子どもの発達段階を踏まえて活用することが重要
第146回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2024.3.1 Fri
子どもの発達段階を踏まえて活用することが重要</br>第146回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2023年1227日、文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化PTリーダー/修学支援・教材課長/デジタル庁参事官(併)学びの先端技術活用推進室長、GIGA StuDX推進チームディレクターの武藤 久慶氏を招いて、「文部科学省が解説~生成AI利用に関するガイドラインと現場実践について」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、武藤氏が生成AI利用に関するガイドラインの内容と生成AIを教育現場で利用している学校の事例について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「文部科学省が解説~生成AI利用に関するガイドラインと現場実践について」

日時:2023年1227(水) 12時~1255

講演:武藤 久慶氏
文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化
PTリーダー/修学支援・教材課長/デジタル庁参事官
(併)学びの先端技術活用推進室長、
GIGA StuDX推進チームディレクター 

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

社会に広く普及しているからこそ賢い使い方を子どもたちに伝える必要がある

石戸:「まずお伺いしたいのが、今回のガイドラインが出るスピード感が素晴らしかったです。デジタル化など、これまでの文部科学省の動きは必ずしも迅速というわけではなかったなかで、生成AIに対するガイドラインが出るまでのスピードがとても早かったと思いますが、なぜそれが実現できたのか裏話のようなことがありましたら教えてください」

 

武藤氏:「私自身も2023年が明けたころには必要だなと思い、2024年度予算のなかで使えるお金を確保していました。あともうひとつ、教育活用について反対する人は、自分で触っていない人が多かったので、そういった人たちと大分対話をしました。携帯は今みんな持っています、小学生でも63%が持っていますというのを示ししつつ、その人のスマートフォンやタブレットを貸してもらって、その場で私がChatGPTをダウンロードしました。その場でプロンプトを打って、こうなりますよと、これを小学生でも気軽にダウンロードできる状況ですということをお伝えして、どうします、これを放っておいてよいのですかという言い方をしたら、7割から8割くらいの先生がこれは何とかしなくてはいけないなという感じになりました。そういうことを十数人にやった感じです」

 

石戸:「非常に面白いお話ですね。次にお聞きしたいと思っていたのが、禁止すべきという声も一定数あったなかで、具体的にどのような理由だったのかということや、それに対してどう納得させたのかということです。使ってないがゆえに反対するケースも一定数ありますよね。一方で使ったうえでやはり反対という声もあるかと思います。使ったうえで禁止を強く訴えたケースとしては、どのような理由があり、それに対してどう納得していただいたのかに関してはいかがでしょうか」

 

武藤氏:「禁止すべき理由では、子どもが考えなくなるというのが多かったですね。これを子どもに安易に使わせると考えなくなる、学ばなくなるというというのがすごく多かったです。それに対してどう説得したかというのは、さっきの繰り返しになりますが、その懸念は私も理解できます、使い方によってはそうなるかもしれないと申し上げたうえで、でもこれだけ広く社会に普及しているからこそ賢い使い方を私たちは子どもたちに伝えていく必要があるし、子どもたち自身に考えてもらわねばならない、それをもしやらずに私たちが手をこまねいていたら、子どもたちを無保護の状態に放置することになると、こういうロジックで納得してくれた方々が多かったと思っています」

 

石戸:「ガイドラインを出すスピードに関する質問をしましたが、教育の分野のみならずAIとの向き合い方に関して、諸外国と比較して日本は、比較的ポジティブではないかという印象を持っています。文部科学省として、ほかの国の教育現場における生成AIの利用動向をどのように捉えているのか、また今回ガイドラインを作るにあたって参考にした国や地域、事例がありましたら教えてください」

 

武藤氏:「ガイドラインを作り始めた時は、どちらかというと禁止論が多かったです。海外を参考にしたかと言われれば、参考にしました。どのような禁止論が出ているのか分析して整理するために参考にしました。私たちは情報活用能力というのを掲げていますが、懸念がこれだけある以上は向き合いたいと思ったので、そのうえで、海外の動向も色々と調べました。例えば、オーストラリアはかなり禁止色が強かったのが活用の方に舵を切ったというのもありますし、台湾やシンガポールは色々活用しているというのも聞いています。ここは今後もよく調べていきたいと思っていて、このガイドラインも暫定的なものとして出したところもあります。なので海外事情に加え、さっき申し上げたパイロットの学校からも、まだ数カ月ですが先生方から成果が出てきたり悩みが出てくると思います。そういう悩みをよく伺いながら次のステップを考えていきたいと思っています。

 

あと最近、ユネスコがガイダンスを出すなど、新たな動きも出てきています。かなり広範なガイダンスになっています。そのあたりをどう私たちのポリシーに含めていくことができるか考えたいです。これは当面のガイドラインであって、そこに反映できるような部分と、次の教育課程を考えていくときに反映していかなくてはいけない部分と、どこかで分けないといけないと思います。そういう一定のアカデミックなリサーチをベースにして取りまとまったものはこの後しっかり研究して次につなげていきたいと思っています」

 

石戸:「例えば英語教育で、英語を学習するのにChatGPTはじめ生成AIが非常に役に立つと同時に、そもそも英語を学習する意味合いや目的、英語を学ぶ内容も変わってくる可能性があるのではないでしょうか。既存の学習内容が生成AIの登場により変化することに対する議論も行われているのでしょうか」

 

武藤氏:「既存の学ぶ内容というのは、まさにこれから次の指導要領に向けた議論のなかで考えていくことになると思います。それがショートアンサーです。一方で、今日の私の話のなかでも生成AI自体について学ぶことが大前提だということは何度か繰り返しましたが、それを先生方がやるのは負担も大きく、生成AI自体も非常に早いスピードで進化しているので、私たちの方で授業で使える動画やデジタル教材みたいなものを提供していかないと現場の負担が重すぎるだろうと思っています。学習指導要領の改訂も10年に1変えるだけでは到底追いつかないので、色んな追加的な手だてが必要になってくると思っています」

 

石戸:「視聴者からも、『先生に対するスキルアップの対策やその計画について知りたい』という質問がきていますが、これから重点的に計画されるご予定ということでしょうか」

 

武藤氏:「まずパイロットの学校を見ながら、そのあとどうやってやるのかを考えていくことになると思います。ここまで広がってきているし、私たち自身もかなりギアを上げて、校務ではみんな使おうという感じなので、となればやはり研修を体系的にというか、もう少しインテンシブに機会を提供していくことが必要だと思っています」

 

石戸:「『生成AIが教育現場で活用が広がるという前提においてとして、一番懸念していることがあれば知りたい』という質問です。いかがでしょうか」

 

武藤氏:「結局は確率論的にAIが答えを出しているだけじゃないですか。それがいかに素晴らしく見えるものが出てきたとしても、さまざまなものが混じり込んでいるわけです。それを鵜呑みにしたりそのまま使ったりというのが、子どもの間や先生の間で起きると、それは本当に危ないことです。そうならないようにする必要があるというのはわかりやすい懸念としてあると思っています。それ以外にも、生成AIが生成してくる言説や応答が、バイアスがかかっているのかいないのかを検討すること、バイアスがかかっていることを前提にすることなどが子どもにも先生にも求められるでしょう。であるとするならば、それをどう研修したらよいのか、あるいはどう子どもたちの教育に落とし込めばよいのか、課題は山積しています。しかも相手がすごいスピードで暴走状態なので、生成AIだけじゃなくてギガスクール全体がそうだと思いますが、マインドチェンジが必要かなと思っています」

 

石戸:「文部科学省が出したガイドラインの参考にも各サービスの年齢制限についてまとまって一覧に掲載されていたと思いますが、『現実的には13歳以上という制限を設けているAIが多い中で、小学校の事例ではどう取り組んでいるのか』という質問がきていますが、いかがでしょうか」

 

武藤氏:「そもそもさっき事例に出てきた小学校は、実は私たちのパイロット校そのものではありません。その小学校から上がっていく中学校がパイロット校になっていて、そこの協力校という位置づけでやっています。そのうえで一人ひとりの子どもが実際にいじるということでは基本的になく、先生が主導でやっているというパターンです。もうひとつは、APIを使ってChatGPTそのものではないようなソフトを使ってやっているパターンもあると聞いています。その辺りが、今後、議論が必要になるのかなと思っています。ChatGPTそのものには年齢制限があるわけですが、色んなEdGPTみたいなものがたくさん出てくるとなったときに、発達段階等を踏まえた規約のあり方や年齢のあり方というのは、色んな方々の意見も聞きながら考えていく必要があるのではないかと思っています」

 

石戸:「視聴者からこのような質問もきています。『生成AIを使いこなす能力も子どもたちに必要な力だと思います。ただ身に付けてほしい能力とした場合、そのスキルはどのように評価すればよいのでしょうか。何らか成果物ではなくスキルの部分を評価する取り組みがありましたら教えてください』というものですがいかがでしょうか」

 

武藤氏:「そこまで至っていませんというのがショートアンサーです。そのうえで申し上げると、情報活用能力そのものについては、情報活用能力調査を3年に1、やっており、そこで生成AIに関わることも見ていきたいと思っています。一方で、この力を10年前に測ったらこうだったけれど今、測ったらこうだったみたいな悠長な議論は許されないくらい早く進んでいるので、そこはちょっと悩ましいところではあるなと思います」

 

石戸:「『色々な事例を見ていて、生成AIの活用に特に向いている学びの支援や教科などはありますか』という質問がきています。武藤さんから御覧になって、こういうシーン、こういう使い方は極めてやりやすいのではないかという事例などがありましたら教えてください」

 

武藤氏:「2022年7月の時点で考えられそうなことは今日ご紹介したなかで書いたのですが、一つ新しいことでモヤモヤしていることを開陳すると、大学で相当進んできて、まさに大学の研究者が相当な勢いで使ってきていて、自分のところの院生や学部生も使っているというのがけっこう蓄積されているのではないかと思っています。高校の探究もレベルの高いことをやってますから、それをそういうところで活かすという視点があるのかないのかみたいなことは考えていました」

 

石戸:「このような質問がきています。『義務教育段階で情報教育の時間増が必要ではないか、またそれを教える教員も地域によって格差があるなかで、常勤の教員ではなく外部の教育機関を活用することも重要ではないか』。この質問に関しては、教える人材の育成や確保は引き続きの課題ではないか、そこに対してどういう対処があるかという質問と捉えましたがいかがでしょうか」

 

武藤氏:「ショートアンサーは今お答えできませんというのが私の立場なのですが、まず問題意識は本当にその通りだと思います。情報教育に今あてられている時間というのがこれで大丈夫なのかということは課題だと私も思っています。まず、小学校段階ではそのための時間というのはありません。情報活用能力という今日たびたび申し上げてきたコンセプトはあって、これをカリキュラム全体のなかで伸ばしていこうということにはなっているのですが、これで大丈夫か、もっと充実すべきかどうかという議論がありえます。

 

それから中学校は技術家庭科のなかの技術分野のさらにそのなかでプログラミングをやっているわけです。技術家庭科というのは、これまでの学習指導要領の改定で一番時数が削られた科目の一つです。非常に時間自体が少ないなかでやっていることになります。高校は情報Iが必履修になりましたが、情報IIがまだちょっと解説が少ない。これをもっとプロモートしていく必要があるなかで、私たちが考えていかなくてはいけないことはたくさんあります。

 

もう少し具体的に言うと、大学レベルでは数理とデータサイエンスとAIをみんな学ぼう、どんな学問分野に行ってもこれを初年次教育でやろうということになっているわけです。そのうえで、大学のレベルと今の高校の情報Iないし情報IIが、円滑に接続できるようなレベル設定になっているのか、それともそこに若干の段差があって高校のカリキュラム上そこを埋めていく必要があるのかが、大きな論点になるのではないかというのが、前半のところへの私の考えです。

 

後半の外部の人の活用をもっと大事にしていくべきじゃないかというのは本当に賛成で、高校の情報の先生方のなかで免許を保有している人の割合が少なかったので、これを今かなり力を入れて正常化しているところです。ただこれは免許の話です。もちろん免許は大事という立場ではありますが、特に進歩が激しい、変化が激しい教育内容を扱うときに、それを実際にハンズオンでやっているような、そして問題解決に社会で携わっている人の力を借りていくことは私は大事だと思っています。そういう人を学校の先生として来てもらうパターンや、外部人材として特別非常勤講師みたいな感じでスポットで入れていくパターンなど、色んなパターンがあると思います。いずれにしてもこれはすごく大事なことだと思っています」

 

石戸:「最後に2お答えいただきたいです。NEXT GIGAに関する質問がきていまして、1つめは、『NEXT GIGAに向けた文部科学省としての思いと武藤さんの思いを聞かせていただきたい』。2つめは、『AI時代に子どもが必要とする力、身に付けた方がよいと思う力はどんなものか』という質問です。文部科学省としては時代が変わっても変わらない普遍的な力は定義されていると思いますが、この変化のタイミングだからこそ改めて武藤さんの言葉で一言いただけると嬉しいと思います」

 

武藤氏:「2つめは、今の私の立場上難しいと思っていますが、だいたい書きたいことは今日のプレゼンテーションの最初のところで、まさのこのガイドラインに盛り込んだつもりです。それ以上の次のカリキュラムの議論は、私からはお答えしづらいところです。

 

1つのNEXT GIGAに向けた思いは、正直、課題山積とは思っています。ファーストGIGAといってもまだ2と8~9カ月しかたっていない中で、すごく取り組みが進んでいるところもあれば、正直、全然使われていないところもあったりして、そういう中で今回、予算を取るのも相当大変でした。次に向けた思いを言うならば、ファーストGIGAを先進的に取り組んでいるところでは、より多くの子どもたちの学びが保障されていると思います。デジタルの力によるアクセシビリティというのもあるし、オンラインで教室と色んなところがつながるというのもあるし、外国籍の子どもとかが、この端末とネットワークがあることの恩恵を受けつつあります。これを全国に広げたいし、特別に才能がある子どもたちにもう少しスペシャルな機会を提供することもデジタルを使うことによって可能になると思います。こういうものがもっともっと広がっていくべきだと思いますし、学校の授業のあり方も、今までみたいな全ての内容を同じペースで全ての子どもにという提供の仕方ではない、柔軟な取り組みが広がってきていると思います。

 

日本の教育はすごく頑張ってきたし世界でもトップクラスだと評価を受けているけれど、今のやり方が今の子供たちの多様性に合わない部分が出てきていると思います。そのときのひとつのソリューションがやっぱりGIGAスクールでありデジタルだと思っていて、ネクストGIGAを展望しつつ、でもファーストGIGAもまだ半分なので、ファーストGIGAの間に加速させていきたいと思うし、これが高いレベルになって、NEXT GIGAが展開できたらよいと思います。そのときにちょうど次の学習指導要領の話にもなっていくのだろうと、そんな感じで考えています」という武藤氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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