「できない」と諦めていたことが「やってみよう」になる
第213回オンラインシンポレポート・前半

活動報告|レポート

2026.10.23 Fri
「できない」と諦めていたことが「やってみよう」になる</br>第213回オンラインシンポレポート・前半

概要

超教育協会は2026年8月26日、兵庫県立氷上特別支援学校 教諭の黒田 一之氏を招いて、「生成AIで広がる特別支援教育の可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、黒田氏が特別支援教育における生成AI活用の実践例と可能性について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。

 

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「生成AIで広がる特別支援教育の可能性」

■日時:2026年8月26日(水) 12時~12時55分

■講演:黒田 一之氏
兵庫県立氷上特別支援学校 教諭

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

■ 共催:一般社団法人超多様

 

黒田氏は、約30分の講演において、特別支援教育で生成AIをどのように活用しているか実践事例について話した。主な講演内容は以下の通り。

難しい情報や資料を生成AIで形を変えて分かりやすく

【黒田氏】

私が現在、最も大切に考えて取り組んでいることは、テクノロジーを使って一人ひとりに伝わる教育を実践することです。思いやりや協力という言葉を耳にすると、助け合うことや、例えば重たい荷物を持ってあげることなどを思い浮かべます。しかし、特別支援の必要な生徒たちは、「思いやりとは、どういうことなのか」のイメージがつきにくいようです。そうしたときに、例えばAIを使って4コマ漫画にしたり、動画や音楽にして見せたり聞かせたりしたほうが分かりやすいという生徒もいます。今までは分かりにくかったことも、AIをうまく使うことで、しっかり伝えることができます。そういった実践を授業の中でも大事にしています。

 

2026年度と2025年度に生徒たちと一緒に取り組んだ授業について紹介します。

 

▲ スライド1・生成AIを活用して
生徒が市議会へ提言する取り組み

 

「一人ひとりの『分かる』を、社会に届く声へ」と題し、軽度知的障がいのある生徒が生成AIはもちろん、高等部の生徒や大学生、市議会の議員の方々と対話をしながら、自分たちが住んでいる町をより良くするための取り組み、施策や方法を考え、市議会に提言する内容をまとめました。本校の生徒は都会に出ていくのではなく、どちらかというと地域で働いて地域でそのまま暮らしていく生徒が多いので、自分たちの地域を自分たちでより良くしていきたいという気持ちが強くあります。そこで、自分たちが発信して議会に届けて、フィードバックをもらうという活動に取り組みました。

 

取り組みにおける課題として浮き彫りになったのは、軽度知的障がいのある生徒にとって行政資料やニュースはとても分かりにくく、難しいということでした。新聞の記事、行政が出している資料や計画は、大人でも理解が難しいところもあります。

 

▲ スライド2・軽度知的障がいがある
生徒が直面した課題

 

新聞記事や行政文書については、これまで文字が多い、要点が掴みにくいといった理由から、生徒たちにとっては「分からない」で終わっていました。それを、生成AIを使って自分に分かる形にして、それをもとに生成AIや仲間と一緒に対話しながら考えていきました。大学生や市役所の方など、さまざまな方と対話して自分の考えをまとめて、市議会に参加して自分の意見を伝えることを目指して、まずはテクノロジーを使って情報を分かる形に整えていくことに取り組みました。具体的には、難しい情報を一人ひとりに合った「分かる形」にするために、生徒たちに生成AIの活用方法をいくつか示して実践しました。

 

例えば丹波市の行政資料は、多いものだと120ページもあります。内容も難しくて、大人が読むにも労力がかかります。それをNotebookLMを使って動画にしたり画像にしたり、あるいは要点を3つに絞って小学生でも分かるように簡潔に教えてと指示をして、生徒たちが自分で分かる形に変えることに取り組みました。iPadで4コマ漫画にしたものについては、生徒も「これなら分かる」と言っていました。

 

▲ スライド3・行政資料や新聞記事を
分かりやすい形に

 

生徒たちにアンケートを取ったところ、こうした授業を実践する以前は「難しい情報を理解できる」と答えた生徒が10人のクラスでわずか1人でしたが、3カ月の実践により、「難しい情報も生成AIを活用すれば理解できる」という回答が8人に増えました。テクノロジーをうまく活用していくことで、自分にも分かるという自信につながるという手ごたえを感じています。教員としても、そこを大事にしたいと考えています。

生成AIと一緒に「自分の幸せな暮らし」を考えた

丹波市への具体的な提言をまとめる際には、まずは自分の幸せな暮らしを考えるところから始めました。自分のことを理解するために、自分は何が好きなのか、自分が幸せを感じるのはどんなときかを生徒と一緒に考え、その結果を生成AIで画像にしました。

 

▲ スライド4・自分の「幸せ」を考えて
画像にまとめることから始めた

 

特別支援学校の生徒たちはペアトークや自分の考えを伝えることに苦手意識があって、私にはできないと思ってしまう生徒も結構いました。それでも、こうして画像にしてiPadで友だちと見せ合うことで、全員が自分の思いや幸せを感じるときについても、お互いに伝えられるようになってきました。

 

さらに、市役所の方がとても協力的で、自分の幸せから丹波市で幸せに暮らすためのまちづくりを考える「しあわせ実感」モニタリング調査という取り組みをしてくださいました。市役所の方にゲストティーチャーとして来ていただいて、暮らしの中で幸せを実感できるようになるために、市や地域でできることを一緒に考えました。実際にアンケートフォームに投稿して、こうしたいという思いを世の中に発信していく経験もさせていただきました。発信すると、生成AIが自動でコメントを返してくれるシステムになっていて、生徒もフィードバックをもらって喜んでいました。

 

ある生徒が、自分が住んでいる地域ではバスが3時間に1本しかなく、しかも家から遠いところにバス停があるので移動が制限されてしまう、家の近くまでバスに来て欲しいという提言を考えました。それを生成AIを使って画像にすることで、自分の考えを整理したり、伝えやすくしていました。

 

▲ スライド5・生徒が考えた提言を
画像にして伝えやすく

 

そして、提言を作成して終わりにせず、大学生とオンラインでつないで対話しながら、立場の違う他者からのフィードバックももらいました。考える視点も広がり、調べ直したり考え直したりすることで考えを深めていきました。こうして、実際に議会で提言を行い、議会からフィードバックもいただき、生徒も嬉しそうでした。内容が議会だよりにも掲載され、生徒も地域のことを一生懸命に考えることができて良かったと感じたようです。

 

別の生徒が提言した内容も紹介します。

 

▲ スライド6・生徒の提言と
その後の丹波市の動き

 

丹波市は鹿肉も有名です。そこで、丹波市の魅力を伝えるために鹿肉を24時間、自動販売機で売れるようにしたら良いのではないかと提言したところ、2026年度に「おばあちゃんの里」という特産物販売所に、地元の野菜や旬の味覚を販売するロッカー型の自動販売機が設置されました。自分たちが提言した内容が形になって、生徒も喜んでいました。

プロジェクトの感想を歌にまとめて振り返る取り組みも

さらに、みんなで学んだことをひとつの歌にしました。修学旅行や生徒がこれまでに学んだことについて、生徒から感想をもらい、その感想をまとめて歌にして振り返ることを授業の中に取り入れています。今回も、このプロジェクトを通して学んだことや感じたことを感想として書いてくれたので、それをまとめて歌にしました。自分たちの力でも未来を変えられると感じたと書いてくれた生徒もいました。知的障がいがあるから自分にはできないのではなくて、自分でも未来を変えられるかもしれないと思って欲しいという目標があったので、この感想は自分としても、とても嬉しかったです。

 

また、Gemで「AIおじいちゃん」というペルソナを作りました。教員が駄目出しすると生徒はへこんでしまうので、AIおじいちゃんが教員に代わって駄目出ししてくれるようにしました。生成AIの駄目出しなので生徒はあまり傷つかずに、むしろそこから新しい視点を得て考えます。そういったGemを設計しながら対話してきました。

 

ただし、このGemのペルソナも、一人ひとりに合わせた最適化が必要です。ある子には合っているけれど、ある子には難しいという部分もあります。AIパーソナルチューターを作る際には、個別最適化が必要だと思います。そのうえで、AIパーソナルチューターと生徒が一対一で向き合うのではなく、教員や別の生徒も入るとより対話が活性化すると感じています。そういった実践を歌にしました。それが「丹波みらいソング」です。

 

▲ スライド7・授業での取り組みを
歌にした「丹波みらいソング」

 

このような形で、毎回授業で感じたことや学んだことをまとめて歌にして振り返っています。今回は自分たちのプロジェクトを振り返るという形でしたが、情報モラルの授業でネットの使い方やSNSの安心な使い方を学ぶたびに、こうやって歌にしています。歌だと留意点が覚えやすいという生徒もいますので活用しています。

 

私が大事にしたいと思っているのは、生徒自身が行動できる力を身に付けることです。卒業すると、それまで寄り添ってくれた教員の支援を受けられなくなるので、自分の力で理解して行動できるようになることが重要です。ただし、なかなか難しくて、生徒と一緒に模索しながら少しずつやっているところです。学校を卒業した後も、自分らしく社会とつながって欲しいと思って取り組んでいます。生徒の声が社会に受け止められ、今までなかなか参加できなかった地域の未来づくりに参加できたらと思っています。

 

私たちの取り組みは、市議会の方々や大学生、新聞社や財団の方、私の恩師、そして、現場の先生方にもご指導をいただいています。多くの人たちからフィードバックをいただいて、より良い実践につなげていきたいと思っているところです。

障がいの重い生徒がアプリを使って父親に感謝の歌を

ここまでお話したのは、軽度知的障がいと呼ばれる生徒の実践です。他にも障がいが重くてなかなか自分の思いを伝えられない生徒がどうやったらテクノロジーを使って自分の思いを伝えられるのか、それを生徒と一緒に模索した実践もありますので、ご紹介します。

 

その生徒は発語が不明瞭で、思いはありますが、言葉として伝わらないところがありました。そこで、普段、言葉で伝えられない父親への思いを、AIで作ったアプリを使って「おめでとうソング」として作ってみようという取り組みをしました。どんな気持ちを父親に伝えたいか、父親のどんなところが好きかという質問を用意して、選択肢の中から本人に選んでもらいながら歌詞を作っていきました。アプリで大枠の歌詞を作って、さらに父親の好きなところをジェスチャーで教えてもらいました。そのジェスチャーを母親と一緒に読み解きながら歌詞を作りました。

 

▲ スライド8・障がいの重い生徒が
アプリを使って作った歌詞

 

父親の誕生日が参観日の近くだったので、「パパ誕生日おめでとう!ソング」になりました。本人が母親と一緒に対話しながら歌を作って、それを父親に届けたということで、父親も喜んでいましたし、何より本人も嬉しそうにしていました。こんな活動に授業で取り組んでいるところです。まだ未熟な取り組みですので、もっと良くしていけるようにご意見、ご指導いただけたら嬉しく思います。ありがとうございました。

 

>> 後半へ続く

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