バイリンガルと日本語思考の両立に取り組んで
第105回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.12.16 Fri
バイリンガルと日本語思考の両立に取り組んで</br>第105回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2022119日、関西国際学園 学園長の中村 久美子氏を招いて、「唯一無二 理想の教育 無いなら創ろう 初等教育からのチャレンジ20年の軌跡」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、中村氏が、日本の教育の問題点と学校設立の経緯や目的について講演し、後半では、同校初等部・中高等部マネージャーの世良田 ゆかり氏も参加して、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

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「唯一無二 理想の教育 無いなら創ろう 初等教育からのチャレンジ20年の軌跡」

■日時:2022119日(水)12時~1255

■講演:中村 久美子氏
関西国際学園 学園長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの超教育協会の石戸 奈々子が、参加者からの質問も織り交ぜながら質疑応答を実施した。

ユニークな学校運営や教育方針に注目が集まる 公立学校への応用にも高い関心

▲ 写真1・中村氏(左)と世良田氏(右)

 

石戸:「最初の質問は不登校に関するものです。『不登校になりそうな生徒がいた場合にどのような対処で不登校を防いでいるのですか』というものです」

 

世良田氏:「小学校だけで200名以上の生徒がいますので、厳密にいえば不登校がゼロになることはありません。ただ、不登校はいきなりなるのではなく、34年の歳月を経てなるものです。本校は幼稚園から在学する子どもが多いため、学校環境の影響が出てくるまで数年の猶予があり、幼稚園での様子などからも少しずつヒントが集まります。保護者とも長い付き合いになりますので、その中ですごく忙しい生活をさせている子どもや、逆に日常の生活ルーティンからかけ離れた、大人に合わせた生活をしている子どもなどのケースは随時声掛けをしていくような体制をとっています。

 

しかし、4年生の10歳くらいで突然不登校になるケースもあります。そういうときは、まず、子どもと保護者を個別のカウンセラーが担当してカウンセリングを行います。そこで子どもの意見を吸い上げ、それを改善していくことで登校し始める子どももいますし、保護者自身が環境や考え方を変えることで改善されるケースもあります。

 

また、発達の凸凹が原因の場合には専門家の先生が対応し、『僕はこういう特性なんだ』と知ることで勇気が湧いて登校できるようになる子どももいます。さらに年齢が上がって10歳を超えた子どもの場合は、ただ周囲の大人がサポートするだけではない、『自分で自分を知る』セッションを行っていきます。こうしたさまざまな不登校児対策により、本校では不登校が3カ月を超えることはまずありません」

 

石戸:「先日も、不登校が急増しているというニュースが話題になりました。きめ細やかに子どもや保護者と接する対策は、一朝一夕には難しいとは思いますが、御校のノウハウを広げて頂きたいです。他の学校、先生方にアドバイスできることはありますか」

 

世良田氏:「例えば、何か問題行動を起こしてしまう子どもは『困っている子ども』、モンスターペアレンツと言われる保護者は『困っている保護者』というようにちょっと視点を変えてみてください。教育者側から勇気を持って一歩近づくことができ、一つのきっかけになると思います」

 

石戸:「次は自己肯定感に関して、『海外の子どもの自己肯定感が日本と比べて高いのはなぜだと思いますか。教育制度が全ての理由でしょうか』という質問です。学園の方針を決めるに際しては海外の教育制度も数多くみてこられたと思いますが、いかがでしょうか」

 

世良田氏:OECDが実施している15歳の学力調査で、日本の子どもは数学・科学・読解力の全てでかなり上位に入っている一方、それぞれの科目をどう思うかを尋ねた設問には非常にネガティブな回答が多くなっています。子どもたちは努力して高いスコアを得ているものの、それは自分自身の好きという思いから高められたものではない、ということがクリアーになったわけです。このことが、学習指導要領が主体的に学ぶ探究学習的なものに変わっていったことの大きな理由の一つではないかと思います。まだ学習指導要領は2020年に変わったばかりですので、この10年で出てくる変化に合わせて入試システムなども変わっていけばいいのかなと考えています」

 

中村氏:「簡単に言うと『点数は高いけど嫌い』ということですね。私の長男も全国で5位以内に入ったこともあるほど数学が得意なのに理系には進みませんでした。それで『理系に行くのかと思った』と言ったら、『多少、数学はできる程度で好きではない』と言われて驚いたのを覚えています。彼曰く『僕のレベルでは数学が得意とは言えない。本当に数学好きな人はレベルが違う』と。それも一つの答えなのかな、と思います」

 

世良田氏:「学校のシステムの中で勉強というものを含めて『好き』を作るということですね」

 

中村氏:「海外と違うのは言語の問題もあるかも知れません。英語は『Let’s ○○』が多いですが、日本語は『これはしないで、あれもしないで』ですからね」

 

世良田氏:「声かけ自体、『○○しないでください』が日本語には多い気がしますね」

 

中村氏:「中学受験も問題です。大学入試は必要としても、中学校のときに受験する意味はありません。小学校45年生で夜の10時まで塾で勉強するならば、その時間を寝て過ごしたほうが頭は良くなるでしょう。特に、毎日のように順位付けされ、他人と比較される塾にいれば自己肯定感も低くなりますから、そういうシステム自体を変えるべきです」

 

石戸:「講演では、小さい子は自分を知ることが大事というお話もありました。自分は何が好きなのか、何をしている時が幸せなのか、ということに目を向けさせてくれる学校なのだと感じました」

 

中村氏:「そうですね。一つでいいのです。何か一つ好きなものがあるだけですごく支えられます」

 

石戸:「それが心の支えになりますね。次は複数の方から『保護者がこの学校を選ぶ理由にはどういうものがあるのか』、『入学希望者の中で子どもたちが自発的に選ぶケースと保護者が勧めるケースの割合は実態としてどうなのか』という質問がきています。後者については幼稚園からの進学が多いので保護者の勧めがほとんどだと思いますが、主にどういう視点から保護者の方々が選ばれているのか、これまでの傾向から教えていただけますか」

 

世良田氏:「関東・関西の幼稚園部門から進学する子がほとんどで、多くの方は56年の付き合いになります。その中で本校を信頼してくださり、IB認定校であることなどとは別に、この学校なら安心できると考えていただけていると思います。

 

また、幼稚園の年少(3歳)からは探究学習が始まります。すると子どもの興味や会話がどんどん変わり、それまで入試街道を歩んできた保護者の中に、『子どもの幸せとは、このように成長していく進化の延長にあるのではないか』という考えが生まれます。そして小学校を見学に来て、子どもたちの生き生きとした様子を見て進学を決められる方がほとんどで、むしろ最初から本校に決めて来られる方は少数派です」

 

中村氏:「子どもが1歳くらいになって見学に来られる保護者の方々も、最初は『ああ、英語だー』、『ちょっと違う教育をしたい』、『日本の既存の教育でいいのか』、『自分も英語は苦手だった』といった感覚で来られる方が大多数です」

 

石戸:「保護者は子どもたちの変化をみて、子どもたちも『学校が好き』ということで、親子どもどもが自発的に選択しての進学ということですね。

 

次は『高等部を卒業した生徒はどのような進路を選択していますか』という質問です。自分に向き合い、自分の好きなことを探究している子どもたちがどういう進路を選ぶのかは気になりますが、いかがでしょうか」

 

世良田氏:「中高等部を開校したのが2016年なので、本年3月に1期生が卒業したばかりです。全員が進学を希望するわけではなく、ディプロマを取得した最初の卒業生は3人、そのうち経営者を志望する子どもが2人で、もう1人は小説家志望です。それぞれイギリスと日本国内の進学先に進みましたが、国内の大学に進んだ1人は今夏にアメリカに留学しましたので、比率で言えば2/3が海外にいるということになります」

 

中村氏:「中学校に進学してくる子どものほとんどが海外志望です。本校では、小学校5年生でのニュージーランドへの3週間の留学が必須で、中学3年生では1年間の留学が全世界から選べます。それで海外に行きたいと考える子どもは多いです」

 

石戸:「それは異文化に触れてみたいという視点からですか。あるいは留学体験の結果、『海外のほうが過ごしやすい』、『自分らしく生きやすい』と感じて海外を選択されるのでしょうか」

 

世良田氏:「過ごしやすいというより『こういう道に進みたい』という目を持って留学先から帰国して高校に進む子が多いですね。そこに多くの学びがあるとか同じ志を持った同世代の子が多いとか、もう少しそこでチャレンジしてみたいとか理由はさまざまです」

 

ただ、『それでも日本が好き』という気持ちも強く感じます。日本より海外という意識ではなく、そこにより良い学びがある、より多様性を知りたい、チャレンジしたい、その準備が今できている、という認識だと思います」

 

石戸:「幼少期からバイリンガル教育を行うことで選択肢が広がった結果として、そのような進路もあるのだと思います。一方で、『バイリンガルでの学習は、単一言語での学習の倍の時間がかかって遅れてしまいませんか』という質問もきています。どのような工夫をされていますか」

 

世良田氏:「本校の子どもたちは、国籍は多岐にわたりますが、家庭内の第一言語はほとんどが日本語で、学校でも思考力を深めていく言語として日本語を推奨しています。授業のボリューム数では日本語・英語が半数ずつですが、例えば探究学習について家庭内と保護者と深掘りしていくのは日本語で、それを英語でも同じようにデリバリーできるようにトレーニングしていく、というイメージです。

 

しかし、漢字書き取りのトレーニングや繰り返しで積み重ねていく学習など、保護者のご理解のもと、家庭学習でサポートいただく部分もあります。そういう意味では、幼少期から自分でタイムマネジメントを行い、家庭で自己学習するトレーニングも結構やっています」

 

石戸:「限られた時間の中で取捨選択を工夫されているようですが、『独自のカリキュラムを構築する際に重視したのはどういうポイントか』という質問もきています。合わせて『探究的な学習が多いと想像しますが、具体的にどのような取り組みをされているのか』という質問についてもお答えいただけますか」

 

世良田氏:IBには、PYPPrimary Years Programme)という9年間のカリキュラムのフレームワークがあり、その中で大きく6つのテーマが定められています。PYP認定校には、それを落とし込んでセントラルアイデアを決めていくPYPコーディネーターというスタッフがいて、彼らが軸になってカリキュラムを決定しています。

 

実際の授業は、例えば『人々の選択が世の中を変えていくこと』の学びであれば、子どもたちはまずコンビニエンスストアや24時間スーパーなどに問題を探しにいきます。そこで『弁当が売れ残ったらどうするのか』と漠然と思うところからフードロス問題に気づき、子ども食堂や寄付などフードロス削減を目指す各社の活動を知って、そういうところへ聞き取り調査に行きます。先生方はそういう情報の探究サイクルを後押ししながら課題をチーム分けして深掘りしていきます。

 

その中でフードバンクの存在を知ると、次は『私たちもやってみよう』と学内で食料を集めるアクティビティを考えます。食料を集めるのは、学内ならポスターやクラスへのお知らせでもいいけれど、お父さんお母さんには知らせるには魅力的な映像を作った方がいいかも、などとグループごとに考えていきます。食料を集める方法も、学内にあるハウスシステムごとにした方がみんな頑張るかも知れないなどと、マーケッター的なアイデアが出てきます。

 

こうして約6週間かけて、子どもたちが問題提起し、知り得た情報を元に何ができるのかを考え、アクションを起こすまでの一連の探究学習を行います。これを両言語で行うサイクルが、1年生から6年生まで毎年繰り返される感じです」

 

中村氏:「言葉で説明すると難しいですね。時間があればみなさん学校に見学にお越しください」

 

石戸:「子どもたちには得意・不得意がありますし、『子どもたちには凸凹もある』というお話もありました。次の質問は『探究型の学習でもついていくのが難しい子どもたちへは、どのように対応されていますか』というものです。いかがでしょうか」

 

世良田氏:「そこは非常に力を入れているところで、学内にはラーニングサポートとスチューデントサポートという2つのサポートチームがあり、それぞれに個別の部屋を用意しています。

 

ラーニングサポートは、ゆっくり学ばせるなど特殊な状況を用意した方がいい子どもに、状況次第で先生がサポートするチームです。一方のスチューデントサポートは、より子どものメンタルを重視していて、家庭環境や発達の凸凹によって学びに集中できないケースでカウンセリングがよいのか、それともアセスメントを行って進めていくのがよいのかなどを考えます。こちらの部屋には、子どもを落ち着かせるために卓球をするスペースや各種ボードゲーム、子どもを集中させるヘッドセット、ストレスボールなどを用意しています。

 

これとは別に、最初に全ての教室で『みんな違ってみんないい』ことを教えます。教室で自分と違う学び方をしている子がいても、それもその子の学び方だということを理解させ、持ち上げたり、イジッたりしない文化を作るところからスタートしています。それもあって先生対生徒の割合が41と異例の高さになっています」

 

石戸:「本当にインクルーシブ教育を実現されているのですね。最後に、この素晴らしい学びの場を、願わくはすべての子どもたちに届けたいという思いからお伺いします。

 

子どもを御校に通わせたいものの、学費の問題が高いハードルになっている保護者は多いと思われ、『この学費は払えないが、こういう学びを必要としている子どもたちに届く何らかの方法を考えている、もしくは今後考える可能性はあるか』という質問も届いています。御校では自らの役割をモデル的な素晴らしい学びをつくり、現状を打破することにあるととらえているかも知れませんが、今後の展開で何か考えていることはありますか。

 

また、御校が自らやらなくても、他の学校に対して何らかのアドバイスをすることで変わってくる面もあると思います。日本の公立学校について、ここが変わるとよいのではないかと主張したいポイントについても合わせてお伺いできますか」

 

中村氏:「まず、本校に通う全ての方が裕福というわけではありません。授業料を払うためにパートで働いているお父さんお母さんもいます。また、小学校以上では優秀なお子さんへの奨学金や授業料免除の制度もあって、特に、その子がいることで学校やクラス運営に良い影響を与えてくれる子どもは奨学金で優遇しています。

 

私たちの役割は、株式会社として、学校法人ではできないことをやることです。株式会社だからこそ圧倒的な結果を出せることを世間の皆様にご理解いただき、モデルにもなり、公立学校の普通の子どもたちが誰でもこういう教育を受けられればよいと思います。そのためにもぜひ見学にお越しください。

 

アドバイスとしては、まず、少人数にすること。少人数なら子どもに目が行き届きます。それと学校にきちんとカウンセラーを置くこと。カリキュラムに取り組むよりもこちらが近道かも知れません」

 

石戸:「少人数という意味では、先ほど、大人と子どもの比率が41と仰っていましたね」

 

世良田氏:「公立学校で生徒数が過剰なところは可能な範囲で少しでも減らしていくことが大事です。それから、ウェルビーイングの観点から教員も含めた心の学びを導入していくことや、教員のみならず保護者教育も躊躇せずに続けていくことで、少しでも多くの大人や家族が救われていけば、ジェネレーションで変化をしていく可能性もあると思います」という世良田氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

 

▲ 写真2・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

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