概要
超教育協会は2024年2月7日、つくば市立みどり学園義務教育学校 教頭の中村 めぐみ氏を招いて「生成AIを教育現場でどのように取り入れるか~つくば市生成AIパイロット校の活用事例」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では中村氏が、授業での生成AIの活用に先駆けて実施された教員を対象とした生成AIに関する校内研修と実際の授業での活用事例を紹介。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「生成AIを教育現場でどのように取り入れるか~つくば市生成AIパイロット校の活用事例」
■日時:2024年2月7日(水)12時~12時55分
■講演:中村 めぐみ氏
つくば市立みどり学園義務教育学校 教頭
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
生成AIの活用で子供たちの学びや教員の役割がどう変わるのかに関心が集まる
石戸:「先生たちのやり取りや使われている資料もすべてクラウドで一元管理されていて、すごいですね。
さっそく質問です。走れメロスや道徳の授業で生成AIを使ったお話がありましたが、使わなかったときと比べて、授業の質に変化はありましたか」
中村氏:「明確に変化があったとは言い切れないのですが、感覚として申し上げます。例えば道徳は正しい答えが決まっていて、そこに向かうような授業になる傾向がありますが、生成AIは自分たちが考えてもいなかった『えっ、そういう考え方もあるんだ』と驚くような考え方を出してきます。新たな気づきができる可能性はとても感じました。今までになかった視点の解決方法もある、そう考えればこの出来事もよかったと捉えることができる、といった示唆ができるようになったと思います」
石戸:「多様な視点や多角的な考え方に触れる意味では、生成AIの登場で、教室内で閉じることなく思考が深められるようになったことは、非常に興味深いと思いました。大人が生成AIを使うときも同様ですね。
生成AIにはいろんな課題はあるにせよ、子供たちが自らどんどん学習を進められることはよい点だと思います。子供たちの学習態度に変化はありましたか」
中村氏:「社会課題の解決方法を考える授業は、単元内自由進度学習になっています。先生は授業のテーマを設定してコンセプトとゴールを示すだけ。どんな方向でどう課題解決していくかは子供たちに委ねられています。子供たちがグループになって、生成AIを使いながら知り得た回答を協議し、課題解決方法をまとめていくことをひたすら繰り返して、できあがったものをみんなで共有し、評価をしていく、そんな授業に変わっていきました」
石戸:「それは、先生の役割が生成AIを使う前とは明確に変化して、先生方も子供たちにかけるべき言葉が変わったと感じたからなのでしょうね」
中村氏:「社会科の先生は、『今日、何をやるべきかを伝えたあとは、先生の役割はほぼないです」と言っています。グループを回りながら、思った回答が得られないと困っている子供たちに対して、『こういう聞き方してみたら』とプロンプトのアドバイスをすることや、『みんなが考えていることを整理するとどうなるの』など、子供たちの言語化のファシリテーションをすることが多くなったようです」
石戸:「生成AIを使った31の授業をされたうちのいくつかをご紹介いただきましたが、『31の指導案のうちどの教科が多かったですか。使いやすかった教科はありますか』との質問です。いかがでしょうか」
中村氏:「多かったのは、つくば市が独自に設定している『つくばスタイル科』という総合的な学習のカリキュラムでの活用です。課題解決型の授業で生成AIを使う場面を取り入れている指導案が多かったと思います。1~2年生でも総合的な学習の時間で生成AIを使うことが多かったです。『社会』で使った例も多かったと思います」
石戸:「生成AIは個別家庭教師のような役割としても機能すると思いますが、知識を教示するところよりも、探究型のほうがむしろ有効に使えたということなのでしょうか」
中村氏:「そうですね、探究する場面が多かったと思います。新たな考えを生み出すことを求める課題に対して使うことが多かったと思います。一方で一問一答型、〇か×を問うような使い方は『違うよね』と先生たちも感じていたようです」
石戸:「今回は実証実験ということですので、必ずしもすべてがうまくいったわけではなかったのではないかと思います。課題やリスクだと思われたところがありましたら共有いただけますか」
中村氏:「何か正しいものを探すことには向かないと、すごく感じます。それはブラウザでインターネット検索した方が実は速くて正確です。掛け算の九九を聞いたら間違った答えが返ってきたこともあるそうですし、正解を探すための使い方は『違う』と感じています。
それから、例えば自分の意見が全くないままプロンプトを書いてしまうと、生成AIの答えがあたかも自分の考えかのようになってしまう場面も危惧されました。まずは自分で考えて、自分の確固たる意見がある状態でプロンプトを書くことが大事だと思います」
石戸:「適さない場面の対局かもしれませんが、このような質問も届いています。『生成AIが本当に必要な場面が見えてきたとおっしゃっていましたが、例えば具体的にどんな場面でしょうか』というものです。いかがでしょうか」
中村氏:「アドバイザーの先生ともお話しをしているのですが、いくつか柱があります。例えば、自分たちで課題解決方法を思いついたときに、『それは本当に地域の課題に即しているのか』、『海外でそのやり方が通用した例があるのか』と多角的な視点で見直し、より良い方法を探したい場面です。生成AIに問いかけながらクリエイティブな考え方に昇華していけると考えています。他方では、『振り返り』の場面にも生成AIを使いたいと考えています。自分が何を学び何が身に着いたかの振り返りをするときに、実際の経験に加えて、生成AIから『これとこれが関連されたらどう考えるの』といった、その周りにある全く関係ないことへの示唆をもらうことで、違う視点の振り返りもできれば良いなと思っています」
石戸:「先生の人数も多く、生徒が2,300人もいれば、さまざまな考え方の保護者がいると思います。先生方、保護者、子供たちの中でネガティブな声はなかったのでしょうか」
中村氏:「もちろん同意書も取っていますが、決定的にネガティブな声は正直、出ていないです。もともと本校は『ICTを使った先進的な授業をしていこう』というスタンスの学校なので、保護者もそこを求めている部分が大きいと思います。とてもご理解いただいて進められました」
石戸:「生成AIは、学習のサポートに有益なツールだと思われている先生が多いと思いますが、校務の効率化にもとても便利だと思います。『実際校務に生成AIを使っている先生方はいるのでしょうか。いるとしたらどのような使い方をされているのでしょうか』という質問も届いています」
中村氏:「まだ実現できていませんが、事務職員からはひとつアイデアが出ています。本校は2,300人もいるので保護者からの問い合わせがとても多いです。そこで、これまでのFAQをまとめてチャットボット化し、生成AIがどう回答するか参考にしながら、よりよい回答をしていきたいそうです。
それから私は、膨大な登校班編成の整理に使っています。200以上の班があるのですが、『重なっているものをひとつにしてリスト化してください』などとプロンプトを書くと、一瞬で整理してくれます。また先ほどの指導案をご紹介したときのスライドです。『こんな資料を作りたい』と自分のイメージをプロンプトに入力して、作成されたものをたたき台に説明資料を作る、といった使い方をしています」
石戸:「生成AIを使用した授業の評価に関する質問も届いていますが、いかがでしょうか」
中村氏:「現時点では、生成AIを使うことを評価しているわけではありません。私たちは、もともと各教科に設定されている課題をどう解決したかを評価しています。生成AIを取り入れたパフォーマンスについては、まだこれからのところもありますが、子供たちへの学習への関心や学習のプロセスとして見取っています。意欲的に生成AIを活用してより高度かつ有効な解決方法を提案できたら、今後、評価にも反映されていくと思います」
石戸:「さきほど、『初めに課題を出した後は先生の役割がない』とお話しされていましたが、生成AIを使った結果として、これから授業はどうあるべきか、宿題はどうあるべきか、学校が提供する学びをどうしていくか、変化を求める議論は起きているのでしょうか。また、今後どのような方向性で変化を実現しようとしているのか、教えていただけますか」
中村氏:「私たちが目指しているのは、子供たちが主体的に自ら問いを持ち、自分で生成AIを使いながら問いを解決できる力を育むことです。正解を問うようなものではなく、子供たちが探究していくことをしっかり意識して課題設定したうえで、あとは子供たちが友達や生成AIに聞きながら、自分たちだけで解決していくような授業を展開していきたいと思っています。少しずつですがそれも増えてきました。
私たちは『前を向いて先生の話を聞く』という従来の授業から脱却したいと思っています。子供たち同士が向き合いディスカッションして答えを導き出す、コミュニケーションを取って企画や検討をする様子が増えています。これをもっとしていきたいと思っています。
つくば市では、宿題という言葉自体をなくそうとしています。端末を持ち帰ることもできますので、家庭でも自分の探究を止めずに、家庭で追及したものをまた学校でディスカッションするというサイクルで、授業展開できたらと思っています。教科書にある課題を教科書通りにやって正解に行きつけばよい、そのプロセスをただ説明すればよいという授業ではなく、答えのない課題の解決をする訓練をしていきたいと思っているところです」
石戸:「学習指導要綱の変遷を見ても、世の中がそちらの方向に動いてきたところを、生成AIがぐっと後押ししてくれているように感じます。これから全国の学校にこのような学びを広げていこうとしたとき、先進的なことをしている学校、町として、中村先生が考える課題、これを行うべきではないかと思うことも含めて、全国へのメッセージをください」
中村氏:「生成AIは、これから私たちが生きる上でなくなることはないものです。私たちは、生成AIがあることが前提となって『今』がどんどん変わっていく時代にいるのだと認識しなければならないと思います。学校教育も、これまでやってきたような学校の中だけで教育を行うのではなく、社会の変化としっかりタイアップして、社会の風を取り入れることが必要でしょう。社会の変化に適応できる子供たちを育てるための教育をしていくことが重要です。
そのためにはもっと先生方が、社会に今どんな変化が起きているのか、世の中にはどんな課題があり、子供たちにどんな力があれば将来社会で活躍できるのかということを、ぜひ考えてほしいと思っています。子供たちが幸せに生きていくために必要なスキルであるという認識で、生成AIを活用していってほしいと思います」
最後は石戸の「子供たちの幸せのためにも、学校現場こそが社会の変化に敏感になるべきで、それに合わせた適切な学びの場を作って行くことが改めて大切だと思いました」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。