生成AIを教育現場でどのように利活用するか?
第144回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2024.2.2 Fri
生成AIを教育現場でどのように利活用するか?<br>第144回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は20231213日、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の戸田 崇生氏を招いて「教育・研究分野における生成AIについて~国際・各国の動向より~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では戸田氏が、米国、欧州各国、中国、シンガポールなどにおける生成AIのガイドラインや教育分野における生成AIの利活用について、日本の現状と比較しながら紹介した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「教育・研究分野における生成AIについて~国際・各国の動向より~」

■日時:2023年12月13日(水)12時~12時55分

■講演:戸田 崇生氏
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

初等中等教育における生成AI利活用の具体的な事例に関する質問が多数

石戸:「ありがとうございました。本調査実施にあたり超教育協会のデータワーキンググループで一緒に議論をしてきた菊池さん(▲写真1)にもお入りいただきました。のちほど菊池さんからも質問にお答えいただきます」

 

▲ 写真1・菊池尚人氏
一般社団法人CiP協議会(CiP) 専務理事
超教育協会ワーキンググループメンバー

 

石戸:「特に欧州に比べると日本は、宗教観などの違いから、比較的AIの受け入れ態勢ができているのではないかとの議論があります。世界のいろいろな状況を踏まえて、生成AIの教育への導入との視点で考えたとき、日本はどんなポジションだと思われますか。諸外国と比べて前向きに教育に導入しようとしているという理解で正しいか。また教育分野に限らず、全体を見渡した中で日本の立ち位置についての感想を教えていただければと思います」

 

戸田氏:「日本の中を時系列で見たときには、かなり前向きに導入しようとしている印象です。生成AIパイロット校の話もありますし、ICT教育にパソコンを普及させたこともあります。他方で他の国と並べて比べた場合は、推進力が若干弱いようにも思いますが、単独で見た場合はポジティブな導入スタンスかなと思います」

 

石戸:「私も同様の印象を持っています。例えば、文部科学省から初等中等教育における生成AIのガイドラインが早々に出されたことにも、これまでのデジタルの導入と比較すると、動きはかなり早いと感じます。先ほどのEUなどのガイドラインは、生成AIの前に作られたものですが、日本のような生成AIに特化したガイドラインを出している国はありますでしょうか」

 

戸田氏:「生成AIに特化したガイドラインは、思いつきません。UKでは生成AIを使った不正をチェックするためのガイドラインがありました」

 

石戸:「すると日本とUKぐらいで、あとはシンガポールがカリキュラムの一環で多少触れているかもしれない。それが現状という理解でよろしいでしょうか」

 

戸田氏:「はい」

 

石戸:「視聴者からの質問です。『諸外国で、義務教育課程で使われている生成AIChatGPTが多いのか』中国の事例がありましたが、『中国以外で自国開発にこだわっている国はあるのか』教育現場において、何を使っているのでしょうか」

 

戸田氏:「中国は自国で開発していますが、欧州や日本を含め世界的に見ると、ChatGPTGoogle Geminiなど、大きくは米国系のソリューションがメインストリームになっていくのかなと思います」

 

石戸:「初等中等教育段階の具体的な生成AIの導入事例として、この国のこの取り組みが面白かったというものがありましたら、補足で教えていただけますか」

 

戸田氏:UKAI教頭は、生成AIをベースに『AIの先生』を作った例です。原文にはSpecial assistanceと書いてありましたが、もしかしたらAI先生を使って支援が必要な生徒などを手厚く個別にサポートできる体制を実装している取り組みではないかと思い、とても印象深いものでした。先生にも『子供たちのためにできること』に限界があることを補完するひとつの在り方として、生成AIが有効である可能性を秘めていると思います」

 

石戸:「視聴者から『各国の初等中等教育における生成AIの利用状況を知りたい』との質問です。例えば日本ではパイロット校が設置され、シンガポールでは小中学校で利用されていて、中国の小学校6年の事例もありました。ジョージア州では幼稚園から利用されているとのこと。各国ともどのぐらいの規模で利用されているのかと、今、挙げた国以外で小中学校から利用されている例はありますでしょうか」

 

戸田氏:「中国やシンガポールは、国を挙げて推進していますので、小学校からなのだと思います。米国は教育スタイルが地域に委ねられていますので、すべてを網羅的に把握することはできておりません。ユネスコのレポートで、生成AIに限らずAIの事例になりますが、例えば中国、アラブ首長国連邦、ポルトガル、クウェート、ドイツ、ブルガリア、サウジアラビアなどはプライマリースクールから、政府によるAIカリキュラムが開発中もしくは導入済みの状況になっています」

 

▲ スライド16・世界各国における、
政府によるAIカリキュラム導入状況一覧

 

石戸:「ユネスコのレポートの話がありました。生成AIが教育に与える影響は大きいとしながらも、一方でユネスコのレポートには『たびたび議論されているような変化を、教育にはもたらさないかもしれない』とも書かれています。その真意は何なのか、もう少し教えていただけますでしょうか」

 

戸田氏:「これは生成AIに限らず教育におけるテクノロジー全般なのかもしれません。個人的には、テクノロジーを導入した後どうなるか、数年後にならないと検証できないかもしれないと言っているのではないかと、推察しています。EdTech(エドテック)の話でも、効果測定がすぐできず効果が上がっているのか見えにくいです。主観のようになってしまうことがあるので、そのような書き方がされているのだと思います」

 

石戸:「視聴者からの質問です。『生成AIの活用において、教員養成の重要性というお話がありました。日本において事例があれば知りたい』というものです。また『諸外国においても教員の養成の具体的な事例があれば知りたい』とのことです。いかがでしょうか」

 

戸田氏:「日本はまさに取り組み中なのかなと思います。校務と教育で、生成AIを使った教員の養成にどこまで踏み込めるかというところです。各国の教員の養成に関しては、フォーカスして調査していませんので、パッと思いつくものはないです」

 

石戸:「視聴者から『EUAI法規制の動き、中国の生成AIに対する厳しい制約は、その国の教育や研究にどのような影響を及ぼすのか、知見やご意見を聞きたい』との質問です。いかがでしょうか」

 

戸田氏:「それは壮大なテーマですね。中国のように振り切ってしまえば、良くも悪くも思想統一というか秩序が統一されますので、ある程度クオリティ高く実現できることはあると思います。一方でEUは歴史的背景が異なる方々がいる中で、どちらかというと規制するスタンスです。UKAI法もできたばかりで教育にどのような影響が出るかは見えていません。米国のCEO解任劇のような枠組みにはまらない動きも、最先端のものとしてひとつ面白いという印象です」

 

石戸:「教科書教材会社の方から『教科書や教材等に生成AIを組み込んで教材開発されている事例はあるのか』という質問です。いかがでしょうか」

 

戸田氏:「個別に具体的にはパッと出てきませんが、シンガポールの例で、AIを使った教育者向けのAIリテラシープログラムがありました。その中に生成AIを組み込んだものがあるかもしれません」

 

石戸:「日本は教育分野に限らずデジタル敗戦と言われていて、教育に関してはデジタルの導入が非常に遅れていたことは周知の事実です。AIにおいてそうならないように、日本がAI教育先進国になるために、諸外国を見てきた結果を踏まえて、日本は今何をすべきだと考えられますか。こうしたほうがよいのでは、これを変えればよいのではなどがありましたら教えていただけますでしょうか」

 

戸田氏:「私自身、小学生と中学生の子供を持つ親として、なかなか悩ましいところです。制度の枠組みはありますが、まずは使ってみるというカルチャーが大切かなと思います。生徒を取り巻く保護者や先生方が過度に保守的にならず、まずは使ってみてそれをどう受け止めるか、それに依存しきるのではなく、出てきたものをキャッチボールしながら使ってみることが大事なのではないかと思います。私の子供の頃は生成AIがありませんでしたが、自分の子供に対してはそのようなスタンスで臨んでいこうと思っています」

 

▲ 写真2・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

石戸:「超教育協会のデータワーキンググループでも、このようなことを議論してきましたが、菊池さんからも諸外国の実態を踏まえ、日本が今、すべきことについてご意見を伺えればと思います」

 

菊池:「データワーキングでも米国とEUと中国が議論になっていました。例えば中国ではAIに関する規制が法律レベル、日本でいう政令省令レベルでも明確に定まっています。その中に『社会主義の価値を体現する』という言葉が盛り込まれており、開発や利活用、教育現場においても、西側諸国とは違う様相です。多くの議論は西側諸国で行われており、そこではG7の広島宣言もありますが、基本は一緒であるものの、規制に度合いなどが異なります。大統領令で決まるルールや州政府から出されるものなど、重層的かつ複雑で統一できていないのが米国で、他方、EU各国とはルールが異なります。これは個人情報保護と全く同じ形で、ばらばらの法律が重層的にかつ複雑にかかり実態は後追いする米国と、プライバシー意識や法律順守の意識が強いEUは異なります。

 

そんな中、石戸さんと慶応義塾大学のメディアデザイン研究科で授業をし、今年の留学生10名ほどにAIと著作権に関するプレゼンテーションをしてもらいました。すると彼らは、最初にChatGPTで調べたこと、次にその分野に詳しい学生に聞いたことを比較し、さらにプロンプトを変えてChatGPTに聞き直してみるなど、生成AIを使いこなしていました。認識を深めること、分析を深めること、調査すること、プレゼンテーションに生かすことなどがすでに当たり前になってます。ChatGPTができてほぼ1年ですが、日本の学生の生成AIの活用法とはだいぶ違うと感じました。

 

義務教育から高等教育まで、まずはトライアンドエラーで、教員も教育委員会も行政も保護者も、伴走しながら一緒に使ってみることが大切です。次の国際競争力につながるものであり、子供の創造性の一助にもなるのではないか、これがデータワーキングでの議論でした」

 

石戸:KMDでも、学生たちが生成AIを使いこなしています。使いこなしている人とそうでない人の差はますます広がるだろうとも思います。その格差を生まないために、どうやってすべての子供たちに生成AIを使う力を育む環境を用意できるかが、非常に重要だと思います。

 

先ほど、中国やシンガポールは国策として導入されているとのお話しでしたが、具体的には予算なのか、カリキュラムの制作なのか、AIの人材を育成するという視点からなのか、どのようなサポートがされているのでしょうか。日本に参考になるようなものがあるのか、お二人からご意見をいただければと思います」

 

菊池:「中国に関しては高等教育で、選ばれた一部の学生に優先的に使わせて、そのデータを用いてブラッシュアップすることが、パイロットモデルとして行われていると聞いています」

 

戸田氏:「こちらはAI Singapore(AISG)のホームページです(▲スライド17)。このような教員向けの使い方のプログラムがベースとして展開されていることは、日本と大きく違うところだと思います。教育のばらつきをなくして底上げする、ひとつの重要なベースになると思います」

 

▲ スライド17・AI Singapore
(AISG)のホームページで

教育者向けプログラムが提供されている

 

石戸:「最後に、これからの展望など、一言いただければと思います」

 

戸田氏:「動きが激しい業界ですので、注視していきたいと思っています。自分自身が積極的に使って見てどう感じたか、感性を大切にしていきたいと思っています」

 

最後は石戸の「超教育協会のデータワーキンググループとしても、今回の調査結果を踏まえて、生成AIの教育における利活用についてさらに深堀りするため、有識者の方々を含めたディスカッションの場も設けていきたいと思っています」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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