概要
超教育協会は2024年10月16日、HR高等学院 共同設立者 CEO/株式会社RePlayce 代表取締役CEOの山本 将裕氏を招いて、「社会全体で次世代を育成する、新しい学びの場。通信制サポート校HR高等学院の取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、山本氏が2025年4月に開校する通信制サポート校HR高等学院(以下、HR高等学院)の特徴やカリキュラムについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半模様を紹介する。
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「社会全体で次世代を育成する、新しい学びの場。通信制サポート校HR高等学院の取り組み」
■日時:2024年10月16日(水) 12時~12時55分
■講演:山本 将裕氏
HR高等学院 共同設立者 CEO/株式会社RePlayce 代表取締役CEO
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
どうやって自律性を高める教育をするのか多くの興味関心が集まる
石戸:「このところ通信制高校もしくは通信制サポート校として、非常にユニークな学校が急激に増えているという印象を持っています。それらは探究型であったり、民間企業と社会との接続を打ち出しています。その中で、改めてHR高等学院の強みや、これまでとここが違うというところを教えてください」
山本氏:「スタートアップの最先端を走っている方々をアサインしているところは、普通の学校には真似できないと思います。そこが絶対的な強みです。また、我々自身がドコモから来ているので、大企業の視点や大企業の人材育成の考え方を熟知しています。企業との連携も、色々な大手企業と一緒にやっていこうということで応援していただいています。企業との連携は普通のサポート校ではできないでしょう。少なくともこの2つは他校に負けない強みにしていきたいと思っています」
石戸:「社会の中でも色々な経験を積んだ有識者や企業の方々と新しいカリキュラムを作っていかれるということだと思いますが、カリキュラムを開発していくメンバーは、金子先生や星先生なのでしょうか」
山本氏:「そうですね。金子先生や星先生も、もちろん関わりつつというところもあります。我々は、元々独自のコンテンツ開発もしてきたので、かなりノウハウも溜まっています。社会人が、例えば学生などに楽しく授業をするとは、どういうところなのかを言語化して研究しています。また、学芸大学とも研究をしています。いずれ発表しようかと思っています。その辺りも可視化できています。なので、そういったところも武器にはしていきたいと考えています」
石戸:「どういう方々が入学を希望しているのか、いわゆる入学者像についての質問が複数きています。既に反響があるとのことでしたが、どのぐらいの反響があるのか。最近は通信制高校を選ばれる方など多様になっていると思います。どういう方々が今、御校を希望しているのかについて教えてください」
山本氏:「我々は『アクティブ不登校』と呼んでいます。ネガティブな理由ではなくて、学校が単純にはまっていなくて、もっとこういう学びをしたいからという理由で不登校になっている子ども達が増えています。そういった子ども達に興味を持ってもらっているというのがあると思います。そういう子ども達は将来、起業したいとか、偏差値社会では負けているかもしれないけれど、社会的には成功したいとか、お金持ちになりたいといった野望を持っています。あとは、クリエイティブに何かを作っていくことに興味を持っている子ども達が一定数います。グローバルに興味を持っている子ども達も反応していると思います」
石戸:「アクティブ不登校って良い言葉ですね。既存の学校には合わないけれど、色んなことをやっていきたい子ども達が多いですよね。HR高等学院では、そのような子ども達がターゲットなのですか」
山本氏:「はい、そうです」
石戸:「基本的に、そのような子ども達に入学して欲しいということを打ち出しつつやっていくということですね。このような質問もきています。『伴走者はどのように決定されるのでしょうか。本人の興味や関心によって選ばれるでしょうか』確かにそこのマッチングは非常に大事だと思いますが、どのように伴走者をマッチングしていくのか、また伴走者に対する研修などについてはどのようにお考えですか」
山本氏:「はたらく部でもコーチという存在を作っていて、副業の社会人がコーチしていますが、このコーチの定義でいうと、コーチング能力も必要ですし、ファシリテーション的な能力も必要です。学生が探究活動を続けていく上で必要な知識や学生との接し方を学芸大学とも研究していて、かなり言語化できているので、そういった能力のある人達を育成して配置していきたいというのはベースとして考えています」
石戸:「『生徒数は何人くらいですか』という質問がきています。一人ひとりをコーチングしていくと、コーチングする人もサポートするスタッフも、それなりの人数が必要かと思いますが、いかがでしょうか」
山本氏:「生徒は来年度150人から300人を目指しています。それに必要なコーチもアサインしたいと考えています」
石戸:「先ほど、通信制のサポート校で非常にユニークな学校が生まれつつあると話しましたが、視聴者からもこのような質問がきています。『通信制高校の生徒が増えている背景はどのようなことが考えられますか』というものです。確かに以前に比べると、通信制高校を積極的に選ぶ生徒も増えているという声もよく聞きます。実態はどうなのかということと、その実態に変化があるならば、その理由について教えてください」
山本氏:「今、高校生の人数自体は減っていますが、通信制高校に通っている人は増えています。2023年まで高校生の12人に1人が通信制高校に通っているということでしたが、2024年はもう10人に1人になりました。私立の高校では5人に1人です。コロナを経て大幅に増えています。オンラインで学校に行かなくてよいという考え方が広がったのが背景にあると思います。N高等学校が通信制を切り開いてきたこともあって、市民権を得てきたという背景もあります。昔は、いわゆる「落ちこぼれ」が行くようなイメージを持つ人も多かったと思いますが、今は優秀な子も普通に通信制に行って、自分の好きなことをやって有名大学に進学するケースも多いです。通信制が普通のルートとしてあるので、普通の学校に行ってつまらないと思ったら通信に行こうと考える親御さんも多いと思います」
石戸:「先ほどカリキュラムが投影されましたが、月曜日から金曜日までしっかり授業があるように思えます。オンラインとハイブリッドとのことでしたが、リアルな活動が多い印象ももちました。子ども達の通学の仕方に関する多様性に対する配慮はどのように考えていますか」
山本氏:「基本、単位さえ取ってもらえば何時に来てもよいです。本当は通学の予定だったけれど、オンラインに切り替えてオンラインで見ますとか、今日、朝起きられなかったのでオンラインにしますでもよいと思っています。ただ我々としては、こちらが何も用意しないのは少し違うなと思っていまして、やはり世の中や社会に触れる機会としてカリキュラムを用意しているということです。生徒には、好きなものを自由に受けてもらえばよいとは思っています」
石戸:「カリキュラムは色々と用意するけれど、それを選択するのはあくまで子ども達自身であり主体性に委ねるということですね。
先ほどアクティブ不登校という話がありましたが、『興味や関心がまだ分からないような生徒にはどのようなアプローチを考えていますか』というものや、『入学後にネガティブな側面が出てきてしまってまた不登校傾向になった場合、何らかケアやサポートは考えていますか』という質問もきています。この2点についていかがでしょうか」
山本氏:「そういった子をケアすることも大事だと思っています。月2回は1on1で個別サポートする手厚さは強調したいところです。先ほどお話があったように、がっつりしたコンテンツだと思われるかもしれませんが、コミュニケーションの仕方や人とどう触れていくかを学ぶコンテンツも持っています。そこをベースとして、集団活動に慣れてもらうお手伝いはきちんとしていきたいと考えています」
石戸:「企業との連携がとても多いというお話でしたが、このような質問もきています。『企業側のメリット、企業側の思惑はどういったものでしょうか』というものです。例えば大学だとそのまま就職に繋がることもあると思いますが、高校の場合はどのようなことを期待して企業側は連携しているのでしょうか」
山本氏:「けっこうさまざまでして、それこそ新規事業を一緒に作る、商品開発をやっていきたいということもありますし、マーケティング観点でこういった学校に通うようなイノベーターやアーリーアダプター層の方に自分達の商品を知ってもらいたいということもあります。あと採用目線で、優秀な学生を高校卒業で雇うと言っている会社もあります。今は人材難なので、就職の年齢層も下がってきていると思います。そういった採用面でのアプローチもありますし、企業によってまちまちということです」
石戸:「海外の大学との連携も非常に多くて驚きましたが、海外の推薦枠をこれだけ取れるというのは、何か理由があるのですか」
山本氏:「留学情報館という海外留学を斡旋している会社と提携して、先方に調整してもらってこの枠をいただいたという形です」
石戸:「HR高等学院での成績と英語だけで推薦で入れるというお話がありましたが、誰でも入れるわけではないと思いますが、どういう基準ですか」
山本氏:「基本、英語の基準をまず満たすことと、課外活動でこんなことをやってきたという活動実績の組み合わせです。なので、この2つを頑張ってもらえば大丈夫だと思います。もちろん英語のハードルは高いので、きちんと英語を勉強してもらう必要はあります」
石戸:「お話を聞いて、このオンラインシンポジウムにも出ていただいた神山まるごと高専にも通じるところがあるのかなと思いましたが、いかがでしょうか」
山本氏:「もちろん意識はしています。神山まるごと高専ですと、神山に移動して住むということや、少人数で密に授業をするということ、学費がサポートされるという特徴があって、学校法人でやっていますが、我々は民間で学校の仕組みを使ってやっています。そこが違いだと思います。
我々には動きやすさがあり、かつスタートアップでもあり、これから全国にどんどん拠点を作って、色々なところで学べる環境を作りたいです。『神山に行かないと学べない、ということではない』世界を全国で作れたらと思います」
石戸:「カリキュラムや教育の方針としては近いけれど、全国各地に横展開していくなかで、より多くの子ども達に学んでもらうというところで差別化しているというイメージでしょうか。次にこのような質問もきています。『HR高等学院で自律性を上げるためにどのようなカリキュラムを組む予定でしょうか』というものです。先ほど全体の枠組みは教えていただきましたが、もう少し詳細に、どうやって子ども達の自律性を上げるためのカリキュラムを設計しているのかについて教えていただけますか」
山本氏:「自律性は、自信も含めて、スキルなどさまざまな能力が一定水準までいかないと上がらないとできないと思っています。最初の一歩は我々のミッションで掲げている『越境』だと思っています。それは、家と学校の往復をやめて、自分の趣味の世界でもよいですが、普段触れない世界に触れに行く瞬間、例えば『一人でライブに行けるようになった』、でもよいと思っています。はたらく部でもそういう子達が出てきているのが、自律の一歩だと思っています。
そういった外に飛び出す経験を、きちんと大人が後押しすることが大事です。まずこの越境をしてもらいつつ、その中でこういうことに気付いたから、こんなチャレンジをしてみようと思ったことをまた大人達がサポートしていきながら、徐々に自分ができることが増えていく瞬間をどれだけ作れるかだと思っています。外に飛び出す後押しをするための1on1的なサポート、プラス『越境』の機会をたくさん作って、興味のあることや、やりたいことを見つけて探究してもらって、色々な人と協創することを通じながら自律性を養っていけたらと考えています」
石戸:「新しい学校のチャレンジをしていて、それを全国的に広げていきたいというお話がありましたが、『これからの学びや学校のあり方の多様性についてお考えがありましたらお聞かせください』という質問がきています。既存の学校に望むことも含めて、これからの学校、子ども達の学びのあり方について、どうあると理想的なのかについて教えてください」
山本氏:「既存のシステムは、もはや崩壊している部分がけっこうあると思っています。そもそも先生も不足していますし。未来の日本を作っていく子ども達の幸福度が低いと言われていますが、幸福度が高い子ども達を育てようと思った時に、果たして今のやり方でよいのだろうかという疑問もあります。ただ急には変えられないですし、急に変えるのは犠牲をともなう話なので、それも違うと思っています。今回の民間でできる学校の仕組みのように、多様な機会を提供する会社や学校がどんどん増えていって、こうやるとうまくいくという仕組みがもっと見つかるとよいでしょう。それが色々なところで実現する世界になると、日本の教育はもっと元気になります。
もうひとつ、今は教育と社会が分離していると思っています。社会がもっと教育に入っていくのが本来あるべき姿だと思います。昔の寺子屋は副業の社会人が学生に教えていて、そこから明治の教育になって学校教育制度ができました。昔に戻れというわけではないですが、社会人が当たり前のように学校現場に立って教えているような世界になったら、もっとよい社会になると思っています」
石戸:「まさにそういう世界を作るにあたって、先ほど通信制サポート校が増えているという話がありましたが、『通信制高校の持つ可能性と、課題についても知りたい』という声があります。いかがでしょうか」
山本氏:「通信制高校の可能性でいうと、民間人が教育現場に携わりやすい形になると思います。特にサポート校ではそういった制度になっているので、今までの教育の枠を超えた教育ができる可能性があります。さらに、2040年から2050年にかけては人口が減少し、リクルートワークス研究所の発表しているレポートでは4分の1くらいインフラを維持できないと言われています。そこまで日本の環境が変わってきている中で、地域では高校を維持できなくなっていて、通おうと思ったら2~3時間かかるという世界になると考えられます。実際にそうなりつつあります。今後の日本の少子化を考えた時に、通信で通わざるを得ない人達は絶対に出てくるというのがまず可能性としてあると思っています。
もうひとつの課題では、受験競争の中で勝ち上がってよい大学に行くという価値観が50代以上の方はかなり持っているのではないかと思っています。教育も含めて変化の時代が来ている中で、その変化がまだ浸透しきれていないところは大きな課題だと思っています」
石戸:「今、色々な新しいことにチャレンジされていますが、進路先として大学の総合型選抜(旧AO入試)などのお話をされていました。また、例えば海外の大学への進学に当たっても、どれだけアクティビティがあったかも評価のひとつだというお話もありました。その評価の仕方に関して質問したいです。探究学習は分野も多様で、評価の仕方が難しいかと思います。一方で何らか選抜があるところに対して、進学を目指そうとすると、学校としてはフィードバックをしていくことも求められると思います。生徒達の評価についてはどのようにしていく予定でしょうか」
山本氏:「難しいですね。正直、探究は他人が評価するものではないと思います。最終的に受験で評価されてしまうところがあります。結局、探索とその深さの掛け算がどれだけできているかだと思います。この掛け算がどれだけできているかというのは、他者が見た時の評価のひとつになると思います。この学校では探究について他人が評価するつもりはないですが、指針として掲げたいことはあります。失敗している数や、アクションをどれだけしているかです。これが指針のひとつになってくると思っています」
石戸:「まだ質問がたくさんきています。『例えば発達障害やグレーゾーンなど既存の学校には合いにくいケースも多いと思いますが、それに対するサポートはありますか』という質問もきています。また、『多くの子ども達が通うための奨学金の制度はありますか』という質問もきています。この2点についていかがでしょうか」
山本氏:「発達障害などを持っている子については、もうすでに我々はたらく部でもサポートしております。申告をしていただければ、そういった子ども向けの対応をします。きちんと1対1の機会を増やしたいと思っています。徐々に社会的な場に通えるような環境を自分のペースで作ってもらえるのが一番だと思っています。克服するケースは見ていて多いなと思っています。我々としては粘り強く、カウンセラーなども入れてサポートしていきます。
奨学金に関しては、大学に行くための奨学金をどうサポートするかは考えていましたが、HR高等学院としての奨学金についてはいずれ用意したいと思っています。現状では、準備中の段階ですが、いずれ奨学金という形で還元できるような仕組みや、特待生枠のように、熱意はあるけれど金銭的に厳しいという子どもに対応できる仕組みは作りたいと思っています」
石戸:「最後に、HR高等学院のこれからの抱負、展望と日本の教育に対する願いをお聞かせください」
山本氏:「先ほども言ったように、日本は学力は世界トップクラスです。今まで教育現場で関わってきた方々の力のお陰だと思います。みんなが字を書けてコミュニケーションできるのはすごいことです。一方、学力は世界トップクラスでありつつも、自律性が世界最下位というのは日本の停滞感を作っている原因ではないかと思っています。我々としては、学力も世界トップ、自律性も世界トップにできたら、日本はもっと輝けると思ってますので、そういった日本を皆様と一緒に作っていけたらと思います。まだこれからスタートですが、色々な方に応援していただけたらと思いますので、ぜひよろしくお願いします。本日はありがとうございました」とういう山本氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。