子供たちが安心して時間を過ごせる「児童館」をメタバース上に
第147回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2024.3.8 Fri
子供たちが安心して時間を過ごせる「児童館」をメタバース上に</br>第147回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2024111日、一般財団法人ロートこどもみらい財団 代表理事/保育士・放課後児童支援員の荒木 健史氏と、株式会社スマイルラボ 代表取締役社長/株式会社FiNC Technologies CPO兼常務執行役の伊藤 隆博氏を招いて「ロートこどもみらい財団×スマイルラボとの共同サービス『ロートの放課後(オンライン児童館)』」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では荒木氏と伊藤氏が、おもに不登校の子供たちへの支援を目的としたメタバース上の居場所「ロートの放課後(オンライン児童館)」について説明。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「ロートこどもみらい財団×スマイルラボとの共同サービス『ロートの放課後(オンライン児童館)』」

■日時:2024年1月11日(木)12時~12時55分

■講演:

・荒木 健史氏

一般財団法人ロートこどもみらい財団 代表理事/
保育士・放課後児童支援員

・伊藤 隆博氏

株式会社スマイルラボ 代表取締役社長/
株式会社FiNC Technologies CPO兼常務執行役

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

荒木氏(▲写真1)と伊藤氏(▲写真2)は約30分の講演において、「ロートの放課後(オンライン児童館)」(以下、ロートの放課後)を開設した背景、具体的な機能と利用方法、運営母体であるロートこどもみらい財団について説明した。

 

▲ 写真1・荒木 健史氏
一般財団法人ロートこどもみらい財団 代表理事
/保育士・放課後児童支援員

 

▲ 写真2・伊藤 隆博氏
株式会社スマイルラボ 代表取締役社長
/株式会社FiNC Technologies CPO兼常務執行役

 

【荒木氏】

メタバース児童館「ロートの放課後」と「ニコッとタウン」、そして「ロートこどもみらい財団」について説明します。

 

「ロートの放課後」を開設した背景のひとつには、毎年増え続ける不登校の子供たちへの支援があります。学校に行きにくい子供たちの居場所をどうしたらよいのかを考えたとき、居場所づくりにおいて重要なことは、子供たちの主体性を尊重することであり、子供たちの「行きたい」、「居たい」、「やってみたい」という声を大切にしようと考えました。

こうした考えのもとに「ロートの放課後」を開設しました。

 

▲ スライド1・「ロートの放課後」
サービスを作った背景の説明

子供たちが自由に楽しめる場所がメタバース児童館「ロートの放課後」

「ロートの放課後」は、メタバース上のオンライン児童館です。児童館というのは学校や習い事に通うのとは違い、行くのも帰るのも自分自身で決められる場所です。そして「今日は誰がいるかな」という出会いのドキドキもあり、ふらっと行って楽しんで帰れるところ、という存在です。私自身の子供の頃を振り返ると、自由度が高かった印象があります。

 

「ロートの放課後」のコンセプトは、そんな用事もないのにふらっと行けて楽しい場所、まさに児童館です。2023105日にオープンして、まずは初期サービスを提供しています。月12回、「プログラム」と呼ばれるイベントを伊藤さんと一緒に開催したり、最近はサークル活動のようにスタッフも交えながら会話する活動をしたりしています。サービスは徐々に増やしています。

 

▲ スライド2・子供たちが、
ふらっと行けて楽しい場所がコンセプト
(専用ルーム)

 

「ロートの放課後」は、2Dメタバース「ニコッとタウン」の一部として提供されています。「ニコッとタウン」の中に、ロートこどもみらい財団に登録した子供たちだけが入れる専用エリアを設け、そこに「ロートの放課後」を作りました。子供たちは、まずロートこどもみらい財団に登録(メロー登録)し、「ロートの放課後」への参加申請をして、「ニコッとタウン」にログインすると利用できるようになります。

 

▲ スライド3・参加するには、
ロートこどもみらい財団に
「メロー登録」をし、申請を行う

 

【伊藤氏】

3Dではなく2Dなのは、年齢が低い子供やいろいろな課題を抱えている子供に3Dのゴーグルをつけて参加するのは難しいと考えたからです。子供たちが、パソコンやスマートフォンで簡単に利用できるほうがよいと考えて2Dで作りました。

 

【荒木氏】

必ずしも高いスペックのパソコンやタブレットを持っている子供ばかりではないので、3Dのメタバースにすると参加できない子供もいるのではないかと考えて2Dにしました。

 

登録申請時には保護者にいろいろな注意事項を確認いただくなど、安全な利用にも配慮し、子供たちが安心して交流できるようになっています。例えば、昼夜を忘れて使い過ぎることを考慮して、「ロートの放課後」では時間に応じて昼夜が変わるようにしています。その他にも看板を立てて、「トゲトゲ言葉はやめてね」、「個人情報は流さないでね」といったルールもしっかり伝えています。

 

子供たちが入れる部屋には15人の大部屋と2人の小部屋があり、誰かいたらチャットボックスで会話ができます。また月に45回ほど、Zoomによるオンラインのプログラムも開催しています。

 

▲ スライド4・「ロートの放課後」には
登録した人しか入れない。
安全な空間でチャットによる交流ができる

16年続いている、数万人のユーザーが住む2Dメタバース空間「ニコッとタウン」の広場の一角にオンライン児童館が「ロートの放課後」を開設

【伊藤氏】

「ニコッとタウン」について説明します。「ニコッとタウン」は、2008年、スクウェア・エニックスグループの開発スタジオとして設立されたスマイルラボが、「かわいいアバターと庭つき一戸建ての家でのんびり暮らせます」というコンセプトで開発したメタバース空間です。当時のメタバースでは「Second Life」が隆盛だったので、我々は「日本らしさ」を差別化として、和服や日本家屋のアイテムを取り入れています。和服を3Dで繊細に表現するのは難しいので、すべて手書き(2D)のサービスとして制作しました。また、スマ―フォン版については、2022年には、Adobeフラッシュプレーヤーの終了に伴い、他社が「アプリ化」していく様子を横目で見つつ、「ニコッとタウン」はあえて、「Webブラウザ版」を3~4年かけて作り直しています。「アプリ化」してしまうと、子供たちのお小遣いで購入して楽しんでくれているアイテム価格を、アプリストア登録などの関係で値上げせざるを得なくなるからです。

 

▲ スライド5・2008年から続く
2Dメタバースの「ニコッとタウン」

 

私自身も「ニコットさん」というキャラで「ニコッとタウン」にずっと住んでいます。荒木さんとご一緒する前から、ここには学校に行っていない子供たちがたくさん来ていて、私はそんな子供たちとたくさん話をしてきています。

 

ニコッとタウンの基本的な構成は、「自分の家(部屋)」が中心にあり、みんがいる街(仮想タウン)にお出かけして交流できます。一方で、「ニコッとタウン」では安心安全をコンセプトとして、1対1でやり取りする「ミニメール」と呼ばれる機能を入れないポリシーもあります。

写真のアップ機能もありません。また個人スペースにはブロック機能があり、誰が入れるか入れないか管理できます。少しでもトラブルが起こりかけたらすぐに自分の身を守れるようになっています。

 

「ニコッとタウン」には子供だけではなく、4060代の大人の方(女性7割)も多く、その中には、外出が困難、達障害の傾向があると言われる方もいらっしゃいますため、自分のペースで、のんびり過ごして頂きたいと思っております。そのためにも、私たちはFacebookや旧Twitter(現在のX)のような「最新の機能」を追加していくことを良いと思っておらず、「いつでも戻って来られる居場所」として、ガラパゴス諸島でも良いので、今いるユーザーさんと一緒に年を重ねていきたいと考えております。

 

結果、子供の頃に住み初め、今では大人になり、結婚や、お子さんが生まれて、お子さんと一緒に遊ばれている方もいらっしゃいます。

 

そんな「ニコッとタウン」の中に広場があり、その広場の一角にあるのが「ロートの放課後」です。メロー登録経由で参加した子供たちしか入れない、安心安全なスペースです。

 

▲ スライド6・安心安全がコンセプト。
自分と自分の居場所を守れる機能も
熟考され開発されている

ロートこどもみらい財団が提供する子供たちへの3つの支援

【荒木氏】

ロートこどもみらい財団に登録できる年齢は、原則8歳から18歳です。これはプログラムに参加したときに文字や語彙の面でついていけるかを考慮して8歳からにしていますが、もっと年少でもご登録できます。

 

ロートこどもみらい財団への登録は「メロー登録」と呼ばれています。「メロー」は、「眼の芽」と「フェロー」をかけ合わせた造語です。いろいろな子供たちがおり、その一人一人に何かの目があるということと、仲間という意味のフェローをかけています。

 

▲ スライド7・子供のことを考えた
さまざまなサービスと機会を提供する
「ロートこどもみらい財団」

 

財団としてメロー登録をした子供たちに3つの支援をしています。ひとつは財団ですのでファンディング、助成金サポートです。例えばこんな研究をしたい、事業を起こしたいみたい、といった具体的なアイデアややりたいことがはっきりして応募してくる子供の応援をしていくものです。さらに財団のスタッフも含めてメンターが、日々子供たちからいろいろな相談を受けて伴走する体制があります。支援は基本的に1年です。ただ、その後も相談などで連絡してくれる子供たちもいます。

 

大人たちに向けてプレゼンテーションしなければならないなど、子供にとっては難しいところもありますが、それをクリアしていくことも大切なステップだと思っています。

 

ただ、やりたいことがはっきりしている子供ばかりではなく、逆にいろんなところに興味がありすぎて困っている、もしくは何に興味があるか分からない子供が多いと思います。そのような子供たちには、「プログラム・ギャザリング」を提供しています。

 

プログラムは、月45回、いろいろな専門家と直接話ができる機会です。メロー登録してくれた子供、全員ではないですが30分ぐらい面談をしてリクエストを聞き、リクエストを元に話をしてもらえそうな講師の方をこちらで探し、オンラインで直接お話していただくものです。学校の授業ではないので、質問は都度講師に直接できるインタラクティブな形です。大人たちの予定通りには終わらずに34回と続いてしまう傾向はありますが、基本的に子供たちの視点を重視して進めています。こちらはオンライン型です。

 

もう一つのギャザリングはリアルで集まるプログラムです。コロナ禍ではしづらかったですが、現在は月1回程度、関東を中心に230名ぐらい集まって直接交流できる場を設けています。保護者の方もお越しいただきますので、LINE交換をするなどちょっとした保護者会が形成されることも多くあります。そのようにつながっていく場としても機能しています。

 

▲ スライド8・財団に登録した後は、
子供の可能性を引き出し育てる
3つのサービスで子供たちに伴走する

 

ファンディング第1期生は8歳から16歳までの7名でした。2期生ももう決まっていて11名います。みんな自分なりにやりたいことがはっきりしていて、私たち大人たちと相談をしながらだんだん自分の中で磨き上げたものを1年間探求していきました。

 

▲ スライド9・ファインディング第1期生が
1年間探求したアイデアの概要

アーティストやクリエイターと一緒に楽曲やゲームを作れるプログラム・ギャザリング

プログラム・ギャザリングの例をご紹介します。曲や音が好きという子供が多かったこともあり、財団と作曲家、プロデューサー、アーティストの方々とで一緒に音楽を作る試みを行いました。音符の代わりにシールを貼って自分の創意工夫でドレミファソラシドを表現できる、ちょっと変わった楽譜を使って曲を作り、アーティストの方に見せてその場で演奏してもらうというものです。こちらは202311月~12月に東京の池袋で実施しました。このようなプログラムは、リアルでは月1回程度ですが、Zoomでは45回程度行っています。

 

▲ スライド10・リアルに集うログラムでは、
ユニークな方法で作曲をしてみる試みを実施した

 

【伊藤氏】

これらのプログラムによって、子供たちの学びの種類や夢を実現できる可能性について網羅できていると思っています。私自身はデザイナー出身ということもあり、プログラミングや絵描きのプログラム・ギャザリングを「ニコッとタウン」の中でご提供しています。

 

一般的にこのようなことは、専門学校へでも行かない限りなかなかできないことだと思います。小さい頃から触れるだけでも将来の可能性になると思います。「画家になるには…」、「ゲームクリエイターになるには…」を子供に手取り足取り教えられる親は少ないと思われますが、そこを「ニコッとタウン」で、「ゲームクリエイターへの道」として本物のデザイナーが実際に仕事で使っている企画シートなどを使って、「こういう風にモチーフを作るんだよ」といった風に、小学校1年生の子供に教えています。子供たちの可能性を見出し、引き伸ばしてあげたいと思っています。私たちは、子供たちが、自分がなりたい未来に向かって具体的に進んでいくことに、オンラインで支援できる、これが、私たちが荒木さんと今やっていることです。

 

▲ スライド11・ゲームクリエイターとして
活躍する伊藤氏から直接デザインを学ぶ
オンラインプログラム

子供たちからのリクエストをもとに「ロートの放課後」への機能追加を検討中

【荒木氏】

自治体との連携も行っています。東京都足立区、神奈川県鎌倉市、大阪府東大阪市、兵庫県豊岡市の4市とは連携協定を締結しています。いずれの自治体でも不登校とそれに関連する課題は共通しており、適用指導教室(教育支援センター)に通う子供たちを対象にプログラムを提供しています。なお自治体にもよりますが、長期欠席に該当する子供が当財団のプログラムに参加すると、文部科学省の通達に基づき出席扱いの認定が受けられる仕組みもあります。そのような制度もうまく利用しながら、自治体とも連携して子供たちを支援しています。

 

▲ スライド12・自治体と連携し
財団のプログラムを提供。
受講により学校への出席認定を受けられることも…

 

【伊藤氏】

「ニコッとタウン」でも「ロートの放課後」でも「友達が欲しい」とよく言われます。そこで、訪れた子供たちが自然に友達になれるような「遊具」、具体的には釣りのゲームを提供したいと考えています。自身のゲーム開発の経験からも釣りのようなゲームは友達ができやすいと思っています。一緒に遊ぶ、プレイをすることによって友達ができるケースもあるので、それを「ニコッとタウン」でも再現したい思いがあります。

 

学校から帰ってきて釣り堀に行き、「釣れていますか?」と話しかけたり、タップしたらお手伝いできるようにしたりして、自分の力だけでは釣れなかった魚も釣れるようにするなど。「釣れた、ありがとう♪」という個別の会話から、「いつも何時に来るの?」、「五時頃から六時頃いつもいるよ」、「じゃあまた3番釣り堀で会おうよ」みたいな感じです。

 

▲ スライド13・子供たちの
「やりたいこと」リクエストに応える
機能提供を計画中

 

また、生成AIなどを活用した子供たちを守る機能についても検討しています。保護者や先生が子供たちの行動をすべて見守ることはできませんが、「ニコッとタウン」などのメタバース型サービスは、すべての空間が「デジタル化」されています。これは非常に重要です。「デジタル化」されていれば、その空間の会話をすべて、生成AIの教師データ(学習データ)として取得し、会話の傾向を分析することが可能です。例えばトゲトゲ言葉やチクチク言葉に当たる言葉が出た時にも対処できると思います。

 

「ニコッとタウン」の中にはNPC(プレイヤーが操作しないキャラクター)の動物キャラも住んでいますので、子供たちの会話から生成AIに学習させて、トラブルになりそうな会話があったら動物キャラから「それはやめた方が良いよ」と諭すなどして、会話の情操教育ができます。面と向かって言われると気分を害するような言葉も、動物キャラから発せられると素直に受け入れられることもあるでしょう。

なお、メロー登録をした子供たちにはシステムの裏側でIDにフラグを立てています。メローの子供たちにだけ働きかけるといったことも可能です。(グラフィックが優しい2Dというだけで、裏側のサーバー等の管理は最新の設計です)

 

リアルの世界では人の手間や費用がかかることも、インターネットや生成AIの力を借りることで、子供たちの普段の会話の中から情操教育がうまくできるようになると思います。生成AIを活用して実証実験してみたいことがありましたら、ぜひご相談いただければと思います。

 

▲ スライド14・子供たちの
「やりたいこと」リクエストに応える
機能提供を計画中

 

>> 後半へ続く

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