概要
超教育協会は、2022年2月2日、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パブリックセクター シニアマネジャーの町田 幸司氏を招いて、「デジタル人材育成とNextステップ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、町田氏がICTを活用したデジタル革新(DX:デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けてどのようなデジタル人材が求められているのかを解説。後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その前半の模様を紹介する。
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「デジタル人材育成とNextステップ」
■日時:2022年2月2日(水)12時~12時55分
■講演:町田 幸司氏
デロイトトーマツコンサルティング合同会社
パブリックセクター シニアマネジャー
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
町田氏は約30分の講演において、求められている人材像について、「単にデジタルのスキルや知見を持つ人材ではなく、デジタルとビジネスをかけ合わせて新しい価値を生み出せる人材である」と語った。主な講演内容は以下のとおり。
【町田氏】
今、日本のデジタル競争力は落ちています。世界のデジタル競争力ランキングを見ると、日本は一昨年の27位から昨年は28位に後退しています。人材の部分でも年々下落していて、2021年は64カ国中47位。さらに指標別に見ていくと、デジタルテクノロジーのスキルの部分では62位、デジタルデータの利活用では63位。ほぼ最下位という非常に危機的な状況というのが、ランキングで明らかになっています。
▲ スライド1・日本の
デジタル競争力ランキングは
低迷したまま
デロイトで企業向けに調査を行ったところ、企業において従業員がデジタル関連の知識やスキルを習得する機会が「ない」と答えた人が8割から9割でした。まずは、デジタル人材を育成する環境を整え、学習機会を増やす必要があります。ただし、これまでもIT人材の教育はさまざまに実施されてきましたが、なかなかうまくいかなかったというのが実情です。その理由は、育成に注力しても、育った人材が企業の中で活躍できる場、雇用の機会がなかったからだと考えます。出口の部分がなかったことによって、IT人材の育成がうまくいかず、育てたとしても結局海外に流出してしまっていたのです。つまり、デジタル人材育成は新しい事業や新しい雇用を生み出すこととセットで推進されるべきと考えています。
▲ スライド2・ デジタル人材の育成と
雇用機会の創出はセットで行うべき
6レベルに分類されるデジタルコア人材
それでは、今、求められる人材像はどのようなものでしょうか。ひとことで言うとビジネスとデジタルをかけ合わせる人材、「デジタルビジネスプロデューサー」と呼ばれるような人材、デジタルとビジネスをかけ合わせて新しい価値を生み出していける人材です。DXの本質とは、「データから新しい価値を生み出していける組織へと変革していくこと」なので、デジタルの部分とビジネスの部分のかけ合わせが、人材育成の重要ポイントと思っています。
▲ スライド3・デジタルとビジネスを
かけ合わせる人材が求められる
このような問題意識を持つなかで、デロイトが参加している超教育協会の「超大学ワーキンググループ(WG)」では、まずデジタル人材のレベルを整理しました。レベル0から4までの5段階に分け、レベル0を非デジタル人材、レベル1からレベル4をデジタル人材としました。ここでレベル4と定義しているデジタルリーダーは、CSO(最高戦略責任者)やCDO(最高デジタル責任者)など経営においてデジタルを使う人です。DXを推進していくコアとなるのは、レベル3のコア人材と呼んでいる、デジタルとビジネスをかけ合わせることで新しい事業なり価値を創造できる人材。これを育成することが最重要です。このデジタルコア人材を輩出する層として、デジタルコア人材をサポートする人材がレベル2。デジタルリテラシーを持っている層がレベル1で、デジタル基礎人材と呼んでいます。このようにレベルを定義して、まずはレベル3の層をしっかり作っていく。そしてデジタルコア人材を輩出するためのレベル1のデジタル基礎人材に注力していくのがポイントだと考えます。
▲ スライド4・デジタル人材の
レベル分けと定義
そのなかで、今回WGではデジタルコア人材の定義をしました。大きく6つのタイプがあります。ビジネスプランナー、データサイエンティスト、UI/UXデザイナー、デジタルアーキテクト、AIエンジニア、サイバーセキュリティスペシャリスト。ここを、デジタルを推進していくコア人材として定義しました。
次に、この6つの人材の具体的な職務内容について整理しました。ビジネスプランナーは、デジタルビジネスプロデューサーの先陣を切るような方で、ビジネスの課題を解消しながら新しいビジネスモデルを作っていきます。プロジェクトマネージャーとしてステークホルダーを巻き込んでいくような人材が、ビジネスプランナーです。さらにデータから新しいインサイトを見いだしていくデータサイエンティスト。顧客体験やインターフェースの向上に取り組むのがUI/UXデザイナー。さらにシステム全体のアーキテクトを構想し、開発を推進していくデジタルアーキテクト。その中でもAIに専門性を持ったAIエンジニア。さらにインフラ全体を支えるサイバーセキュリティスペシャリスト。こういった形で6つの人材の職務定義をしました。
▲ スライド5・6つの
デジタルコア人材の定義
DXの推進には求められる人材像とその役割を明確化することが大切
次にこれらの人材がDXを推進するにあたって、どのような役割を果たすのかを説明します。DXのアプローチは色々ありますが、構想の策定から実証検証、本格導入,、運用を繰り返しやっていくのがDXのアプローチです。構想策定のところではビジネスプランナーが推進していきながら、どんなインサイトが得られるのか、そのためのデジタル基盤に落とし込むためにどういった設計をするべきなのかを、データサイエンティスト、UXデザイナーが協議します。
本格的なデジタル基盤を整備していくとなると、デジタルアーキテクトやアプリケーションのためのAIエンジニアがリードします。全体のセキュリティバイデザインを考えて、インシデント対応するのがサイバーセキュリティスペシャリストです。このような形で、それぞれの職種が各フェーズにおいてどのような働き方をするのか整理できます。もちろんビジネスの現場や開発の現場では、この通りに綺麗にいくものではないと思っていますが、どんな人材が必要なのか、どんな人材に活躍の場があるのかを整理するには有効であると思っています。
▲ スライド6・6つの
人材タイプの関係性
一方、デジタル人材育成に向けた政府の取り組みはどうなっているでしょうか。経済産業省の「デジタル時代の人材支援策に関する検討会、実践的な学びの場ワーキング」の中で示されていますが、デジタル社会においては、ビジネスパーソン全体がデジタルリテラシーを身に着けて、DX推進人材になっていくために、リカレント教育が必要という問題意識が整理されています。
▲ スライド7・
デジタル人材における政府の見解
そのなかで求められるDX推進人材として、ビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、エンジニア・オペレーター、サイバーセキュリティスペシャリスト、UI/UXデザイナーを挙げており、政府としてもDX推進人材を整備していくという動きになっています。また、全てのビジネスパーソンについて、小中高等学校における情報教育の内容に加え、ビジネスの現場でもデジタルの技術を使うことができる基礎的なデジタルリテラシーを習得していくことが重要であるという議論をしています。
▲ スライド8・ 政府の掲げるDX推進人材
デジタル人材の育成とビジネス拡大は企業のDXを加速する両輪
こういった議論を踏まえて、政府ではデジタル田園都市国家構想の全体像を示しています。2026年までに230万人のデジタル人材を確保するという目標を掲げており、政府でもデジタル人材の育成にかなりドライブがかかってきていることが分かります。
この230万人をどう達成するのか。新社会人と現役の社会人がまずはしっかりデジタルリテラシーを身に着けてリテラシー人材となり、そこからより専門的なスキルを習得し、最終的にはビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、エンジニア、サイバーセキュリティスペシャリスト、UI/UXデザイナー全体で230万人を育成することを目指しています。
▲ スライド9・デジタル人材
230万人実現に向けて
デジタル人材の母数を増やしていくという意味でも、リテラシー人材をどこまで増やすことができるのかがポイントです。昨年12月に経済産業省で新たにデジタルスキル標準検討会が立ち上がって、日本人が身に着けていかなくてはならないデジタルリテラシーとは何かを検討しています。
DX推進人材に加えて、デジタルリテラシーをビジネスパーソンが身に着けていくことが重要ですが、企業においても、デジタルコア人材だけがいてもDXはなかなか進まないのが現状です。クライアントに接しているフロント部隊がデジタルリテラシーを上げていかないと、デジタルコア人材の出してくる新しい価値を受け止められず、クライアントに提供できないので、デジタルコア人材の質、量の向上はもちろんですが、デジタルリテラシー教育によるフロント部隊の底上げも大事です。
これらを実践することで、顧客へのアプローチが加速していき、クライアントの要望にも応えられます。さらにクライアントの要望により高く応えるために、デジタルコア人材のチームがレベルアップしながらどんどん新しい価値を生み出して、それをまたフロント側に提供していくというように、人材の育成とデジタルを活用したビジネスの拡大は両輪で動いています。こういった取り組みを進めて、企業の中でDXが推進した結果、社会・経済へのインパクトが拡大していくと考えます。
▲ スライド10・人材育成と
デジタルを活用したビジネスは両輪
デジタル人材育成と地域産業の創造をセットにしたデロイトの取り組み
ここまで、デジタル人材の育成についてと、組織の中で変革を起こしていきながら新しいビジネスを作っていけるDX組織にどうすればなれるのか話してきました。ただし、こうした取り組みは、例えば地方の中小企業などでは実践するのが困難な場合があります。そこで、Nextステップとして、デロイトが進めているADXO(Area Didital Transformation Organization)構想について紹介します。
これは、人材の育成と地域の産業の創造をセットにした取り組みです。デジタル人材の育成だけではなく、地域側に産業を作って実践訓練の機会や雇用の機会など、出口の部分をセットで提供することによって、人材の高付加価値化と労働移動の実現を目指しています。ADXOという組織を地域に作って、地域の産業とDXをセットで進めていくコンセプトを提唱して、実際に取り組みを行っています。このADXOという言葉は、政府に地域包括DX推進拠点という言葉で骨太の方針に記載されています。政府の中でもこういった拠点を整備していくことに対する支援が進められています。
▲ スライド11・デロイトのADXO構想
このADXO構想の具体的な取り組みとしてデロイトでは、九州経済連合会や九州大学などと連携し、地域のデジタル人材育成と産業創造にセットで取り組むコンソーシアムを立ち上げました。九州から地域のDXを始めます。人材育成はもちろん大事で、入り口なくして出口はありませんが、出口をしっかり作っていく動きを進めていかないと、うまく流れていかないところがあるので、今後は地域側の雇用を作っていくこととセットでデジタル人材育成を考えていけるとよいと思っています。
>> 後半へ続く