リアルとオンラインの両輪で不登校支援を推進
第111回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.2.17 Fri
リアルとオンラインの両輪で不登校支援を推進<br>第111回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2023111日、認定NPO法人カタリバ 代表理事の今村 久美氏を招いて、「オンラインと対面”“行政・学校と民間の新しい協働によって誰一人とり残さない日本の教育実現へ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、まず今村氏が日本の不登校の現状とカタリバの取り組みについて講演し、続けてカタリバが展開するオンライン不登校支援プログラム「room-K」のプロジェクトリーダー・瀬川 知孝氏がその内容について説明した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

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■日時:2023111日(水)12時~1255

■講演:

・今村 久美氏
認定NPO法人カタリバ代表理事

・瀬川 知孝氏
room-K プロジェクトマネージャー

ファシリテーター:
石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真3・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半は、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えて質疑応答が実施された。

不登校支援の全国展開に向け オンラインでの取り組みに高い関心

石戸:「まずroom-Kに関する質問です。講演で示された心のエネルギーの状態についてのグラフで、まだ心のエネルギーが一番低いところで苦しんでいる子どももいると思いますが、そうした心のケアが重要なフェーズでもroom-Kは活用できるのでしょうか」

 

瀬川氏:「現在、room-Kの利用者は約120人いますが、このうちメタバースに入ってプログラムに参加できている段階の子どもは実は6割程度で、残りの4割はその前段階として、まずはメンターと定期的に面談を重ねながら少しずつエネルギーを回復している途中です。そこでメンターとの関係性をしっかり築き、少しずつ他者への信頼や自分自身のエネルギーの回復を蓄え、そろそろ人と関わったり、学びに向き合ったりできそうだと判断されて初めてメタバースに参加していく段階に進みます」

 

石戸:「参加者からは、全国にはカタリバのような支援が行き届かない地域の子どもたちをどうして支援していけばよいか、という声も多く届いています。メタバースのようなオンライン空間を使えば全国の子どもたちを救える可能性を感じます。ただ、メタバースに入れる状態までの支援が大変そうで、そこまでの過程をどうケアしているのかが気になり質問しましたが、そこは一人一人丁寧にやり取りを重ねているのですね」

 

瀬川氏:「はい。メンターやコーディネーターはリモートで全国から活動していて、例えば九州在住のスタッフが関東在住の子どもと定期的に面談しています。不登校支援はどうしても人手がかかりますが、自治体単独では賄い切れない人材もオンラインを活用したシェアリングエコノミーでは確保できます。人手不足を克服して効率的に活動してもらうところにオンラインの可能性を実感しています」

 

石戸:「オンラインではメンターのような支援者・伴走者の存在が極めて重要ですが、そういうスタッフを見つけ出し、支援者として適切に対応できるようにするための研修などの仕組みはどう構築されているのですか」

 

瀬川氏:「まず新規採用スタッフは、実際に子どもたちに関わり始める前に約1か月の研修を受けてもらいます。支援計画を作成するためのフォーマットもこちらで用意していて、それに沿って支援計画を作っていくことで、いわゆる専門家でない人でも計画をしっかり立てられるようにサポートしています。実際に支援を始めた後も、支援者同士で定期的に打ち合わせや相談をしながら迷いを解消していく、いわゆるOJTのようなことを含めた活動のサポートも大事にしています」

 

石戸:「次は適切な支援の見出し方についての質問です。『不登校支援ではその子どもに合った支援方法を見つけることが何よりも重要で難しいが、それは本人との面談である程度見つけられるのか、それともさまざまなことを試しながら見つけていくのか』という質問を頂いています。不登校の子どもの中には発達障害やギフテッドなど特別な支援が必要な子どもも多く、支援の仕方も子どもによって変わってくる。そこをどう対応されているのか。知見があれば教えていただけますか」

 

瀬川氏:「大前提として情報をしっかり集める必要があります。まず利用開始前の保護者との面談の中で、子どもに関する必要なことをしっかり聞き出します。保護者には事前に利用申し込みフォームを記入してもらいますが、そこでも子どもの情報を、例えば発達障害の診断があるとか、保護者が感じている子どもの特性など、かなり詳細に書いてもらいます。

 

もちろん、多くの情報を集めても最初から正しい支援ができるとは限らず、情報を一つ一つ判断しながら試行錯誤を重ねて、より良い支援にしていきます。子どもの学び方や支援方法についても事前に計画は立てていますが、支援開始後の子どもの状況も見ながら調整することも少なくありません。もし、子どもの持つ特性から通常の支援が難しい場合は、臨床心理士などカタリバと契約している専門家とも支援方法を相談しながら計画を立てることもあります」

 

石戸:「参加者からは『この取り組みをどうやって全国に届けていくか』という趣旨の質問が複数寄せられています。まず、カタリバとして全国展開を含めた今後の展望をどう考えていますか。合わせて、今回のテーマが協働なので行政との関わり方についてもお伺いします」

 

今村氏:「大前提として、私たちのこの取り組みは万能ではなく、まさに試行錯誤の過程にあります。どうすれば子どもたちにとって最も必要な機会を作れるのか、長期的な視点に立ってまさにその答えを探っているところですが、今はまだ一合目ぐらいで山頂はまだまだはるか先にあります。その中で今試みている一つが、講演で瀬川が話した行政との連携です。

 

行政とNPOの連携というと、1998年にNPO法(特定非営利活動促進法)ができて四半世紀になりますが、日本のNPO、特に教育分野のNPOは実力不足もあって、まだまだ行政から信頼されていません。特に、NPOが地域の教育支援センターのような箱型支援を行おうとすると『学校の下請けとして指示を受けるNPO』という位置付けになりがちで、これでは子どもを真ん中に据えた支援はできません。NPOと地域・学校が対等の立場でお互いのリソースを持ち寄り、子どものために政策では何ができて民間は何ができるのかを話し合う必要があります。そして、メタバースだけでも、行政・学校だけで子どもを助けずらい部分があるから一つの絵の中で役割分担を一緒にやろう、と言う関係性をどう構築すればベストになるのか、一生懸命模索している途中なのです。

 

今、全国の多くの自治体から『room-Kを導入したい』という声が届いていますが、7自治体との連携にとどまっている理由は、一つは私たちの実力不足ですが、それ以前に、どういう関係性なら最も子どもを助けられるかを模索しているということがあります。手広く展開しても、自治体ごとに政策や担当者のタイプ、学校・行政との関係性は大きく異なり対応しきれていません。まずは実証的に行政と私たちNPOの関係性のあり方を模索し、それがもう少し見えてきたら、私たちとしても全国の子どもたちに届く方法を探したいと思っています。

 

もう一つ、国に本当に要望したいことは、不登校調査のやり直しとその深掘り調査の継続実施です。現状は、何が不登校の原因かはもちろん、政策が十分なのかどうかもわからずに『多分、メタバースなど必要な気がする』のような軽いノリで動いているようにみえます。本当に何が必要なのかを探すためにも、不登校調査のやり直しを強く要望します」

 

石戸:7つの自治体と取り組みながら全国に広げていくための知見を集めているということですが、一方で何らかの対処を急ぎたい自治体もあります。自治体と連携していく上で一番の障壁となっていることや、カタリバと不登校支援に取り組みたい自治体にお願いしたいことがあれば教えていただけますか」

 

瀬川氏:「障壁としては、やはりオンラインへの懸念が挙げられます。支援者がリモートで子どもに関わることや、子どもの支援に関わる情報がオンラインのクラウド環境で扱われることなどから前向きになりにくい気持ちが自治体の皆様にあることは理解できます。私たちとしても安全性を担保するためのルールやシステムを整えるなど、新しい取り組みへの不安を払拭しようとしています。どういう対応をしていけば安全性に問題ないのかを一緒に話し合いながら、既存のルールや従来の慣習に縛られすぎずに取り組んでいければ、こうしたオンラインの取り組みが広がっていくと考えています。

 

お願いしたいこととしては、GIGAスクール構想で配られた11台端末の活用があります。あの端末をオンライン支援に活用できると本当の意味で全ての子どもたちが利用できますが、利用制限がガチガチに定められていて手元にあっても使えないケースが結構あります。端末の活用の幅をもっと広げてもらえれば、不登校支援に限らずできることはもっと広がっていくと思います」

 

石戸:「本日は行政とNPOの話が中心になりましたが、講演は企業関係者も多く視聴していただいています。世の中には様々な立場の大人たちの協働によって未来の子どもたちの学び続ける環境が整備されています。最後にお二人から、広く多くの人たちに向けて一言ずつメッセージをいただきたいと思います」

 

瀬川氏:room-Kは、今はまだトライアル、実証的な意味合いが強い取り組みです。この取り組みで自治体の方々と話して初めて分かったこと、直面する壁もどんどん出てきますので、新たな学びを取り組みに活かしながら進めているところです。いきなり完璧なものを出せるわけではありませんが、そうした実証を重ねた先に子どもたちに届く価値は間違いなくあると思います。また最近は、自治体が独自にオンラインの取り組みを始めるところも増えています。そうしたところと私たちNPOや民間が知見を共有し、学び合いながら新しい取り組みを進めていけることに期待します」

 

今村氏:「講演の冒頭、学校に起因する不登校の子どもが多いことをお伝えしましたが、その根底には、社会の歪みが全て学校に押し付けられて先生の仕事量が非常に増え、結果としてそういう学校が苦しい環境を作ってしまっていることがあります。決して先生方が悪いから、仕事をしていないから不登校が増えているわけではないということは補足しておきます。

 

その上で、特に民間の方は、できれば一緒に『どうすれば先生方を助けられるか』を考えてください。『先生が終わっている日本の教育はダメだ』と見放さずに『私はこれを手伝えるよ』と手を挙げていただき、room-Kの取り組みや不登校支援策など、皆様の視点による新たなご提案をいただければと思います」

 

最後は石戸の、「大人たち全員が当事者意識を持ってこの社会課題に取り組み、その姿を見て子どもたちが新しい社会を築いていってくれることに期待したいです」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。 

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