクノロジーは、企業や消費者まで実際に普及するまでには少し時間がかかるのが通例でしたが、生成AIは様子が違います。

 

生成AIが生産性を向上させると予測している企業経営者は64%と、AIへの期待が非常に高いことがわかります。また、ビジネスリーダーの79%が、AI導入により実際にコストが削減されたとしています。すでに生成AIを使っているマーケターも73%に上り、実社会に急速に普及が広がっていることがわかります。

 

▲ スライド7・爆発的に
社会に普及しつつある生成AIツール

 

つまり、この生成AIの活用は、拍車がかかることがあっても戻ることはないと考えられます。

今、学校で学んでいる世代が社会に出た時に、生成AIは当たり前のツールの一つになる、だからこそ活用できる力を身につけていただきたいと考えています。アドビは数年来、「クリエイティブデジタルリテラシー育成」として教育に向き合ってきましたが、今やこの生成AIの活用能力もデジタルリテラシーの重要な一角であると認識しています。

 

▲ スライド8・クリエイティブ
デジタルリテラシー
育成の中には
生成AIの活用能力も含まれるようになる

Adobe Firefly を学校での利用にお勧めできる三つの理由

Adobe Fireflyを、学校の利用にお勧めできる理由をご説明します。一つめは、著作権と品質の観点です。Adobe Firefly AIモデルのトレーニングには、Adobe Stock、オープンライセンスコンテンツ、パブリックドメインコンテンツのみが使用されています。商業利用にも安全な設計です。児童生徒や学生がプロンプトを入力して生成した生成物を、AIモデルの学習データとして自動的に再利用することはありません。

 

二つめは安全性の観点です。有害なステレオタイプを排除していくため、AIモデルのテストと改善を継続的に行っています。また、不適切なプロンプト入力を防いだり、意図しない不用意な生成物が出る可能性を少なくしたりするために複数の「ガードレール」を設定しています。そしてライセンスの管理コンソールで、生成AIの機能自体のオンオフもコントロールすることができるようになっています。

 

三つめは創造性(クリエイティビティ)と想像力(イマジネーション)です。画像生成AIによって、アイデアの見える化が格段にスピードアップされますので、創造・想像に時間とエネルギーを集中することができます。また、将来の活躍に欠かせないAIを、道具として使いこなす力を養うことができます。

 

▲ スライド9・Adobe Fireflyは
学校で利用するのに安心な設計

 

著作権に関する機能を具体的にご説明します。例えば、プロンプトに、「(某スーパーヒーローの名前)がショッピングモールでアイスクリームを食べているところ」と英語で入力した場合も、その某スーパーヒーローそのものは出力されません。知的財産権を尊重するデータセットで学習していますので、商用利用にも安全に設計された画像生成AIです。

 

▲ スライド10・有名キャラクターを
模倣するような画像は
生成されない設計になっている

 

また、プロンプトに「草むらに潜む○○(人気キャラクター)」と入れた場合、イメージ生成以前に「プロンプトを一部削除しました」というメッセージが出てくることがあります。「ガードレール」が働くからです。

 

アドビの生成AIは、アドビが開発に10年以上費やしたAdobe Senseiの次の段階として位置づけている重要な技術です。その力をクラウドで提供していくにあたり、これまで以上に慎重な姿勢で責任ある開発に取り組んでいます。このことは、グローバルの責任者であるダナ・ラオがウェブサイト上に公開し皆様にもご覧いただけるようにしています。

 

▲ スライド11・アドビは画像生成AI、
AIサービスを提供するにあたり
責任を持って対応している

 

もうひとつ、AIの倫理の観点でコンテンツ認証イニシアチブ「CAI」をご紹介します。CAIは、誤報や偽情報に対抗することを目的として、2019年に設立された連合コミュニティです。生成技術とあわせてフェイク画像の拡がりが、日々指摘されています。こうした誤った画像を報道、業務や我々の日常生活の中で使用したり拡散したりすることがない社会を目指すコンソーシアムです。5年間の間にBBCやニューヨーク・タイムズ、ザ・ワシントンポスト、日本からはNHKなど国内外のメディア、ハードウェアメーカー、ソフトウェアメーカー、世界55か国2500社以上の企業団体が加盟しており、現在も成長中です。

 

このCAIの重要なアプローチに、「来歴情報の記録」があります。来歴とは、画像、映像、音声、文書などのデジタルコンテンツの出生、出所に関する信頼できる基本的な事実です。CAIでは、企画標準化団体であるC2PAで決定した規格を使用して内歴情報の記録を行っています。C2PALinux Foundation所属の企画標準化団体で、NHK放送技術研究所やSONYも参画し、技術もオープンソースとして提供されています。

 

なお、CAIはアドビが主導なのではなく、企業の参加者の一員として参画し活動している立場です。アドビとしては、このCAIの来歴情報の仕組みを活用して信頼性の担保を進めています。Adobe Fireflyで生成した画像には最初から、誰もが来歴を確認できるコンテンツ認証情報が埋め込まれます。

 

▲ スライド12・Fireflyで
生成した画像には、来歴を確認できる
コンテンツ認証情報が自動的に埋め込まれる

 

このCAIは、次世代の教育にも力を入れており、初等中等および高等教育機関向けにメディアリテラシーのカリキュラムと教材を開発しています。英語版はアドビが開発に協力し、既に無償提供が開始されています。

 

▲ スライド13・アドビは
メディアリテラシーのカリキュラムと
教材の開発支援もしている

授業で生成AIをツールとして活用し想像性・創造性を育む活用事例

学校での活用例をご紹介します。和光高校では、毎年9月の防災月間に、テーマ学習の授業で防災学習を取り上げています。防災学習自体、歴史あるカリキュラムですが、昨年はこの中に生成AIを加えることでさらにリアリティを創出できるのではないかと、情報科の小池 則行先生が取り組んでくださいました。

 

生徒たちに伝えられた前提条件は、10月某日にマグニチュード7の大地震が発生したという想定で、リアリティのある一人称ストーリーの被災ジャーナルを作ろうというものでした。エンディングは希望のあるものにするというお題で、ストーリー作りにChatGPTの使用OK、ストーリーに合う画像はAdobe ExpressAdobe Fireflyで生成してジャーナルに挿入するという課題でした。

 

先生からは、「ChatGPTができるのはストーリーの骨組みまで。リアルな心理描写や人間の感情をストーリーに織り込む作業は生徒が自分たちでする必要があり、実際に手を動かしてみることで、生徒たちは腹落ちすることができた」というコメントをいただきました。

また、「画像生成AIを使ったことで、実際には起きていない大規模災害の被害を綴るジャーナルというお題に視覚的な解説をリアルに加えていくことができ、生徒の表現制作もリアリティのあるものになった」とのお話もいただきました。

 

生成AIの利用には、想像力、創造性、言語化といった能力を駆使しながら、リアルに思い描いて的確な言語でプロンプトに落とし込むという試行錯誤が発生します。情報化の授業ではありながらも、必然的に教科横断的な学びにもなるというお話もたいへん印象的でした。

 

▲ スライド14・和光高等学校では
「被災ジャーナル」の制作の授業に
Adobe ExpressやFireflyを活用した

 

千代田区立九段中等教育学校の須藤 祥代先生の授業では、同校が文部科学省のリーディングDXスクール生成パイロット校に指定されていることもあり、積極的に画像生成AIを使っていただいています。グループ学習でWebサイトを作っていく中で素材となる画像を、児童生徒がAdobe Fireflyで生成しています。

 

中学校の事例としては、同志社中学校の技術家庭科の外村 拓哉先生の授業で、AIの利用についての考え方や留意点を学ぶ、最初に実体験としてアドビの画像生成AIを使い、その実感も踏まえてディスカッションをするといった内容を展開していただきました。

 

▲ スライド15・中学校の活用例。
グループ学習、技術家庭科での
Adobe Fireflyを活用している

 

大学の事例は、日本工業大学の工学部機械工学科の平山 晴香先生の授業です。機械工学科ですので、プロダクトデザインのスペック通りに正しく設計するための専門性を磨いている学生たちです。先生からは、機械工学科の学生はアイデア出しに苦手意識がある、必ずしもモチベーションを高く持てないといったことを伺っており、先生自身、ターゲットを設定して何のために何をどう作るのかという学びをもう少し深めていきたいという課題意識をお持ちでした。

 

ChatGPTで、そのターゲットとなるペルソナを作成し、さらにペルソナに対して画像生成AIでリアリティを持って具現化していく取り組みをしています。アイデア出しやインスピレーションの壁打ち相手、また作品をプレゼンテーションするとき、素材集から探すよりも短時間で準備できるといったお声もあり、プロダクトデザインのワークフロー中、随所に生成AIをツールとして活用されていることがよく分かる事例でした。

 

先生からお伺いした中のポイントは、人間ならでは専門性を高めていく部分と、時間をかけずに生成AIに任せていく部分を見極めて、道具として有益に使っていくことが重要だということです。

 

▲ スライド16・大学では、
プロダクトデザインの設計を学ぶ
学生たちの支援ツールとして活用されている

 

地域共創プロジェクトでの活用例では、立命館大学とイオンモール茨木との共同で、大阪府茨木市の地域の未来の理想像を見える化するプロジェクトがありました。地元企業や茨木市からも協賛をいただき、市内の在住、在勤、在学の方から「理想の未来」のキーワードを集め、それをワークショップの中でグループディスカッションをして、キーワードを元にプロンプトを作り、生成された画像に学生が考えたキャッチコピーを添え、未来の茨城を表現したポスターを作りました。

 

本日ご紹介した学校の事例は、「アドビ教育ブログ」で検索するとご確認いただけます。Adobe Expressは小中高校向けと大学専門学校向けの特設ページも設けています。

 

アドビは、「Creativity for all. すべての人に作る力を」というミッションをグローバルで掲げています。特に教育分野においては、まさにこの考え方を非常に大切にしています。次世代を担う皆様が、デジタルツールを活用しながらクリエイティブなデジタルリタラシーを身につけていけるよう、これからさらにご支援を強めていきたいと思っています。

 

>> 後半へ続く

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