表情や声、身体の動きなどから感情を分析して個別最適な学習をサポート
第190回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2025.9.5 Fri
表情や声、身体の動きなどから感情を分析して個別最適な学習をサポート</br>第190回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2025年7月9日、株式会社ロジカ・エデュケーション代表取締役CEOの関 愛氏を招いて、「すべての生徒の気持ちに寄り添う”AI先生”~真の個別最適化を実現する、世界初の共感AIアシスタントとは」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、関氏が「感情に寄り添う共感AI」の特徴や教育分野での展開について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「すべての生徒の気持ちに寄り添う”AI先生”~真の個別最適化を実現する、世界初の共感AIアシスタントとは」

■日時:2025年7月9日(水) 12時~12時55分

■講演:関 愛氏
株式会社ロジカ・エデュケーション代表取締役CEO

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

本当に感情に寄り添うAIを教育現場で活用できるのか

石戸:「特徴は、生体情報に基づいて感情分析をし、それに対して生成AIがメッセージを返してくれるというものですが、感情に寄り添ったメッセージ生成に、どういった教育的な工夫を加えているのか、どういう設計にしているのかについて詳細を教えてください」

 

関氏:「仕組みの構成として、全体の窓口となるAIと、専門に特化したAIの2つを用意することを考えています。利用者からインプットされる全ての情報を窓口となるAIが受け付け、このAIが相談内容や学習内容に応じて、それぞれ専用に学習させたAIのうち、どれに回答させるかを振り分ける、そのような機能を現在、開発中です。

 

教育向け専用に学習したAIやコーチングに特化したAIなど、サービスに特化して学習させたAIを用意し、全体の入り口で受け取った窓口となるAIが割り振っていくというイメージの機能です」

 

石戸:「例えば、年齢に応じて声のかけ方やメッセージの内容も変わっていくと思います。どのように変わるのか、具体例を教えていただけますか」

 

関氏:「ログインする人の年齢や性別などの情報を最初に登録していただくことで、AIがそれらの情報をもとに『この年齢の人であれば、こういう反応が良いだろう』と考え、自動的に生成していきます。具体例としては、子ども向けに柔らかい表現にしたり、小学1年生なら漢字があまり読めないのでひらがな中心にしたりといった工夫があります。小学校で学年ごとに学ぶ漢字を使うと指定することで、応答内容はかなり変わってくると思います」

 

石戸:「学校の先生たちは、『この子には強めに言った方が効くかもしれない』、『この子は褒めた方がうまくいくだろう』というように、子どもの性格や特性に応じて声のかけ方を考えると思います。子どもたちの性格や特性や状態をどのように捉えて解析し、メッセージに反映していますか」

 

関氏:「個人の性格や特性を保存するデータベースが専用に用意されていて、そのデータベースに対して情報を蓄積していきます。そのデータベースをもとに、毎回『この子には、こういう反応を返す』と生成していくイメージです」

 

石戸:「共感AIアシスタントは、すでにさまざまな実証実験がなされているとのことでしたが、どういう効果が表れましたか。例えば、成績が上がったとか勉強時間が増えたなど、定量的、定性的な効果について教えてください」

 

関氏:「テストの点数測定までは、まだできていません。現状では、例えば子どもが難しいと感じている時には、AIがかなり噛み砕いた説明を自動的にしてくれます。その子の今のレベル感を生成AIにインプットすることで、その子に最適な応答を実現していますので、反応ベースですが、かなり学習理解が捗るというお声はいただいています」

 

石戸:「このような質問が視聴者からきています。『開発者としての意見をお聞きしたいのですが、脈拍や体動といったカメラを通して測定された生体反応測定情報により、人間の感情のどこまでを把握できると考えていますか。このシステムで把握できる部分は、今の心理学や脳科学の知見からすると、100分のいくつ程度の測定ができているとお考えですか。今、測定できているのがどの程度なのか理解して使う必要があると感じました』というものです。いかがでしょうか」

 

関氏:「この生体反応から感情分析する技術自体は、弊社で開発しているものではなく、他社が開発している技術を活用させていただいています。この技術に関しては、もう10年以上前から開発されていて、かなり精度が上がってきています。実際に文部科学省のプロジェクトでもすでに採択された実績があります。私たちが使用している実感で言うと、100%はもちろん難しいですが、大体80%くらいは理解できているかなという感じは受けています」

 

石戸:「複数きている質問ですが、『感情分析が実際は本人の感情とは違っているというケースもあり得るのではないかと思いますが、いかがでしょうか。あまりそういうことは起こらないのでしょうか』というものです」

 

関氏:「そこの精度をいかに上げるかという部分は、今、開発を進めているところです。脈拍と体動に加えて音声や顔の表情など、多角的な情報から判断していく必要があると思っています。もちろんAIだからといって100%分析が正確というわけではないですが、これに関しては人間の先生も同じです。人間の先生も100%子どもの感情を把握できないので、おそらく人間の先生が把握するよりは精度の高い把握が実現できるのではないかと思っています」

 

石戸:「どのくらいのレベル感なのかを知りたいという質問もきていますが、『人間を超えている』という感覚を持っているということですよね。それはすごいことですね。それだけのデータを取られると、プライバシーの問題や倫理的な問題が指摘されるのではないかと思います。どのような議論を踏まえてサービスを作っていますか。そして実際にどういう反応がありますか」

 

関氏:「先ほどもお伝えしたように、文部科学省のプロジェクトでも使われている技術ということもあって、同省も認めている範囲で開発を進めています。個人的な感情情報に関しても、個人情報に直接結びつかないようにIDで管理したり、セキュリティ面の対策を強化したりしています。実際に学校で個人の感情を分析して、先生方の管理画面に表示するというのは、もういくつかの学校では始まっています」

 

石戸:「視聴者から『生体情報から表情や言葉に出すのが難しい子について、その子の内に秘めた反応を分析し、その子に効果的な学習を組み立てることは可能でしょうか』という質問がきています。実際にそういうケースがありましたら教えてください」

 

関氏:「まだ実験まではできていないですが、その可能性は大いにあり得ると思っています。私たちもそうですが、自分の感情を自分で完全に理解できていない部分もあると思います。そこにAIを使うと、自分では思っていなかったような違う感情が『今、表れている』ということを把握できることもあります。実際に学校の授業でもアンガーマネジメントの授業で使っているようです。自分はイライラしていないつもりだけど、AIがイライラしていると解析すれば、それをもとに『実は、自分はイライラしているのだ』と子どもたちが理解する、そういったことに役立てている事例はあります」

 

石戸:「さらに踏み込んで、例えば発達特性がある子どもたちに対する対応としてどういう使い方が想定されるか、有意に効果を発揮した場面はあるか?といったことはいかがでしょうか」

 

関氏:「発達障害の子どもについては、まだ実験結果はありません。ただ、AIの方が人間の先生よりも、発達障害の子どもたちにどう接すれば良いのかという知識は豊富にあります。AIは人間の先生と違い、子どもがどのような言い方をしても、何回、同じことを聞いてもイライラせずきちんと対応してくれます。そういったところも強みになってくるのではないかと思います。

 

人間の先生では難しいような、親切丁寧な対応であったり、キャラクターを通して可愛らしくフィードバックしてくれるところも、子どもたちが喜んでくれているところです」

 

石戸:「視聴者から『感情認識や感情表現と共感は別物であり、例えば、悲しんでいる人に対して励ますのか一緒に悲しむのかといった判断においては、高度な意思決定が必要だと思われます。AIにそのあたりをどうやってトレーニングするのか伺いたいです』という質問です」

 

関氏:「まだ構想段階ではありますが、AIが返したフィードバックに対してどう感じたかというところまでは、ある程度、カメラを使って認識できると考えています。『こういう返し方をするとこの子は喜ぶ、こういう返し方は嫌がる』といった反応をある程度、把握したうえで、それをAIに対して個別に学習させていくというスタイルを取ります。そのような方法でAIも訓練できるのではないかと思っています」

 

石戸:「『感情分析が全く違うという話がありましたが、仮に子供がAIを騙そうとしても見破られるものでしょうか』という質問がきています」

 

関氏:「うそ発見器まではいかないですが、なかなか騙すのは難しいと思います」

 

石戸:「先ほどプライバシーに配慮しているという話がありましたが、視聴者からは『子どもたちが感情データを先生に取られることが嫌だという抵抗があるケースもあるのではないか』という質問もきています。それに関するお考えをお聞きしたいですというものです。いかがでしょうか」

 

関氏:「そこがどうしても嫌だという子どもや親御さんも一定数いるとは思います。その子に応じて感情を取得するかどうかのオン・オフができるような機能や、許可できる機能というのはやはり搭載すべきと考えています。どうしてもオフにしたいという子どもに関しては、生体反応からの感情分析は難しいかもしれませんが、テキストからの感情分析はできると考えています」

 

石戸:「視聴者から『生徒の気持ちに寄り添うAIの登場によって、そこに人格を見い出してしまって恋愛感情を持ってしまったり、もしくは依存してしまったりという可能性もあるのではないか。そこにどう向き合っていらっしゃるのか』という質問です」

 

関氏:「まだ、そこに向き合うところまでは達していないのが正直なところです。二次元のキャラクターやアニメに恋愛感情を抱く若者たちもいるので、何とも言えないところがあります。致し方ない部分もあるかなとは思います。そこがもし問題になってくるようであれば、応答の内容を変えることも考えます。

 

どちらかと言うと、AIリテラシーの教育も必要だと思っています。実際にこれを使っていただく前には教育動画を皆さんに視聴していただいて、AIの扱い方やAIはこういうもので、こういうところに気を付けようというのをしっかり学習した上で使っていただくことはしていきたいと思っています」

 

石戸:「実際に使ってみた子どもたちや先生の反応はどうでしたか」

 

関氏:「私自身は使ってみて、教育の場面で『これは使えるな』と思いました。先生たちからも実感として上がってきています。実用化できると先生が教える作業自体がもういらなくなってくるのではないかと正直、思っています。

 

これまでの教育はティーチングでしたが、なかなか成果が上がっていないというのが実情です。最終的にはAIを使った自動的なコーチングに変わっていくと考えています。学校の先生は人間の先生にしかできない作業に集中することで業務負担を減らし、より子どもたちの感情に向き合って寄り添うことができるのではないかと思います」

 

石戸:「教育のデジタル化の議論の頃から、ティーチング等は映像教材などデジタルを活用し、先生の役割はティーチングやファシリテーターにシフトするという話がありました。しかし、今日の話はコーチングもAIの方が得意になっているということですね。そうすると、先生の役割は、この先どうなっていくと思いますか」

 

関氏:「先生たちに対してAIが、この生徒にはこうしてあげると良いといったアドバイスができるようになっていきます。そうすると、先生たちも子どもの感情に寄り添った支援ができるようになるので、最終的なフォローの部分は先生たちがしっかりやる必要があると思います」

 

石戸:「新しいものが出てくると、どうしても不安感が生まれると思います。視聴者からの質問にも、やはりメリット・デメリットに関する質問があるのはご容赦ください。『教員による感情の読み取りと異なるのは、このシステムを使うことによって分析したものが数字やグラフとして表示されることです。そこに関してはメリットもあるけれど、デメリットもあるのではないか。数値化され、定量的に可視化されていくことのデメリットについての注意点は何かありますか』というものですが、いかがでしょうか」

 

関氏:「感情が数値化、データ化されることについては、先生方に『これは参考程度に考えてください』と教育も必要になってきます。先生方にはまずAIに関するリテラシーをしっかり学んでいただいて、先入観を持たないようにとお願いしなければいけないと思っています」

 

石戸:「視聴者から『個別最適化されて個別にカスタマイズされているリターンが生徒に返っていくイメージですが、一方で聞けば聞くほど個別最適化の真逆で、一般化された回答が返っていくようにも感じますが、現実的にはどうですか』という質問です。本当にその子に合ったものになってくるのか、それともある程度パターン化されて類型化されていくようなイメージなのか、いかがでしょうか」

 

関氏:「パターン化されるとしてもパターンの数が半端ではないです。学年や性別、性格によってどんどん分岐していきますので、そういった意味でそこまでパターン化される心配はないとは思っています。将来的には、基本的な教材はあるけれど、その基本的な教科書をもとにその子に最適化された出力の仕方を自動的に変えていくところまで実現できると面白いと思っています」

 

石戸:「実務的な質問が2つきています。『カメラの認識はどんな端末でも利用可能なのか』また、『デモのAIアシスタントは口数が多いように感じましたが、それは人為的に調整できるのか』というものです。いかがでしょうか」

 

関氏:「カメラの精度に関しては、今の市販の端末についているカメラで十分ですので、学校で導入されているような端末で対応できます。口数に関してはご指摘の通り、テスト用に試しているところがありましたので、そこはいくらでも調整できると思います」

 

石戸:「重いテーマも質問もきています。『例えば死にたいという質問が送られてしまった時に、その対応についての責任がどこにあると捉えているか』というものです。不登校の子どもやメンタルヘルスの問題を抱えている子どもが増えている今、そういうメンタル的な重い質問がきた時に、このAIはどう対応していくかについて議論がありましたら教えてください」

 

関氏:「一般論にはなってしまいますが、そういう質問や相談がきた時にどう対応するかを予め指示しておくことはできます。例えば、その場でアドバイスするというよりは、親御さん、先生に相談するように勧めたり、場合によっては先生や親御さんに通知するなどの対応ができると思います。そういうナイーブな問題に関しては、AIからアドバイスはさせないという指定もできると思いますので、そこで解決できると思います」

 

石戸:「共感AIが世界に出て行くにあたり、感情は国民性によるところもあると思います。今後のグローバル展開に当たっての障壁や優位性を教えてください」

 

関氏:「確かに、国によってプライバシーをどこまで尊重するかが変わってくる部分がありますので、そこは乗り越えていかないといけない障壁になると思っています。逆に、AIに対する抵抗感が少ない国もありますので、そこは国民性や地域性を見極めながら、どこから進出していくかも考えていきたいです。

 

日本に関しても、感情分析されることに対して抵抗感を感じる方が一定数いると思いますが、一方で日本はドラえもん文化というか、AI自体には馴染みがあって、AIを友だちにするという文化自体には子どもの頃から馴染んでいるので、そこはある意味日本の優位性だと感じています。本当にドラえもんを想起していただけるような展開の仕事ができたら面白いなと思います」

 

最後は石戸の「自分の心に寄り添ってくれる存在が常に横にいることは、使い方さえ間違えなければ、とても心強い存在になるのではないかと思います。今後の展開を楽しみにしています」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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