「日本最先端の先進的ICT教育」実践校の取り組みから生成AI活用のヒントを探る
第149回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.3.22 Fri
「日本最先端の先進的ICT教育」実践校の取り組みから生成AI活用のヒントを探る<br>第149回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は202427日、つくば市立みどり学園義務教育学校 教頭の中村 めぐみ氏を招いて「生成AIを教育現場でどのように取り入れるか~つくば市生成AIパイロット校の活用事例」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では中村氏が、授業での生成AIの活用に先駆けて実施された教員を対象とした生成AIに関する校内研修と実際の授業での活用事例を紹介。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「生成AIを教育現場でどのように取り入れるか~つくば市生成AIパイロット校の活用事例」

■日時:2024年2月7日(水)12時~12時55分

■講演:中村 めぐみ氏
つくば市立みどり学園義務教育学校 教頭

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

中村氏は約35分の講演において、授業での生成AIの活用に先駆けて教員たちがどう生成AIについて学び、活用法を検討したか、そして、授業でどのように活用しているかについて、研修内容や実際の授業での活用事例を交えながら紹介した。

【中村氏】

つくば市立みどりの学園義務教育学校(以下、みどりの学園)は、文部科学省のリーディングDXスクール生成AIパイロット校です。2040年を見通し、21世紀型スキルを身につけたチェンジメーカーとなる人材を育てていきたいというビジョンを持っています。小中一貫の義務教育の学校で、1年生から9年生まで2,300人の児童生徒が在籍し、ICT教育やプログラミング教育、STEAM教育、英語教育、アクティブ・ラーニングなどを展開しています。

 

▲ スライド1・21世紀型スキルを持つ
チェンジメーカーを育てていく
みどりの学園義務教育学校

 

近未来的な校舎であることも特徴です。円形の教卓の上にパソコンが置かれ、ディスカッションしやすいコンピュータ室での未来型アクティブ・ラーニングを目指しています。プログラミング用ロボットもあり、どこへ行ってもWi-Fiが通じ、子供たちは電子顕微鏡やタブレット、電子黒板を使って勉強しています。職員室にあたる「校務センター」では、120人の先生たちが一堂に介し、マイクを使って職員会議が行われます。

 

▲ スライド2・校内には先端技術の
ICT環境が整っている

 

みどりの学園のグランドデザインは、本校の谷池 真彦校長先生のビジョンです。「日本最先端の先進的ICT教育」を目指しています。つくば市の多大な協力により、IT環境や先進的なプログラミング教材などのインフラを整備し、次世代の学びができるカリキュラムを整え、校長のビジョンのもとにIoTを意識した取り組みやAI教育なども実践しています。

 

▲ スライド3・校内には
「日本最先端の先進的ICT教育」を
行える環境を整えている

まずは教員が生成AIを使い授業に取り入れる必要性を理解する

みどりの学園の生成AIパイロット校としての取り組みを「GIGAが日常になったみどりの学園の進化が止まらない AIへの挑戦」と題してご紹介します。

 

▲ スライド4・みどりの学園の
生成AIパイロット校としての取り組み

 

まず、取り組みの根底には「強力なリーダーシップと先生方の意欲」があります。202310月のある日、本校の谷池校長からオンライン会議ツールのチャットに「先生方にお願いです。今月いっぱい、十分にAIを活用して、どんなことに使ったかを教えてください。10月末に調査します」といった投稿がありました。これは、生成AIのパイロット校になることへの布石を置かれたものともいえますが、正直、先生方はびっくりしたと思います。実際、「本当にやらなければならないのですか」とザワザワした雰囲気が生まれたことも事実です。それを予想したうえでも、校長はこうする必要性を感じていたのです。

 

▲ スライド5・全教員に向けた
校長からのメッセージ

 

校長の思い同様、私たち管理職も、先生方に「生成AIパイロット校になるなら、先生方が使ってみてどんなものかを知ることが大切」ということを納得してもらえることを重視しました。

しかし、ただ「使ってくれ」と言われても、「何に使えるの?どこをクリックすればよいの?何を立ち上げればよいの?」とたくさん疑問が沸いてきます。その疑問に答えるように校内研修を繰り返しました。

 

研修前に先生方にどのぐらいの意識があるのか調査したところ、既にほとんどの先生方が生成AIChatGPTという言葉を知っていて、生成AIを活用することをイメージしたさまざまな思いを抱いていました。本校の先生方のすごいところは、「生成AIの回答が低学年向けになっていなかったらどうしたらよいのか」、「情報が正しくないのか確かめるにはどうしたらよいのか」、「子供たち向けにやさしい回答をしてほしいと思ったときはどうしたらよいのか」といった問いも既に持っていて、生成AIへの取り組みに前向きだったことです。

 

▲ スライド6・教員向けの
AI活用方法の研修を行うにあたり、
まず教員らに意見を求めた

 

研修に向けては、専用のチャネルを使い、生成AIについて思うことや資料をどんどんアップロードしていきました。研究主任からは「このように取り組むと生成AIを活用できる」という方向性を示す研修資料も提供され、生成AIを「ただ使ってみる」のではなく、なぜ学校教育に取り入れる必要があるのか、理論的背景もしっかりと研修で学んでいきました。

 

▲ スライド7・研修に向けて
専用チャネル作り、
関連情報や資料を
1か所にまとめて
共有できるようにした

 

研修では、「生成AI21世紀型能力に必要なものである」という認識で、今まで私たちが身に付けてきた経験知や、教科書や、いろんな情報から蓄えてきた知見だけではない、その先にある可能性を広げるため、問題解決の方法をよりクリエイティブにしていくための、ひとつの示唆を与える存在であると考えていきました。問題解決型の授業では今後、生成AIは欠かせないものになると考えています。

 

研究主任は、「子供たちにとってはどんな場面に関係して、社会においてどことつながるのか」を明確にしてくれました。すると生成AIを使う必然性を感じてきます。社会に出たときに生成AIを取り入れた社会的な動きについていける、身に付けていないと企業で活躍できない。社会だけでなく、私たちが調べる場面、まとめる場面、交流する場面、振り返る場面に生成AIが入ることでもっと面白くなるのではないかとの予測もしていきました。

 

そして、どのような取り入れ方をしていくかのステップをしっかりと確認し、「具体的にこのように使ったらよいのでは」という事例の研修をしていきました。この研修をしたことで、先生方は、「どうやって使ったらよいの」、「どうして使わなければいけないの」といった疑問を払拭し、校長先生からの「今月いっぱい使ってみてください」との指示に納得していきました。

 

▲ スライド8・子供たちが
社会に出たときのことまで考えて、

AI活用の必要性を認識していった

専門家や企業など外部の協力も得ながら生成AIを取り入れた授業を実践

校内研修はしたものの、これを子供たちにどう伝えればよいのかのスキルはありませんでした。そこで、日本マイクロソフトにお願いし、子供たちに向けて「生成AIって何だろう、どんなことに使えるのだろう」という授業をしていただきました。

 

授業を受けた子供たちからは、「AIは人間を退化させるものだと思っていたけれど、AIを動かすためには知識が必要なのだということがわかった」、「AIを使えるようになるためには勉強が必要だと思った」といった感想が出ました。

 

最初の一歩は企業の力を借り、先生方もこれを一緒に見たことでイメージが沸いてきました。生成AIを授業に導入するためのヒントになったと思います。

 

▲ スライド9・生成AIを提供する企業による、
「生成AIとは」を学ぶ授業も行われた

 

次に私たちが悩んだのは、実際の授業への取り入れ方でした。これには、玉川大学の久保田 善彦先生の力をお借りしました。生成AIのチームを作り、オンライン会議を行い、例えばひとつの授業のどの場面で使うと効果的なのか、どんな授業展開にすると生成AIの良さを活かせるのか、などをご教示いただき、それらを元に先生方が実際に授業を行ってみるというやり方を繰り返していきました。

 

アドバイザーを迎えたことで、どの場面で使うと教育効果が上がるのか、生成AIへどのようなプロンプト(指示文)を投げればどういった回答が返ってくるのかまで、細かくアドバイスいただくことができました。

 

▲ スライド10・生成AI研究の専門家を
アドバイザーに迎え「どう授業を作るか」の
教員向け研修も行った

 

実際の授業の例をご紹介します。1年生の道徳では、「誠実について考える」ところへ生成AIが取り入れられました。指導案は「誠実という言葉に対する心の引っ掛かりに気づかせたい」というものです。授業の中で子供たちに「『むねにとげがささる』ってどういうことだろうね」と問いかけて意見を聞いたあと、「じゃあ、生成AIにも聞いてみようね」と先生がプロンプトを入力する、1年生が初めて生成AIにふれる場面として使いました。

 

▲ スライド11・1年生の「道徳」で
生成AIを利用したケースの指導案の例

 

8年生の授業では、ベテランの国語の先生が、アドバイザーの先生に指導案の助言をいただきながら、読み取り教材の「走れメロス」に生成AIを活用しました。

 

まず生徒たちが「走れメロス」を読み、メロスの性格や感情など、自分たちが読み取ったものを生成AIに入力します。すると生成AIは、生徒たちが感じ取ったことを反映した「AIメロス」となって回答してくれるようになります。そして、例えばAIメロスに対して「こんな場面で、メロスはどう動きましたか」と問いかけることで出てくる回答と、太宰 治の実際のメロスの表現とを比較し、自分の読み取りが近かったのかを確認するという、非常に高度な使い方でした。

 

▲ スライド12・8年生の国語の
「走れメロス」の授業では、
生成AIをメロスにする試みが行われた

 

授業では、実際の本の中には出てこない、「もしメロスがわがままだったら、妹に対してどう思っていたでしょう?」といった変わった質問をする、回答を読んで生徒たちがまた協議をするといったおもしろい取り組みもしていました。

 

▲ スライド13・本の中には出てこない
質問をしてメロス像を掘り下げる、
AIメロスならではの取り組みも

低学年も高学年も特別支援学級も子供たちに生成AIの良さがわかる授業を工夫

別の学年の社会科では、茨城県の先人たちがどんな思いを持っていたか、子供たちが自分たちの予想と生成AIの回答を比較したり、地域課題を解決するために、自分たちとは違う視点からの解決法はないか、生成AIと対話しながらよりよい解決法を考えたりする授業も行われました。

 

子供たちは、生成AIに質問するための端末とワークシートにまとめるための端末と、2台使って作業することもあります。本校ではVRを使った体育の授業も行っています。

 

▲ スライド14・社会科の授業の様子

 

低学年のクラスでは、色彩を決めるときに、自分たちがイメージした色と生成AIが選んだ色を比べるといった授業もありました。花火の色を選ぶというテーマの授業もありました。特別支援のクラスでも生成AIを使っています。みんなが聞きたいことを先生がまとめて、「じゃあ生成AIに聞いてみよう」と、生成AIに触れる機会を作りました。

 

▲ スライド15・特別支援のクラスにも
生成AIを利用する授業が展開された

 

先生方は、自分たちなりに悩みながら、子供たちが生成AIの良さを受け止められるようにと考えてさまざまな授業を作ってくれました。しかし私たちはこれらのやり方が必ずしも正解だとは思っていません。これは違うと感じるものもいくつかありました。これらの使い方を整理していくのが、これからの私たちの仕事だと思っています。私たちの生成AIの取り組みは、さまざまなところで取り上げていただきました。「こうやって使うとよいのですね」と言っていただいたり、お褒めいただいたりしてモチベーションを上げながら進んできています。

 

正直、学校の中だけで生成AIを使うことは難しいです。たくさんの企業から支援をいただいています。ソフトバンクには、生成AI以前の「そもそもAIとは」をテーマに、機械学習やディープラーニングといった解説をしていただきました。これから生成AIを活用していくための授業もしていただきました。AIへの理解を深めるために、マスクを取った顔とマスクをした顔の画像の判別をするシミュレーションをして、「これが機械学習のAIだ」ということも学びました。

 

▲ スライド16・企業の協力で
シミュレーションによる機械学習の体験も行い、
科学的にもAIを学んだ

 

シャープのロボット「ロボホン」は、生成AIと連携していて、話しかけると回答を話してくれます。「低学年向けのやさしい回答」を心配していた先生方にとって、設定でやさしい回答ができることで、安心して使うことができました。

 

▲ スライド17・生成AIの機能と連携した
ロボットも授業に利用されている

授業への活用だけでなく校務の効率化にも積極的に活用

みどりの学園は、「生成AIを使うこと」を意識しているわけではありません。生成AIを学校教育に取り入れることは、情報活用能力の育成の一つであると考えています。子供たちにアンケートを取りながら、情報活用能力にどんな変化が生まれてきているのかを見取っていきたいと思っています。

 

子供たちへの最初のアンケートでは、「『生成AI』のイメージを答えてください」との質問に対し、「何でも作ってくれる」、「質問すると答えてくれる」との回答がありました。私たちは「何かを頼んだらやってくれる」という使い方ではない方向を目指したいと考えています。「生成AIは、思考の壁打ちに有効」とされています。同様に子供たちにとっての生成AIも、自分の知見の外にあるいろんな考え方、さまざまな視点からの回答をしてくれる相棒のような存在になってほしいと思っています。

 

▲ スライド18・子供たちへのアンケート
「生成AIのイメージは?」への最初の回答

 

本校の先生たちにも「生成AIが本当に必要な場面」がだんだん見えてきているようです。それも私たちがこれからまとめていくことになります。

 

最後に校長の言葉を紹介します。「例えばAIの顔認証で、子供が学校に登校したか、健康であるかわかるように、また体力テストの数値や日々のテストの点数がすぐわかるように、こちらが求めていかなくてもわかるような使い方ができるとよいと、私は思っています。授業においては、子供たちが生成AIに相談する、個別最適化のような使い方もあるかもしれませんが、先生たちが求めなくても、子供たちの様子が手に取るようにわかる、その目的に使っていった方がよいのではないかと思っています」

 

校長の言葉からもわかるように私たちが目指している「もうひとつの生成AIの活用法」は、今まで多大な時間を割いてきた先生方の校務や日々の仕事が楽になって、子供の様子や習熟度が手に取るようにわかるようになることです。1年間、さまざまな取り組みを実践してきましたが、よい部分もこれは違うなと思う部分も、やっと見えてきたところです。今後も、「こんな使い方をしていきたい」と発信していけたらと思っています。

 

>> 後半へ続く

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