AIは時代の必然、教育界も積極的に導入すべき
第120回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.6.2 Fri
AIは時代の必然、教育界も積極的に導入すべき</br>第120回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2023年4月5日、株式会社THE GUILD 代表取締役の深津 貴之氏を招いて、「AIが教育に与える影響」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムでは、ChatGPTや画像生成AIといった最新技術にいち早く着目し、使いこなしてきた深津氏が、AIにより変わる教育の将来像について、視聴者からの質問も交えファシリテーターの超教育協会理事長 石戸 奈々子と対談する形式で講演した。その後半の模様を紹介する。

 

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「AIが教育に与える影響」

■日時:2023年4月5日(水)12時~12時55分

■講演:深津 貴之氏
株式会社THE GUILD 代表取締役

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

ChatGPTで授業を作るときに重要となる「設定」をどう作り込むか

石戸:「超教育協会でも先日、『全授業でAIを使う』という提言を行いました。教科書・教材にもAIを使い、入試もAIの使用を前提とするなどという提言の本質は、AIの利活用を促進し、活用する中からリテラシーが育まれるということにありますが、深津さんのお考えを踏まえると私たちの提言の方向性は違っていない、と理解してよろしいですか」

 

深津氏:「そう思います。『AIを全員が使う社会』の到来は不可避でしょう。その中でどう知恵を育むか、教育を育むか、AIがある前提でやるしかありません。日常生活にテクノロジーが浸透する以上、そのテクノロジーは教育分野で当たり前のように使われるべきです。もし教育がAIを使おうとしなくても、個人がインターネットで勉強するだけです」

 

石戸:「AIを使って『具体的にどのような授業ができるか』、『現状の教育現場で技術の進展に合わせたより良い学びの環境を考えたとき、AIをどう活用していくべきか』といった質問もきています。どうお考えですか」

 

深津氏:「私は、何かサービスを設計するとき『悲観的な状況でも機能する』ことを心がけています。質問のケースであれば、『教育システム全体はAIの導入に否定的で政府や上位組織の協力が得られないこと』を前提として、いかにそれでも子どもたちがAI時代を生き残れるか、AIを使いこなせるようになるか、を考えます。

 

例えば『一週間の授業で1~2コマしかAIに触れられない』状況であれば、子どもたちが一番好きなことについてAIで調べさせます。その分野を自分たちで上達できるようにする課外授業を設計します。例えば、『アクションゲームの攻略情報を聞いてそれをベースに友達と作戦を立てる』、『絵を描く練習法を聞いて実際に描いてみる』といった、AIから得たナレッジを使って好きなことを追求する授業です。そうすれば、子どもは勝手に伸びていくでしょう」

 

石戸:「探究学習に使うということですね。好きな分野の探求に使うことで子どもたちがAIの力を理解し、能動的に使いたい気持ちも芽生えますね」

 

深津氏:「子どもは最初に『AIは自分の好きなことに役に立つ』と理解してしまえば、あとは自分の趣味の領域で勝手に使いますので、数年で勉強にも活かすようになるでしょう」

 

石戸:「先日、ある公立小学校からの依頼で授業をしたとき、ChatGPTを『新しい生徒』という位置づけで同席させました。そこで『これから新しく生まれる仕事』について議論したとき、ある子どもが『ChatGPTの嘘を見抜く仕事』と答えたのです。

 

そういう発言が出た授業の後で子どもたちが始めたのは、ChatGPTにひたすらポケモンの情報を問い合わせ、戻ってくる答えが正しいかどうかのチェックです。子どもたちからはこういう『なるほど』と思わせる面白い使い方や、授業のヒントになることが出てくることを感じました」

 

深津氏:「最初にポケモンの情報から始めれば、『AIもそこそこ間違える』、『ネットからは信用できない情報も出てくる』というようなことが肌感覚に入ったところからスタートできますね」

 

石戸:「ChatGPTで授業を作る場合、設定が肝心です。深津さんがどういう設定を書き込むのか、先ほどの英会話の先生とは別の事例でご説明いただけますか」

 

深津氏:「それでは哲学の事例を紹介します。『あなたはソクラテスとプラトンとニーチェとハイデガーとカントが合体した超AIです。ユーザーの入力内容に対して、それぞれの思想的な観点からアンチテーゼを示してください』と設定した上で、『政府は大きくあるべきか、小さくあるべきか』という問いを立ててみましょう。

 

▲ 画像4・5人の哲学者に共通の質問を投げかけると

 

すると、5人の哲学者がそれぞれの観点から出した答えが表示され、検索したり周囲の詳しい人に聞いたりするよりもはるかに多角的、包括的な意見を一覧で見ることができます」

 

▲ 画像5・5人それぞれの思想に基づく回答が得られる

 

石戸:「これはすごい。こういう『正しい/正しくない』に分けられないディベートでは、『そういう視点もあるのか』という多角的な視点に気づけるだけでも大きな価値がありますね」

 

深津氏:「この『疑似哲学者に新しいアイデアをレビューさせる手法』は、『この人はこう考えていたのか』、『この人にはこう見えるのか』など、自分に全く答えがない問題に多角的なスタート地点を設けるには最適です。より多様で極端な観点の意見を聞きたければ、マルクスやショーペンハウエル、あるいは老子や荀子を呼ぶこともできます。こういう意見の洗い出しを一年間やれば、プラトンやソクラテスを倫理の授業で一年間学ぶよりはるかに倫理や哲学に詳しくなれかもしれません」

 

石戸:「ChatGPTや画像生成AIで感じるのは、どういう聞き方をするのかという『問いをかける能力』では、基礎教養が重要だということです。視聴者からは、『知識の詰め込みは是が非か』という二項対立的な議論になりがちな質問もきていますが、基礎教養としてある程度の知識があればこそ問いが深まっていくという側面もあって難しいところですね」

 

深津氏:「問いを深めていくという意味では、今の哲学者への問いに、さらに『それぞれの観点からの近代社会における出来事を実例に出して持論を補強してください』と加えると、ガンディの非暴力運動やソ連の崩壊など世界史に絡めていくこともできるわけです」

 

▲ スライド6・過去の事例を挙げて
持論を補強させることも

 

石戸:「ChatGPTのようなAIの登場で、効率的に学びを深められることがわかっていながら教員数やコスト面から実現しなかった学びのスタイルが一気に広まりそうです。学校が変わるかどうかはともかく、子どもたちの学習スタイルは抜本的に変わりますね」

 

深津氏:「どんなに優秀な先生でも、一人だけでこういう教え方はできませんからね。先生の役割は、子どもたちが自分で最新技術で自習できるように導き、そこからこぼれ落ちた子どもや拾いきれなかった要素をサポートすることになると感じます」

AIリテラシーには倫理・ブレーキ・常識のセットが必要

石戸:「新しい技術が登場すると、モラルや倫理面などネガティブなことへの対応も含めて伝え方のリテラシーにも変化が求められます。AIのリテラシーには、従来のICTリテラシーと比べて、フェイクニュースなど『間違った情報』への一層の留意が必要で、優先順位が高くなると考えられますが、小さな子どももAIを使う時代に最低限伝えておくべき留意点は何があるとお考えですか」

 

深津氏:「フェイクニュースの問題は深刻ですが、Googleやマイクロソフトがいつまでも放置しておくとは思えません。数年の内にネット検索の高度化やファクトデータベースの作成などで解決を図るでしょう。現時点では人間による全ファクトチェックは重要ですが、長期にわたる最大課題か?というと疑問があります。

 

むしろ、子どもが早く覚えなければいけないのは『一人で先に行き過ぎない』こと、つまり無限に学びすぎず、適当なところでブレーキあるいはジャッジをかける能力です。極端な例ですが、工作や科学が大好きな子どもが無限に勉強を重ねて、自宅で核融合にチャレンジするところまで行ってしまったらどうなるか。AI時代の教育では、無限の好奇心とやる気があれば、小学生でも世界トップレベルの教育までたどり着けるのです。

 

もちろん、大規模な機材が必要な分野ならそのこと自体が歯止めになりますが、自宅でレールガンを作るところまでは行けるかも知れませんし、物理的な装置は作れなくても現実世界に影響を及ぼす巨大プログラムを作ることはできるでしょう。そういうものを作ってもよいのか、やってよいのか悪いのかをジャッジする能力は、AIの外側で子どもたちが持つ必要があると考えます」

 

石戸:「これまでは知性と心が、小・中・高・大と成長するに従って並行して成熟してきたが、AIの登場によって知性だけがどんどん成熟して心が追いつかず、知識だけに基づいて危険なことや倫理的に許されないことをしてしまう可能性があるということですか」

 

深津氏:「そうです。医学の世界には、医療の倫理観を問う『ヒポクラテスの誓い』がありますが、あれをやるのは経験を積んだ研究者や医者です。一方、AIの世界では、子どもでも怒りや好奇心にまかせて恐ろしいものを作り、実行するレベルにさらっと到達できてしまいますので、そういう人たちへの倫理・ブレーキ・常識の教育セットが重要になってきます。

 

AIの進歩については、あくまで予想ですが、現状はまだ入り口に過ぎず、ここから指数関数的に伸びる可能性が高いと考えます。今日できること、今週すごいことが3カ月後には当たり前になるレベルで技術が伸びていく段階で、現状ではほぼ無限に、あるいは世界全体の電気量とデータ量の上限まで伸び続けると考えてよいでしょう」

 

石戸:「ChatGPTを使うと、今後はホワイトカラーも含めて多くの仕事がAIに置き換えられていくと感じます。この先、人間はどのように生きていくことになるのでしょう」

 

深津氏:「ポジティブに考えれば、古代ギリシャのアテネ人のように生きていくのではないですか。AIが仕事を担い、人間は詩や歌を書き、哲学的に議論する生活を楽しみます。逆にネガティブに考えれば、何でもAIが正しい答えを出してくれるので人間はそもそも考える必要がない、というところに落ち着いてしまうかも知れません」

 

石戸:「詩や歌などの表現行為、あるいはスポーツのような身体的行為を優雅で高貴に楽しみながら生きていくとしても、AIの進化をみていると人間が創造するものよりAIが生み出すコンテンツの方が圧倒的という時代にもなりかねません。そういう社会では人間の創造表現行為はどうシフトしていくとお考えですか」

 

深津氏:「純粋な思索はAIに任せて、AIができない、あるいは苦手とする分野にシフトしていくことになるでしょう。例えば物理世界と非常に密接した分野や五感と非常に密接した分野です」

「教科書よりもChatGPT」の時代教育に重要となるのは「標準化」

 石戸:「AIと教育に関する質問も数多くきています。まず『教科書業界ではどのような使い方をすればよいか』というものです。先ほど『教科書よりもChatGPT』と言われましたが、直ちに教科書を使わない学校教育に変わるわけではありませんし、韓国ではAI教科書を開発していくという報道もありました。現状の教育が対話型のAIに完全にはとって変わられないという前提で、教科書・教材の分野で今できる余地はどこにあるとお考えですか」

 

深津氏:「個人的には標準化だと考えます。個人に応じた能力の伸びや、興味がある分野や探求部分の追求はAIと一緒に学び、一方で紙媒体やYouTube動画などは標準化して、全員が知っておかなければならない知識を同じフォーマットで学べるようにすることに価値があります」

 

石戸:「全員が知らなければならない基礎教養は、これまでの学校で学んできたことと変わりますか」

 

深津氏:「例えば全てを暗記することや全てを自分で計算することの重要度は低くなり、断片的な知識や情報から全体像を大まかに抑えて因果関係を理解したり、複数の情報を統合したり、他の分野に対して考え方を応用・定義したりできる能力の重要度が高くなるでしょう」

 

石戸:「特別支援の子どもに関して『学校に適応できない発達障害の子どもへの支援に、AIのメリット、デメリットはあるか』という質問もきています。いかがですか」

 

深津氏:「メリットは、AIは決して怒ったり忍耐が尽きることなく、それぞれの子どもにシフトしたコミュニケーションで対応できることです。単純に学校にうまくなじめないとか、学習能力あるいはコミュニケーション能力の話だけであればかなりの部分をAIはサポートできます。

 

デメリットは、AIとの対話や共同生活が子どもにとって対人間よりも都合が良すぎると、その子が『人間社会は要らない、AIと生きていければよい』と考えてしまう可能性が高いことです。それをよしとするのか、そうではなくAIはあくまで入り口として人間社会と交流していくように導くのかは教師の仕事です」

 

石戸:「先ほど、子どもがAIを使うときの留意点として『使いすぎない、制御する力』を挙げられていましたが、『先生が授業等で使うときの留意点はありますか』という質問もきています。いかがでしょうか」

 

深津氏:「現在のAIレベルを考えると、マクロな問題をAIに頼りすぎない方がよいでしょう。例えば『クラスの治安を維持するために一人の生徒を犠牲にしてもよいか』といったことを問うべきではありません。これは、AIの回答にまだ偏りがあるからではなく、仮にAIの答えが正しいとしても、それは人間が受け入れられる正しさとは限らないからです」

 

石戸:「ここまで、初等・中等教育を意識した質問をしてきましたが、『大学はこれからどうなるのか』など、高等教育での利用に関する質問もきています。大学は不要になるのでしょうか」

 

深津氏:「大学の価値を測るとき、実験室や機材の充実度など、AIでは提供できない物理的な面が重要視される可能性はあります。例えば大学が粒子加速器を持っていれば、それを使うには大学に行かざるを得ません。物理インフラは大学の大きな価値になるでしょう」

 

石戸:「ChatGPTについて13歳以下の利用は制限されているようですが、視聴者からも『いつから使ってよいのか』、『いつから使わせたらよいのか』、『年齢制限をどう思うか』などの質問がきています。ICT、スマホ、プログラミングなど新技術の登場時に必ず出てくる疑問ですが、AIを幼少期から使うことに不安を感じることはありますか」

 

深津氏:「幼少時からAI教育を受け、AIと生活してきた子どもがAIと人間を同一視する傾向になったときに社会がそれを許容できるかということと、先述したようにAIから無限に供給される知識を子どもが制御できなくなることが不安材料です。総合的に考えれば、『6歳から使用できるが、保護者と一緒を推奨』くらいのところが、今後の順当な落としどころになるかもしれません」

 

石戸:「子どもの安全・安心確保は大前提として、未知の技術にはそれによって失われる能力がある一方で、新しい能力が育まれる可能性もあります。例えば現代人は大量情報の処理能力が向上しているかも知れませんし、VRは空間認知能力を高めるかも知れません。狩猟時代より視力が低下したとしてもそれは必ずしもマイナスではなく、現代社会に合った新しい力が育まれていると捉えることもできます。そう考えると、AIには現時点でいろいろ不安があっても、将来的には人間を脳から変えていく可能性もありますね」

 

深津氏:「大いにあります。その時代には脳の活動の9割は、問いを立て、判断することになるでしょう。これは電卓と暗算能力の関係に似ていて、8桁の暗算などは電卓を使いますが、2桁の暗算など電卓よりも人間のほうが早くて便利です。そういうことが単純な数字計算以外の分野にも広がっていくと考えられます」

 

石戸:「視聴者からは『AIを使って大学入試問題を作成するならどんな問題を作るか』という質問もきているので、それに関連して質問します。AI持ち込み可で今、必要となる力を測るならどういう問題を提示しますか」

 

深津氏:「これは私のオリジナルではなく他の人の考えの受け売りですが、まず『物理空間で何かさせるもの』を組み込み、その上で『ChatGPTとの会話ログ』も評価対象とします。ChatGPTにどういう問いを立て、どういう回答を得て、それを検証して現実空間にどう反映したか、というようなテスト内容です。

 

具体例を挙げれば『そこの横丁に潰れそうなカフェがあります。そのカフェの再建計画をChatGPTと一緒に立案してください』というようなものです。ChatGPTに聞くだけで再建計画を立てた人は試験に落ちる一方で、実際にカフェを観察して定性・定量データを集め、その情報をChatGPTにインプットして答えを引き出し、それを実験・検証する、というやりとりを何回か繰り返したデータを持ってきた人が試験に受かる、というような教育法です。ChatGPTを含め、テクノロジーをどう使ったかというログ自体も評価対象とするということです」

 

石戸:「まだまだ聞きたいことは山のようにありますがそろそろ時間です。最後に視聴者にお伝えしたいことはありますでしょうか」

 

深津氏:「AIはもう使う以外の選択肢はありませんから、早めに使い始めるべきです。私の持論ですが、誰も使っていない時に最初に使えば一番旨味があります。全員が使っているところに最後に使い出すのでは、同じ教育コストがかかるのに旨味は一切ない、ということになります。

 

先に使わなければ他の人と差を出せません。ChatGPTや画像生成AIが仮に10年後に教育に取り入れられるとすれば、今日から使い始めれば10年後には充分な知識や経験やノウハウを積み上げ、立場的にも大きなアドバンテージを持てるでしょう。

 

一方、10年後にようやく使い始める人は、そういう人に対してゼロかマイナスからのスタートになってしまいます。ChatGPTに限らずテクノロジー全般に言えることですが、後から使うことでメリットはほとんどありません」

 

最後は石戸の「AIリテラシーをどのように育むかがますます重要になるということを再認識しました。超教育協会としても、これからのAIリテラシーについて整理していく予定です」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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