高等教育の英語教育への生成AI利活用法
第137回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.11.10 Fri
高等教育の英語教育への生成AI利活用法</br>第137回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2023929日、京都大学国際高等教育院 附属国際学術言語教育センター 准教授 金丸 敏幸氏を招いて「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では金丸氏が、生成AIを英語教育に利用するメリットや留意点について解説。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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>> 金丸氏講演資料公開「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」(pdf 480 KB)

 

「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」
■日時:2023年9月29日(水)12時~12時55分
■講演:金丸 敏幸氏
京都大学国際高等教育院 附属国際学術言語教育センター 准教授
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

生成AIが英語教育を「どう変えていくのか」に関連した質問が多数

石戸:ChatGPTはじめ生成AIを使うことによって、英語学習の仕方が大きく変わるだろうと、改めて思いました。一方で、英語を学習する必要性そのものが改めて問われているとも思います。そもそも英語を学ぶことをどう捉えていくか、金丸先生はどのように考えていらっしゃいますか」

 

金丸氏:2つあると思います。ひとつは英語一辺倒でよいのか、が問われるということです。英語のコミュニケーションは今後AIを使えばできるようになるわけですから、全員がしっかり英語を学ぶ必要はないわけです。例えば中国語や韓国語を使ってChatGPTでやり取りできれば、もっといろんなコミュニケーションが可能になるかもしれません。外国から日本に来る方も、英語で話すよりも、少しでも日本語を使ってコミュニケーションしたほうが、我々にとっても親近感があります。日本文化を知ろうと思ったら日本語を知ったほうがよい。同じようにこれまで英語でしか世界のことを知るチャンネルがなかったわけですけれど、AIを使っていろんな言語を学ぶことによって、もっと深くそれぞれの文化や考え方に関する理解を深めることができると思います。

 

一方で、英語は世界の共通語という位置づけもありますので、『最低限、英語は理解できることも同時に求められることになります。しかし今の英語はどこまで勉強すればよいのか誰も分かりません。『英語でコミュニケーションできること』と言われますが、どの程度できればよいのかゴールが分からないので、みなさん不安になったり、自分には無理だと思ったりするわけです。最低限どの程度の基礎力を身につければよいのか、今後、議論が必要になってくると思われます」

 

石戸:「正直、どんなに時間を費やしてもネイティブのようにはなれないでしょう。どこまで学ぶのかについては再考の余地があると思います。例えば京都大学でも入学試験で英語があります。一方で、入学した後に例えば海外の英語の論文を読む場合は、生成AIでざっと翻訳してから読んで学んだほうが効率的でしょう。英語の読み方も変わってきていることになり、求められる英語力も変わってきていることになると思います。入学時に求める英語の力に変化は起こるのでしょうか。また、入学後に基礎教養としての英語があると思いますが、そこで求める英語のレベルや求めるスキルは変わってくるのか、少し具体的に教えていただければと思います」

 

金丸氏:「大学入試はみなさん関心が高いところだと思いますが、当然、影響は出てくると思います。大学に入ってからは、単なる英語力というよりも、言語を使って考える能力や相手に伝える能力が求められます。京都大学の場合は、翻訳もしますが相手にきちんと伝えられる能力があるかどうか同時に評価されます。伝えるために記述する力は、AIがあっても本人に必要だということになるのだと思います。ただ、例えば文法の知識についての問題内容の選択問題は、AIを使えば解消できることになりますので、それを大学入試でどこまで求め、判定するのかについては変わってくると思います。大学での教育についても、現在は英語で論文を書ける力を身につけるための指導をしていますが、これは周りに使える道具がなかった時代が前提です。今はインターネットで調べものをしたりAIを活用したりできますので、トータルでどうアウトプットを高めていくかの教育にシフトしていかざるを得ないと思っています」

 

石戸:「このシンポジウムの視聴者は初等中等教育に関わっている方が多いです。今は小学校から英語を学びますが、初等中等段階における英語教育に関して、AIの進化を踏まえてこれからどうあるべきでしょうか。ご意見をいただければと思います」

 

金丸氏:「初等中等教育では基礎力をしっかり身につけることが大事だと思います。今までは教材として、副教材もいくつかありましたが、教科書が中心でしたChatGPTを使うと、いろいろな英語の例を用意することができます。中学生向けの講演でデモンストレーションをしたことがありますが、『この単語について学んでみましょう』と指導するときに、『この単語を使ったストーリーを考えてください』とすると、ChatGPTはたくさんの英文を示してくれます。先生が見せてもよいと思いますし、それぞれの生徒に、『この単語を使ってAIに作ってもらいましょう』と指導し、それを読んでお互いに感想を言い合ったり、その中に意味が分からないものがあれば、先生や周りの生徒もしくはAIに尋ねたりして、さらに学んでいく活用もできると思います。今までは一律に教科書の内容を扱うしかなかったのですが、ChatGPTを使えばいろいろとできます」

 

石戸:「英語学習の基礎力の話が出ましたが、視聴者から『基礎の部分について、どこまで学べばよいのか、もう少し具体的に教えてほしい』との質問です。ChatGPTを使うとある程度翻訳してくれますが、それが正しいかどうかが分からないと間違って伝わってしまうかもしれません。そうすると、それが正しいか正しくないか分かるレベルの英語が、必要な基礎力なのでしょうか。もしそうだとするなら、今の日本の英語教育ではどのぐらいのレベルのところでしょうか」

 

金丸氏:「文法、というと幅の広い概念ですが、英語のそもそもの仕組みを知ることが重要です。英語には語順で文中の単語の役割が決まっていく特性があります。日本語の場合は助詞がついたら主語になる、目的語になるなど決まっています。それ以外にも、名詞のまとまり、名詞句などの概念や、それを見極める力も重要です。そういった文法の概念や名詞のまとまりといった基本的な考え方が大事になるように思います。逆に、『ここで前置詞inを使うのかonを使うのか』というようなことは、ChatGPTに聞けば、『この場合はinです』、『こういうときにはonを使うことが多いです』と教えくれます。単語同士の規則、動詞の後ろに何がくるか、などはあまり覚えておく必要はないと思います。専門的に言うと、語法はあまり学ばなくてもよいことになると思います」

 

石戸:「これまでの試験では語法のような問題で12点を競ってきたところもあったと思います。細かいことはChatGPTに直してもらえばよいという前提で、もっと大まかな流れを構築できるか、理解できるかに、英語教育の評価もシフトしていくということですね」

 

金丸氏:「私と一緒に研究している京都大学の名誉教授の先生は、完璧でなくてもよい、相手に大まかに8割ぐらい意味が伝わるレベルの能力がすごく大事だと仰っています。そのようなところを目指し、より正確に表現したいのであればChatGPT活用していくということになるのではと思います」

 

石戸:「さきほど京都大学の入試と、入学後の大学の教養課程における英語教育の質問をしたときに、言語を論理的に使える力を育むことが大事だとのお話がありました。それは、日本語でも良いわけですよね。翻訳機を使って他の国の方とコミュニケーションする場合、母国語でしっかりと論理的な文章を構築できる力の方が、より一層大事かもしれません。今は英語教育にとても注目が集まっていますが、むしろ日本語教育、国語への注目が高まる可能性はないのでしょうか」

 

金丸氏:「どんな人にとっても、母語で考えることが一番、深く考えられることになりますので、これからも日本語でしっかり思考できるようになることは、求められると思います。もう1点あります。例えば日本語の場合はいろいろと例を挙げて最後に結論を言います。英語の場合は最初に結論を言ってから、そのあとに説明を追加していきます。フランス語ではまた別の伝え方をするといったように、言語によって思考の型がいろいろあります。母国語しか知らないと、母国語式の考え方に固まってしまいますので、いろんな組み立て方、考え方があることも含めて『国語力』として考えていく必要はあると思います」

 

石戸:「他国の文化を知るという視点から、英語に限らずいろいろな言語を学習することの意味があるということですよね。多文化理解の促進にもつながる局面での外国語学習には意味があると思います。母国語でのきちんとした発言をするには思考が大事なのではという話になると、幼少期からバイリンガルを目指して英語教育を受けさせるよりも母国語を大事にしたほうがよいのではという話も指摘されることがありますが、そのような研究の例や、先生の見解はありますか」

 

金丸氏:「バイリンガルを目指すことについては、幼少期から英語の音に触れているとその後の英語の音に対する反応が変わってくることがあります。一方でバイリンガルの方は考えるときにどちらが母語かがはっきりせず、深く考える能力ちにくいという研究もあります。英語の音に関しては、世界にはいろいろな発音の英語があります。イングリッシュネイティブスピーカーと呼ばれる方よりも、我々のように学習して英語を使っている人や、インドのように公用語として使っているけれど、英語以外の言語が母語だという第二言語として英語を使う人の方がはるかに多い事実があります。どちらがスタンダードなのか、を考えると、必ずしもネイティブの発音や言い方だけが望ましいというわけではありません。ですから、日本人の英語の発音でかまわないのです。幼少期からバイリンガルとして発音や聞き取りができるようなレベルを目指す必要性は今後なくなってくるのではないかと個人的には思っています」

 

石戸:「生成AIを使った英語の学び方について、先生がこれまで触れた、ChatGPTを使ったこんな面白い学び方がある、この使い方はおもしろい、という事例があれば教えていただきたいという質問もきています。いかがでしょうか」

 

金丸氏:「今みなさん試行錯誤しながら使っているところだと思います。よく聞くのは、自分が書いた英語を生成AIに修正してもらい、そこからいろいろ学ぶという使い方です。私個人では、英語話者の方とやり取りするときに、英語のメールに対してこういう意味の返事を書いてくれと、ChatGPT回答メールを作ってもらっています。日本人の私の感覚からすると『いつもお世話になっております』や『よろしくお願いします』のようなことを、英語ならではの『(I hope) This email finds you well … お元気のことと存じます)言い回しで書いてくれることがあり、メールの書き方もいろんなバリエーションがあることを学びました。自分なりの用語集やパターン集を作っていくのは、ひとつ有用な使い方だと思います」

 

石戸:「京都大学で英語教育を担当されているということですが、これからこう変えていきたいという具体的なことがありましたら、教えていただけますか」

 

金丸氏:「京都大学では、積極的にChatGPTを授業の中で活用されている先生と、使用を禁止してAIや自動翻訳は使わずに実力を養成するという先生とに分かれているところです。私の例では20234はじめから担当している学生全員にChatGPTのアカウントを取得してもらい、生成AIを利用することを前提とした授業を進めています。自分の書いたものと生成AIが書いたものとを比較しながら、どういうところが違うのか、これから自分が書いていくものにどう活用できるのか、自分が書いた英語をブラッシュアップするには、といったことを学んでもらっています。

 

もう一つおもしろいところでは、ChatGPTに書いてもらったレポートを読んで、おかしな部分はないか考えてもらうこともしています。ChatGPTが書く英語は必ずしも完璧ではなくところどころおかしい箇所や日本語から翻訳した場合、元々の文章と反対のことを言っていること気づます。それが先ほどの文科省の指針にもあった生成AIの限界点でありますAIも間違うということに気づいてもらうことは、おもしろい活用の一つかと思います」

 

石戸:「実際にChatGPTを使った英語教育にシフトしてみて、学生たちの反応はどうですか。学びのスピードが増した、理解が深まったなど。よい効果/悪い効果含めて教えていただければと思います」

 

金丸氏:「全体的に、すごくレベルが上がります。AIの力を借りると日本語と同じレベルぐらいまで英語の表現のレベルが引き上げられますので、非常に深い議論ができるようになります。これは大きなメリットです。これまで英語が苦手だった学生、英語が足を引っ張っていた部分がかなり改善されことで、学んだことのアウトプットの質や深みトータルとして使う前と比べて格段に良くなったと言えるように思います」

 

石戸:「専門領域の研究により時間を割き、ChatGPTを使って言語的なところを補完するという関係ができると、研究の実績も上がるでしょうね。それを国際的に広げるツールも手にできるということで、AIは本当に力を拡張してくれるツールとして機能するのかなと思いました」

 

金丸氏:英語のネイティブスピーカーの先生は、今まで自分はグラマーチェッカーのようだった、けれどレポートの課題を生成AIでチェックして修正してから提出するように指示したところ、文法のミスが格段に減って、論旨の組み立て方や例をどう持ってくるのか、この例は適切かなどといった指導がきちんとできるようになっ良かったと仰っていました。そういうところはメリットだと思います」

 

石戸:「先生の指導は細かい文法ではなく、本質的なところの指導に注力できるようになったということですよね。それは先生とAIと学生の3つの組み合わせとして、素晴らしいですね。初等中等教育に関わる視聴者が多いので、生成AIの低学年における英語教育について、一言いただければと思います」

 

金丸氏:「語学に関していうと、基礎がすごく大事になってきます。初等中等の先生方は、英語を使ってやり取りすることを一生懸命指導されていますが、それと同時にそのために必要な基本的な文法の力、単語力をこれまで以上に丁寧に指導することが大事になってくると思います。そのために例を挙げるためChatGPTを活用するといった使い方のように、プラスαのかたちでうまく指導に導入していくことが求められてくると思います」

 

最後は石戸の「英語『教育』ということだけでなく、生成AIが世界の多様な人たちのお互いの理解を深めることにつながっていくことを期待します」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

後日回答

※本シンポジウムでは、視聴者から多数の質問が寄せられました。以下、後日金丸氏から文書にて回答いただいたものをご紹介します。

 


 

  • 質問1 社会人の英語リスキリングについて、金丸先生の考えをお聞かせいただけますか

 

金丸氏:ChatGPTのような生成AIが身近になったことは、いつでも英語の相談できる相手ができたのと同じだと思います。社会人の英語学習では何でもできるようになったと言えるのではないでしょうか。これまで以上にいろいろなことができると思います」

 


 

  • 質問2 生成Iについて実際の授業等での活用例はあるでしょうか。可能な限り多く紹介していただきたいです

 

金丸氏:「授業等での活用例については、大修館書店『英語教育』20238月別冊などが参考になるかと思います」

 


 

  • 質問3 初等中等教育においての英語教育で、生成AIはどのように授業に関わってくることが考えられるでしょうか

 

金丸氏:「初等中等教育は、授業で習ったことをChatGPTとやり取りすることで身につけるというかたちで導入される可能性があります。現在はALTが担当していることをChatGPTが代わりに行うイメージです」

 


 

  • 質問4 英語で発信される最新の情報をキャッチアップするためには、英文が理解できるだけでなく、相槌を打つなど感情を伝え合うコミュニケーションが必要だと感じています。生成AIをうまく活用することで習得スピードを上げられる可能性がありましたら、ぜひ具体的にお聞きしたいです

 

金丸氏:「対面のコミュニケーションでの言語による情報伝達は3分の1程度で、残りは非言語的なものであるとの説があります。そのため、すべてを生成AIに頼るのではなく、言語的に工夫のできるものを上手に学習するとよいのではないかと思います。ただ、最新のアップデート(有料版)で、音声によるやり取りも可能になりましたので、今後は音声による会話練習も当たり前になっていくかもしれません」

 


 

  • 質問5 英語教育の目的は、国、生徒個人(純粋に将来使う者として)、教育の結果を評価する者、という立場によってずいぶん違うように感じます。議論以前に混乱していると感じますが、AIと英語教育について議論する前に、当事者全員が何を一番大事にするかを一致させる必要がありそうです。金丸先生はどのようにお考えでしょうか

 

金丸氏:「ご指摘の通りで、英語教育(制度側)にしても、英語学習(学習者側)にしても、学ぶ『目的』が何かをはっきりさせることは重要です。しかし、ChatGPTの登場以前から、英語を学ぶ目的は随分と曖昧なままでした。教育制度としては今一度、英語教育の目的をまずはっきりさせることが重要かと思います」

 


 

  • 質問6 今後の学校現場への影響の予測などありましたら、ぜひ教えてください。現時点では、学校現場への影響はまだそれほどでもないでしょうか

 

金丸氏:「教室での利用は徐々に進んでいくと思いますが、家庭での学習にChatGPTが使われるようになると、これまでのような家庭学習が難しくなる恐れがあります。また、家庭環境による生成AIの利用状況にも差が出ると問題です。使用についてのルールを指導しながら、少しずつ活用方法を身につけていき、英語学習などに利用できるような環境整備が必要になってくるかもしれません」

 


 

  • 質問7 AIによる自動翻訳機能が進化していく状況において、英語に限らず外国語を学ぶ範囲、重要度はどのように変化していくのでしょうか

 

金丸氏:「英語学習の絶対的な地位が変わる可能性が高いと考えられます。英語をきっかけに英語以外の外国語の学習がもっと広まる(べき)かもしれません」

 


 

  • 質問8 最先端のAIでは、どこまで英語の作問ができるものなのでしょうか

 

金丸氏:ChatGPTの作成方針から考えると、上手な作問ができるようになるには、まだまだ時間がかかると思われます。現在は、記述式の問題は得意ですが、選択式の問題などは苦手のようです。しかしChatGPT以外の大規模言語モデルで、作問に特化したものができれば、学習者のレベルに合わせた作問もできるようになると考えられます」

 


 

  • 質問9 全国学力学習状況調査で、英会話に関する部分があまりにも低いと話題になっています。この話題に関して、金丸先生の考えをお聞かせいただけますか

 

金丸氏:「生成AIの話題からは離れますが、解答率が低かった理由の1つは答え方の『型』を持っていなかったからだと考えられます。おそらく、英語でなくても日本語でも解答率は低かったのではないでしょうか。そうすると、英語の知識や技能の問題だけとは言い切れません。日本語も含めた、口頭でのやり取りの練習が必要かもしれません」

 


 

  • 質問10 AIは学習調整力を高める媒介として、教師と共に機能すると思われますが、個別最適化という観点から、協働的な学びへの活用を含めてAIが対応できる可能性が高いと考えます。金丸先生はどのようにお考えでしょうか

 

金丸氏:「ご指摘の通りで、個人に合った使い方をいかにするかが鍵になると考えています。そのために、基本的な共通の活用法を身につけて、そこから個別に活用する使い方へ発展させていくやり方(いわゆる守破離)が大事になると思います」

 


 

  • 質問11 ChatGPTの登場後、授業で使われる教材や課題を変更されましたか。学生がChatGPTを活用する前提で出された課題などがあれば、評価のポイントと併せて教えてください

 

金丸氏:Writingのクラスでは、これまで書くこと中心の課題でしたが、実際にChatGPTが生成した英文を確認したり、添削したりするものを課すようにしました。また、2つのトピックを用意して、片方をChatGPTに書かせて、学生が書いたものと合わせて、学生同士で評価するような取り組みも実施しました。ChatGPTに良い英文を生成させるには、本人の課題への理解が重要です。その点が評価のポイントになりました」

 


 

  • 質問12 生成AIを活用した国内外の英語教育の事例で、金丸先生が良いと思われたものがあれば教えてください

 

金丸氏:「いくつか報道記事もありますが、立命館大学の山中 司教授などの取り組みが先進的であると思います」

 

参考:立命館大学「生命科学部の英語授業に「ChatGPT」と機械翻訳を組み合わせた学習ツールを試験導入」

 


 

  • 質問13 英語で何をどのように学ぶべきかについて、今後、小・中学校・高校・大学の英語教育はどのように変化すべきだと思いますか。具体的なカリキュラム案がありましたら、それぞれ教えていただきたいです

 

金丸氏:「カリキュラムは目的に応じて変わりますので、具体的なカリキュラムのご提案はここでは難しいところです。しかし、『主体的・対話的で深い学び』については、今後、生成AIもその対象に入ってくると考えられます。生成AIとのやり取りを通して、そこから何を学ぶことができるのかということを考えていくことが重要になるように思われます」

 


 

  • 質問14 AAALやAI共存を意識した、大学での具体的な取り組み、例えば授業でどんなことを行っているかなどについてのお話がありましたが、他にも例がありましたら教えていただけますか

 

金丸氏:「言い換えや要約を行う際にChatGPTの出力例を参考にしたり、出力をベースにして修正を加えて作成したりしています。英語力の高い学生は、自分で書いた後にChatGPTにチェックしてもらうといった使い方もしています。いずれも、ゴールは同じですが、活用の方法や度合いは各学生の英語力に合わせたものになっています」

 


 

  • 質問15 大学入試に関連して、AIの登場などによって英語教育が変わっていく中で、大学入試、個別大入試も変化が生じるでしょうか。京都大学の入試も変わっていきそうでしょうか

 

金丸氏:「生成AIの登場で、日本人をはじめとする非英語母語の英語使用が変わり、英語教育の目的も変わっていくと考えられます。英語教育の目的が変わると、大学入試の内容も多かれ少なかれ影響を受けると考えられます。大学入試の変化は別の回答をご参照ください。個別入試については、具体的には、語法の知識を問うような問題は減っていくかもしれませんし、単純に英語で意見を書くという問題もなくなるかもしれません。京都大学の入試もまたそれと無縁とは言えないかもしれません」

 


 

  • 質問16 現在ある生成AIを活用した英語学習サービスで金丸先生が注目されているものがありましたら知りたいです。先生は、今後どのようなサービスがあればよいと思われますか

 

金丸氏:English Centralさんが、自サイトで提供している英語動画について、ChatGPTによるロボットの会話練習ができるサービスを始めています。コンテンツに対するやり取りを英語で練習できるサービスはChatGPTの有効な活用方法だと思って、注目しています」

 

参考:EnglishCentralプレスリリース「『EnglishCentral』がChatGPTを活用した英会話サービスを開始」

 


 

  • 質問17 生成AIがあることが前提になることによって、大学入試は今後変わってくるのでしょうか

 

金丸氏:「生成AIがあっても、本人自身の英語力を測定することは重要ですので、入試そのものがなくなる可能性はまだ低いかもしれませんが、これまでのように高い点数を競う必要性はなくなるかもしれません」

 


 

  • 質問18 義務教育での外国語の指導は今後どのように変わっていくのでしょうか。金丸先生のお考えを教えてください

 

金丸氏:「英語で話したり、書いたりする相手として、ChatGPTを対象にするということが出てくるのではないかと考えています。また、これまで初等中等教育での英語のインプットには限界がありましたが、ChatGPTを活用すれば、興味や関心、レベルに応じて様々な英語を用意することができますので、より多くの英語に触れるということが可能になっていくと思われます」

 


 

  • 質問19 講演資料の中にあった、先生 or NESのNESとは何ですか

 

金丸氏:Native English Speakerで英語母語話者の略称です。スペースと時間の都合で説明ができず、失礼いたしました」

 


 

  • 質問20 英語学習の基礎の部分に関して、もう少し具体的に教えてください。小中高生にとっても知見などあれば知りたいです

 

金丸氏:「基礎を定義することは難しいのですが、日常生活を送る上で必要な語彙(2000語程度)、語順と文の中での意味の関係(主語や目的語といった概念)、時制(進行形・完了形)や助動詞といった動詞の変化、名詞句のような句・節といった意味的なまとまり、関係詞(修飾構造)などが基礎に当たります」

 


 

  • 質問21 今後の語学学習に関連して、英語以外を選ぶ人が増えるということはありえますか。AIがあれば、教師が不在でも教えることができるのかと思いました

 

金丸氏:「英語以外の学習者はこれからもっと増えていくべきだと思います。ただ、ChatGPTのようなLLMがあっても、それを使って外国語を学習するためには、基本的な語彙や文法、文字体系や入力方法を身につける必要があります。そのための環境は重要になると思います」

 


 

  • 質問22 生成AIを活用した英語教育法で、スピーキング相手、英文添削、翻訳、問題の回答以外には他にどんなことに活用できるでしょうか。効果的だと思われる活用法を教えてください

 

金丸氏:「言い換えや要約は自ら文章を書く上でも重要な技能の1つです。いろいろな英文を生成AIに言い換えさせたり要約させてみたりして、その生成例を通じて言い換えや要約の方法を身につけることができます。アウトプットの能力を広げることが可能になります」

 


 

  • 質問23 日本人は英語力があっても、教養ある外国人と人間関係を構築するうえでリベラルアーツが不足していると思います。英語での話の内容を豊かにする上でも、AIを使用すると効率的ではないかと思いますが、いかがでしょうか

 

金丸氏:「外国人に限らず教養のある人と会話をする場合、歴史や文化、時事、政治経済などについて、日本国内だけでなく世界中のことを幅広く知っておくことが求められます。こういった情報を集めたり、それについて議論したりして深めることにChatGPTのようなAIは役に立ちます」

 


 

  • 質問24 欧米では早くからスペルチェックを用いた作文授業が行われていました。日本の英語教育は細かいことまで厳密なので、言語をのびのびと使うことはできない授業が多かったような気がします。これを変えることが大事なのではないでしょうか

 

金丸氏:「現在では、英語の正確さ、厳密さよりも、多少の間違いはあっても、言いたいことを自分なりに表現できることが重要とされるようになってきています。その流れで、ChatGPTが修正できることについては、これまで以上にあまり拘らずに積極的に表現できるようにしていくことが求められていると考えます」

 


 

  • 質問25 母語の使用が最も必要でありますが、母語を強化するためには外国語がとても役立つということもあります。言語による相対化は、多言語による学習の必要性もあると考えます

 

金丸氏:「ご指摘の通りです。これまでは外国語=英語しか対象ではありませんでしたが、もっとさまざまな言語に触れることが重要です。ChatGPTはそのような機会を提供してくれると思います」

 


 

  • 質問26 4技能5領域で考えると、生成AIを使って特に伸ばしやすいものはどれでしょうか。具体的な使用例などもありましたら教えてください

 

金丸氏:「今のところ、生成AIは文字によるものが中心ですので、リーディングやライティングに向いていると言えます。特にライティングについては、書いたものを添削させたり、表現例を出力させたりできますので、これまで自学が難しかった部分への有用性は高いと言えます」

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