概要
超教育協会は、2021年11月10日、株式会社e-Craft 代表取締役CEOの額田 一利氏を招いて、「デザイン思考を用いたCtoCプラットフォーム教育〜embotによるプロトタイピング体験〜 」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半は、額田氏がプログラミング教材「embot」開発の背景などを紹介。後半には、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに視聴者を交えての質疑応答を実施した。その模様を紹介する。
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「デザイン思考を用いたCtoCプラットフォーム教育
~embotによるプロトタイピング体験~」
■日時:2021年11月10日(水)12時~12時55分
■講演:額田 一利氏
株式会社e-Craft 代表取締役CEO
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
額田氏は約30分の講演において、代表を務める 株式会社e-Craftが提供しているプログラミング教材embotの開発背景や、子どもたちのためのデザイン思考を用いたCtoCプラットフォームについて解説した。おもな講演内容は以下のとおり。
【額田氏】
株式会社e-Craftでは、プログラミング教育サービス「embot」を開発、提供しています。embotは段ボールのロボットの制作キットで、自分で組み立ててプログラミングをして、モーターを動かす、ライトをつける、ブザーを鳴らすといったことができます。最初は単純なロボットですが、日々の暮らしや身の回りのものをヒントに創意工夫して、「ものづくり」をする内容です。
▲ スライド1・自分でプログラミングして動かす
ロボット「embot」
2021年にもembotのアイデアコンテストを実施しました。天気予報の情報を使って明日に着ていく服を選んでくれるロボットや新型コロナウイルス感染症の状況から外出を控えるようにアラートを出してくれるロボットなど色々なアイデアが生まれています。
研究に没頭していても常に感じたのは「誰かを喜ばせたい」という思い
embotを開発した背景には、「誰かを喜ばせたい」という思いがありました。NTTドコモの研究所に在籍していた頃は、研究が誰かの役に立ち、喜ばせているという実感を得ることが難しく、むなしさを感じていました。例えばミュージシャンや野球選手にはファンがいます。NTTドコモの同期入社の仲間はユーザーを喜ばせていました。誰かを喜ばせている仕事をしている人が周りにいて、そういう人たちを横目で見て、自分の研究をむなしく感じていたのです。ほとんどの社会人が「誰かを喜ばせていた」からです。
誰かを喜ばせたいという思いがあるのに、喜ばせている実感がなかったから「むなしかった」のですが、それでは「どうやって喜ばせたらよいのか」を教わった記憶がありませんでした。私が受けてきた教育や勉強は、四則演算や電気とは何かから始まって、算数が数学になり、化学反応とエネルギーを勉強し、大学ではリチウムイオン電池や燃料電池の研究をしていました。それから数学と化学を専門とする社会人となり、エネルギーをどう最適化するか数学を使って計算し、携帯電話の基地局のアンテナ装置に取り入れるといったことを手がけました
た。
▲ スライド2・これまで勉強してきたこと
「どうやって誰かを喜ばせたらよいのか」がわからず、それなら研究のかたわら、趣味で新規事業を立ち上げようと考えました。そこでポイントになったのは、企業における新規事業創出やembot立ち上げのステップは、研究所時代に事業を進化させていったステップとは違うということでした。研究時代のステップは、学校で勉強して知識をつけて、企業でも勉強する。それを使って学会、特許、論文などでアウトプットして、研究を実用化します。
▲ スライド3・研究所で事業を進めるステップ
こうした研究所のステップと新規事業立ち上げのステップは大きく異なります。新規事業の立ち上げやembot立ち上げのステップは、まず市場、ニーズの分析から始まります。企業はお金を儲けることができないと、継続的に活動をすることができません。そうなると、多くの人に商品やサービスなどを「使ってもらう」ことが大事になるので、まずは市場やニーズの分析をして、次に不足知識を勉強するというステップになります。大学時代の専門的な知識だけでなくて、不足している知識を勉強し、それらを使って商品やサービスを創出します。そのサービスを実際にお客様に使ってもらって、そこからフィードバックが返ってきて、またニーズ調査して市場分析してといったサイクルが回り出します。提供者と消費者
のサイクルが回るのです。
▲ スライド4・embot立ち上げのステップ
ニーズから考える「デザイン思考」を子どもたちが学べるようにembotを立ち上げ
「シーズとニーズ」という視点では、シーズとは、使ってもらう人に対する「つくる人目線」です。つくる人から使う人へのベクトルです。このことから「シーズ志向」とは、「誰にも負けないすごいものを生み出せるから提供しよう」という研究所での考え方に近いといえます。一方、使う人も気づいていない「潜在ニーズ」を掘り起こすのがニーズ志向です。
▲ スライド5・シーズ志向とニーズ志向
ニーズ志向とは、潜在ニーズを掘り起こすことで、つまりは「市場分析」です。新規事業創出やembot立ち上げのステップと重なります。使う人のことを考えながらフィードバックしてモノづくりに発展させていくステップです。
シーズ志向のステップ、つまり「研究所でのステップ」は学術的であり、これまでの教育を突き詰めていった先にあるものといえるでしょう。一方でニーズ志向は、社会人に必要なステップでありながら、これまでの学校教育で受けた記憶がなく、学校教育において積極的に教えられてきたものではないといえるでしょう。そのこともあって、個人的には社会人になって初めて、「お金が儲けられるものを考えろ」、「多くの人に使ってもらえるものを考えろ」といったことを急に言われ始めたという印象を持っています。学校教育では教わらなかったので、企業に入ってから「面食らった」ことが多かったのです。
▲ スライド6・ニーズ志向が社会人で必要なステップ
そこで、潜在ニーズを掘り起こすというステップ、物事を作り上げていくというステップを若い段階で経験できたほうが良いのではないかと考えました。それが、「デザイン思考」という潜在ニーズを掘り起こす手法を若いうちから勉強できたらよいのではないかという考えに繋がり、embot、プログラミングスクールのembot creative labを作りたいと思い立ったのです。
「つくる力コース」と「考える力コース」でシーズ志向とニーズ志向の両方を学べる場を
embot creative labには「つくる力コース」と「考える力コース」があります。つくる力コースでは、embotを使ってモノづくりをします。保護者向けには、「サーボモーターを学ぶ」など、子どもたちが学んだことを詳細に説明している解説書を用意しています。考える力コースはデザイン思考のテキストです。例えば人を喜ばせるためにどんなものがよいのか観察したりインタビューしたりする時に、どういう視点でやればよいのか考えます。考えていること、見ていること、聞いていることから分類しながら情報収集していくとニーズが見えてくるという、考え方やマインドセットを取り入れています。つくる力コースでプログラミングの技術を身に着けるのがシーズ志向で、ユーザーから色々なものを発掘していく考える力がニーズ志向です。シーズ志向とニーズ志向を両面的に勉強できる場所を作りたいと考えています。
▲ スライド7・embot creative labの
カリキュラム(原稿段階)
私が以前在籍していたNTTドコモは、通信インフラという他の人がなかなか真似できないシーズを持っていて、加えて情報化社会とか世の中的な動向のニーズも持っていました。これらが両方揃っていたのがNTTドコモの強みといえるでしょう。シーズ志向とニーズ志向の両方を備えるのが理想的です。従来の教育とあわせて、プラスαで「考える力コース」で子どもたちがニーズ志向を意識したり、体験したりしながら学ぶことを大切にしたいと考えています。
今後はニーズ志向、デザイン思考を子どもたちの教育に入れていくだけはなく、さらにその先の考えも持っています。それが、CtoCプラットフォームの構築です。今はつくるのが大人で、それに対して子ども向けサービスを使うのは子どもです。大人が子ども向けサービスを開発・提供しているケースが多いのが現状です。今後は、「つくる立場」であり「使う立場」でもある人たちが、CtoCの形になっていくのが重要だと考えています。ユーザーとユーザーがつながり、つくる人と使う人の垣根のないプラットフォームです。お互いにコンテンツを供給し合う状況があると、創り手になった時に使い手のことも意識できます。embotを活用するCtoCプラットフォームを実現したいと考えています。
▲ スライド8・つくる人と使う人の垣根がない
CtoCプラットフォーム
embotという制作キットでロボットをつくるだけではなく、その先にある考える力とつくる力を組み合わせることで、embotというキットで日々の暮らしの課題解決の一助となるようなソリューションまで生み出せるような、そんなことまでを視野に入れて取り組んでいきたいと考えています。embot creative labはプログラミング教室にとどまらない、企業におけるR&D部門に近いようなイメージで発展させていきたいと考えています。名称をembot creative labとしているのはその想いがあるからです。ソリューションをつくって終わりではなくて、フィードバックを得ることもすごく大事で、実際に人の気持ちを考えて作ったものを人にあててみることでどんなフィードバックを得られるのかもやってみたいことです。CtoCプラットフォームをつくって、embot creative labのなかで出てきたソリューションを、例えば「仮想通貨で実際に子どもたちが、子どもたちのために販売をする」ところまで実現させたい、こういった将来像をビジョンとして抱いています。
▲ スライド9・embotを使ったソリューションを
CtoCプラットフォームで販売
今はembotのロボットとしてのハードウェアの機能を増やしていき、ソフトウェアのデジタルコンテンツを増やしていくなど、embotができることを増やしています。今後は、embot creative labでプログラミングスキルを学びながらも、デザイン思考を取り入れた考える力と、つくる力を回していきたい。そこから生まれたものを、我々が用意したCtoCプラットフォーム上で、自分と似たような人たち向けに提供し、サービスを消費していくという形が若い人たちでも経験できるように実現していく、それが目指していることです。
>> 後半へ続く