学びの中心にあるべき「教科書」は、これからどう変わっていくのか
第212回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2026.10.16 Fri
学びの中心にあるべき「教科書」は、これからどう変わっていくのか</br>第212回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2026年8月5日、株式会社デジタル・アド・サービス 教育デザイン部の黒川 弘一氏を招いて、「デジタル教科書を語る ~制度化の現在地と学びの未来~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、黒川氏がデジタル教科書の経緯と2030年に向けての課題について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半へ続く

 

「デジタル教科書を語る ~制度化の現在地と学びの未来~」

■日時:2026年8月5日(水) 12時~12時55分

■講演:黒川 弘一氏
株式会社デジタル・アド・サービス 教育デザイン部

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

2040年を見据えた「デジタル教科書の未来」に多数の質問

 

 

石戸:「まずは、私から質問させてください。2000年代前半に描いていた2026年の姿について、黒川さんご自身は現在どのように評価されているのでしょうか。実現したこと、あるいは思い描いていた通りにはならなかったことなども含め、改めてお聞かせください」

 

黒川氏:「デジタル教科書が教科書として位置づけられたことは、高く評価しています。これは、将来の教科書制作にもつながったと思います。一方で、経済的な判断が大きく影響しており、公教育として無償で提供することを考えたときに、制限がかかった部分については不満があります。制限を設けなくてもよかったのではないか。自由度を残していただければ、さらに未来につながったのではないかと思っています」

 

石戸:「視聴者からもたくさんの質問が寄せられていますので、いくつか取り上げたいと思います。『文科省は2040年を見据えて、次期学習指導要領の答申を行っているが、黒川さんは2040年の子どもたちの学びがどのような状況にあると想定して活動されているのか』というものです」

 

黒川氏:「一人ひとりの子どもたちが、自ら学びをスタートできる状態、好きなことから始められ、青い鳥を探しに出かけられるような状態を実現し、多様性や自律性の高い教育へと寄せていくことが大切だと考えています。そうした教育へ進化していくために、制度も改定できるとよいと思っています。

 

近代社会において、教育には、人々の考えや思い、行動などを一定のルールに従わせる『水路化』の役割があったと思います。一方で、教育には、その水路化を解体していく力もあります。そこが今、一番問われているところではないでしょうか。つまり、学びの原点にもう一度立ち返ることが大切だと思っています」

 

石戸:「次も視聴者からの質問です。『デジタル教科書には、一定程度の学力を持つ子どもをさらに伸ばすという側面と、理解を進めにくい子どもを救うという側面の両方があると思います。特別支援を含めると複雑になるため、ここでは特別支援を除いて、この二つの側面について、それぞれどの程度の比重をお考えでしょうか』というものです」

 

黒川氏:「現在は、紙の教科書や市販の教材にもデジタルコンテンツが付いていますが、いわば、ほとんどが『おまけ』です。フルデジタルという方向性は、まったく別のものだと思っています。そういう意味では、作り手の側からすると、その二つの側面に必要となるイメージもかなり違ってくるのではないかと感じています」

 

石戸:「ハイブリッドに関する質問も複数寄せられています。私自身、本来のハイブリッドとは、紙とデジタルそれぞれの長所をうまく融合し、より良いものを提供していくことだと思っています。一方で、今回のハイブリッドは、さまざまな制約の中で生まれた折衷案のようにも感じます。

 

視聴者からは、『多くの方がハイブリッドを使うだろうと考えたときに、それをどのように活用していけばよいのか』という質問が寄せられています。また、『QRコード(二次元コード)もすべて教科書の範囲となると、指導面では基本的に現場で使わなければならないものになっていくのではないかと思う一方で、現実的には生成AIや民間のサービスを授業に組み込んでいく場面が増えていくとした場合、どこまで有効に教科書を使いこなすことができるのか。その点を、発行者としてどのように捉えているのか』という質問も寄せられています。

 

ハイブリッドをどのように捉え、活用していけばよいのか、QRコード(二次元コード)をどう考えるのか。さらに、生成AIを含む民間のサービスをどのように組み合わせ、設計していけばよいのか。そして、その中で教科書はどのような位置づけになっていくのか。これらについて、総合的にお答えいただければと思います」

 

黒川氏:「教科書は、公教育の中で国から無償で担保されているため、検定が前提となっています。そのため、QRコード(二次元コード)からアクセスするコンテンツも検定の対象となり、教科用図書検定調査審議会において、分量や内容などが決められます。

 

現在の教科書でもさまざまなコンテンツが提供されており、素晴らしいものもたくさんあります。ただ、これらがそのまま検定を通るとは思えません。そうした選別が重要になります。検定外の部分をどのように活用するかについては、AIも含めて、学校現場にとっては金銭的な負担にもなります。そのため、そうした点をどこまで理解した上で自治体が活用していくのか、ということになるのではないかと思います。

 

教科書で提供される範囲は、現状ではそれほど広がらないだろうと感じています。ただ、挑戦的に取り組む発行者も出てくるでしょう。検定で通るか通らないか、微妙な判断が求められることになると思います」

 

石戸:「生成AIの位置づけがこれから重要になるというお話がありましたが、2030年、2040年という未来を考えると、QRコード(二次元コード)が教科書に付与されているということ自体に、少し違和感があります。その頃には、子どもたちは日常的に生成AIを使っているでしょう。そうした視点に立ったとき、生成AIを教科書の中にどのように取り込んでいくか、その可能性について、どのような見解をお持ちでしょうか」

 

黒川氏:「教科書に取り込むという意味では、アバターを作るなど、さまざまな取り組みに挑戦している企業もあります。ただ、教科書の中に生成AIやAIを取り込むことを考えたときには、『教科書に特化する』という考え方はしないほうがよいと思います。

 

デジタル学習基盤の中で扱うさまざまなデジタル教材やコンテンツ、あるいは日常の子どもの学習に寄り添う生成AIやAIとして捉え、『日常的に常にAIや生成AIがある』という全体性の中で、どのように取り込んでいくかを考えるべきだと思います。子どもたちが学習デジタル基盤の中で、縦横無尽に使えるような形がベストです。

 

発行者の立場からすると、ある教科のあるコンテンツにAIや生成AIを取り込むには、コストがかかりすぎます。公教育市場のビジネスとしては厳しいため、各社の各種ツールとの連携のあり方が非常に重要になると思います」

 

石戸:「最後に、視聴者からの質問を一つと、私からの質問を一つさせていただきます。『海外では紙回帰の話題もメディアで取り上げられています。そうした論調について、どのように解釈されているのでしょうか』という質問が複数寄せられていますので、ご見解を伺えればと思います。

 

また、私からは、もし黒川さんがゼロから教育制度や教科書検定制度を設計できるとするならば、どのような制度にしたいとお考えか、お聞きしたいと思います」

 

黒川氏:「日本の教科書制度と海外の教科書制度は異なります。最近、デジタル教科書の検討会議で、諸外国の動向についてまとめた資料が出ましたので、詳細はそれをお読みいただければ、お分かりいただけると思います。

※「学力等への効果・影響、諸外国の動向について」(p.16~21)
https://www.mext.go.jp/content/202600803-mxt_kyokasyo01-000051369_4.pdf

 

かいつまんでお話しすると、海外と日本では教科書制度が根本的に異なるにもかかわらず、報道ではそこを一律に同じように議論しています。また、調査結果についても、一部の人に聞いただけの話しをもとにしたネガティブキャンペーンになっている部分があるため、そこに同調することはないと思います。日本の現場の実情や実施状況を踏まえて、しっかりと考えていただくのがよいと思います。

 

二点目ですが、教科書の制度に限ってみると、がっちりとした体系の中で、びくとも動かないくらい堅牢な制度が出来上がっています。そのため、変えるには相当な政策的決断が必要です。

 

教科書をどう使っていくのか、教育の原点に一度立ち戻る必要があります。理想の教科書の形は、さまざまにあると思います。ただ、主たる教材という意味では、検定があるのが今の状況です。次の2030年代に向けて、議論していきたいと思います」

 

最後は石戸の「日本中の子どもたちが、質を担保された教科書を持つことは、共通の文化的・社会的基盤をつくるという意味でも、非常に大きな意味があると思います。だからこそ、世の中のテクノロジーの進化や私たちの暮らしとあまりにも乖離してしまうと、子どもたちにとっても違和感が生まれてしまいます。本来であれば学びの真ん中にあるべき教科書が、真ん中にいられなくなるという懸念もあります。今後も、より良いデジタル教科書のあり方に向けて、ぜひご尽力いただければと思います」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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