概要
超教育協会は2021年7月28日、日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター事業本部 業務執行役員 文教営業統括本部 統括本部長 中井 陽子氏を招いて、「Microsoft Education が目指す児童生徒主体の学びと教育変革」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
前半では、マイクロソフトの教育向けパッケージ「Microsoft 365 Education」を活用して、児童生徒の将来を生き抜く力「Future Ready Skills」を育む教育を支援する取り組みが紹介され、後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「Microsoft Education が目指す児童生徒主体の学びと教育変革」
■日時:2021年7月28日(水)12時~12時55分
■講演:中井 陽子氏
日本マイクロソフト株式会社
パブリックセクター事業本部 業務執行役員
文教営業統括本部 統括本部長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
中井氏は約30分間の講演で、マイクロソフトの教育事業の取り組みと教育プラットフォーム「Microsoft 365 Education」の機能、マイクロソフトが無償提供している多数の教育関連コンテンツについて紹介した。主な講演内容は以下の通り。
【中井氏】
マイクロソフトは、1975年に米国・シアトルで創業しました。教育機関向けにビジネスアプリケーション「Office」をアカデミックプライスや無償ライセンスで提供するなど、IT企業の中でおそらく最も早くから教育事業を展開してきました。マイクロソフトのミッションは、かつては「全てのデスクの上にパソコンを置く」でしたが、現在では「地球上のすべての個人と組織がより多くのことを達成できるように技術を開発していく」に変わりました。教育分野におけるミッションは、「地球上のすべての先生と生徒、子どもたちがより多くのことを達成できるようにする」です。
このミッションを実現するべく、教育向けのパッケージ「Microsoft 365 Education」をクラウドサービスとして提供しています。無償版から高度な機能を使える有償版まで取り揃え、児童生徒の学びと教員の教え方、加えて教員の働き方をデジタルで改善するための支援をしています。マイクロソフトが提供する教育ソリューションの主体は児童生徒で、「誰1人取り残さない」インクルーシブな学びを目指しています。
また、マイクロソフトは、世界中のさまざまな国の教育改革に参画しています。さまざまな国のさまざまな学びを、「教育改革のためのフレームワーク」という書籍にまとめています。内容は、どんな要素を準備していけば教育改革が実際起こり、成功させられるのか、長期的に維持できるのか などをフレームワーク化して伝えるものです。日本語版も200ページほどあり、無料でダウンロードできます。
教員の方々がICT教育に取り組めるようにマイクロソフト認定の教員向け支援プログラムも提供開始から7年目になります。GIGAスクール構想に対応するために、プログラムの一部を改訂し、無償の教員研修も実施しています。
▲ スライド1・マイクロソフトの取り組みは、
生徒1人1人に対するものから
世界的な教育改革まで多岐にわたる
21世紀を生き抜く力「Future-ready skills」を育み
学びを止めないための数々の支援ツール
マイクロソフトが提供するMicrosoft 365 Educationの根本は、21世紀を生き抜く力「Future-ready skills」を育むことにあります。Cで始まる6つの力、「Communication(議論しあう力)」、「Collaboration(協働しあう力)」、「Critical Thinking(疑問を逃さない思考性)」、「Creativity(創造性)」、「Curiosity(好奇心)」、「Computational Thinking(計算論的思考)」の「6C」を掲げ、児童生徒が社会に出たときに活躍できる力を伸ばすための協働学習や探求型学習ができる、さまざまなソフトウェアを提供しています。
▲ スライド2・「Microsoft 365 Education」
の根本には、21世紀を生き抜く力を育む目的がある
2020年の日本は、GIGAスクール構想により教育現場へのICTの導入が急速に進展しました。GIGAスクール構想に対応したパソコンは300数十万台も出荷され、Microsoft 365 Educationを利用するためのアカウントも500万IDが発行されました。
Microsoft 365 Educationは、「学びを止めない」をコンセプトに、学校で使うツールをすべてワンパッケージにまとめたものです。Excel、Word、PowerPointのほか、オンライン学習に使える「Microsoft Teams」、クラウドストレージの「OneDrive」をはじめ、教員の方々の教務と校務をシンプルにシームレスに連携できるようにするツールなどが用意されています。教員の方々の校務などを効率化し、より多くの時間を児童生徒と向き合うために使えるようにするためのツールで、教育現場での「働き方」、「教え方」、「学び方」の改革を支援します。
▲ スライド3・「学びを止めない」ために、
働き方、教え方、学び方の改革を支援する
Microsoft 365 Education
「誰1人取り残さないインクルーシブな学び」を目指すために、教育版のWindowsとOfficeには、古くからアクセシビリティ機能を標準搭載しています。昨今は障壁のある児童生徒だけでなく、普通教室の中でも何かしら「チャレンジ」を抱えている方が増えています。アクセシビリティ機能を提供することで、児童生徒がより授業に参加しやすい状態を作る支援をします。
例えば「ユニバーサルフォント」は、弱視や学習障害を持つ児童生徒も授業に集中できるフォントです。PowerPoint、Word、Excel、Teamsの中でリアルタイムに字幕を表示する機能は、多言語に対応しています。日本語を、リアルタイムに多言語に翻訳していくこともOfficeでは自動的にできるのです。
「イマーシブリーダー」は、WordやOneNoteの文章を音声で読み上げ、あるいは自分が読んでいるところをハイライトします。何かに集中して理解することが難しい児童生徒の没入感を高めて読解力を上げる支援ツールです。他にも、視線制御によってマウスやキーボードを操作できる機能なども標準搭載されています。より多くの生徒を授業にインクルーシブしていく、そのためのツールの開発を今後も継続します。
▲ スライド4・WindowsとOfficeには早くから
アクセシビリティ機能が標準搭載されている
「1人1台端末」の環境が整いつつある今、
STEM教育のツールも豊富に提供
日本はこれまで、教育現場における端末の普及率が20%程度でしたが、GIGAスクール構想により、普及率が米国についで世界第2位になりました。「1人1台端末」の環境を有効活用する授業の提案として、マイクロソフトではSTEM教育に利用できるさまざまなリソースを無償で提供しています。STEM教育コンテンツを幅広く提供することで、ICTを通した探求型学習の実践を支援していく試みです。
▲ スライド5・STEM教育に活用できる
リソースも、デジタルを学べるコンテンツも、
無償で提供
例えば「教育用マインクラフト」は、仮想空間でプログラミングしたりブロックを組み立てたり、自分の想像するものを作っていくことができるゲーム要素のある教育コンテンツです。創造力、協働作業の力を支援します。
「MakeCode(メイクコード)」は、初歩的なプログラミングの学習ができるコンテンツです。さまざまなコンテンツを提供し、高校で必須の「情報Ⅰ」の授業にも利用できます。
▲ スライド6・創造力、協働学習から
プログラミング学習まで支援するツール
探求型学習のパッケージ「Hacking STEM(ハッキングステム)」は、NASAの宇宙飛行士が撮影した衛星写真や実際の自然現象などをデータ分析し、地球環境や人間の生活などを探求的に学べる教材です。世界数100カ国で使われており、日本版も今年4月にリリースされました。
▲ スライド7・Hacking STEMは、
ICTを通じて探求型学習の実践を支援する
コンテンツ
「MS Learn」は、生徒、学生、社会人も含め文系理系かかわらずデジタルを使いこなしたい方々のための実践的な学習コンテンツです。マイクロソフトの技術をすべて無償で勉強できます。授業に組み込むこともでき、実際にカリフォルニア大学バークレー校をはじめ、世界の多くの大学のデータサイエンス、データ分析の授業に採用されています。日本でもデータ系、クラウド系、IoTの授業をしたい専門学校での利用が始まっています。
▲ スライド8・マイクロソフトの技術のすべてを
無償で学べる「MS Learn」
大学や専門学校のカリキュラムにも採用されている
教員の教え方、そして働き方改革を実現
大阪府堺市の学校の事例を紹介
教員の方々がICTを使いこなし、授業の幅をより広げていただくための支援もしています。オンラインコンテンツを豊富に提供し、無償の教員研修はオンサイトとオンラインのハイブリットで提供しています。また、認定教員制度を始め、教員の方々が長期的に学び合える環境を作るためのオンラインコミュニティもあります。
▲ スライド9・教員向けの支援体制も
拡充している。ICT研修の無償提供、
意見交換ができるコミュニティなど
全国の自治体の教育委員会の方々も、ICTに慣れ親しんでいない教員の方も、ICTを使えるようになるための本当に分かりやすいマニュアルとして、すぐ使えるヒント集、持ち帰りの授業のための準備といったコンテンツも提供しています。
さらに、教員向けでは、Microsoft TeamsやMicrosoft 365 Educationを授業や校務に活用していた元教員の方々によるレクチャー動画も公開しています。
▲ スライド10・マイクロソフトの
GIGAスクールポータルで公開されている動画
弊社が作った教材ではなく、認定教員の方々が実際にMicrosoft 365 Education をベースに行っている授業案やコンテンツを公開するサイトも順次、公開していきます。100以上のコンテンツを提供し、ダウンロードして活用いただけるようにします。
マイクロソフトでは、教員の方々の働き方改革も支援しています。大阪府堺市様の事例では、「朝、家庭からの電話を教員の方々が受けて転記する」という作業を自動化しました。教員の方々の負担を軽減し、生徒に向き合う時間を少しでも多く生み出すための支援です。
スマートフォンなどから「Forms」というツールを使って連絡を受けると、自動的に処理されてExcelにまとまり、さらにMicrosoft Teamsにも自動集計されます。
▲ スライド11・教員の働き方改革の実践例
「朝の家庭からの連絡電話」の応対と集計を自動化、
教員の負担が大幅に削減された
そして、データを「見える化」するツール「PowerAPP」や「PowerBI」を活用することで、「今日どの学校でどの生徒が遅刻・欠席しているか」が瞬時にわかるようにしました。こうしたデータが毎日集計されていくことで、年間どれぐらいの児童生徒が遅刻・欠席し、どういう傾向にあるのかを可視化でき、教育委員会全体で共有することも可能になります。
▲ スライド12・保護者と保護者と学校とのやり取りを
デジタル化し、自動集計、可視化するツールの詳細
データドリブンな教育への取り組みは
海外事例を交えて紹介
教育分野でのICTの活用では、今後、学習履歴をデータ化する教育ダッシュボードを活用して個別最適化学習を実践することが重要になります。例えば、オーストラリア・ブリズベンでは、小中高一環の公立校の教育地区で、学習データをリアルタイムで集計分析して、クラスごとや学校ごとで見える化できるようになっています。その上で、一人ひとりに個別最適な学びを提供する取り組みがすでに始まっています。
また、マイクロソフト本社のあるワシントン州のタコマ教育地区では、児童生徒の学校での様子や出席率などをデータ化して可視化し、ドロップアウトしそうな児童生徒に早い段階でカウンセリングなどの援助を行うようにしました。その結果としてたった3年で卒業率が55%から83%に改善しました。
▲ スライド13・データをもとに
個別最適な教育を実践している豪・米の教育地区の事例
日本国内でも1人1台端末の環境が整いつつあることで、児童生徒の学習履歴が蓄積されてきています。マイクロソフトでもGIGAスクール構想への取り組みと並行して、プライバシーを守りながらデータを取り扱う環境を整備しています。マイクロソフトでは、基本的に学びのデータは児童生徒本人に帰属する個人情報である、クラウドベンダーは触ることができないとのスタンスをプライバシーステートメントに公開しています。
日本での教育情報セキュリティポリシーのガイドラインも2021年5月に再び改訂され、よりクラウドを使う状況が本格化してきます。マイクロソフトでは、児童生徒のデータをどのように取り扱うのか、日本の法律に準拠することにも非常に力を入れています。
▲ スライド14・蓄積された教育データの
プライバシーの取り扱いにも注力している
また、児童生徒の学びをより個別最適にしていく取り組みとして、マイクロソフトではMicrosoft Teamsで「心の天気リフレクト」機能も用意しています。これは、クラス全体、生徒個人の心の状態を予兆して教員がしかるべき手当をしていくこともできるようにする機能です。
▲ スライド15・Teamsでは学習データだけでなく
生徒のメンタルの可視化、集計、分析が可能
マイクロソフトでは、1人1台端末での学びを支えるキャンペーン「君の学びが、世界を変える。」を2021年4月15日から開始しました。
GIGAスクール構想を経て、1人でも多くの児童生徒がより快適に安全に、そして保護者の観点からも安心して使っていただくことに、今後も注力していきます。
▲ スライド16・4月から同社が行っている
「きみの学びが、世界を変える。」キャンペーン
>> 後半へ続く