幼児期の教育が集中力・思考力・人間力の土台をつくる
第48回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2021.7.9 Fri
幼児期の教育が集中力・思考力・人間力の土台をつくる<br>第48回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2021526日、花まる学習会代表/NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長の高濱正伸氏を招いて、「花まる学習会高濱正伸氏講演~教育問題の核心は家庭だ!~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、高濱氏が、子どもの能力形成に重要な役割を果たす幼児期の家庭学習の重要性を中心に講演を行い、後半では、超教育協会理事長の石戸奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「花まる学習会高濱正伸氏講演
~教育問題の核心は家庭だ!~」

■日時:2021526日(水)12時~1255

■講演:高濱 正伸氏

花まる学習会代表/NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長

■ファシリテーター:石戸 奈々子 超教育協会理事長

 

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた

超教育協会理事長の石戸奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの石戸が参加者から寄せられた質問を紹介し、高濱氏が回答する質疑応答が行われた。

 

※本文は、高濱氏の講演をもとに、超教育協会の責任の下で編集したものです。花まる学習会および講演者による編集ではございませんので、あらかじめご了承ください。

 

家庭での子どもの教育やICTの使い方に関して参加者から多数の質問

 

石戸:良い投げかけですね。私は高濱さんの還暦のパーティーにも参加させていただいて、奥様の終始幸せそうな笑顔が印象に残っています。さて、さっそく参加者から『主人に言いたいことを全て言ってくださり驚いています』というコメントが届いています」

 

高濱氏:「そうですか。お伝えしたかったのは相手の『心』に焦点を当てるということです。例えば、一家団欒の食事の最中に自分だけさっさと終えて、妻の話を後目にスマホを見ているような夫もいます。どれだけ相手が嫌な気持ちになるかわからない。『時間がもったいないし、やりたいことやっているだけ』と、相手の心にとことん焦点を当てていないのです。『やるべきことはやっている』という役割分担意識ではなく、常に『この人を笑顔にしよう』と思っていて欲しいですね。

 

父親学級では、『あなたの仕事はたった一つ、どうしたら妻がニコニコになるかを追求すること。そうすれば子どもも良くなります』と説明しています」

 

石戸:「参加者からは、『子どもたちが好きなこと、目が輝くこと、夢中になれることを応援していきたいというスタンスは理解できますが、最近の論調として、好きなことをやればいい、将来は自由にすればいいと言われるほど子どもは苦しむ、好きなことはそう簡単に見つかるわけではない』という意見もきています。同じような意見はしばしば耳にしますが、高濱さんはどうお考えですか」

 

高濱氏:「これは簡単な話で、乳幼児期から幼児期前半の子どもにマジックを持たせたら、絵を描き続けたり、立つまで放り投げ続けたり、ひたすら自分が思いついた課題に集中します。乳幼児は、『人生は好きな事だらけ』と知っていて現在の関心に集中できるのですが、ある年齢を過ぎると、『この課題に意味はあるのか、好きなことと言えるのか』と『評価』を始めるようになるのです。そこを気にするあまり、人生が好きなことで満ちていることも見失ってしまいます。見方を変えれば、何か特別な好きなことを見つけて、それを子どもが伸びるメソッドに利用しようというような考え方が間違いであって、本来は全てが好きなことなのです。

 

これは大人の場合も同じです。『30歳で転職しようと思っているのですが、やりたいことが見つかりません』という人は、これまで『外部からの評価』基準に向かって頑張って生きてきて、本当の関心が何なのかわかっていません。幼児期に戻ってどういう遊びをしていたのか聞くと、『お母さんに注意されても止めないくらい積み木に熱中していた』など、本来の関心を思い出せるはずです。それがボール遊びであれば、そのボールをどうすれば面白いのか、と考えていくうちに、『好きなこと』という枠にサッカーがはまります。だから「好きなことがないなんてあり得ない」と考えてみれば、やりたいことは何かという答えは、必ず見つけ出せると思います」

 

石戸:「私も『好きなこと』や『夢中になること』を聞かれたら、長時間続けることをイメージしてしまうのが苦しみの原因と考えていて、『今日と明日で好きなことが変わってもいい』くらい気楽な気持ちなら、好きなことはたくさんあるのかも知れませんね。

 

次は参加者からICT教育に関連した質問です。『今、文科省がICT教育を進めようとしています。その良さは分かりますが、気をつけるべきところはどこでしょうか』というものです。本日のお話では、自然の中で子どもたちの感性をどう育むかといった内容が中心でしたが、一方でICT教育の可能性や良さもあります。高濱さんは、実際にICTを取り入れた取り組みをされています。ご意見を伺いたく思います」

 

高濱氏「大脳皮質を駆使する『わかる効率』を向上させるのは明らかにICTの方が上だと思います。近いうちに本として発表する予定ですが(*現在は発刊)、今から5年ほど前、『花まるで一緒にやりたい』と名古屋から上京してきた人がいます。彼の主張は、『今の受験の世界は魔界で、大量に授業を取らせても合格者数さえ伸びていればお母さん方は引き寄せられる。でも、もっと自由な方法で子どもの成績を伸ばすことはできるので、夕飯を家で食べられるような中学受験を目指したい』というもので、私のような現場経験豊富なプロからすれば、全く甘い意見に思えました。みんな朝から晩まで必死に頑張っているのに、全くの綺麗ごとに聞こえたのです。

*書籍リンク:『中学受験を魔界にしない! 合格×親子の幸せを叶える! オンラインを駆使した中学受験2.0』

 

ところが、彼は本気でICTを駆使したやり方を提案してきました。授業を2台のカメラで撮ればオンライン授業は可能です。ただし、対面で笑顔になる時間も大切です。そこで、週2回は教室で夕食までに終わるように授業をし、残りはオンライン授業にしました。これが圧倒的な実績で、数学をはじめとする授業時間に無駄が多かったことを思い知らされました。子どもたちは、授業を繰り返し見られるなど便利な点が多く、知識部分はほぼICT化で代替できるのではないかと考えています。

 

ただ、それ以上に驚いたのは、幼児期(49歳)の子どもの能力です。思春期(1118歳)はともかく、幼児期の子どもはICTなんか興味を示さない、せいぜいお母さんが横で『やりなさい』となるだろうと思っていたのですが、幼児期の子どもでもしっかりとICT教育に食いついてこられるのです。ICT教育で『できること』は、これからより研ぎ澄まされ、進化を遂げることは間違いないと思います」

 

石戸:「次の質問もICTに関連しています。『高校生の息子が、ICTをゲームや検索、コミュニケーションに使うばかりで、なかなか創造・制作・自己表現といったクリエイティブな方面で使おうとしません。親である私がデジタルネイティブでないため、どうすれば子どもにきっかけを与えられるのか悩んでいます。アドバイスをお願いします』という質問です」

 

高濱氏:「大前提として、高校生の子どもに親が言えることは、ほぼありません。思春期(1118歳)に入る小学校高学年以降は、そもそも親の言うことは聞かない年齢なのです。一方で、塾の先生をはじめ、部活の監督や先輩、従兄弟や従姉妹といったメンター的な人はとても尊敬していて、話もよく聞きます。そういう人たちに、ICTをクリエイティブな方面で活用するなどの話を間接的にしてもらうことをお勧めします。

 

クリエイティブということで最近衝撃を受けたことがあります。『数学』という科目は、合格を至上命題とする『受験屋』としては、試験の傾向と対策、それに子どもの能力を伸ばすことに注力するもので、クリエイティブとは全く無縁の存在だと思っていました。ところが先日、国際数学オリンピックで日本人女性として初めて金メダルを獲得した中島さち子さんに数学の喜びについて聞いたところ、『クリエイティブな学問です。創造性が一番の醍醐味で、それを知ったらやめられません』と言われました。

 

本塾が支援する『いもいも』の主宰者である井本陽久先生に、中島さんの言葉についての意味をお尋ねしたところ、数学だからこそ『正解のない世界』がクリエイティブに展開されることを説明いただき、なるほど、と腑に落ちました。

 

中島さんや井本先生のお話を伺って、私も数学の奥深さ、その一端を知ることができたのです。質問をくださった方も、何もかもを自力でアドバイスしようとは考えずに外部の方を頼ってみてはいかがでしょうか。

 

特に東京には数学や化学や歴史など、各分野の面白さを知っている先生が大勢います。中には少し変わった人もいますが、そういう人の評判を聞いて接してみることで創造的なことや、ICTの使い方なども得られるものがあると思います」

 

石戸:「次は『小2の息子がいつも自分の好きな囲碁や漫画、ごっこ遊びばかりやっていて宿題が後回しになり、翌朝、時間がない中で泣きながらやっています。ニコニコママでいるために、やるべき事を先にやる習慣を植え付けられれば楽なのですが、どういう声かけをするといいですか』という質問です」

 

高濱氏:「この質問には2つのカギがあります。一つは、計算や文字、漢字など、講演でも話した『基盤』部分を軽視してはいけないということ。大人になって仕事で他人に見せる文書を作る時、計算ミスや誤字が一つでもあればそれだけで評価は大きく下げられてしまいますから、基盤は大切にしなければなりません。

 

もう一つのカギは『習慣化』です。子どもにとってマストの計算や漢字は、反復でこそ伸びます。軽視できませんが、その習慣化は『前日にやる』ではなく、『当日の朝にやる』でもいいのです。私は、いわゆる『すごい人』を育てた『名物お母さん』と大勢、面談しましたが、みなさん概ね子どもの習慣化に成功しています。ポイントは、朝6時半からと決めたら、1分も遅れず始めること。子どもはチャイムが鳴れば走って教室に戻るように、決められたことならきっちりやるという習性があります。ここでお母さんが時間にルーズだと、うまくいきません。習慣化とは時間をしっかり決めることです。時間さえしっかり守れれば、習慣が根づいてうまくいった子どもがたくさんいます」

 

石戸:「ところで高濱さんご自身はきちんと宿題をやっていましたか。やらなかったタイプではないかと想像しますし、そういう男子が多いのではないかと思います」

 

高濱氏:「じつはご質問を聞きながら、まるで自分の子どもの頃を言われているように感じていました。尻に火がつかないとやらない人生を未だに歩んでおります。結果は出しているからいいだろう、と言い訳しながらです」

 

石戸:「そういうタイプの子どももいるということですよね。一人ひとりの子どもを見て、その子に合ったやり方を考えることもあるのですか」

 

高濱氏:「もちろんあります。『お母さんが口を出さなくても、この子は大丈夫ですよ』というケースも、じつはとても多いのです。それでもお母さんは、『他の子みたいにやれていない』といろいろ心配され、その子に合ったやり方を理解してもらうまでが大変です」

 

石戸:「最後の質問です。『今後、学校の価値はどう変わっていくと思われますか』というものです。コロナ禍で学校の重要さについて、改めて考えさせられる機会も多かったと思います。今後の学校はどうあるべきか、ご意見をお聞かせいただけますか」

 

高濱氏:「子どもは『集まりたがる生き物』です。校庭の隅で23人が騒いでいれば、みんながそこに集まる、生物学的には講演で話した脳の『芯』の部分で集まろうとするから、そういう意味で学校は物理的に存在するべきです。

 

今の日本の学校制度については、さすがに大きな変化の時代に、ついていけないシステムになってしまっています。学校組織として考えると、硬直して何も決めきれないままICT化にも時間がかかっています。もし再度の緊急事態で学校閉鎖になっても、相変わらずプリントを配るしかない学校がたくさんあるでしょう。変化対応力の脆弱なシステムは一回頓挫すべきなのかも知れません。

 

もし可能なら、小学校を運営してみたいですね。それも指導困難校と呼ばれる公立校の校長として、オランダみたいに資金と人事権を含めて経営を任せていただきたい。午前中は必要不可欠な知識やルールなどを短時間で確実に教え、午後の時間は子どもたちがそれぞれの関心事について、さまざまな教材を使って主体的に体験できる時間にしたいと思います。

 

私は、公立小学校では、やる気のある先生や関係者がこのような事例をいくつも作っていくのがいいと思います。もちろん私立を否定するわけではなく、国の教育で『核』となるのは、やはり公立校だと思うからです。ぜひ公立小学校で実験をさせてもらいたいというのが、私の強い思いです。そういった事例がいくつかできれば、『このやり方いいじゃないか』と、教育の選択肢も増やせるのではないかと思います」

 

最後は、石戸の「学校経営的なことも含めて、新たな視点が取り入れられれば学校も変わっていくと思います。そうした取り組みが進展することを期待したいです」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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