出席や成績へも反映させられる、不登校生がワクワクできるオンライン授業を提供
第71回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2022.1.14 Fri
出席や成績へも反映させられる、不登校生がワクワクできるオンライン授業を提供</br>第71回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2021122日、クラスジャパン小中学園 代表の中島 武氏を招いて「『旅するクラスルーム』で不登校生が日本中を縦横無尽に駆け巡る!~クラスジャパン小中学園」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では中島氏が、全国の不登校生の実態と課題、代表を務めるクラスジャパン小中学園のオンライン学習の様子、文部科学省認可の不登校特例校などについて詳しく紹介。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子氏をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「『旅するクラスルーム』で不登校生が日本中を縦横無尽に駆け巡る!~クラスジャパン小中学園」

■日時:2021年12月2日(木)12時~12時55分

■講演:中島 武氏
クラスジャパン小中学園 代表

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

中島氏は約35分間の講演において、文部科学省や内閣府の調査結果を示しながら、全国に19万人以上いる小中学校の不登校生の実態と、不登校生に対する国の制度等ついて紹介。また不登校生へオンラインで新しい学びを提供するクラスジャパン小中学園の紹介と、その延長での子どものリアル体験学習、さらには不登校特例校を転校しながら利用することと保護者のワーケーションを組み合わせた家族ぐるみの新しい生活スタイルまで、詳しく紹介した。主な内容は以下のとおり。

 

全国の小中学校には少なくとも19万人以上の不登校生がいる 大人のひきこもりとも関連

【中島氏】

文部科学省の発表では、令和元(2019)年度の小中学校合わせた不登校の児童生徒数は196,127人でした。少子化で子どもの数は減っているにも関わらず、学校を年間30日以上休んでいる小中学生は、8年連続で増えています。また、2018年の日本財団のアンケートでは、不登校中学生は10万人とされましたが、「不登校」の定義から外れる「仮面登校」、例えば年間29日休んでいる、学校の保健室で休んでいる、別室登校している、早退している生徒などがさらに33万人いました。つまり、合計43万人の生徒がまともに授業を受けていないことが明らかになりました。

 

さらに、内閣府の2015年の調査資料では、1564歳の人口のうち、「本当は働き盛りのはずの大人たち」を含めて110万人がひきこもり状態にあることが分かりました。内閣府からの依頼で、クラスジャパン小中学園では不登校とひきこもりの因果関係を調べました。すると、学校という社会と結びつきが薄い児童・生徒は、大人になったときに社会と関わることを苦手とする傾向があることが分かりました。不登校は大人のひきこもり予備軍になることが分かり、国も対策を考え始めたところです。

 

不登校の原因について、この30年間で原因は増えています。10年程前までは、友人関係や先生との関係、学業の問題など、原因がはっきりしていました。最近では「なんとなく」「学校が面白くない」など、はっきりしない理由で不登校になる子が増えています。また、以前は学力が少し劣っている子が多かったのですが、今は一つの分野に特化した能力がある「ギフテット」など、優秀な児童・生徒の不登校も増えています。

不登校は「問題行動」なのか?「支援」よりも能力を伸ばすための新しい教育を

こうした傾向から最近では、不登校は問題行動ではなく、その児童・生徒が集団での授業は面白くないと感じて学校になじめない時期、自分の能力を伸ばしたいと思う時期なのだ、そういう子や親御さんが増えてきました。基本的な不登校対策は、その児童・生徒を支援することだという考えから、学校では発揮できない能力を伸ばすことが重要なのだという考え方に変わってきているのです。

 

▲ スライド1・学校側は支援が必要と捉えているが、
孤立させずに能力を伸ばす策が求められる

 

しかし学校現場の教職員の業務は、授業だけでなく保護者との関係、教員としての勉強会など多岐に渡ります。学校が物理的にサポートできないため、不登校生やそのような児童・生徒を持つ家庭は孤立してしまい、大きな問題になっています。

 

▲ スライド2・学校現場は、不登校児童生徒へ
「支援」以上の対応をする物理的余裕がない

 

不登校に対する国の取り組みを振り返ると、平成172005年)には文部科学省が「学校に行きたくない時期もあることを認めましょう、そういう時期には休養も必要ではないですか」という、大きな方針転換をしました。文部科学省の制度は「学校に戻ることを前提に、休養してもよい」から、さらに令和になって「必ずしも学校に戻らなくても、学校以外の学びも認める」方針になりました。学校以外の場所での学習権を認め、出席扱いとし、成績として認めることになりました。保護者の方は非常に安心されたと思います。

 

実際に出席扱いになっている児童・生徒は、フリースクールや教育支援センターなど学校以外の場所で24,260人います。自宅で学んで出席扱いになっている児童・生徒は2,626人です。しかし196,127人のうちのたったこれだけです。文部科学省の学習権を認められて安心できている児童・生徒は、まだまだ少ないのが現状です。

学校ができないことを民間企業がサポート 個別最適化した学習、部活、体験活動をオンラインで提供

学校が忙しくて手が回らないなら民間がサポートしましょうということで、2018年に財団を作り、2019年にオンラインスクールを作りました。我々は通信制高校に携わっていましたので、遠隔での学び方のノウハウを小中学校にも活用できます。民間のクラスジャパン小中学園がオンラインで学習サービスを提供し、文部科学省の制度のとおり、自宅での学びを学校が認めるように学校とも連携し、進路の不安もなく多様な学びを作っていく取り組みを行っています。

 

▲ スライド3・学校と連携して学習サービスを提供する
「クラスジャパン小中学園」

 

クラスジャパン小中学園では、国語や数学などの教科学習はすべて映像授業です。リクルート、すららネットなど学校の教科書を映像授業にした教材をお借りして、学校に行かなくても学校の教科書に準拠した授業を受けられるようにしています。

 

みんなと一緒の授業はちょっとつらい子もいます。自分のペースでどんどん学べるほうがよい子もいます。中学1年生で中学23年の内容まで進む子もいますし、逆に中学1年生で小学校に戻るのもよい。いわゆる個別最適化です。

 

▲ スライド4・教科学習は、民間企業が提供する教科書に
準拠した
映像授業を活用、配信する

 

プログラミングの授業は、サイバーエージェントなどのIT企業のプログラミング教材を使います。自分たちでゲームを作りながらプログラミングを学べる、学校も認めやすい授業です。

 

学校は勉強だけではなく児童生徒同士の関わりも大切です。クラスジャパン小中学園では、オンラインの「ネット部活」で北海道、東京、沖縄と集まった児童生徒がプロゲーマーの先生とゲームをしたり、声優部では東京のプロの声優が教えたりなど、部活動も実現しています。

 

▲ スライド5・各部の顧問はその分野の専門家。
全国の児童生徒が参加するネット部活もある

 

Zoomのオンライン体験活動も人気です。月2回、国内外で実施しています。エジプトのピラミッドの体験では、提携しているガイドがカメラを持って、現地から生中継します。

 

▲ スライド6・オンライン体験活動は、
世界各地からの生中継を自宅で見られる

 

クラスジャパン小中学園の児童生徒たちは、自宅からここへ入っています。映像を見ながらガイドさんに質問するなどして、非常に楽しんでいます

 

ネットの担任の先生もいて、毎日、声掛けします。学習計画も立てて、「勉強頑張ろうね、今日はエジプトに一緒に行こうね」と、児童生徒を不安にさせないメンターの役割もしています。保健室もあります。全国の医師のネットワークにより、内科、外科、婦人科、心療内科などがあり、保護者から質問もできます。

 

このように、クラスジャパン小中学園では、とにかく不安を取り除き、学校でやっていることをすべてオンラインで実現しています。

コロナで全国休校になったとき「うちの子、学校でみんなと一緒に学ぶよりも、自分のペースでゆっくり学んだほうがよいのかも」「そういう時期かも」と感じられた保護者の方もいたと思います。それに対応できる学校です。

 

児童生徒が学んだ内容は、ネットの担任の先生がレポートにして在籍学校に渡します。すると文部科学省の制度のとおり、出席や成績に反映されます。

 

▲ スライド7・クラスジャパン小中学園での
学習レポートを在籍校へ渡し、出席と成績に反映

 

我々は、学校、教育委員会、文部科学省と常に連携し、学校以外の学びも正式な学びとして認めてもらう活動をしています。現在860人ぐらいの生徒がいますが、うち80%ぐらいが出席扱いにされています。

 

そして半数は学校に戻っています。我々が手を引っ張って無理矢理学校に来させなくても、子どもたちは自宅で自分のペースで学んで、自宅で部活に参加して、自宅でエジプトに行って、元気になって自信がついて、自分を見つけ出して孤独にならなかったら、自然に学校に戻ります。

経済産業省の「未来の教室」実証事業に17自治体が参加 「出席・成績反映のためのガイドライン」作成

クラスジャパンはさらに、経済産業省の「未来の教室」の実証事業として、全国17市町村の教育委員会と合同プロジェクトを立ち上げました。自宅で学んでいる児童生徒を学校でどう出席、成績に反映させたらよいのかのガイドラインを作り、20216月には1,741の自治体に提供しています。一つの自治体や一つの民間企業ができることは限られていますので、多くの自治体教育委員会と、公だけでなく民間の教育機関も力を合わせることが大切であると考えます。

 

学校は、社会の基礎となる人材を育てるためにバランスのよい教育をします。しかしギフテットのような特定のある方面に能力が高い子を伸ばすことは、なかなかできない構造です。そこで我々は教育委員会と民間一体となり、子どもたちに「やってみたい」と思うきっかけを与える無償プラットフォーム「クラスジャパンWillパーク」を始めました。

 

▲ スライド8・オンライン体験活動で
ワクワクを提供する「クラスジャパンWillパーク」

 

日本ではサンリオピューロランドにも行きました。また北海道の流氷を見せようと、紋別市教育委員会の方々と一緒に流氷船に乗りました。「不思議な大人から学ぶオンライン講座」は、子どもたちに「えっそんな大人がいるの、そんな生き方をしてもよいの」と気づいてもらうためのキャリア講座です。学校をきちんと卒業して働くことが正しい社会人だと思っている子どもたちに、そうではないことを大人たちから伝えてほしいと思います。

 

▲ スライド9・子どもたちに「わたしのなりたい」を
見つけてもらうオンライン講座

 

今学校に行っていなくても、自分で好きなことを見つけて伸ばしていくことが、社会に役立つことなのだと気づいてくれたらよいと思います。

 

オンライン体験活動とオンラインキャリア講座は、全国の教育委員会に無償で提供し、全国の学校で共有できるようにしていきたいと考えています。「エジプトに行ったらしいね、エジプトのこと先生に教えてよ」「面白い大人の話を聞いたのだってね、先生にも教えてよ」と、児童生徒がどんなことに興味を持ったのかが分かり、その興味を伸ばすために、例えば「もう少し英語の勉強を頑張ってみよう」「歴史を調べてみよう」といった、学校教育の行動を促すようなアドバイスもできます。

本題の「旅するクラスルーム」 一定期間「やりたい/なりたい」に没頭できる環境を提供

旅するクラスルーム」では、加賀友禅の職人の絵付けの現場を自宅にいる子どもたちにオンラインに見せたところ、「やってみたいなぁ」という声が出てきました。そこでその話を翌日、金沢市長にしたところ、「ぜひリアルで来てもらおうじゃないか」となったため、全国の不登校の子の中で、加賀友禅と九谷焼に興味がある児童・生徒に向けた宿泊型のツアーを組みました。それが「旅するクラスルーム」です。2021年12月15日~18日に開催されました。

 

観光向けの体験講座なら1日1時間程度ですが、この3泊4日の「旅するクラスルーム」は、期間中ずっと没頭させます。一つのことを尖ってやりたい気持ちを、とにかく行動に移して伸ばして行こう、通知表の他はオール1でひとつだけ5、それが加賀友禅でもよいわけです。

 

▲ スライド10・「やりたい/なりたい」が見つかったら
実際に体験してみることが本題

 

このツアーは小中学生向けで、保護者も同伴します。金沢市は、「ワーケーション」の事業に力を入れており、同伴した保護者はワーケーションの施設を使ってリモートワークもできます。加賀のコミュニティの中で暮らす体験もできます。「ワーケーションがなかなか広がらないのは、子どもがいるから」と言われますが、今回は違います。子どもがやりたいことがある地に親も一緒ついてきて、ワーケーションして暮らせます。

 

旅するクラスルームは、オンライン学習の先にリアルの体験があり、そこへさらにワーケーションをつなげるプロジェクトです。子どもたちが作った作品は、全国にオンライン発信することで、地域の文化の発信にもなります。

 

▲ スライド11・「旅するキャンパス」は
オンライン学習とリアルな体験学習の融合

不登校の児童生徒にふさわしい教育を自由に提供する 不登校特例校は全国に17

この話を聞いて「うちもやりたい」という自治体が増えています。学校教育に文化継承や地方創生の文脈も加わったことで、地域の方々も加わってきました。34日より長く滞在してほしい、加賀友禅に興味があるのなら、半年~12年移住してそこで学んでほしいという話も出ています。家族での移住のトライアルにもなったらよいと思います。

 

「不登校特例校」は、不登校の子どもたちにふさわしい教育を自由にしてもよいという、文部科学省の裁量のある制度です。現在全国で17校あります。この制度を活用すると、地域の特性を生かした「そこでやりたい」教育に特化できますので、「地域特例校」という言い方もできると思います。例えば加賀友禅を徹底的に学ぶ学校や、農業に若い力を誘致したい東北の地域でIT農業に特化した特例校も作れます。学ぶ側は、期間は1カ月でも半年でも1年でもよいため、加賀友禅を学んだ後に東京に戻り、その後秋田に転校してIT農業を徹底的に学ぶといったような生活もできます。

 

▲ スライド12・「不登校特例校」を転校しながら
家族で転々と移住する地域創生型プロジェクトも

 

北海道で北海道でしか学べないことを学んだあとは、沖縄で沖縄でしかできないことをやろう、根本は子どもの教育です。それを家族で各地に1年間ずつ移住して、親はリモートワークする、場合によってはその地域の職業もあります。我々は、自分の生まれた地の学校に行かなければならい仕組みを、今の制度のまま新しい生活スタイルに変えてあげたいわけです。

 

転校の手続きに関しては、昔から区域外就学制度があります。例えばいじめに遭ってその地域の学校に行けなくなったら、住民票は移さず隣町の学校に行ってもよい制度です。平成になってからは、地方創生の文脈で拡大解釈できるようにと文部科学省の設計が変わりました。地方への一時的な移住や2拠点居住のために、住民票を移さなくても転校できるようになっています。学校に行きづらい時期だけでも他地域に移住してやりたいことを見つけられる、新しい生き方ができる仕組みです。

 

私は、自治体、教育委員会、民間のまちづくりをしている方々と官民連携の話をします。教育のことだけではなく、家族の暮らし方の話であり、ワーケーションは人口流動につながって、地方創生になる話だからです。「今の義務教育を変えなければ」と批評したり評論家になったりする必要はなく、今の制度のままで、新しい選択肢を広げてあげればよい。不登校についても、すべてを教育現場にお願いするのではなく、民間企業や地方創生の省庁や議員の方々、皆が参加して、新しい暮らしや学び、義務教育の根本を一緒に作っていくことができればよいと思います。

 

▲ スライド13・「多様な学び+多様な働き方
=多様な生き方の選択」を提言

 

>> 後半へ続く

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