概要
超教育協会は2024年3月13日、NTTスマートコネクト株式会社 メディアビジネス部の笹原 貴彦氏を招いて「教育特化型メタバース『3D教育メタバース』~21世紀を生き抜くための教育の多様性をめざして」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では笹原氏が、NTTグループが運営するメタバースサービス「DOOR」と「3D教育メタバース」について解説。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「教育特化型メタバース「3D教育メタバース」~21世紀を生き抜くための教育の多様性をめざして」
■日時:2024年3月13日(水)12時~12時55分
■講演:笹原 貴彦氏
NTTスマートコネクト株式会社 メディアビジネス部
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
「3D教育メタバース」を導入した教育機関での生徒の反応や活用効果に関する質問が多数
石戸:「非常に精密に設計されたメタバース空間で、ワクワクしながらお話を伺いました。具体的なサービスを細かく説明をいただいたので、質問も具体的な内容が沢山きています。まず、メタバースの教育への利用は、これまでも国内外問わず、いくつか事例はあったと思います。サービス開発にあたって参考にした事例や、これまでの事例を踏まえ、大切にした特徴があれば、教えていただければと思います」
笹原氏:「参考にしたのはDOORです。教育機関の皆様にご利用いただいて、ベンチマークとしました。重視したのはセキュリティです。監視カメラなど少しやりすぎのような機能も実装しているのは、メタバースを使うことでのトラブルを懸念する声が非常に多かったからです。新たなツールを導入したいけれども、トラブルが起こっては元も子もない。皆様がいかに安心感を持てるツールにするかということ重視しました」
石戸:「既にいくつかの学校や自治体で導入されているそうですが、利用者からの反応について知りたいという声もいただいています。子どもたちと保護者、学校の先生、そして自治体からの声について教えてください」
笹原氏:「利用者の声としては、『自分の顔を出さなくてよいので、気楽にコミュニケーションできる』という声が非常に多いと感じています。多く利用いただいている不登校の生徒の皆様から『自分の外見を晒さなくてよいことは心理的に安全を担保できることになっている』という声や、リアルでは内気で話せない方から『積極的に発言ができる』という声もいただいています。それと、リアルな世界だと上級生は体が大きくて下級生は小さいとかありますが、メタバースの中はアバターなので背が高い低いも、極端に言うと性別も関係なくなる点が、非常に気楽になったという声が多いように思います。
親御さんとしては、最初『メタバースってゲームのようなもの、教育に使うのはどうなのか』という意見もあったそうなのですが、お子様が参加に積極的で意欲が上がったことを目の当たりにして、『こんなツールもありなのかなと感じている』という声もいただけています。このツールへの生徒たちの順応が非常に早くて『私たち以上の使い方をしていて驚く』、という話も聞いています」
石戸:「生徒たちの『そんな使い方あるんだ』というのは、具体的にはどのような例があるのでしょうか」
笹原氏:「例えば『挙手』の機能です。我々は先生に対して質問があるとき、先生とのコミュニケーションに使うとイメージしていたのですが、例えば『バイバイ』のような、お互いの意思表示のアクションに使っていたと、教育委員会の皆様から伺いました。あとは、生徒発案のイベントも企画されていて、例えば生徒同士の昼食会で使いたい、休み時間にこういうことやりたいので空間をオープンしてくれませんか、というような声が上がっている話も聞きます。我々は授業以外の使い方は想定していませんでした」
石戸:「不登校の方が、アバターを使うことで心理的な抵抗が下がったという話がありました。アバターを使うことによって違う自分になれて、もしくは人との関係性がリセットされて、違う関係性が構築できることはあると思います。そういう良さもある一方で、生身の人間の方がコミュニケーションは取りやすいという考えもあると思います。表情を出す機能のお話もありましたが、アバターを使うことのメリットとデメリットについては、これまでどんな検証をされましたか」
笹原氏:「まず、生徒間のコミュニケーションが促進できていることはメリットだと思います。心理的な安全性の話が大きく起因しているように思います。一方でデメリットは、教育委員会の皆様や先生方のマネジメントの難易度が少し上がってしまうことです。通常の教室では生徒のリアクションや表情が見えて、非言語の部分から認識できるものがあると思いますが、アバターベースではその非言語部分が一切遮断された前提でのコミュニケーションになります。我々の狙いとしては、まず、カメラオフのWeb会議よりはアバターコミュニケーションで本音の部分も引き出し、それをステップにさらに踏み込んでWeb会議か対面か、コミュニケーションに進んでいただくのがよいのでは思っています」
石戸:「この新しい技術は、何らかの事情で学校に行けないときに、登校や学習の代替としての目的もありますが、一方で授業の質を変えることにも寄与できると思います。メタバースを使うことによって、授業はどのように変化をしたのでしょうか。また、先生の役割の変化はありましたでしょうか」
笹原氏:「授業の変化については、我々の実績からも2つお話ができます。1つはアクティブラーニングのケースです。アクティブラーニングや自由研究では他のメンバーはどのような取り組みをしたのかを聞くのもとても大切な勉強になります。ところが、過疎地域では学年に1桁の数の生徒しかいない学校もあります。そんな過疎地域の生徒をこのツールで結んで、仮想的に60人ぐらいの1クラスにして、アクティブラーニングを行っているケースがあります。リアルだと数名でしかできなかったことが、距離の制約を飛び越えた空間にみんなで集まって実現し、距離の制約なく他の人とコラボレーションすることで、授業の質を高められています。
2つめは発話内容がテキスト表示されて翻訳されることです。精度は100%ではありませんが、言語の壁を越えられることです。耳に障害のある生徒さんに活用いただいて、文字で認識できることが非常に良いという声もいただいています。耳が不自由な生徒さんは、手話などで対応できているケースが多いらしいですが、配属されたばかりの先生が対応できないといったこともあるようで、そのような時に非常に助かるという声をいただいています。
我々のツールは通常の授業よりもアクティブラーニングや不登校対策に使うケースの方が多いのですが、先生の役割がどう変わるかという点については、生徒同士をいかにコミュニケーションさせるか、生徒の発言をどう促すか、に変化していると思っています。レクチャーするよりもファシリテーターのような役割で、このツールを活用いただいている先生方が多いと感じています」
石戸:「このような質問もきています。『教育効果の指標をどのように設定し、結果が確認できているものはありますか』今のお話では、通常の授業よりも探究学習等に導入されているということですが、自治体等との連携の中で効果の検証が行われたもので、結果が出ているものがありましたら、教えていただけますか」
笹原氏「検証は、現在行っている最中です。導入を判断いただくのにも、効果の検証は必要だろうと、我々も感じていました。現在実施しようとしている検証は2つあります。1つは単純な学習効果の検証です。授業を受けてもらってテストをして、どういう変化が生じているかについて、対面授業とWeb会議とで比較しようとしています。もう1点は、ある大学教授の提案で行っているものです。不登校の方々は、生活様式が不規則になるケースが散見されるため、このようなツールを使うことで、生活様式の規則性が改善されるかどうか検証しています。結果はもう少しで出ます」
石戸:「結果が出たらぜひ教えてください。ビジネスに関する質問もきています。『教育の多様化を担保することと、マネタイズの両立はどうしているのか』というものです。いかがでしょうか」
笹原氏:「このサービスは、非常に多くの教育機関の皆様の声を集めて設計を行いました。メタバースの教育への活用に興味を持つ自治体様や教育機関は非常に多いです。現地対面での授業がベストではありますが、人材不足や労働環境改善の観点から、オンラインも導入せざるを得なくなってきているとの声を非常に多くいただきました。そこでまず市場のニーズがあるという前提でサービスをリリースしました。マネタイズに関しては、2つのアプローチをしています。1つが教育委員会、自治体の皆様にご提案しているという点。もう1つは中小の民間の塾を運営されている皆様へのご提案です。これまで自転車で20~30分のところがビジネス圏だったところ、少子化もあり商圏をどう広げるか課題認識されている塾が非常に多いです。Zoomか他のプラットフォームかと、通信学習に導入を検討されているケースにご提案する2軸です。なんとかマネタイズできればと思っているところです」
石戸:「先ほどNGワードのフィルタリングの話もありました。視聴者からは『メタバース空間の中でのコミュニケーションには、これまでとちょっと違う新しいスキルやリテラシーが求められると思います。子どもたちがこれからメタバース空間で過ごすにあたって必要とされるリテラシーは、どのようなことだと考えていらっしゃいますか』という質問もきています」
笹原氏:「『言語化する』スキルの必要性は高まるのではないかと思います。私もリモートワークをしていて感じています。これまではオフィスで『あれやっといて、これやっといて』という簡単な表現で伝わっていたのが、テキストのコミュニケーションが多くなると、具体的に指示やフィードバックを出さなければならない。今後のオンライン社会は、阿吽の呼吸ではなく、テキストでの表現を求められていくと感じています」
石戸:「そうですね。翻訳の話もありましたが、正確に言語化することは大事かと思います。
『これまでに導入された経験上、メタバースで学習することについて何歳ぐらいからが適切か、効果が出ると思われるか』、『ひとつのメタバース空間上に何人ぐらいが適切だと思うか』という質問もきています。いかがでしょうか」
笹原氏:「年齢に関しては、パソコンベースや今回のようなツールであれば、私の感覚では小学校高学年から可能ではないかと感じています。冒頭でXRとメタバースの取り組みの背景をご紹介しましたが、実はゴーグルタイプのものは13歳未満の利用は推奨されていません。ゴーグルの技術は、左と右の映像が少し違うものを見せて立体的な感覚を『錯視』で表現し、キャッチしてもらう仕組みですので、脳が100%発達していない状態で使うとさまざまなリスクがあると言われています。一方で、パソコン画面を主としたメタバースは、基本的にゲーム感覚で利用できるものですので、小学校高学年ぐらいなら使えます。あとは、先ほどご紹介したコミュニケーションやリテラシーが非常に大きく影響すると思います。お子様の成長具合で判断することになります。
人数に関しては、使い方によります。レクチャー型なら数百人が一気に介することもできますが、アクティブラーニングのような双方向ベースのものは、多くても40人ぐらいまでかなと思います。ファシリテーターが何人かによっても変わります。全員がきちんと発言できる時間を考えて設計するとよいと思います」
石戸:「セキュリティ面を重視されていて、子どもたちが安全安心にメタバース空間上で学習できることに配慮されていますが、『実際に導入された自治体や学校では、導入にあたって利用規約を作ったり子どもたちに説明したりしているのか。その場合どんな内容の規約になっているのか』という質問です。いかがでしょうか」
笹原氏:「利用規約のようなものを発行されているとは、実はあまり伺ったことがありません。我々がご紹介している教育機関の皆様はWeb会議を利用している方が多いので、もしかしたらWeb会議の導入時に規約を作った可能性はありますが、このツールのために規約は作っていないと思います。一方、新しい流れにあるなと感じているのが、オンラインで出席したものを所属学校の出席として認める方向性にあることです。その時に、例えば何時から何時アクセスしていたというログを支援センターの皆さんから所属学校に報告しているとも伺っています。ログをしっかり取れるようにとリクエストをいただいています」
石戸:「その他にも視聴者から『実際の授業風景の動画やサンプルはないのか』、『生徒からどういうふうに見えているのか見せてほしい』といった質問が複数きています。今見せていただけるものはありますか。『どういう利用シーンが一番効果的なのか』という質問もあります」
笹原氏:「さいたま市さんがこのツールの導入の時の記者会見向けに編集した動画をお見せします。このように授業をして、挙手するとこのようなマークが出ます」
▲ スライド18・
(動画中のスクリーンショット)
「挙手」をしたときの様子
石戸:「生成AIが出てきて、できることも増えてきていると思いますが、『生成AIと組み合わせた新しいサービスは考えていらっしゃいますか』との質問もきています。いかがでしょうか」
笹原氏:「まだ構想段階ですが、AI先生のようなものを個人的に考えています。例えば、みんなで自習していてわからないことがあったときに、生成AI先生に質問できるようなことはあってもよいのかなと思っています」
石戸:「最後に2点質問したいと思います。1点めは、今後の展開として考えていらっしゃることについて。2点めは、このようなテクノロジーを使うことによって、さらに多様な学び、理想的な学びに近づけるのではないかなと思いますが、笹原さんが考える、ここから先こういう風に学校があったら良いな、教育が変わったら良いなという未来像について、教えていただければと思います」
笹原氏:「我々は今プラットフォームという『箱』を提供しているだけですが、これからは授業、コンテンツとセットにして提供していく必要があると感じています。先ほどパートナー募集中と申し上げましたが、積極的にパートナーを探したいと思っています。現場の先生方の稼働軽減につなげたいというのが、今後の方向性の柱です。
2点めの『教育がこうなったら良いな』については、対面のオフラインとオンライン、そのハイブリッドが今後より進んでいけばよいのではないかと、私は考えています。学校という空間で学ぶことにも非常に多くの意義がありますが、現在は、行くか行かないかの二択しかなく、かつ行かない場合の選択肢も非常に少ないと思います。学校で学ぶもよし、フリースクールで学ぶもよし、オンラインで学ぶもよし、これからはいろんな選択肢が出てきてよいし、その選択肢を選んだことを堂々と言える、さまざまな選択を認め合えるような社会になるとよいのではないかと感じています。私たち通信会社としてはオンラインツールを充実させることを使命とし、オンラインエデュケーションというオプションをいかに増やせるかに貢献し続けていきたいと感じています」
最後は石戸の「多様な学びが生まれるプラットフォームに育ってほしいと願っています」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。