教育分野におけるメタバースの活用とは
第122回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2023.6.9 Fri
教育分野におけるメタバースの活用とは</br>第122回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は427日、クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤 直人氏を招いて、「バーチャル空間が創る新しい学び~メタバースの活用」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、加藤氏がメタバースの現況や教育分野におけるメタバースの活用について講演し、後半では超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。

 

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バーチャル空間が創る新しい学び~メタバースの活用」

日時:427日(木)12時~1255

講演:加藤 直人氏
クラスター株式会社
代表取締役CEO

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

加藤氏は、約30分の講演において、メタバースの特長や教育分野でのメタバース活用の可能性について説明した。主な講演内容は以下の通り。

【加藤氏】

メタバースが注目されるようになったきっかけは、Meta社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏の「メタバースに取り組みたい」という発言です。この発言が202110に世界的に注目され、メタバースへの関心が一気に高まりました。

 

 


▲ スライド1・2021年10月にメタバースが世界的トレンドに

 

その後、インターネットでの検索数が多くなり、日常のニュースでもメタバースという言葉が聞かれるようになりました。ただし、メタバースは2021年になって初めて注目されたのではなく、じつは15年ほど前の2007に一度、話題となっているのです。それはセカンドライフが世界的にブームになった時で、その時にもメタバースというワードが広く聞かれるようになりました。

約30年前にSFの世界観の中で描かれたメタバース

メタバースとは、いったい何かを考えてみます。メタバースという単語に確固たる定義があるわけではありません。定義があるわけではないがゆえに、メタバースについて100人いれば100通りの答えが返ってくるともいえます。ただし、そうした中でもコンセンサスは存在します。メタバースという言葉が使われるようになったのは、今から約30年前の1992のことで、以降、SFの世界観のなかでメタバースが描かれてきました。コンピュータが作り出した世界で生活する時代に人間は向かうはずだというビジョンがあり、そこにメタバースという名前がついているという認識が正しいと思っています。

 

▲ スライド2・コンピュータが
作り出した世界で生活する時代

 

人類が生み出したコンピュータは人間の身体から離れてさまざまなものを計算するようになりました。そして、最終的には人間の身体や生活をも計算するようになるでしょう。そういった世界こそが人類が目指す場所でないかというビジョンが生まれ、それにメタバースという名前がついているというのが今の状態です。

 

クラスターという会社はメタバースのサービスを作っています。具体的な事業では、まず、国内最大級のメタバースプラットフォーム「clusterの提供があります。

 

VRグラスのようなハードウェアがないとメタバースは楽しめないのではないかとよく言われるのですが、スマートフォンやパソコンで入れます。クラスターの事業はtoC向けのプラットフォーム事業とtoB向けのエンタープライズ事業の大きく2があります。

 

 


▲ スライド3・クラスターの事業

 

クラスターの特徴は、エンタープライズ事業からスタートしたということです。イベントをやるための空間を法人に提供することからスタートしました。toB向け事業で稼いで、toC向け事業に投資しているというのが現状です。クラスターは法人イベント数では世界一です。差昨年(2022)で200件近くイベントをやっていました。今年(2023年)に入ってさらにイベント数が増えて、1月から3月だけで70件開催しています。こんなに法人向けの活用が進んでいる国はあまりなくて、日本はメタバースのエンタープライズ活用で世界ナンバーワンの先進国です。日本的なカルチャーで面白いと思っています。

自治体、イベント、大学など活用が広がるメタバース

メタバースの活用事例を紹介します。まずは、「バーチャル渋谷」を紹介します。渋谷区が公認で未来の渋谷を作るという取り組みです。

 

 


▲ スライド4・バーチャルで渋谷の街を再現

 

デジタルツインという言葉でも表現されていますが、リアルとバーチャルで「渋谷」を2つ作り、バーチャルの渋谷ではさまざまなイベントをけっこうな頻度で開催しています。その他にもポケモンがテーマパークを作るということで、クラスターのシステムを活用していただいて、期間限定でしたがテーマパークを作りました。メタバースでのテーマパークはどういったものかを検証するためにも使われました。

 

官公庁からも案件を受けていて、2025年万博に向けてクラスターのプラットフォームが使われることが決まっています。

 

 


▲ スライド5・2025年万博に向けた取り組み

 

それに先駆けてバーチャル大阪をプレオープンしていて、さまざまなイベントを開催しています。年末のM-1グランプリは地上波とclusterで見ることができます。clusterでは、人気漫才師のミルクボーイがアバター化してM-1グランプリを解説しました。こういった活用も進んでいます。

 

他にはバーチャル演説会なども開催されています。デジタル大臣でもある河野 太郎氏がバーチャル上でハイタッチ会を行って、演説会にも使ってもらいました。大学での利用も多数あります。

 

 


▲ スライド6・大学での活用も進んでいる

 

40から50の大学に使ってもらっています。入学式や卒業式、学会や授業でだけでなく、文化祭でも使っていただいています。大学のなかで集まるシーンで、メタバースの活用が進んでいるということです。例えば東京大学はメタバース工学部を作りましたが、それもclusterを活用しています。学会で使うのも面白くて、学会ではセッション形式の発表とポスター発表がありますが、ここでもメタバースの活用は簡単なので活用が進んでいます。

メタバースの世界やそこでの体験を作っているのはユーザー

ここまでは、clusterがこんな風に使われているという話でしたが、ここからはclusterに住んでいる人たちを紹介します。バーチャル空間に住んでいるのがどんな人たちか知らない人も多いと思いますが、バーチャル空間の住人は何をしているのでしょうか。

 

具体的には音楽のコンサートを開いたり、リアルの暮らしと同じように乗り物に乗って移動したり、競馬を楽しんでいる人たちがいたり、カフェで集まって喋っている人たちなどもいます。ここで大事なのは、「こうした体験を作っているのはユーザーの皆さん」ということです。我々が作っているわけではありません。つまり、メタバース上にものを作って、自分たちで遊ぶコミュニティがかなりあるということです。

 

メタバースといっても、その種類はさまざまです。VRを使うような技術的に高度なものからスマートフォンで遊ぶだけのカジュアルなものまであります。一番大きいロブロックスというゲームコミュニティを入れると、全世界でマンスリーアクティブユーザーは数億人もいます。もう少しヘビーなコミュニティだと100人から2,000万人くらいの規模感です。それくらいの人々がすでに使っています。

 

使い方としては、ゲームで遊んでいる人たちが中心だろうと思うかもしれませんが、実はそうではなくて、バーで飲む人たちのような、そこに集まることを楽しんでいる人たちが非常に多いです。

 

 


▲ スライド7・メタバースの多様な楽しみ方

 

バーチャル上で麻雀をしている人もいれば、自分たちで演出をしてDJイベントをしている人たちもいます。付き合ったや別れたは日常茶飯事で、バーチャルデートをする人もいます。ただし、アバターの性別と中の性別が一致しないのはもう当たり前の世界観です。女性アバターの中に男性が入っていることが多いと思われるかもしれませんが、clusterでの比率は5対5です。つまり、女性がかなり多いです。

 

女性が男性のアバターを使うこともあるので、バーチャル空間内での人付き合い、「ソーシャル性」は究極のダイバーシティだと考えています。性別も出自も関係ない、宗教も年齢も関係ない。仲良くなった人たちが蓋を開けてみたら10代と50代だったということもあって、それはよい話だなと思います。リアル空間ではなかなか10代の人と50代の人が仲良くなることは難しいですが、バーチャル空間だと年齢が重視されない世界観なので、こういった究極のダイバーシティみたいなのが起きています。

ユーザーたちが自ら作り、参加し、楽しむ そればメタバースの中のコンテンツ

次にメタバースの中で、どのようなコンテンツが作られているのか見ていきます。地下の美しいホテルなど、妄想が具現化できるのがメタバースのよいところです。物理法則を無視できるし、こんな世界があったらよいなというのが作れます。ファンタジーな世界観でも生活できます。

 


▲ スライド8・メタバースのファンタジーな世界観

 

なぜメタバースの世界に人々が引き寄せられるのかを常々考えています。一番の理由として考えているのは、「願望を実現できること」です。自分はこんな姿になりたいと思っても、現実世界ではなかなか実現できません。こんな世界に住みたいという願望があってもなかなか世界は変わりません。選挙に行って投票しても簡単に国が変わるわけではありません。だったら自分の居場所を作ってしまいたいと考える人たちが多くなっていくのは必然です。そういった場としてのメタバースが、人々を惹きつけているのかなと思います。

 

ユニークなコンテンツの1つにメタバースの空間でのダンスイベントがありました。最近は、高機能なモーションキャプチャのシステムが安価になり、数万円払ったら全身をトラッキングするためのシステムが手に入ります。ダンスイベントの参加者はみなそれを活用して、自宅でダンスを踊り、それをメタバースの世界でも再現してイベントに参加しました。

 


▲ スライド9・ユーザー主催のダンスイベント

 

ひと昔前は、大きいモーションキャプチャスタジオなどでやる必要があり、3Dの演出を作れるのはプロの人たちだけ、という世界観だったのが、個人で集まってできるようになりました。モーションキャプチャが普及したことでラジオ体操なども活発に行われています。朝みんなで集まってラジオ体操をしています。ラジオ体操に行くと押してもらえるスタンプカードをシステム上で作っていて、参加したらスタンプを押すということを自分たちでやっているのが面白いです。

 

自分で全部作るのは大変ということで、作ったものを売買することも始まっています。クラスターの中にストアが存在しています。ストアにはユーザーが作ったコンテンツが並んでいます。インテリアやアクセサリーを作って売っています。バーチャル空間のよいところは、買ってみて飾って気に入ったら決済することができることです。どんどん流通が増えている状態です。

一度に25人が参加できるメタバース空間で学校以外で社会性を身に付ける取り組みも

メタバースの教育分野での活用についてお話しします。教育分野では日本最大級デジタル教育施設との連携を開始しました。

 

▲ スライド10・メタバースの教育活用

 

メタバースは教育に「ものすごく役立つ」だろうというのが私の考えです。実際、関西でREDEEさんとコラボレーションしながら小学生未満の人にclusterを使ってもらい、clusterの中で教育するという取り組みを行っています。実際にバーチャル上でものを作ります。

 

clusterの中にはワールドクラフトという機能があります。これはスマートフォンでもVRでも、アイテムを置いていくだけで世界を作れるという機能です。小学生のみなさんにはアバターだけでなく世界も作ってもらい、その中でコミュニケーションをしてもらっています。25人までこの世界に同時に入って一緒にコラボレーションしながら作ることができるのがよいところです。教育においては、勉強以外のところで社会性を身に付けていく必要がありますが、一緒にバーチャル空間を作っていくことによって、友だちとのバーチャル上のコミュニケーションのやり方を学ぶことができます。こういったことを教育施設との連携でやっています。

 

物心ついたときからスマートフォンを触り、インターネットに接続してSNSをやっているデジタルネイティブな子どもたちが当たり前になって、そういう人たちが大学生になってきて経済を担っているのが今の状態ですが、今、生まれてきている子どもたちは、デジタルネイティブの次の世代で「バーチャルネイティブ」になると思います。生まれた時からバーチャルリアリティやメタバースの世界観があり、集まろうと言ったら集まる場所は物理世界ではなくてバーチャル空間というのが当たり前という時代になりつつあると思います。

 

私は30代前半ですが、子どもの時に集まるといったら友だちの家にわざわざ集まっていましたが、今の10代、20代は集まるというとゲーム空間です。ボイスチャットを繋いでアバターで参加して、喋りながらゲームをやるのが当たり前の時代になってきています。コミュニケーションの仕方、集まり方もかなり変わってきていると思います。

VRAI、そして、メタバースの波もうそこまで来ている

メタバースの世界がどうなっているのか、かいつまんで言うと、メタバースの世界はもうすでに来ているというのが私の答えです。スマートフォンがいつから普及したかに答えられる人はなかなかいません。2007年にiPhoneが登場したときと言うと、その前からスマートフォンは存在していました。モバイルインターネットでいうと、以前にはi-modeあり、モバイルの普及というと30年から40年の歴史があります。テクノロジーの普及はゆっくり機種変更していくみたいに、今やっていることを少しずつ変更するように進んでいくというのが自論です。その背景にあるのはインターネットの普及拡大です。

 


▲ スライド11・インターネットの普及拡大が背景に

 

世界のインターネット利用者は50億人を超えました。世界にはあと30億人いるので、これからまだ普及していくはずです。通信回線の進歩もあります。2017年から2021年を見ると固定回線が3倍くらいに増えています。人類のデジタル化は止まらないと思っています。背景にあるのはコンピューティングの波です。大きく分けると20年ごとにコンピューティングの波が来ています。

 

メインフレームは1960年代で、次に起こったのがパソコンとインターネットの波で1980年代、さらに2000年代にはいってモバイルとクラウド化の波が起きました。2020年に入って、第4の波、VRが来ています。普段の生活に3DCGが溢れています。さらにそこにAIが入ってきます。認識のリノベーションが起こり始めています。大規模言語モデルを中心に知能が生まれそうになっています。日常生活に溢れているデジタルとAIをクロスしていくと、大きな波になっていくでしょう。

 

今までのインターネットはディスプレイの中だけのものでした。かつ2023年までのインターネットの中心は動画だったと思います。今からは3Dの時代が来ると考えています。日常生活のありとあらゆるところに3D表現が現れてくるでしょう。そしてAIの潮流をいち早く導入する場としてのゲームが登場します。

 

ゲームとAIの相性はかなりよいです。AIによってNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と自然に会話できるという事例が出てきました。AIとしても対話するのがチャット画面ではなく現実世界にいるアンドロイドというのが、未来の姿としてはあるべき姿だと思いますが、普通に動くアンドロイドがいるかというと難しいです。clusterのようなバーチャル空間の中では自律駆動型のアバターが簡単に作れるので、そういったものを活用することもできます。また、3DCGの制作を助けるAIの活用もあります。

 

ゲーム開発技術が国際戦争のカギになっています。この潮流の根幹にある技術はゲーム開発技術なので、基礎をしっかり教えていかなくてはいけないと思っています。メタバース産業は日本における最後の砦です。ゲーム・アニメとアバター文化、クリエイター文化は日本が誇る文化なので、これが揃っているメタバースはとても相性がよいです。期待しています。

 

>> 後半へ続く

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