高等教育の英語教育への生成AI利活用法
第137回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2023.11.10 Fri
高等教育の英語教育への生成AI利活用法</br>第137回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2023929日、京都大学国際高等教育院 附属国際学術言語教育センター 准教授 金丸 敏幸氏を招いて「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では金丸氏が、生成AIを英語教育に利用するメリットや留意点について解説。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

>> 後半のレポートはこちら

 

「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」
■日時:9月29日(水)12時~12時55分
■講演:金丸 敏幸氏
京都大学国際高等教育院 附属国際学術言語教育センター 准教授
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

金丸氏は約30分の講演において、教育における生成AIの活用、特に英語教育での活用について事例を交えて紹介し、その際に重要となる考え方について説明した。

 

>> 金丸氏講演資料公開「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」(pdf 480 KB)

 生成AIの登場によって日本の英語教育は「変わらざるを得ない」

 ChatGPTに代表される大規模言語モデルが教育現場においてなぜ問題となるのか。それは、生成AIが文書を作成する、つまり知識や学習成果をアウトプットすること、「書くこと」に関して非常に優れた能力を持っているからです。

 

これまで日本の大学や高校といった高等教育における学修成果の評価は「書く」ことに重きを置いてきました。知識をどれだけ習得したか、持っているかだけではなく、自らの知識やスキルを使ってきちんと説明できるかを重視したのです。例えば、大学では以前から「卒業論文」というかたちで、大学で学んだことを「伝える」能力について評価をしてきました。これには「文章に書いて表現できるのは人間だけ」という前提があったのですが、そこに人間と比べても遜色ないレベルの流暢な文章を生み出す生成AIが登場したため、教育を含め世の中全体に大きなインパクトを与えたのです。

 

この視点に立って考えると、「生成AIは日本の英語教育を変えるのか?」という問いの結論としては、「変わらざるを得ないだろう」と思われます。ChatGPTの翻訳文は、大半の学生の翻訳文と比べても非常によくできていることが多いです。学生がこれを自分のレポートに活用すると本人が書いたのではないもので評価されることになり、さらに、それが本人の実力よりも上だとすると、学生本人に対する正しい評価はできなくなってしまいます。これが教育において問題になる一番の理由です。

 

▲ スライド1・ChatGPTが問題になる理由は、
使った学生の能力の評価に影響が出るから

 

ChatGPTの英語の作文能力は、英語圏の標準的な大学生レベルと言われています。当然、日本人大学生と比べるとかなり上です。また、日本語から英語の和文英訳に関しても、ChatGPTは非常に優れています。さらに、これまでの機械翻訳ではできなかった文章の要約や文章に関する意見を述べるといったこともできます。

 

これまでは学生が自分で考えるしかなかったことが、ChatGPTは簡単に行ってくれる。その内容もこれまでのものに比べて非常に高いレベルです。

 

一方、弱点もあります。「この箇所だけ少し直してほしい」といった細かい部分の修正ができません。また数十ページに渡る長文や、本1冊を要約させることは、入出力の限界があって難しいところです。ただ、GPT4になると2万~25千語ぐらい一度に対応できるようになっていますので、ちょっとした論文にも十分対応できるようにはなっています。

 

もう一つの弱点は、出力の結果が安定しないことです。例えば機械翻訳ならだいたい毎回、同じ翻訳が出てきますが、ChatGPTは同じ質問を同じようにしたとしても、訳の内容が変わったり訳語が違ったりすることが起きます。これはメリットでありデメリットでもあります。

 

▲ スライド2・ChatGPTの実力は、
日本人大学生以上の面がある一方、
弱点もある

急速に進化する生成AI 使う学生と「使えない」学生で大きな開きが

ChatGPTの登場によって、英語を教える側、教育の立場から見るとどんなことが起こるのでしょうか。

 

これまで使っていた教科書授業で行っていた課題は、そのままの形ではChatGPT簡単に回答できてしまいます。学習効果でも評価の面でも問題が生じやすいことになります。例えば英語を読んで日本語にしなさいとった和訳も、ChatGPTにさせると非常に流暢な訳文が出てきます。TOEICの問題なども、ChatGPTに指示すると、回答とさらに回答のポイントの説明まで提示してくれます。長文問題についても、要約するだけでなく「あなたの意見を述べなさい」といったことまでChatGPTがやってくれます。

 

有料ユーザー限定のChatGPTアプリ版の機能では、先日から、写真や音声といったテキスト以外の情報も扱えるようになりました。問題集のページをカメラで撮って、これに対して答えてくれと指示するだけで回答が出てくるレベルになっています。

 

音声でやり取りする英会話もできますし、聞き取りに関しても、マイクを通して英語を聞かせれば、翻訳も要約もできるほどにまで急速に進化しています。

 

こうなると、ChatGPTをうまく使いこなせる学生や有料で最新バージョンを使える学生と、これらを全く使えない・使わない学生とでは、非常に大きな差が出てくることになります。今後、AI活用を前提とするなら高校で必修化されている「情報」科目、大学でのAI活用の指導が非常に重要になってくると思います。

 

英語の科目では、レポートを書く上で必要になる英文の内容のまとめ方、それに伴う資料の検索の仕方を指導することがあります。このような大学での学びを進めていくうえで必要な能力スキルを身につけるためにも今後、ChatGPTAIの活用が求められていくでしょう。それに英語教育や英語学習を結びつけていくことになります。

 

▲ スライド3・今後は
「ChatGPTで簡単にできること」を
踏まえた
教材や課題が必要になる

足りない能力を補う「助け」として生成AIを活用するという考え方

このような現状と可能性を踏まえて、AIを使って、外国語の教育をどう行っていくのかについてお話します。

 

今後は、AIを使いながら自力で学習をしていけるような学生を育てることが求められていき、それにはトリプルALAAAL: AI-Assisted  Autonomous  Learning)と呼ぶ、「AIによる自律的な学習」の考え方が必要になってくるだろうと考えています。この背景にあるのは、ZPDZone of Proximal Developmentという概念です。これは、一人では学べない、理解できないことでも、一緒に学ぶ人や教師からの助けがあれば理解できるようになる、そういった社会協力的な学習環境が大切であるという考え方です。一人ではできないけれど先生や同級生などの協力があればなんとかできるような領域を創り出すことが、学生の最も効果的な成長や発達につながるとされています。

 

これまで学習の手伝いは教師や同級生など人間しかできなかったわけですが、今後は「一人ではできない領域」にAIが入ることによって、より自発的、自律的に学習できるようになることが望ましいと思っています。

 

AIに限らず人間同士のコミュニケーションでも、何かを説明するときに相手に理解してもらおうと表現を変えたり具体例を出したりします。それと同様に学習中の対話の相手としてAIを使う中で、こちらが望む回答が出て来なければ聞き方を変える、こちらが納得する意見が出るまでやり取りを続けるといった、AI相手のコミュニケーションストラテジーをしっかりと身につけることが大事になってきます。

 

そして単に自分の分からないことを尋ねるのではなく、相手が出してきたものから自分に足りないものは何かを見つけ出し、そこから自分の知識やスキルとして取り込んでいく、そういった積極的な学習姿勢をしっかり身につけることが非常に重要になってくると思われます。

 

▲ スライド4・AIを
「一人ではできない」ことへの助けとして活用。
効果的な成長・発達を促す

 

一人でできる学習を延々とやっていても成長することは難しいでしょう。反対に、できないことばかりやらせても、心が折れてしまいます。理解できないことをずっとやっていても学びにはつながりません。周りの助けを得ながらなんとかできることに取り組むことが重要です。教育の現場では学生の能力にバラつきがありますので、これまでは教師が学生に応じて助けたり指導したりしていましたが、今後はAIとのやり取りできるようになります。

 

例えば、英文を読解して英語で回答するという学習が難しい場合、まずはAIを使って日本語に翻訳して、それを読みながら「英語で考えてみましょう」とすれば、少し英語力が足りない学生でもできるようになります。さらにAIが書いた英語を見て、そこから自分に足りないものを拾い、「こう書けばよいのか」、「こう伝えればよいのか」と自律的に学ぶことできます。そして、教師はそのやり方を指導する、AIを活用することで幅の広い領域をカバーした学習ができると考えています。

 

▲ スライド5・AIによる支援によって
生徒ができないことを補完し、
自律的学習につなげていく

生成AIの「活用法」と活用後の「道筋」 AIの「上と下」を教えるのが教師に役割り

教師、つまり「人間の先生」の役割はAIを活用した学習のやり方を指導するだけにとどまりません。大切のは、AIを活用して学んだ後にどうするのか、です。その道筋を示せるのは人間しかいません。AIも提案してくれますが、それだけでは学生には響かないことがあります。そこを示してあげるのは先生の役割です。AIの役割の上と下をきっちりカバーすることが、先生の役割として非常に重要になります。

 

ChatGPTなど生成AIの登場により今後、英語教育に限らず、これまでの指導や学習の方法は通用しなくなっていくでしょう。少しずつではなく、「ある日突然通用しなくなる」日が来ることになると思っています。インターネットが出てきたとき、「知識があるだけでは、もう意味がない」と言われました。それと同じことが、AIによって再び起こっています。今後、「英語を読み書きできるだけでは役に立たない」となる可能性があること理解しておく必要があります。

 

そのうえで先生に求められるのは、学習のやり方を教えてあげること、つまり「ストラテジー」の指導です。学生がAIを使いながら学んでいくときに、どのように学んでいくのか、この課題にどのように取り組めばよいのか、というメタ的な知識や考え方を示してあげること非常に大事です。さらに学習者がAI出力したものを元にして、もっとびを深める方法を指導することも大事です。そのためには当然、先生方もAIが出したものからどう学んでいくかをしっかりと考えたり、身につけたりする必要が出てきます。基礎レベルをしっかり身につけたら、あとは難易度を変えたりしながら、さまざまな活動にAIと一緒に取り組んでいけるようになることが重要です

 

これまでは「英語でレポートを書きなさい」と言っても、すぐに書ける学生はほとんどいませんでした。これからは、AIを使いながら「この英文を読んでみましょう」、「それに対してどんなアイデアがあるか、一緒に考えていきましょう」など、AIを通じて少しずつ取り組むことで、相当のレベルまで能力を引き上げることが可能になります。先生のサポートを得ながら学生が一定のレベルの学びに達すれば、あとは自分でAIを使いながらどんどん学んでいくことができるようになるでしょう。今後の教育で求められるのは、そのような学生を育て上げることです。

 

▲ スライド6・教師の役割を明確に、
AIと共同で取り組むことに
対応していくことが求められる

生成AIによって社会人の英語学習も変わる

大学を出たあとの社会人の英語学習はどうなるかについてお話します。それには、「なんのために学習するのか」がこれまで以上に重要になります。仕事で使うのか、興味や関心のために学ぶのか。それによってAIの役割も変わってきます。役割を意識しながら使っていくことが、非常に大事になってくると思っています。

 

英会話を学びたいなら先生役としてAIを活用できます。「こういう表現は英語でどうすればよいのか」、「これで正しいかどうか確認してほしい」とChatGPT聞けば、一瞬で答えをもらえます。英語の会話をするにあたっての相談にも活用できます。例えば、事前にChatGPTに日本語で「ラグビーの話をするときに、どうきり出せばよいですか、どう表現すればよいですか」と聞いておけば、会話のフレーズを増やしていくことができます。「AIに質問をして、どのように話すか調べておく」ことでやり取りを蓄積していけば、自分の中に会話の引き出しを作ることができて、趣味など実用面で活用しやすくなります。

 

▲ スライド7・英語の基礎を学んだ社会人は、
目的を定めてAIを有効活用していくことができる

 

漫然と使うよりも、「なんのためにAIを使うのか」を考えて使うことが大事です。AIから学ぶ姿勢の話をしましたが、専門用語では「ジャンル思考」と言う、特定分野で話されている言い回しや表現、メールのフォーマットのようなもの、ある種のパターンや型に注目して自分の中に取り込んでいくという考え方が、とても重要になってきます。ジャンル思考にもとづいて、これからはAIを使って身につけていくことが求められていくことになるように思います。                                                                                                                  

▲ スライド8・これからの英語教育に
求められること、本日の講演のまとめ

 

>> 後半へ続く

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