概要
超教育協会は2024年1月31日、宮城県岩沼市立岩沼北中学校 校長の加茂 博行氏を招いて「生成AIパイロット校としての挑戦~岩沼北中学校の教育実践と学校運営」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、加茂氏が、生成AIのパイロット校としてどのような点に留意して生成AIの活用を実践しているのかについて講演。後半は超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「生成AIパイロット校としての挑戦~岩沼北中学校の教育実践と学校運営」
■日時:2024年1月31日(水)12時~12時55分
■講演:加茂 博行氏
宮城県岩沼市立岩沼北中学校 校長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
生成AI時代の今、10年先、20年先を見据えて 子どもたちに必要な力は何かを考えることが大切
石戸:「視聴者から『生徒向けの生成AIに関するヘルプデスクのようなものを用意されたのか』と届いています。各教科に特有のものではなく、生成AIそのものに対する疑問というのもたくさん生徒からがあったのではないかと思います。『教科の教育から独立して生成AI利用に関する生徒向けのサポート体制が作られたのであれば知りたい』という質問ですが、いかがでしょうか」
加茂氏:「結論から言うと、そのようなヘルプデスクは作ってはいません。発表の中であった外部講師の研修会に基づいて、生徒にもある程度一般的な知識を教えた後で、教員についても同じような形で研修をすることで、AIの基本的についてはそこで学んでもらったということで、あとは子どもたちの中から『これはどうなんだろう』という疑問が湧いたときには、何人かは生成AIやDXに詳しい教員がいるので、その教員に聞きに行っているということはあるようです。本校は生徒数200人足らずの学校なので、そういったところは気軽に質問するような雰囲気はありますね」
石戸:「生徒からのアンケートについて話はありましたが、教師へのアンケートは取られたのでしょうか」
加茂氏:「まだ取っていないです。これから取ってみたいとは思っています」
石戸:「先生、生徒、保護者などから事前の承諾を得られたということでしたが、そこから何らかのネガティブな声というのは上がりましたか。家庭に帰られてからもChatGPTを使って学習されるお子さんも出てきている中で、保護者、それから先生から新たに上がった声がありましたら、プラスもマイナスも含めて教えてください」
加茂氏:「中学校1年生へのGoogleフォームを使ったアンケートの他に、何名かの1年生を実際に呼んでインタビューを行いました。『世の中には生成AIをずっと使っていると思考力が育たないという意見もありますが、実際に使ってみてどうでしたか』という話をしてみたところ、生徒の中には『生成AIを悪い使い方というか、短絡的に生成AIの答えをそのまま自分の答えにしてしまうような使い方をすれば思考力が低下することはあるかもしれない。だから正しく使っていかなければならない』という話をした生徒もいました。
あとは、ポジティブに使っている生徒にとって、生成AIは非常に学習に有効であることから、その中学1年生の生徒がこれからの授業においては、『生成AIのアドバイスで学びを進められる生徒は生成AIにコーチをしてもらいながら学習をして、支援が必要な生徒には先生が重点的に指導するような授業になっていくのではないですか』ということを話しているので、そのあたりは我々が考える以上にそういった肌感覚は鋭いなと思っています。
本校は先進的な取り組みをしており、メディアに取り上げられたり、新聞に掲載されたりすることがありますので、保護者としても肯定的な意見が多いです。ただこれについても、全ての保護者にアンケートなどを取ったわけではないので、学校に来てお話をしてくれる保護者に関して言いますと、本校の取り組みを積極的に捉えてくれている保護者が多いと思います。
教員については、かなりICTを使い倒していますが、生成AIについては全員が今使っているというわけではなくて、核になる教員がAIを使ってみて、どんな可能性があるかということを試しているところです。そこでやはり慎重な教員はもちろんいます」
石戸:「今、中学校1年生の生徒から、『生成AIとの対話で進められる子は、自分で進めていくということもあるのではないか』という提案があったという話がありました。『生徒が学びのパートナーとして個別に生成AIをカスタマイズしていくことに対してどのようにお考えでしょうか』という質問も届いています。個々人に有能な家庭教師がついたような形にもできると思いますが、そういう活用方法に関して先生のお考えがありましたら、教えてください」
加茂氏:「学習の効率が良くなると大変感じているところです。生成AIを使って授業をしていると、手持ち無沙汰でぼーっとしているような生徒は、ほとんどいないのです。自分の学習が停滞した時に、それを生成AIに入れて次のアドバイスをもらって、それで勉強していくところがあるので、私は生成AIをコーチのように活用して勉強していくということに関しては、今のところ肯定的な考えです。これから生成AIを自在に扱って学習を進めていった子どもたちと、そういうことを身につけないで学習していった子どもたちには、結果として差が出てくるのではないかというところで、これから生きていく子どもたちの資質能力の1つになり得るというようなところ、まだ時代で答えが出ていないところはあると思いますが、そのような感触を得ています」
石戸:「だからこそ全ての子どもたちが生成AIを適切に使いこなす力というのをどう育んでいくかがとても大切と思いました。生成AIが出てくることで、学校で何を学ぶべきか、学校はどうあるべきかを問い直した方がよいのではないかという声もあがっています。先生が生成AIを使って授業を複数なされた中で、改めて生成AI時代の子どもたちにとって、より力を入れて育んだ方がよいと考える力、先生たちや学校が変化する必要があることがありましたら、ご意見を伺えればと思います」
加茂氏:「まず必要になってくる力ですが、やはり問いを立てる力は大事になってくるだろうなと思っています。生成AIはさまざまアドバイスをしてくれますけど、根本的な問いを立てることはAIにはできないと思います。自分が何を学びたいのかと、さまざまな生活をしながら、目を配りながら、そこから問いを立てていくという力が今後子どもたちには必要になってくると思います。
授業の改善では、やはり今までは指導でしたが、指導から学びに転換していくことが必要だと思います。今までは知識の享受のような形で授業が進められたこともあったと思うのですが、これからはその学び方を学ばせること。そんな学び方もあるよ。こういったシンキングツールがあるよ。こういうのを活かしていけば、こう思考がまとめられるよというような学び方を教えていく。主体的な学びにつながるようなことを教えていくと。教えるというかサポートをしていくということですかね。そういったことが必要かと思っています。
学校については、私たちによく視察に来られた方々から、『こんな短期間でよくこんな実践を重ねられましたね』というような質問を受けるのです。『それはどうしてですか』と聴かれるのですが、私からは『挑戦が得意な学校だからです』と答えるようにしています。その挑戦が得意な学校というのは、挑戦が得意な教員がいて、生徒がいるからです。
この挑戦が得意だというのは今の時代にとても大事なことであって、特にICTや生成AIにはとても大事なことで、これまでのように、石橋を叩いて叩いて、しかも渡ればよいんですけど渡らないみたいな、そんな慎重さは大事ですが、トライ&エラーも必要です。トライをする学校組織になっていければよいな、それが大事だなと思っています」
石戸:「挑戦が得意な学校って素敵ですね。DXもテクノロジーを使いこなすスキルも大事ですが、そのマインドのところ、新しいことを恐れずにチャレンジするところが差につながると思うので、まさに挑戦する心が育まれることはとても素晴らしいと感じました。
視聴者からは、『いろいろな教科科目がある中で、今回は社会科、英語科、そして技術家庭科で実践されましたが、その3つの教科を選ばれた理由と、それから、ここから先、他にも展開する予定なのか、それはどの教科科目でどういうことをされようとされているのか』という質問が届いています」
加茂氏:「スタートするときに、ガイドラインに示されている7つの例示を中心にやってみようと思いました。挑戦は得意といっても、あまりにも本筋から離れたような挑戦をするわけにはいかないので、とりあえず慎重にガイドラインからやってみようというところで、英語はそういうところで選びました。社会科については、話し合い活動をした後に、生成AIに入れて、新たな視点を持って、もう一回話し合うという、ことは社会科でなくても、どんな教科でも言語活動の中で入れていくことができると思います。今後、他の教科にも広げていくことは可能です。
技術に関しても、7つの例の中にありますので、そちらの方に基づいてやったということです。今後についてですが、面白いなと思ったのは、3年生が高校受験をする際に、面接の練習を生成AI相手に行っているほか、入試の資料に自己PR等を書くときに、内容を一度生成AIに入れて分かりやすい表現に直してしてもらい、もう一度、それを自分で推敲して、より良いものに仕上げるということをしていたので、面接の練習にも使えるなと思いました」
石戸:「生徒たちは日常的に生成AIを1つの新しい視点をくれる対象として、もう受け入れているということですよね。そういう新しい視点を入れてくれる生成AIを入れることによってアウトプットが変わった例はありますか」
加茂氏:「そういった実際に使う前と使った後で、こんな変容があったというような、そんな確かなものはまだ出ていません。感覚でいいますと学び方が変わったという生徒はいます。1年生で頻繁に生成AIを使っている生徒です。そういった生徒たちの話を聞いてみると、学び方が変わってきている、活用の仕方が上手くなってきている、命令文(プロンプト)をうまく作れば作るほど自分が欲しい答えが出てくるようになるので論理的な思考力も関係あるとは思っています」
石戸:「学び方が変わったというのは、もう少し具体的に言うと主体的に深掘りして学ぶようになったというイメージですか」
加茂氏:「そうですね。自分でその意見を考えた後に、これまでですとアドバイスをもらう先が、友達や先生にということで少し壁というかステップがあるのですが、生成AIだと、それを気軽に何回でも聞くことができるので、主体的に自分でより良い意見を練り合えるというような印象があります」
石戸:「評価についての質問も届いています。『学習に生成AIを活用した場合の生徒の取り組み結果を教員はどのように評価の上、成績などに反映されているのでしょうか』という内容ですが、いかがでしょうか」
加茂氏:「私たちも悩みながらやっているところですけれども、今私が考えている答えとしては、単元の指導計画、単元の評価計画と照らし合わせて、どの場面でどう使い、どう評価するかを、しっかりと立案することが大切だということです。どこで生成AIを活用するのが有効かを考えてから授業に臨まないといけないと思います。それなのに思いつきのように『生成AIに聞いてごらん』と使わせてみると、アウトプットが生徒の資質・能力なのか、生成AIの力なのかわからなくなってしまいます。
まずは計画をしっかりと立てて、この部分で生成AIを使って、評価はこの部分でするというような取り決めが重要だと考えています。パイロット校のどこでも悩んでいるところだと思います。なのでパイロット校の実践などで、これから議論の重点になってくるという気はします」
石戸:「家でもChatGPTなどを使えますから、宿題の出し方、もしくは授業内での課題の出し方も先生たちの意識としては変化がありましたか。ChatGPTを使うかもしれないという前提で、子どもたちに出す課題や宿題を変えていくというような変化があったのかという質問です」
加茂氏:「非常に難しいところではありますが、もともとよく言われるのは、生成AIに瞬間的に答えが出せるような、そんな宿題に意味があるのかということです。まずはその宿題や課題を吟味することが大切です。宿題自体でどんな力が身についているのかがわからないような宿題は出さないようにしようといったことです。宿題について、岩沼市では根本から考え直しを進めているところです」
石戸:「生成AIの導入をきっかけに、宿題のあり方をもう一回検討しなければならないという意識が広がりつつあるようですね。他にもたくさん視聴者からの質問が届いています。『ChatGPTは一般に公開されている無料版を使われているということですか』というものです」
加茂氏:「はい、文部科学省のガイドラインにも無料版が推奨されていますので、それを使わせています」
石戸:「生成AIを使って、先ほどファクトチェックに時間が取られた話がありましたが、生徒自身もそれが大事とわかりつつも、そのまま使ってしまうことも多いのではないかと思います。ファクトチェックを具体的にどのようにされたか、そして子どもたちにどのように行うよう指導しているのでしょうか」
加茂氏:「教科書や資料集、公的な機関のホームページなどでファクトチェックをしなさいとは言ってはいるのですが、生徒たちにとってはファクトチェックでもっとも楽なのは教員に聞くことなのです。『これ先生、合っていますか』というように聞いてしまうのです。ただし常に教員がそこにいるわけではないので、『自分で調べることが大事だよ』ということはお話をしているところです」
石戸:「教科書会社に勤務されている方から、新しい教科書に『生成AIについて、どんな内容や記述がされていると嬉しいですか』という質問が届いています」
加茂氏:「フラットに伝えてもらいたいということはあります。可能性と課題について両方とも、生成AIの可能性はこういったところがあると、ただこういった恐れもあるので気をつけなければなりませんというような、フラットな形で書いてもらうのがよいかなと思います。ネガティブに寄るとか、あまりにもポジティブなことばかり書かれても良くないかなとは思っています」
石戸:「最後に2点質問があります。岩沼北中学校としては校務の情報化も積極的になされているということですが、先生方は校務にあたっても生成AIを既に使われていらっしゃるのか、どのぐらい使っているのでしょうか。
また、文部科学省のガイドラインに則って出されたということですが、ガイドライン自体もこれからアップデートされていく前提で作られているものですので、改善点などの要望があれば教えてください」
加茂氏:「校務については、学校評価のアンケートのまとめであるとか、あとは教員によっては期末テストの問題の叩き台について使用している教員もいます。授業プランでの活用も話題にはなっています。来年度以降はさらに活用が広がると思います。
2つめのガイドラインについて、これから生成AIが社会にどんどん浸透していくに従って、生成AIに対する印象もどんどん変わっていくと思います。そういったことを日々に捉えながら可能性を広げるような形で、あまりこれはダメ、あれはダメという『べからず集』のような形にはならないように、学校としても挑戦しやすいような、そんなガイドラインにしてもらえたらありがたいと思います。
私たちが生成AI実践をしていて感じるのは、我々が実践をしていく中で、この実践が良いかどうかを10年前の自分たちが指導した時の価値観とか、自分が学生だった時に受けたような価値観を評価の基準にして判断してしまいがちですが、やはり大事なのは10年後、20年後に子どもたちが社会に出ていったときに必要とされる資質能力は何かという想像力を働かせながら考えていくことです。我々のマインドを柔軟にしながら挑戦していけたらよいのではないかと思っています」
最後は石戸の「今回、生成AIパイロット校が登壇されたのは初めてでしたので、具体的な実践事例がとてもよくわかりました。挑戦し続ける岩沼北中学校の挑戦を今度は私も見に行きます」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。