概要
超教育協会は2023年3月8日、一般社団法人日本eスポーツ連合 副会長の浜村 弘一氏を招いて「日本におけるeスポーツの普及と学校教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、浜村氏が、日本におけるeスポーツの現状、教育機関に取り入れられている事例、学校教育に取り入れるメリットなどについて説明した。後半は超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「日本におけるeスポーツの普及と学校教育」
■日時:2023年3月8日(水)12時~12時55分
■講演:浜村 弘一氏
一般社団法人日本eスポーツ連合 副会長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
浜村氏は約30分間の講演において、eスポーツの現状について野球と照らし合わせて説明。学校など教育機関で取り組むことでeスポーツが不登校や引きこもりの子どもたちへの救世主となる可能性を示し、教育現場での活用を提案した。
【浜村氏】
eスポーツについて説明する前に、日本で野球が発展してきた歴史について触れておきます。野球は1872年に日本に伝来してから約50年、バットとボールを持っているごく限られた人だけが楽しむスポーツでした。それが、1934年にラジオで高校野球が放送され、野球に興味がなかった人たちの野球熱が徐々に高まっていきました。高校野球や大学野球が始まり、ノンプロ、プロの球団が設立され、テレビ放送も始まりました。
プロ野球がビジネスとして成り立った背景をご説明します。プロ野球の進化とプレーヤー・ノンプレーヤーのヒエラルキーを示すと、実はノンプレーヤーの割合が非常に多いのが実情です。
▲ スライド1・プロ野球がビジネスとして成り立った背景
ノンプレーヤーとは、バットもボールも持っていないけれど球場に出向いて野球を楽しむ、選手を応援する、ルールは分からないけれどイベントとして楽しむといった人たちです。この人たちが野球を楽しむことにお金を落としていった結果、プロスポーツが成り立つようになったといえます。
これをゲームに例えてみます。「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などゲーム機で遊んでいたゲーマーがオンラインゲームにシフトし、上手にプレイできるようになってプレイの様子をネットで放送する人が増えてきました。その動画を視聴するファンが増えてくるとゲームメーカーがファンイベントを開催します。賞金付きの公式競技イベントも開催されるプロのゲーマーが出てきて、そのうちテレビ中継のようなリーグ戦をネット配信するようになりました。
プロの選手が常時出てくると、普段はゲームをしないけれども、選手がかっこいいから見始めるという、いわゆるノンプレーヤーが増えてきます。プロのゲーマーを見る人たちです。
プロスポーツの選手やプロのゲーマーが育ってきた経緯と同様の流れが、eスポーツにもあるといえます。eスポーツとは何かと問われたら、ネット動画を見るという文化が育てた「見るスポーツ」であるといえるでしょう。そして、この潮流は止められないと思います。
▲ スライド2・野球やサッカーの進化に
似た構造をたどりつつあるeスポーツ
性別・年齢・国や地域・障がいの有無に関わらないeスポーツはダイバーシティ時代に合っている
eスポーツが隆盛してきたもう一つの理由は、参加へのハードルが非常に低く、ダイバーシティの時代に合ったスポーツであることです。
2018年の平昌オリンピックでは「スタークラフト」というゲームが行われ、カナダの女性選手が優勝しました。男女の差がない「ジェンダーレス」で参加できることがeスポーツの魅力です。
「エイジレス」であることも魅力です。国体の文化プログラムとして開催された「都道府県対抗eスポーツ選手権」第1回の茨城大会では「グランツーリスモ」というレースゲームで、11歳の小学生も県代表として参加していました。一方で北欧の国ではシューティングゲームを中心に活躍する、平均年齢65歳の「シルバースナイパーズ」というチームもあります。車の免許を持っていない小学生も車のゲームに参加できるし、65歳のプロにもスポンサーが付く。まさに年齢など関係ありません。
また、5Gの時代になってくると、「エリアレス」でどこでもインターネットで接続できます。ニューヨークと東京とソウルでチームを組んで試合をすることもできます。
そして「ハンディキャップレス」でもあります。北海道の八雲病院では、難病である筋ジストロフィーの患者さんがeスポーツに夢中になっています。学生のチャンピオンチームとよい試合をしたという話も聞きます。始めるハードルが低く、誰でも楽しめることからも、eスポーツはダイバーシティの時代にぴったり合ったスポーツではないかと思います。
▲ スライド3・eスポーツは誰でも参加できる
ダイバーシティ時代の新スポーツ
一方でeスポーツを「スポーツ」とすることを嫌がる人はたくさんいます。ただし、スポーツの概念は時代によって変わるものです。日本で「スポーツ」の概念を変えたのはオリンピック選手たちです。「なぜ『かけっこ』をスポーツと呼ぶのだ」と言われていた時代、1912年に金栗 四三選手がストックホルム大会に参加し、以降、陸上競技がスポーツとして認められていきます。女性はスポーツをしないとされていた時代に、人見 絹江選手が日本初の女性オリンピック選手となりメダルを獲ったことで、「女性もスポーツをしてよいのだ」と概念が変わりました。
このように、スポーツの概念は日本国内でも変わってきたのです。最近ではブレイクダンスがオリンピック種目になりました。
eスポーツをスポーツとして認め学校教育にも取り入れている国は多い
eスポーツをスポーツと認めている国々の状況を紹介します。北米では、大学の70%以上がeスポーツ導入を検討しているといわれています。
アメリカ政府は2013年、「LoL(League of Legends)」という陣取りゲームをスポーツとして認定し、大会のために訪れる外国選手にアスリートビザを発行すると発表しました。またペンシルベニア州ロバート・モリス大学やカリフォルニア大学アーバイン校では、eスポーツのアスリートの学生に奨学金を出して活動費用をサポートしています。
▲ スライド4・eスポーツがスポーツとして
認識されている国の状況(北米)
欧州でも特に北欧はeスポーツの人気が高く、スウェーデンの3つの高校では2015年から体育の授業にeスポーツを取り入れています。ノルウェーの公立ガーネス高校では、2016年から体育で「eスポーツ教育」も始めています。
イギリスのヨーク大学では、ドイツのeスポーツ団体ESL(Electronic Sports League)と提携してeスポーツ産業に関する授業を始め、この授業を受講した学生に「フィルム&テレビプロダクション」の学位を与えています。
ロシアでも、2016年にスポーツ省がeスポーツを正式にスポーツとして認めています。
▲ スライド5・eスポーツがスポーツとして
認識されている国の状況(欧州とロシア)
実はアジアはeスポーツの「メッカ」日本以外のアジア諸国はeスポーツが盛ん
こうした説明を耳にすると欧米はeスポーツ先進国という印象を持ちますが、実はアジアこそeスポーツの「メッカ」といえます。東アジアは特にeスポーツが盛んで、中でも韓国は先進国です。韓国の中央大学校の体育系学部は、これまで野球やサッカーなどを対象としていたところ、eスポーツの実技と実績による選考も追加し、選手を入学させています。
中国でも国全体でeスポーツを活性化させています。2016年にはスポーツ産業の発展に向けて、普通高等学校、高等職業教育の中で「eスポーツと管理」の授業が選べるようになりました。
韓国eスポーツ協会「KeSPA(ケスパ)」は、文化観光体育部、いわゆる観光庁の支援で2004年にeスポーツ発展のための中期ビジョンを発表し、2010年にはeスポーツの振興に関する法律を制定しました。2016年にはソウル市と文化観光体育部がスタジアムを建設し、eスポーツを奨励しています。韓国も国策としてeスポーツを奨励しています。
▲ スライド6・韓国や中国は日本よりも早く
eスポーツが浸透し認められている
「eスポーツ後進国」といわれる日本でも学校での取り組み事例が増え、競技大会も増加中
日本はeスポーツ後進国といわれていますが、最近は日本でもeスポーツのメリットに注目する学校が増えています。学校での取り組みも増えてきました。とてもたくさんある事例の中から、一部をご紹介します。
神奈川県の谷口大小学校では、プロのeスポーツ選手を招いて、5年生と6年生の約300人が参加して、体育館でeスポーツ大会を開催しました。
島根県の松江緑ヶ丘養護学校では高等部で週2回、試験的に体育でサッカーゲーム「ウイニングイレブン」を活用し、2022年には授業への本格導入を進めています。同校には体が不自由な生徒もいるのかもしれませんが、eスポーツでは差が出ないということだと思います。
静岡県の私立浜松学芸中学・高等学校は、県内で初めてeスポーツ部を立ち上げた学校で、eスポーツが体育祭の種目になりました。運動が苦手なこれまで目立たなかった生徒が一躍スターになり、自信を持てるチャンスができた事例として、非常に注目を集めました。
▲ スライド7・eスポーツ後進国といわれる
日本でも、教育現場での取り組みが
増えつつある
学生が参加できる全国大会も増えています。「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」は国体と併設の文化プログラムの一環として行われます。第4回の2022年は栃木県で、国体のために新設された体育館で行われました。後援に経済産業省、内閣府、デジタル庁、栃木県など行政機関も入り、予選に50万人以上が参加したという大きな大会となりました。
対象を高校生だけに絞った選手権もたくさん行われています。毎日新新聞主催の「eスポーツ選手権」は2023年5回目を数えます。ロケットリーグ部門とリーグ・オブ・レジェンド部門ではN高、フォートナイト部門ではルネサンス大阪高校がそれぞれ優勝と、通信制の高校が強いです。
他にも、テレビ東京と電通が高校生eスポーツ大会「STAGE:0」を開催しています。2019年から始まったこちらも、2022年には参加校2,060、2,559チーム6,728名が参加する非常に大きな大会になりました。
▲ スライド8・2022年開催の全国都道府県対抗
eスポーツ選手権は国体の文化プログラム事業
興行ではなく行政が主催する大会も増えています。
2022年9月、横須賀市が第3回「YOKOSUKA E-Sports CUP」を開催しました。神奈川だけではなく全国の高校生を対象です。「VALORANT」というシューティングゲームへの参加は90チームにもなったとの報道がありました。また同じ2022年、12月には群馬県で「U19 eスポーツ選手権2022」が開催されました。種目は「リーグ・オブ・レジェンド」が採用されています。
このような大会からスター選手が登場し、プロの選手になる例もあります。「レバ選手」こと相原 翼さんを紹介します。
彼は「eFootball」の選手でDetonatioN Gamingという日本でもナンバーワンのプロeスポーツチームに所属し、プロライセンスを持っています。もともとはN高のeスポーツ部の生徒でした。
2018年ジャカルタで行われたアジア最大のスポーツの祭典、アジア競技大会ではエキシビションとしてeスポーツが採用されました。レバ選手は、サッカーゲーム「ウイニングイレブン」部門の予選に日本代表として参加しています。多くのプロ選手が参加する大きな大会にアマチュア選手として名乗りを挙げ、17歳ながらどんどん勝ち上がって金メダルを獲り、プロ選手として認められました。
▲ スライド9・通信制高校N高の部活動から
数々の世界大会に出場し実績を上げるレバ選手
彼は、2018年のアジア競技大会まではあまり目立たなかったそうです。それが予選大会では「日本代表選手として頑張っていきたい」としっかりしたスピーチをしたそうです。実績を上げると自信がついて、壮行会を開いたときにも「よい色の金メダルを取ってきます」とカッコいいコメントをしていました。
eスポーツの国際大会は、今後もどんどん増えていく傾向にあり、報道もされ、eスポーツは盛り上がりをみせていくでしょう。
一方で、日本ではまだ「ゲーム」に対する目が厳しく、子どもの遊びという見られ方も多く、体に悪いのではないかとネガティブに見られることもあります。ただし、eスポーツの後進国と言われながらも選手のレベルはとても高く、今後、国際大会を通じて報道が増えることでeスポーツの認知度が上がれば、周囲の見る目もおそらく変わってくるのではないかと思います。選手のステータスも上がってくると思います。
そうなれば、教育機関などで扱われることもますます増えてくると思います。ぜひ今後も、eスポーツに注目していだたければと思います。
>> 後半へ続く