AIを「賢い道具」として活用し、新しい仕組みをデザインすることが大切
第133回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.9.22 Fri
AIを「賢い道具」として活用し、新しい仕組みをデザインすることが大切</br>第133回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は202382日、札幌市立大学 理事長・学長の中島 秀之氏を招いて「Society5.0時代の教育とAI」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では中島氏が、AIはあくまでも「賢い道具である」という考えを示したうえで、Society5.0以降の教育にはAI時代に即したリベラルアーツが重要になることを示した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画

 

Society5.0時代の教育とAI

■日時:2023年8月2日(水)12時~12時55分

■講演:中島 秀之氏
札幌市立大学 理事長・学長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

AIの教育への活用では「仕組み」をきちんと理解しておくことが大切

石戸:「ありがとうございました。馬のロボットの話を聞きながら、コロナ禍にハンコを自動で押してくれるロボットが開発するという笑い話を思い出しました。どんな技術が生まれても、組織や社会側が変わらないと、そのテクノロジーを使いこなすことはできないと思うと、今、どういう社会を構築していくかが、問われていると、改めて思います。

 

オンラインシンポジウムの視聴者は、教育制度をこれからどうしていけばよいのか、に一番関心があると思います。いくつか質問がきています。『リベラルアーツのタイトルのところで、AIITを使いこなすために必要な教養と書かれていましたが、それをもう少しかみ砕いて教えていただけますか』というものです。初等中等教育にかかわっている視聴者も多いので、中島先生でしたら今の義務教育をどう再設計するか、何が不足していて何がいらないのか、教えていただければと思います」

 

中島氏:「ひと言で表すのはかなり難しく、書いたら『計算論的思考ってなに?』という1冊の本になってしまいました。例えばコンピュータでも、当たり前のように使っている用語や概念がありますよね。そのように、わかっていれば日常生活でもそのまま使えますので、いろんな場面でもっと使えるように教育しなければならないと思っています。小中学校の情報教育はiPadの使い方、Excelの使い方だけで、どういう概念があるかといった考え方そのものは教えていないような気がします。それをやらなければいけないのではないかと思っています」

 

石戸:「これまでにもAIの研究者の方々にご登壇いただきましたが、究極的には『国語と数学、プラス探求』だけでよいのではないか、といったご意見もありました。もし中島先生が今の教科の枠組みも含めて再設計するとしたら、どのようにされますか。もちろん『情報』も必須と思いますが、それ以外の教科科目についてはいかがでしょうか」

 

中島氏:「リベラルアーツのところで、情報技術(計算論的思考)、デザイン学、統計、日本語としました。国語ではなくあえて日本語としました。話すと長くなりますが、私は日本の国語教育は大変不満です。高校までで論理的文章の書き方を教わった覚えがなく大学院で初めて学びました。日本語には独特の思考法がありますのでそれをきちんと学ばなければいけないと思っています。それから哲学、人類の歴史、芸術をやっておけばよいと思います。数学と国語とは、端的でよいかもしれないです」

 

石戸:「これから教育の中でAIをどのように使っていくかは、昨年11月以降いろんな大学から立場の表明がなされていて、高等教育においても揺れ動いているところだと思います。一方で、これからはすべての子ども大人もAIリテラシーが必要になるという考えもあります。これまでもICTリテラシーが必要だといわれて、それに向けての教育もなされてきたと思います。プラスこれから先、ICTからAIリテラシーに移行するとしたときに留意すべきポイントはどんなことでしょうか。使い始めの初歩の方に伝えるとよいのはどんなことだと思われますか」

 

中島氏:「基本的には同じだと思っています。計算論的思考のようなことがきちんと分かっていれば、ChatGPTの仕組みも理解できるわけです。仕組みを一切知らずにChatGPTについて表面だけからいろいろ言っている本があり、あれはよくないと思いました。統計的な計算をしているのだと知っていれば、限界も簡単に想像がつくわけですよね。仕組みをきちんと知ることが大事だと思います。それはAIについても同じだと思います」

 

石戸:「そうですね。真の意味で使いこなすためにも、基礎的な仕組みのところをしっかりと理解することが、より汎用的に使いこなすことにつながるということですよね」

 

中島氏:「自動車の運転を例にすると、自動車の仕組みを全く知らなくても運転はできますが、例えばレースなどで速く走ろうと思うと、たとえオートマであってもどういう仕組みで動いているか知らないと、速く走れるようにはならないと思います」

 

石戸:「先ほど、教育があるかないかによって変わるという話がありましたが、AIが出ることによって、人間の知性はこれからどのように進化していくと思われますか」

 

中島氏:「カーツワイルは、脳にチップを埋め込むとか書いていますが、埋め込まなくてもスマートフォンがあればかなりの知識はすぐ検索できます。入試のときにスマートフォンで検索してカンニングした話もありました。最近ではChatGPTを使ってもよいけれど、ChatGPTで答えられない問題を出すようにしていくということもあります。昔で言うと、自分で掛け算をせずに電卓を使ってよいことになったように、大量の知識は覚えなくてよくなるように、変化していくと思います。ただし、『頭の中に全部を覚えない限り新しい発想は生まれてこない』という考え方もあります」

 

石戸:「インプットの量がアウトプットの質に影響を与えることは、誰しも感じていることだと思います。どのぐらい外部に記憶を渡して補えるかというところですよね。その点においてChatGPTは、頭の中に入っていない知識との組み合わせをうまく引き出してくれて、人間の脳を刺激してくれるのかなと、私自身使いながら感じています。一方で、将棋の藤井聡太さんなども、もちろん地頭のよい方だと思いますが、さらにAIを使って人間離れした知性に発展しているような気がします。AIが打つ手は人間と全く違って、恐怖心がある人間では打てない手を打つそうです。中島先生もそのように書かれたと思いますが、AIと付き合う中で人間の思考方法や知性が変化していく可能性があるのではないか、人間はこれからどうなっていくのかなと興味があります」

 

中島氏:「変化していくことはあると思います。なぜ歴史で年号を覚えたかというと、この事件とこの事件はどちらが先で因果関係がどうなっているのか、年号や時代がわかっていないと推論できないからでした。今は検索すれば出てくるので、年号までは覚えなくても、大体どういうことが起こったのかだけわかっていればよいです。大雑把な概念は持っていなければならない、だけど細かい数字まではいらないということではないでしょうか」

 

石戸:「さきほどBMIBrain Machine Interface 脳埋め込みチップ)の話がありましたが、スマートフォン持ち込み禁止と言い始めると、BMIが広まったら、チップが体内に入っている人は入場を禁止されるだろうかと思ってしまいます。このようなことが現実的に社会の中で実装されるのはいつ頃だと、中島先生は考えていらっしゃいますか」

 

中島氏:「体の一部が麻痺した人の舌にチップを埋め込むとか、アメリカなどではもうやっていますよね。そこまでいかなくても例えば、今は音を拡大するだけの補聴器も、ChatGPTを組み込めば自動翻訳する補聴器ができるわけです。そのような意味でもあまり境目なくできてくるのではないかと思います」

 

石戸:「人間がどんどん超人化していくということですよね。ひとつ、視聴者からの質問を紹介します。『AIがこのまま発展を続けた場合、いったいどこまで進化していくのか、どんな未来になるのか』というものです。すごく抽象的で答えにくい質問だとは思いますが、いかがでしょうか」

 

中島氏:「そのような質問に、いつも言っていることがあります。受け身の発想はやめましょう。どういう未来にしたいですか、自分で考えてください、ということです。AIは道具で,使うのはあなたです」

 

石戸:「我々の意思次第で、テクノロジーはよくも使われるし悪くも使われると考えると、AIという技術をどう使ってどんな社会を作っていくか、ということですよね。その点において日本は極めて変化がしにくい国で、それがボトルネックになる可能性があるのではないかと思っています。中島先生は、日本、政府などに要望したいことは、なにかございますか」

 

中島氏:「技術は加速度的に進化しているのに対し、法律は年に100200個しか増えていません。すると技術と法律の差がどんどん開いていきます。我々のMaaSは今の法律ではできないと言いましたが、あれも法律を変える気があるのかないのかよくわからないです。

 

アメリカはブラックリスト方式といって、法律には『何をやってはいけないか』が書いてあります。それに対して日本はホワイトリスト方式で『何をやってよいか、あるいはやり方』が書いてあります。アメリカ式では、新しいテクノロジーは原則使えるわけです。自動運転も、テスラは何年も前から走らせていて死亡事故も起きていますが、それでもなくならない。日本はいまだに、すごく厳しい自動運転の法律ができ、レベル4にしましょうレベル5にしましょう、とやっている。あれでは多分、ダメだと思います。

 

ドローンの出始めに、官邸の屋根に落ちたことがありましたよね。あれでドローンの厳しい規制ができましたが、私は、どこかの国の陰謀なのではないかと思っています。あのようなことが起きて規制され、日本がドローン開発から遅れを取るように…と」

 

石戸:「確かに、教育の分野もそうですが、日本は100%安全でないと前に進めない傾向が強いと思います。新しい技術に対してもアジャイル型でどう作っていくか、とても大事だと思います。

 

一方で大学教育も、キャンパスがないと大学の設置基準的に大学を作れないとか、オンライン教育の規制とか、いろいろあります。学長でもいらっしゃる中島先生は、これから大学教育をどのように変えていこうと考えていらっしゃいますか」

 

中島氏:「ひとつ大きいのは、オンラインの活用で大学の仕切りをどんどんなくそうということがあります。実は私が公立はこだて未来大学にいた頃、函館市の中の大学で単位互換をやろうとしたのですが、函館の中だけですら大学間の移動時間などあり、うまくいきませんでした。今はオンラインの授業を受ければよいので、基本的に世界中の講義が受けられるわけですよね、時差の問題はあるにしても。そういう意味でも、『キャンパスは何のためにあるの?』をやはり考え直さなければならない時代になってくると思います」

 

石戸:「先ほどアル-アズハル大学のお話がありました。これまで大学は、キャンパスが物理的な制約になり入学制限を作らなければいけなかったと思いますが、そもそもオンラインであれば定員もいらなくなりますし、大学という枠組みすら必要ない可能性もあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか」

 

中島氏:「シンギュラリティ・ユニバーシティ(Singularity University)は教育省と関係ない企業がやっている大学です。フランスの企業が作った大学もあります。そのような大学が増えてくるのではないかと思います」

 

石戸:「そうですね。企業がいろんな講座を提供し始めていますし、単位ごとに認定してあげれば、大学の仕組みそのものが問い直されるのかなとも思います。

 

最後にお尋ねします。皆さんがよく心配されていることで、ChatGPT13歳という制限がありますが、現実的には小さな子どもたちも使っています。小さい子どもが使うにあたって中島先生が留意するとよいとお感じになる点があれば教えていただけますか。よい使い方と悪い使い方を学ぶ段階の子どもたちが、今後、AIネイティブとなってくると考えています」

 

中島氏:「このあいだ、AIとチャットした後に自殺したという男性がいましたよね。大人だから大丈夫というわけでもなく、かなり難しい話だと思います。長時間ゲームをしたり、テレビを見たりするのと同じ問題です。映画もR指定とか子どもに見せてはいけない映画があります。AIにも子どもが使ってよいAIや子ども専用のAIができるかもしれないですよね」

 

石戸:「人が対応する心理カウンセリングも、公認心理士のようなしっかりと資格があるところもあれば、資格なしでカウンセリングしているところもありますし、それを選べるようになっているわけですが、それとAIも同じなのかなと思いますが、幼少期からどのAIを使うか、これから選ぶ時代になるということでしょうかね」

 

中島氏:「基本的には、あまり規制しないほうがよいと思っています」

 

石戸:「私たちも利用促進派です。最後に教育関係者に向けて、AIの利活用に関してコメントやメッセージをお願いします」

 

中島氏:「基本的にリベラルアーツや思考法がますます大事になってきますので、そちらを教えましょう。簡単ではないですが、そちらにシフトしていければと思います」という、中島氏の言葉でシンポジウムの幕は閉じた。

おすすめ記事

他カテゴリーを見る