学力でも自律性でも世界トップクラスを目指す教育の実践
第170回オンラインシンポ・前半

活動報告|レポート

2024.12.20 Fri
学力でも自律性でも世界トップクラスを目指す教育の実践</br>第170回オンラインシンポ・前半

概要

超教育協会は2024年10月16日、HR高等学院 共同設立者 CEO/株式会社RePlayce 代表取締役CEOの山本 将裕氏を招いて、「社会全体で次世代を育成する、新しい学びの場。通信制サポート校HR高等学院の取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

シンポジウムの前半では、山本氏が2025年4月に開校する通信制サポート校HR高等学院(以下、HR高等学院)の特徴やカリキュラムについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その模様を紹介する。

>> 後半のレポートはこちら

「社会全体で次世代を育成する、新しい学びの場。通信制サポート校HR高等学院の取り組み」

■日時:2024年10月16日(水) 12時~12時55分

■講演:山本 将裕氏
 HR高等学院 共同設立者 CEO/株式会社RePlayce 代表取締役CEO 

■ファシリテーター:石戸 奈々子
 超教育協会理事長

山本氏は、約30分の講演において、HR高等学院の設立背景や特徴について話した。主な講演内容は以下のとおり。

学力は世界トップクラスなのに自律性は最下位レベル

HR高等学院は、2025年4月に開校する通信制高校のサポート校です。通信制高校と業務提携しており、高校卒業の資格も取得できます。民間が運営する学校です。

HR高等学院を設立した背景について説明します。私はNTTドコモで新事業開発を担当してきました。いわゆるドコモの中の社内起業を育成する部署です。ドコモにはドコモスタートアップという仕組みがあり、これまでに企画数は2,000件を超え、子会社も8社以上設立されています。その中で教育に関する事業を立ち上げよう2年前にスタートし、RePlayceを設立してその代表取締役に私が就任しました。

ドコモでは、社内起業家を育成していくスタートアップジャーニーと呼ばれるベンチャー企業育成プログラムを展開したり、ドコモアカデミーという企業内大学を運営したりして、キャリアオーナーシップアワードも受賞しました。キャリアオーナーシップや起業の世界では「自律」が重視され、「キャリアの自律」、つまり「自律的に動くこと」が私のテーマです。こうした考え方が、HR高等学院設立の背景のひとつにあります。

HR高等学院がどんな学校なのか簡単に説明します。HRは人材(Human Resource)のHRです。また、「働く」ことをポジティブに楽しんでいける人生にしたいとも考えており、「HataRaku」の頭文字をとってHR高等学院としました。働くとかキャリア感に特化した学校を作っていこうということです。

HR高等学院では「自ら人生を動かす人をどれだけ育てられるか」と、学生の「踏み出す勇気と面白がる力」を育んでいくことをゴールとしています。「越境、熱狂、創造」がビジョンです。

▲ スライド1・HR高等学院の
ゴール・ミッション・ビジョン

家と学校の往復をやめて、外に飛び出して道を見つけて、誰かと一緒に何かを作ったりしながら、失敗もして、その失敗を通してまた違う世界に飛び込んでいく、そういったスタイルを学校として作っていこうと考えています。

学校を設立するにあたり、いろいろと調べていく中で、日本の子ども達は自己肯定感や自己効力感が低いことがわかりました。

▲ スライド2・日本の学生は
自己肯定感・効力感が世界に比べて低い

また、親族や先生以外に進路相談する大人がいないこともわかりました。調査では2%でした。たまたま親族が信頼できる人、たまたま良い先生に出会ったら将来に対してポジティブになれるのですが、そうでない限りはポジティブになれるはずがないと感じました。社会全体でそういった子ども達をサポートする、隣近所のお兄さんやお姉さんが昔はいたように、サードプレイス的な大人がいる必要があるのではないかということもHR高等学院を設立した背景にはあります。

一方、社会から求められている人材像も、学歴が優秀なだけではなくなっています。主体性やチームワーク、学び続ける力、課題解決能力なども企業からは求められます。こういった能力を高校ぐらいから意識する必要があるのではないかと考えています。やはりキャリアの自律度を高くしていく必要があります。キャリア自律度が高い人は、仕事や人生の満足度も高いというのはデータでも出ていますので、自律性をいかに養っていくかが、日本人の一丁目一番地の課題ではないかと思っています。企業も求めているし、個人の幸福度から考えても、自律性を高めるのが非常に重要だと考えます。

それでは、学校現場ではどうなのか。OECD(経済協力開発機構)の2023年のランキングで学力は世界トップクラスですが、自分で学ぶ自律性は34カ国中最下位です。

▲ スライド3・日本の学生の
自律性は34カ国中最下位

教育現場では、自律性を養えていないということです。自律性を教育現場でいかに育むかが非常に大事です。

自律性は非認知能力の一番究極の行き着いた先にあると思っていますが、非認知能力が高い人は高校時代にどのような教育を受けていたのでしょうか。元京都大学の溝上 慎一教授の研究データによると、非認知能力の高い人は高校2年生の段階で授業外学習をしていて、豊かな対人関係を築き、キャリア意識を持っていることなどがわかります。

▲ スライド4・高校の時点から
資質や能力はほとんど成長しない

このように高校生の段階で、勉強外のことが求められる時代に変わっている中で、こういった3つの能力を養っていけるような学校を、民間企業が主導のもと運営していくことができないかと考え、HR高等学院の設立にいたりました。

我々は学校を作る前に教育事業をやっていました。オンラインスクールの「はたらく部」サービスや、探究やキャリアに使えるプログラムワークショップの開発も行ってきました。ワークショップも100種類くらいあります。マーケティングや企業アントレ教育、チャットGPTなど楽しく学べるコンテンツも含めて100種類くらいコンテンツを持っていまして、それを副業の社会人が楽しく教えるというサービスをやっています。

学校にプログラムとして実際に提供し、ご好評いただいています。オンラインのワークショップはもう700回以上やっています。副業の社会人も学生から毎回フィードバックをもらって、評価が低いとシフトに入れないという厳しいルールで運営しています。「面白い大人」しか残さないのが基本です。教育現場で、コンテンツと社会人が教えるノウハウは溜まってきました。

また、受験のサポートもしていて実績が出てきました。こうしたことから「いよいよ学校を」と取り組んだのです。HR高等学院では、共同設立者に起業家の成田 修造氏を招き入れました。元クラウドワークスの副社長をやった方です。有識者顧問には、スタンフォード大学のオンラインハイスクールの校長先生である星 友啓氏、東京学芸大学 教育インキュベーションセンター長でSTEAM教育をやられている金子 嘉宏教授にもご参画いただいています。このお2人にも授業を持ってもらうことも考えています。このような体制で運営していく予定です。

▲ スライド5・HR高等学院の運営体制

企業連携社会人に学ぶ、キャリア探究そして「伴走支援HR高等学院の特徴

HR高等学院には4つのポイントがあります。まずは、企業連携です。会社の現場を見たり、話を聞いたりしながら、自分がその社員だったら何ができるかを一緒に考え、場合によっては本当に実行していくことも含めて取り組むという企業PBL(Project Based Learning)を中心にしていきたいと考えています。

▲ スライド6・企業が抱える
課題解決に取り組む企業PBL

1つめのポイントは、先ほどの京都大学のデータの中にもありますが、PBLが一番、非認知能力の成長に変化をもたらすので、我々としても、普段知らない世界に触れる機会を数多く作っていきたいと考えています。日本を代表する企業と共に一緒になって社会を作っていくところを目指していきます。情報通信の分野では、我々の母体であるNTTドコモとももちろん連携していく予定ですし、不動産会社ではCHINTAIとも提携して、不動産教育や金融教育も絡めて提供していきます。まだ会社名は出せないですが、誰もが知っているお菓子メーカーとも提携することが決まっているので、お菓子作りも学校の現場でやっていきます。自分の興味や好きなことを見つけられる機会を作っていきながら、課題解決能力や思考能力を鍛えていきたいと考えています。さまざまな企業と連携しながら学校を運営していくことを目指していきます。

2つめのポイントは「社会人に学ぶ」ということで、さまざまな業界のトップランナーの方々にお越しいただいてお話を聞く機会をたくさん作りたいと思っています。普通の高校だと、半年に1回、年に1回ですが、それが毎週のように行える環境を作っていきたいと思っています。インフルエンサーやトップ起業家などを呼びたいと考えています。

▲ スライド7・HR高等学院の講師陣

例えば、JEPLANの創業者で代表取締役会長アショカ・フェローの岩元 美智彦氏は日本一の起業家の称号を2回取っている方で、ニューヨーク市場上場を目指していて、まさに環境やSDGs領域のトップランナーです。

3つめのポイントはキャリア探究です。自分で問いを立ててプロジェクトを進めていく探究が、2022年から高校でも必修化していますが、やはりキャリアを意識した探究をする必要があると思っています。将来、こうなりたいからこれに対して興味を持って探究するということです。キャリアを意識しながら、基本的な探究学習の時間をたくさん増やしたいです。もちろん、普通の教科科目も大事だと思っていますので、自学自習もやりつつではありますが、基本的には集団で受けるものはほとんど探究でやるべきと考えます。探究学習がメインというような取り組みにしていきたいです。

▲ スライド8・「探究」が5割を超えるHR高等学院の学びの特徴

4つめのポイントは伴走支援です。我々は1on1がとても大事だと思っています。本人達のやりたいことや好きなことを一緒に探して、大人が伴走してあげることが重要だと考えています。我々は、先生ではなくコーチと呼んでいますが、社会人のコーチが1on1で成長をサポートしていきます。月2回、「キャリア探究1on1」をします。他の学校でもここまでやっているところはないと思います。月に2回の1on1を通して、将来に向けて一緒になって、さまざまな経験をした民間人を採用してサポートしていきます。

この1on1を通じてさまざまなカリキュラムを用意しようと思っています。先ほど言ったトップランナーの方々の話を聞いたり、さらに学びを深めたりできるゼミをやる予定です。例えばアントレゼミでは成田氏が一緒になって、起業に向けて自治体にアクションしていくといった取り組みを深めていきます。

基礎科目と探究活動をバランスよく設計したカリキュラム

学びでは、まずは「探究」、そして家と学校の往復をやめて色々な社会の現場や社会人と会うことも含めて「越境」する、そして「他者と一緒に何かを作っていく」、この3つを通じて成長してもらうというのが我々の学びの指針です。現代的教養と社会との接続ということで、基礎科目ももちろん大事だと思っています。例えば数学はデータサイエンスに繋がる微分積分は必要です。また、ロジカルシンキングを学ぶための国語や、ビジネス的にプレゼンテーションができる英語などのプログラムも独自に用意しています。

また、先生と生徒という関係をやめて、実践者と学びの伴走者として、失敗を称賛するような学校を作っていきたいと考えています。

基本は午前中に基礎科目をやって、午後はアクティブラーニング的な学びをするという考えで、現在、カリキュラムの設計をしています。

▲ スライド9・1週間のカリキュラム(現在策定中)

また、次世代教養と呼んでいますが、これからの社会を生きるために必要な知識や能力を楽しく身に付けるセッション探究活動を行い、起業連携PBLなどの活動のためのベースとなる力を養います。基礎科目も、古典的な教科ではなくて、現代で必要な教科をきちんと学んでいこうという考え方です。プログラミングを学んでいくこともそうですし、大手の英語事業者とも連携してTOEICなどで良い点が取れるようなプログラムを作っていきたいと考えています。

学びのスタイルですが、我々はバーチャル空間でも700回以上ワークショップをやっていまして、バーチャル空間でも面白くワークショップをやることにこだわっているので、そのノウハウを活かしながらオンラインで学びを提供していきます。あとは通学です。いざオープンしたら通いたいという子がけっこういたので、拠点を用意しておいてよかったと思いました。

代々木で開校する予定です。居住サポートもします。引っ越してでも来たいという子どもがいるので、学生寮とも連携して提供します。

卒業後の進路にも幅広い選択肢を用意

卒業後の進路について説明します。中学3年生の時に考える進路はまだモザイクがかかった状態なので、あらゆるパターンを用意してあげるべきだと思っています。

▲ スライド10・卒業後の進路はさまざまな選択肢が

就職に関してもきちんとサポートします。今、高校生の就職では1人1社制ですが、我々は株式会社人事部と提携して、複数社の内定をもらえるようにサポートしていきます。高校生とはいえ、多様な選択肢を持って進路を選べるようにしようと考えています。また、今、多くの大学が総合型選抜に切り替わっています。一般受験が過半数を切っています。一般受験の勉強だけでは人を測れないという考えが浸透しています。総合型選抜で入った人の方が大学の成績が良く、就職の結果も良いというデータも出ています。総合型選抜は、基本的には志望理由と学生時代何をやってきたかを求められます。我々も数年研究して、ようやくサポートできるコンテンツを用意できたので、そういったところもきちんとサポートして、希望している大学に挑戦してもらうようにできればと考えています。

もうひとつ、海外進学ですが、HR高等学院として海外大学の推薦枠71枠を確保しました。普通の試験は不要で英語の資格と学校の成績だけで合格可能になります。シドニー大学やブリストル大学、マンチェスター大学など有名校への進学もサポートできるような形で枠を用意しています。幅広い選択肢で学生達が羽ばたいてもらえるように支援できたらと考えています。

サポート校の仕組みは、カシマ教育グループと提携して、鹿島山北高校と鹿島学園と提携する予定です。どちらかの学校の高校卒業の資格を選んでもらって、高校卒業の資格を取るサポートをします。

▲ スライド11・提携する通信制高校に入学し、高校卒業資格を取得可能

見た目上の入学はHR高等学院として入学していただいて、オンラインで高校卒業の資格を得るためのサポートをさせていただきながら、オルタナティブな学びを受けて、卒業して次のステップで羽ばたいてもらうのを目指していけたらと考えています。

もし興味のある方がいましたら、個別相談会や学校説明会、授業の体験会もやっておりますので、SNSやサイトもチェックしていただきたいです。また入学希望者向けにプロジェクトも進行中で、学校の制服をどうするかなどについてもすでに入学を希望している子ども達が中心となって一緒に考えています。HR高等学院は、「先生」がいない「大人」が向き合う学校なのです。

>> 後半へ続く

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