生成AIは子どもたちの「考える力」を養うのに活用できる
第136回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2023.11.10 Fri
生成AIは子どもたちの「考える力」を養うのに活用できる</br>第136回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2023920日、株式会社ベネッセコーポレーション 執行役員/校外学習カンパニー小学生事業本部 本部長の的場 一成氏を招いて「ベネッセが取り組むAIサービス~子どもたちの問題解決能力を高めるために」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では的場氏が、今夏(2023年)に期間限定で提供された同社のAIサービス「自由研究お助けAI」について説明。子どもたちの問題解決能力を高めるパートナーとして利用できる可能性を示した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「ベネッセが取り組むAIサービス~子どもたちの問題解決能力を高めるために」

■日時:2023年9月20日(水)12時~12時55分

■講演:的場 一成氏
株式会社ベネッセコーポレーション
執行役員/校外学習カンパニー小学生事業本部 本部長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

的場氏は約30分の講演において、今年の夏休みの期間に期間限定(2023725日から911日)で、無料提供されたベネッセの「自由研究お助けAI」サービスについて説明。生成AIは、教育現場でも子どもたちの思考を広げるためや問題解決能力を高めるために利用されることが望ましいとしたうえで、今後学校の先生の役割はより重要になることを示した。

小学生の夏休みの自由研究を助ける生成AIの仕組みを使ったサービスを提供

ベネッセでは、子どもたちの問題解決能力を高めるために2023725日から911日まで「自由研究お助けAI」というサービスを提供しました。これは、ChatGPTの仕組みを使い、子どもたちが自由研究のテーマを決めるときに対話の相手をして思考を高めるものです。

 

特徴として1つめは、答えを教えるのではなく、考える力を養うことを狙っているところです。生成AIは必ず正解を教えてくれるものではありません。むしろ思考の幅を広げるための非常に有益なパートナーです。子どもたちにそうした使い方をしてもらおうと考えました。2つめが安心安全な設計、そして3つめが生成AIの使い方やルールを学べるコンテンツを入れたことです。

 

▲ スライド1・夏休み期間に合わせ、
小学生の夏休みの自由研究の助けになる
AIサービスを提供

 

生成AIは、産業全体を変革する可能性を秘めている一方、低学齢における教育への活用は慎重に議論されている状況にあるといえます。特に子どもたちが使う場面で、答えを求めるような使い方をしたとき、その答えが間違っている可能性もありますし、自分で考えなくてもよい、何でもコンピュータに聞けばよい、といった態度を養うことになる懸念もあります。そうなっては本末転倒です。AIなどのIT技術は、目的ではなく、世の中に価値を提供するための手段です。子どもたちには、そのためのパートナーとしての使い方を教えていかなければならないと考えています。

 

▲ スライド2・子どもたちには、
思考を助けるパートナーとして
生成AIを使ってほしい

 

開発にあたっては、保護者の方々の意識も重視しました。ベネッセでは20236月に、小学校3年生から6年生の保護者1032組へアンケート調査を行いました。その結果、現状の保護者の方々の考え方は、「積極に使ってほしい、使ってみてほしい」が6割を超えていました。一方で「全く使ってほしくない、あまり使ってほしくない」との意見も3割弱あり、慎重になっている保護者の方もいました。

 

肯定的な理由で一番多かったのは、「新しい技術の活用力を養う、よりよい機会になりそうだから」でした。また「子供が新しい興味に出会えそう」、「自分で考える力が伸びそうだから」といった、この新しい技術を積極的に使って成長に役立たせたいという考えが伺えます。一方、否定的な理由で一番多いのは「自分で考えなくなりそうだから」また「自分で書いて表現することをしなくなりそう」、そして「情報の判断の正誤がつかなさそう」といったことでした。これらについては本当にその通りだと思いますので、逆に「考えるために、どう使えるのか」を子どもたちに知ってもらえれば良いのではないかと考えました。

 

▲ スライド3・保護者へのアンケートで
利用に否定的な理由の5割も、
思考力養成への懸念だった

 

生成AIと教育の考え方には肯定派否定派がありますが、我々はこれからの未来を生きていく子どもたちに、安心安全な環境の中で生成AIに早くから触れて、学びに生かしてほしいと考えています。そのために、安心安全に配慮した学習に特化してカスタマイズしたAIサービスを開発し、提供したのです。

 

▲ スライド4・安心・安全な環境の中で
生成AIに早くから触れ、
学びに生かしてほしい

子どもたち自身が自由研究のテーマ決め、研究の「観点や進め方」をAIと対話しながら決定する

「自由研究お助けAI」サービスは、ちょっと抜けたような表情のロボット「ラボリーくん」がキャラクターです。人間が出てきて完璧に答えるのではなく、子どもたちに愛されるキャラクターが自由研究のお助けをします。

 

▲ スライド5・夏休みの自由研究の
テーマや内容を考えることを助ける
AIサービス

 

利用の流れを簡単に説明します。保護者の方々と安心安全に使っていただくことを想定し、利用には保護者による承認として電話番号、メールアドレスなどを入力してのログインが必要です。なお、この情報はマーケティングには利用せず、あくまでサービス利用のためだけに入力していただいています。そして最初に有識者監修の「使い方5か条」の動画を視聴して情報リテラシーを学びます。そのあとで生成AIとのやり取りができるようになります。

 

▲ スライド6・保護者が利用承認し、
情報リテラシーを学んだあと
利用開始となる

 

このサービスのポイントは、自由研究のテーマ決め、研究の「観点や進め方」を子どもたち自身が自分で考え、検討して決定することです。「自分で考える」ところで、生成AIをお助けAIとして使ってもらおうと考えました。

 

▲ スライド7・自由研究のテーマを決め、
研究の観点や進め方を検討するための
活用を想定

 

実際どのように使うのかというと、まず利用者が学年と自由研究にかけられる日数、そして興味があることは理科系か社会系かを答えます。それ以外に興味があることがあればフリーで入力すると、AIとの会話が始まります。

 

▲ スライド8・定型質問
「学年」「自由研究にかけられる日数」

「興味があること」を選ぶ

 

そのAIとの会話ですが、質問回数を110回に制限した点が特徴的です。無尽蔵に何でもかんでも聞くのではなく、質問の仕方も考えてもらう形を取りました。終了後のアンケートでは、「質問回数はもう少し多いほうがよかった」とのご意見が多くありましたが、どのようにAIに質問していけばよいかを考えることで、AIからの答えの引き出し方を考えるきっかけにもなったようです。

 

例えば「5年生、7日間、理科系」と入れたとすると、ラボリー君は「理科系に興味があるんだね。発電なんかどうかな」とおすすめを出します。一方で「宇宙に興味があるのだけれど」と返すと「宇宙ならこういう研究はどうかな」といろいろと回答を出してくれます。

 

インターネット検索の場合はキーワードを入れて、インターネットに推奨された検索結果をただ見て選んでいくのに対し、こちらのサービスは自分で意見を言い、それにAIが答えてくれる形で、より考えを深められます。実際使っている子どもたちも、ひとつひとつのやり取りに考えながら入力をしていたことが印象的でした。

 

▲ スライド9・質問は1日10回まで。
よく考えながら質問をしていく必要がある

 

安心安全の設計についてご紹介します。親子で一緒に活用いただくことについては、さきほど述べたとおりです。他にこのサービスは、Microsoft Azure OpenAI ServiceChatGPTをアレンジして、入力内容がAIの再学習に利用しないされない設計にしています。利用者が入力した内容はAzureを通じてOpenAIへ伝わることはありません。このため、万が一子どもが個人情報を入力してしまった場合も情報は守られますし、私たちのサービスが核になってAI自体が進化することもない形になっています。

 

目的以外の利用、例えば「私の代わりに読書感想文を書いてください。400字の原稿用紙5枚で」といった質問や、公序良俗に関する質問には、そもそも回答しない設計にしています。公序良俗に関する質問とは、俗にいう放送禁止用語や不適切な発言などです。弊社は実は、インターネットの中で子ども向けのサービスを10年以上提供しており、その中で掲示板などに書き込まれる可能性のあるワードの情報の蓄積があります。AIサービスにはそのようなキーワードと対策も盛り込みました。

ラボリー君は、考える力を促す、答えをズバリは教えない。あまり良くないことを言ってくる生徒には、先生のように諭していくというロボットになっています。

 

▲ スライド10・個人情報保護、
目的以外の利用制限、公序良俗に反しないなど
安心・安全な設計

子どもたちから「教えてくれてありがとう!」 生成AIを「あたかも人間のような」存在として認識

利用者の声をご紹介します。まずサービス自体の役立ちは感じていただけました。「ふんわりとテーマだけ決まっていたのですが、会話をすることで実験内容や用意するものが固まりました」、「きちんと質問に答えてくれるし、前の質問に続けて答えてくれるからとても使いやすかった」と、チャット形式で前の質問内容を踏まえた回答があることもポイントの一つになっていたようです。

 

「子どもが興味あることについて調べることができたし、本人も満足していた」夏休みの自由研究は、保護者の方の自由研究になってしまう可能性もあり、お母さんがまとめまで全部やってしまうケースも時々あるのですが、そうではなくて子ども自身の興味を主体にでき、満足いただけたようです。

 

「思考の広がり」は狙ったところではありますが、「好きなゲームを使って自由研究のテーマを見つけてくれた。そこからいろいろな考えが広がった」、「自分では思いつかなかったテーマを提案してくれた」という声もありました。

 

情緒的な寄り添いに対する声もありました。「友達みたいで話していて楽しい、一人のとき寂しくない」、「『こんな感じでどうかな?』って聞いたら『そうだね!』とか『素晴らしい!』とか言ってくれて、とても嬉しかった」という感想もあります。体験会では、もっと使いたいという生徒や、「バイバイ」と言って帰っていく生徒もいました。

 

▲ スライド11・体験会での利用者の声。
さまざまな「よかった」が聞かれた

 

サービスを利用した子どもがどんな言葉を入力していたか、入力文字データの分析を行ってみました。「実験」「方法」「観察」などいろいろありますが、特徴的だったのは「ありがとう」です。上位10位内にもランクインした言葉でした。会話の最後、質問の10回目のときに、子どもたちが「ありがとうございました」「教えてくれてありがとう」と何らかのかたちで感謝してくれているのです。これは開発側として、サービスとして感謝されるのはうれしいことでした。検索サイトにはありがとうとは書かないと思います。

 

また、相手はAIで人間ではないと知っている、会話をしながらあたかも人間のような存在として認識してくれたのかなと、これもおもしろい発見でした。

「自由研究お助けAI」サービスで見えてきた教育現場で生成AIを活用する3つのポイント

今後の教育での生成AIの活用について、今回のサービス提供を通じて見えてきたポイントを3点にまとめました。

 

まずは「問題解決能力を高める活用」がとても重要であるということです。今後、少子化も進む中、先進国を中心に地球規模で解決しなくてはいけない課題が多々出てきます。社会のさまざまな課題も解決していかなければなりません。自身の人生を広げる意味でも重要です。そんなときに核になる、力を授けていくためのAIITの活用であるべきと考えます。

 

2つめは、リスク対策も含めて「情報活用能力を高めていく」必要があるということ。検索サイトを使うのも、AIに質問するプロンプトを作るのも、さまざまな局面でコンピュータを味方につけていく能力を高めていくことが重要です。

 

そして3つめが、情報活用能力を高める意味でも「新しい技術に触れる機会を積極的に提供」することが大切ということです。「使わせない、避けて通るのではない、環境の提供」が重要だと思います。

 

▲ スライド12・今後の教育に
生成AIを活用するときに重要なこと3点

 

もうひとつ、AIと人間との関係性についても大切だと考えています。コミュニケーションが、すべてAIやコンピュータだけで成り立つことはありません。人間が教育において果たすべき役割は、今後より重要になるのではないかと考えています。知識や技能のインプットについては動画などで学んだ方が効率的な場面もある中、アクティブラーニングや反転学習といったキーワードも出ているように、授業も変わってきています。子どもたちの考察をより高めたり、コラボレーションの機会を作ったりする中でどのように考え、生きていけばよいのかを身をもって示していくことの重要性、先生方の役割はより大きくなると思います。

 

▲ スライド13・この先AIの活用が進んでも、
人間が果たすべき役割はより重要になっていく

 

人生100年時代、子どもたちは西暦2100年以上に生きている可能性もあります。そんな子どもたちのためだからこそ、自ら考える力をつけて、社会を作っていく人材にぜひ育っていってほしいと思っています。

 

▲ スライド14・安心・安全な生成AIを活用して、
子供たちに「自ら考える力」を伸ばしてほしい

 

>> 後半へ続く

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