概要
超教育協会は2024年3月29日、滋賀県立高校教諭の南部 久貴氏を招いて、「学校現場における生成AIの可能性-授業や校務で効果的に活用するアイディア」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、南部氏が校務や授業における生成AIの活用法や、生成AIを学校現場で使う際のポイントについて講演。後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「学校現場における生成AIの可能性-授業や校務で効果的に活用するアイディア」
■日時:2024年3月29日(金) 12時~12時55分
■講演:南部 久貴氏
滋賀県立高校教諭
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
生成AIに頼り切るのではなく自分自身で考える時間をしっかりとることが重要
石戸:「質問がたくさんきています。まず、『今後1、2年で生成AIが小中高の教員の業務負担減に役立つと期待される分野は何だと思いますか、その根拠も含めてお聞かせください』というものです。私からも追加の質問として、どのくらい校務が効率化され、時間として削減できたかという点と、視聴者からの質問にあるように、今後さらにこういう分野で負担軽減に使えるのではないかと考えている点がありましたら、この二点について教えていただけますか」
南部氏:「来年度の授業の準備を少しずつ始めています。英語の授業でのワークシートの作成に、教材会社からの授業用プリントやデータを参考にしますが、なかなか学校に合ったものがありません。そこで、一から作っている教員が多いのではないかなと感じています。私自身も自分の生徒に合ったワークシートを作ろうと思っていますが、それにはかなりの時間がかかります。そこで、生成AIを活用したところ一回のやり取りで、シャーロック・ホームズに関する英語の文章から日本語に合った単語を探しだすというタスクを用意してくれました。
このように、さまざまなものを自動的に作ってくれます。これまで手作業でやっていたものを、プロンプトで、自動でできるようにすることで、かなり楽になりました。時間的には、何時間短縮といったことは言えませんが、1時間かかっていたものが10分くらいでできるようになったという印象です」
石戸:「トータルで見ると、どのくらいご自身の仕事が効率化されたと感じていますか」
南部氏:「例えばエクセルのマクロを書いてもらうのも、かなり楽になりました。今後の仕事も含めて考えると、かなり大きな時間が削減されたのではないかと感じています」
石戸:「先ほど、英語の授業で子どもたちにすぐフィードバックできるから良かったという話がありましたが、生成AIを活用することによって全体として授業のあり方や構成がどのように変わっていくと考えているかということと、合わせて、その時における先生の役割はどのように変化していくと考えているかについてお伺いできますか」
南部氏:「生成AIを授業で活用していくことによって、個別最適な学びがかなり進むと感じています。これまでは、一人の教員に対して40人の生徒がいるので、個別最適な学びというのは時間的にも厳しいところがありました。ただ、ある程度、教師の役割を生成AIに担ってもらうことによって、生徒一人ひとりの関心に応じた学びができていくと思っています。
その際の教師の役割ですが、生成AIが出した出力文をしっかりと活用できる生徒は限られていると感じています。例えば、そのまま鵜呑みにしてしまったり、プロンプトにもう少し工夫が必要だったり、そういった生成AIの使い方、情報活用スキル、情報活用能力の面で支援が必要と感じています。生徒が生成AIを使っていく際に、教員が指導をして『この出力文をしっかり理解できた』などと書いてあったとしても、本当のところはどうなのかという視点で教員同士が話をしていくといったことが新しい教員の役割として増えてくるのかなと感じています」
石戸:「今のAIの使い方の部分に関しては、英語の授業のみならずどの授業でも必要となる汎用的な知識と思いますが、生成AIの使い方に関して生徒に何らか教える時間はあらかじめ設けていますか」
南部氏:「私の学校では、総合的な探究の時間を活用してAIを導入しました。総合的な探究の時間の中で、探究活動でも生成AIを活用しても良いよと生徒には伝えていますが、その際にこのように使うとうまく使えるという話をしました」
石戸:「使っているうちに子どもたちもどんどん慣れていって、良い使い方になっていくのでしょうか」
南部氏:「教員よりも早く習得しているなという印象を持っています」
石戸:「視聴者からは、教員と生徒の両方にメリットがあることは間違いないと思う一方で、『生徒に自力でやらせてみることが大事で、生成AIを使うことによってAIに頼り切る、自分で考えることをしなくなるリスクがあるのではないか』というコメントもいただいています。実際、生徒の皆さんと生成AIを使って授業をやってみて、そのような懸念に関して南部先生はどのようにお考えですか」
南部氏:「私は今、高校の教員をしていますが、大学入試を考えた際には情報機器を使って試験に臨むことはもちろんできませんし、生成AIと一緒に問題を解くこともできません。生徒もある程度そのことは認識していて、自分自身の力を付けていかなくてはいけないというのをわかってくれていると感じています。
もちろん、学校内の試験でも生成AIは使うことができませんので、そういった面で割と生徒自身も自分自身の力というのをしっかりつけていかないといけないという認識を持ってくれています。例えば英作文の指導をする際にも、まずは自分で考える時間というのをしっかりとって、最初からAIに頼り過ぎないように工夫をしています。ただどうしても家でやってくる課題に関しては、生徒が使うということは想定されますし、そこを止めることもできませんし、難しいところだなと感じています」
石戸:「宿題のあり方も改めて考え直すきっかけになるのではないかと思いますし、授業においても、生成AIがすぐ答えられるような課題ではなく、そこからさらに学習者が一歩深めることができるような課題設定が問われるのではないかと思いますが、いかがでしょうか」
南部氏:「授業での話をさせていただきますと、私の学校では、総合的な探究の時間で自分たちの地域の課題について高校生の視点から解決策を提案するというのを目標としてグループごとに活動しています。この取り組みは、生成AIとかなり相性が良いと感じています。私の勤務校は滋賀県の米原市にありますが、米原は新幹線が通っていますので、交通の要所で交通の便は良いところです。ただどうしても人口減少が避けられない問題としてあって、生徒はよく人口減少という課題に取り組みますが、生成AIに人口減少の問題点を教えてください、人口減少の原因を教えてくださいと聞くと、交通のアクセスが悪い、と出てくることがあります。生徒がそれを見て、レポート的なものを書きますが、これって本当に自分たちの地元にも言えるのか、という話をすることによって、確かにそうでもなさそうだなと考えるようになります。
つまり、地元ならではの課題というのはChatGPTでは解くことができないので、完全にChatGPTに頼り切ることはできないと生徒は気づいてくれました。ChatGPTが使える部分は使っていって、自分たちが足で調べなくてはいけないところは調べてと、組み合わせながらできるちょうど良い課題設定だったと、今取り組みが終わってみて感じています」
石戸:「生成AIを使える時代、使いこなすことが大事な時代だからこそ、生徒たちに身に付けてもらいたい力というのはどのようなものだと考えていらっしゃいますか」
南部氏:「情報活用能力をより一層つけてほしいなと感じています。これからの時代、生成AIが使えるか使えないかで差がつくということも言われています。私としては必ずしもそうではないかなと思ってはいますが、そういった部分もあるとは思います。やはり情報活用能力をつけていってほしいと思います。ただ、先ほど説明したような現場の課題などを解決する際には、その現場の方々、地域の方々とコミュニケーションをとっていく力も必要になってきますので、そういった力もあわせて伸ばしていってほしいと感じています」
石戸:「今日は授業案としては英語の先生でいらっしゃるので英語の授業でしたが、色々な場面で生成AIを使ってみた結果として、どういうタイプの授業や学習に生成AIはより効果的に使えると考えているかについても教えていただきたいです」
南部氏:「英語の授業はかなり相性が良いなと思っています。英語の授業が一番使いやすいと感じています。社会系の科目や理科系の科目であっても、ある程度、高い精度で答えてくれるとは思いますが、どうしても専門用語の日本語訳が変になってしまうという課題があると同僚が言っていました。その部分はまだ難しいかなと思っています」
石戸:「このような質問もきています。『生成AIで添削された英文は、こなれたネイティブ話者のようなものが出力されるのに対して、日本人が英語学習でするような日本語教科書的な英語を教えようとすると、混乱することが起きるのではないか』というものです。本来、その二つがあることも少し違和感がありますが、そのあたりはいかがですか」
南部氏:「学校で教える以上、そこまで砕けた表現を許容するわけでもないですし、学校の教科書自体も徐々に良くなってきているというか、自然な表現も増えてきているので、あまりそこまで気にすることはないのかなと感じています」
石戸:「最後に、これから生成AIを使ってどんなことにチャレンジしてみたいかということがありましたら、今後の展望として教えていただきたいのと、また、他の学校の先生に対してメッセージがありましたらお願いします」
南部氏:「日々の仕事のなかでChatGPTが使えるところを探して、効率化できるところを見つけていって、多くの先生方の仕事効率化を少しでも助けられるようなアイディアを出していけたら良いなと感じています。全国の先生方へのメッセージとしては、まだ使っていない先生方にはぜひ使って欲しいと感じています。使ってみると性能の高さにびっくりすると思います。学校現場でどのように使えるのかというのを考えていただけると、さまざまな視点から案が出ると思います。さまざまな立場の先生方からChatGPTの活用方法が出てくるとより楽しくなると思いますので、そこに期待をしています」
最後は石戸の「生成AIはまだ黎明期で、どういう使い方が適しているのかも含めて試行錯誤の状態と思います。全国から『こんな使い方が良かった』、『こんな授業が良かった』、『こんな使い方をするとより校務が効率化される』といった実践事例がたくさん共有されることを望んでいます」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。