生きづらさを抱える若者の「心を見える化」する
第128回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.8.18 Fri
生きづらさを抱える若者の「心を見える化」する</br>第128回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は622日、横浜市立大学 研究・産学連携推進センター 教授の宮﨑 智之氏を招いて「生きづらさを抱える若者に向けた横浜市大COI-NEXTの取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、宮﨑氏が「生きづらさ」や心の不調を抱える若者のケアにメタバースを活用する取り組みについて説明し、後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「生きづらさを抱える若者に向けた横浜市大COI-NEXTの取り組み」

■日時:2023年622日(木)12時~1255

■講演:宮﨑 智之氏
横浜市立大学 研究・産学連携推進センター 教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

メタバースの活用に関して医療的・教育的、両方の視点から質問が多数

石戸:「ありがとうございました。冒頭に日本の若者が諸外国と比較して自分に対する満足度が低いというお話がありましたが、比較的その手の話というのはいろんなところで言われるのですが、その要因はどこにあると思われますか」

 

宮﨑氏:「一番大きい要因は自己効力感が低いことです。これはダイバーシティーの欠如だと思っています。例えば、親がある程度よい学校にお子さんを行かせようと思うと、結局、子どもに対する評価の軸が勉強になります。定期考査のテスト、塾の点数です。スポーツができたり、絵が描けたり、歌がうまかったとしても、そこは『ああ、よくできたね。すごいね。それで頑張っていこう』とはなりません。むしろ、『そんなに練習するんだったら、勉強に時間を使ったら?』というような会話が日常的に繰り返されていて、実際、私も子育て真っ最中のときにそういう発言をしていたような気がします。

 

こうした中で自己効力感が下がっていき、さらにそういう中で勉強がうまくいかなくなる。勉強ができるようになるには、実は運動や音楽などもやって全人学的にやっていたほうが、パフォーマンスが上がるというエビデンスがたくさんありますが、親世代は『無駄なことをやるな』となってしまうため、その中でやりたいことをやれない自分は何なんだろうと自己肯定感が下がっていくのです。それが大きな要因と思っています。

 

そうなると、最初の教育をきちんと変えていく。あとは、自己効力感、自己肯定感が下がっていった人に対して、どうやってそれをもみほぐしていき、よくしていくかというところは、認知行動療法的な要素を入れながら、ゲームなども取り入れながら改善していくとよいのではと考えています」

 

石戸:「自己肯定感、自己効力感というお話がありました。自己効力感を上げることは、自己肯定感を上げる以上に難易度が高いという気がしています。一度、心が折れてしまった若者を対象にするとき、例えばその子自体を認めて褒めて、それで自己肯定感を上げていきますが、その次の自己効力感、自分は何かができるんだ、何かにチャレンジしてみようと思うのには、自分の中に成功体験などがないとなかなか難しい。どのように工夫をされて自己効力感を上げるところまで持っていかれるのでしょうか」

 

宮﨑氏:「そこが一番重要なのですが、そこはやっぱり時間がかかるため、まず自分の強みに気づいてもらうことです。その強みをトレーニングしていき、支援者が伴走しながら、その強みを紹介できるような場に持っていくことが必要だと思っています。例えば歌がうまい、料理が作れるといっても、モノを売りに行く、カラオケ大会に出るということは結構ハードルが高い。人前に出るとなかなか力を発揮できない子がかなりいます。だから、メタバースはすごくよいと思っていて、例えばメタバース上で自分がアバターになって歌をうたうとみんなから褒められる、そういう経験があると、これはうまいだけではなくて人の役に立っているという経験が少しずつ積まれたときに初めて自己効力感が生まれると思っています。

 

端的にいうと、みんなの『ありがとう』をどうやって集める仕組みをつくっていくか。それはもしかしたら『いいね』かもしれないのですが、もう少し主体的な『ありがとう』を集められる仕組みを作っていきたいと思っていて、その一つの仕組みとしてメタバースは使えるかなと思っています」

 

石戸:「自己効力感は、他者から認めてもらい、自分が誰かの役に立つと感じるような実践の場が一層必要になると考えると、場をどうやってつくっていくかが、とても大事だと思います。次の質問です。『例えば生徒学生が精神疾患になっても保険証を使うと保護者にバレるから嫌だと言い、病院に行かない人もいるということでした。社会的に精神疾患になってしまうことが恥ずかしいような気持ちがして病院に行けないというケースもあるのではないかと思います。社会の認識の改善に向けてどのような対策が必要だと思われますか』というものです」

 

宮﨑氏:「心の不調を早期に検出する取り組みを初等教育にとお話ししたところと連動しますが、実際に病気になり学校に行けない、働けないとなってしまうと、親としてはその後にどうしようとなるので、最悪のケースを想定します。なので、その前の段階、心というのは少しずつ不調になっていくため、その段階の情報を親と何らかの形で共有していくようなシステム、心の定期考査のようなところが必要です。それが重要なポイントで、そこを親と見てもらうことによって、今、心の調子が悪くなっている、そこに対してどうしていったらよいかを親と話すなど、親の見守りが必要だということを我々からきちんと親に対してコミュケートしていくことが必要だと思っています。

 

今のサービスはどちらかというと、生徒、当事者に対して一方向にやるものが多いですが、それではよくなく、当然不登校、引きこもりは親の問題もかなりあることが分かっています。そこも含めて親の理解を深めていくような仕組みを我々が作っていかないといけないと思います。今、そこも試行錯誤しているところです」

 

石戸:「そうなのですね。不登校、引きこもりはご家庭の環境の影響もあるというお話がありました。一方でメタバースのお話で、特性に合った学びの場とありましたが、元来の特性として、精神的な疾患になりやすい、ポジティブに考えにくい特性の子どもや大人もいらっしゃいますよね。その方への対応としてはどういうことが適切なのでしょうか」

 

宮﨑氏:「そこは実際、難しいです。かなりしっかりとした特性がある場合は、治療になるかなと思っています。ニューロダイバーシティもそうですが、脳の一部のネットワークが通常の人と違うというと語弊がありますが、例えば、思い込んでしまう人は、MRIの解析をすると、例えばデフォルトモードネットワークの中のコネクティビティが高く、他の大脳皮質へのイントラクションが弱いと分かっています。そこは実際、他の部分に対するコネクションを上げることを、いくつかの医療機器で、それこそVRゴーグルかけたCBTでもそのネットワークが変わるというエビデンスがいくつかあるデバイスもある。がっちりと考え方が固まってしまう人には、ある程度、有効的な医療機器を使っていただく必要があると思いますが、ソリューションはあると思います」

 

石戸:「参加者からです。『心の不調のエビデンスの可視化に賛同しますが、その要因としては当事者の内因性だけではなく、親や学校など外因性の理不尽さも無視できないと経験から推察します。外因性要因も組み込んだシステムであれば学校要因で人間不信に陥っている子どもたちも安心して参加できるのではないかと思います』というご意見です。

 

確かに、どこが原因かということを見誤らないようにすることは大事ですよね。本来、本人の特性によるところもあったのに周りの支援者を責めてしまうこともマイナスです。逆に本人の問題ではないのに、まるで本人の問題かのように指摘されるのも問題ですし、そこら辺の判断はなかなか難しいかと思いますが、対策を考え、本人も周囲も生きやすい環境をつくっていくうえで、その原因をしっかりと特定していくことは大事だと思います。一方で、それは現状では時間がかかると思いますが、この研究は、日々の生活パターンなど、本人の情報に基づいて自動的にある程度検出できるようになるということでしょうか」

 

宮﨑氏:「ある程度、自動的になると思っています。ただ、今、仰ったように学校の先生の問題というのも多々指摘されている部分はあります。例えば一卵性双生児でもほかのクラスに配属されて、片方は不登校になり、片方は不登校にならないというケースがいくつか報告としてあります。そういったときにその要因は何なのかと見ていくと、先生との相性が悪いというケースが結構、散見されます。

 

外的要因は何なのかというのは、心のチェックをすることにより、クラス別の層別化解析などをして、このクラスとして何か要因があるとなったときに、それが友達関係なのか、教職員とのコミュニケーションなのかということを見ていくことができます。そういう中から要素を出していき、そこからどう介入するかというと、そこは正直、学校の先生なら学校の問題になりますし、友達の場合でも学校の先生に言ってもらうというところになりますが、ただ、何らかの介入をした際に、我々の心の指標を使っていただくと介入の効果があったか、なかったかというところの効果検証もできるため、そういう中できちんと適宜フィードバックをしていき、改善したことがうまくいっていますよということを学校単位で、クラス単位でフィードバックをしていくことが心のチェックを導入することによりできるのではないかと思っています」

 

石戸:「メタバースに関することも教育的視点と医療的視点でいろいろ質問がきています。教育のことに関しての質問では『スクーリングを排除したのはなぜか』という質問がきています。本日ご説明いただいた取り組みをメタバースではなくてリアルな学校でやろうとしたら、メタバースよりもよいという可能性もありますし、一方で、不安が強いお子さんが対象ですと、どんなによい環境が用意されていてもリアルな場所は難しいからメタバースのほうが通いやすいとなると思います。今回、メタバースを選択した理由などありましたら教えていただけないでしょうか」

 

宮﨑氏:「当然、スクーリングは、ある一定の必要性があることは認識していますし、文部科学省に対しては、なぜスクーリングがきちんと撤廃できないのか、存在理由は何なのかというところの課題を出してくださいというお話しをしています。私たちは、リアルの学校に行けるのであればリアルの学校に行ってくださいと思いますが、一方で、リアルの学校に行けないから教育が受けられないという子どもに対して教育の環境を提供することを考えています。

 

その中で、非常に発達特性が強くて、そもそも学校にリアルに行きづらいという子には、メタバースの学校で卒業するというプロセスもあると思います。もう一つのケースとしては、実際にリアルの学校に行っているんだけれども、少し調子が悪く不登校になってしまった子どもの受け皿としてメタバースの高校があり、単位互換ができ、そこできちんと教育カリキュラムを履修できたら元の学校で卒業できるようにする。調子がよくなったら元の学校に戻っていく。そういったことを可能にするには、心のケア、心理支援的なプログラムも入れていかないと教育だけでは難しいと思います。特に公立の学校では心理的支援をきちんとプログラムとして入れていくことがほぼできないと教育委員会の方がよく仰っているので、そういったことができるのは我々が考えているメタバース高校のメリットだと思っています」

 

石戸:「次は医療視点で複数、質問がきています。医療にメタバースを実装することで期待できること、障壁、海外も含めてよい事例があれば知りたいというものです。いかがでしょうか」

 

宮﨑氏:「メタバースのよいところは、例えば対人恐怖とか発達特性が強いお子さんというのは、自分の顔を出したときの視線恐怖が強いため、アバターでコミュニケーションをするのはよいという意見は、今までのトライアルの中でよく耳にします。

 

メタバースは自分の行きたいところに空間をパッと変えることができるため、いきなり先生と診察室に入って会うのではなく、例えば江ノ島の海岸で待ち合わせして、江ノ島の海岸を2人で歩きながらいろいろ話をすることもできます。病院で医者が電子カルテを見ながら、そうね、そうね、と話を聞いてもなかなか聞き出せないところがありますが、海岸のようなシチュエーションで散歩しながら話すと、言えなかったことが言えたりもするでしょう。そういったこともトライアルで見えてきているので、リアルに顔を出せない人、リアルの診察室ではなかなか自分の思いを吐露できない人に対しては、むしろリアルよりよいところがいくつかあることがわかってきています。

 

障壁に関しては先ほどお話ししたように、これはオンライン診療の延長上で組んでいくことが方向性としては一番よいと思っていますが、コロナ特例で精神科のオンライン診療はこれまで限定的にOKでしたが、コロナ禍が明けて今後は中止される可能性も指摘されています。なぜそこを認めてくれないのかを今後、厚労省関係者と対話しようとしているところで、そういった課題を解決した中でオンライン診療が再開できるかどうかが問題です。まずはオンライン診療を限定的にやらせていただく特区を使うというのが現実的と思っていて、今、特区申請を絡めながら検討を進めています。

 

海外の事例に関しては、海外はむしろ精神科のオンライン診療が増えているところで、連携しているドイツの研究者に聞くとオンライン診療はすごく増えていて、むしろ推奨されているとのことです。これはあくまでもドイツの事例ですが、ドイツというのは、自分が住んでいる地区だったらここの病院に行きましょうというように、医療のセクショナリズムがかなりきちんと決まっていて、そうすると精神科に1年先でないと行けないような地区が普通にあります。なので、ドイツの若者たちは、自分たちでApple WatchなどFitbitを使って心のケアをしなければいけないという意識が高いと彼らは言っています。

 

そういった中で、緊急性があるときはどうすればよいかというときに、オンライン診療の必要性や有効性が認められているという事例を欧州ではいくつか聞いています」

 

石戸:「メタバース空間とリアルな世界の接続に関する質問もきています。『メタバースの空間が心地良くなってしまい、そこから出られなくなってしまうのではないか』、もしくは『そこから先、仕事をしていくと考えたときに、メタバース空間で過ごしていたところからどうリアルな社会で働くことに接続していくのか、その架け橋はどうしていくのか』、『連続性のある支援という視点からその辺りをどのように捉えていくのか』というものです。いかがでしょうか」

 

宮﨑氏:「そこが、今後のメタバースの開発ですごく重要だと思っています。自分の生身を人に見られたくないというケースでは、例えば発達特性の子どもで自分の身繕いをきちんとできない、しゃべり方が少し遅いなど、よいところはたくさんあるが身なりや話し方、しぐさで偏見を持たれてしまうからというのもよくあります。見た目やしゃべり方、しぐさというバイアスがなく、ほかの子たちとコミュケートできるのがメタバースで、発達特性のある子どもに聞くと気負わずにしゃべれたと言ってくれることも多いです。

 

我々はどうしてもリアルに出ないといけないという先入観がありますが、果たして本当に究極的にそこなのかなとも思います。結局、自分はどこが暮らしやすいか、どこだったら生き生きできるかというところが当事者にとっては大事なところで、実際、私も海外のセカンドライフをやっている研究者とか当事者と話をすると、仮想空間上にいる自分がリアルなんだと言います。あくまで現実世界の自分というのは、お金を稼ぐための仮の姿なんだということを普通に言う人たちがたくさんいます。今後はメタバースで高校・大学を出たあとにメタバースで就職して、全くリアルに仕事に行かなくてもきちんとそこでお金を稼いで税金払って衣食住ができますという、そういった環境があっても私はいいんじゃないかなと思います。そこに対して快適さがある、そこに救いがあるという一定の声がある以上は、そういった社会をつくっていくことが必要なんじゃないかなと思います」

 

石戸:「私も全く同感です。さらにいうと、私自身も複数のロボットと多拠点で生活していて分身ロボットを使っていますが、ロボットなどを使ったリアルな世界での交流というのもこれから進んでいくとよいなと思います。最後の質問ですが、『デジタルメディスンというのは、具体的にどういうコンテンツを使っているのか』という質問がきています。それを含めつつ、いま求めているコンテンツなどを最後に一言いただいておしまいにしたいと思います」

 

宮﨑氏:「ありがとうございます。今、私たちがつくっているのはゲームアプリです。あまり詳細はお話しできないですが、世の中によくあるゲームコンテンツというのは認知行動療法的な要素があるゲームで、これ自体は15年ぐらい前からリリースされています。ただ、そこのエビデンスがしっかりしていないということと、行動特性がしっかりプロファイリングできていないため、我々はそこをきちんとしようと取り組んでいます。

 

もう一つは音楽です。その人の脳波を解析して、その人たちが盛り上がる、心地良くなる音楽というのを必要なタイミングでイヤホンから流していくような、いわゆるクローズループの心を上げる音楽システムを作っています。あと、瞑想に関してはいくつかありますが、VRゴーグルを使った瞑想環境を整えていく、アートの展示でVRゴーグルを活用し没入体験を持ってもらうと心が上向くというところをやっています。VRゴーグルを用いるものと、ゲームコンテンツをつくるというところと、音楽とかそういったデバイスを使うというところがいくつかあるため、正直、特に障壁なくあらゆるコンテンツに対してぜひ一緒にやりたいと思います。途中で申し上げたように、個人個人に対して、その人の特性に応じてソリューションを提供していきたいと思っているので、できるだけ多くのコンテンツを自分たちで持っておきたいと思っています。

 

そこは特にプレコンペティティブに似たようなコンテンツがあっても、それをユーザーがどう取るかというのはその人の特性次第なので、できるだけ多くの皆さんとコラボレーションしながら、我々が最終的に作るメタバース環境にコンテンツをどんどん載せていき、必要な方に必要なコンテンツを提供ができるプラットフォームを作っていきたいと思っています」

 

最後は石戸の「本日のシンポジウムには教育業界の方々も多数、参加していただいてると思います。教育の分野とコンテンツの制作・提供という点からも協業できれば、COI-NEXTの取り組みの可能性が広がると思いました」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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