概要
超教育協会は2024年10月9日、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) 准教授の山口 真一氏を招いて、「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』から見る生成AIと教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、山口氏が「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』」の調査結果と教育分野での生成AI活用について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その前半の模様を紹介する。
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「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』から見る生成AIと教育」
■日時:2024年10月9日(水) 12時~12時55分
■講演:山口 真一氏
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) 准教授
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
山口氏は、約30分の講演において、「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』」の調査結果と、教育分野での生成AI活用について講演した。主な講演内容は以下のとおり。
企業で生成の活用が進む一方、簡単にフェイク画像や動画を生成できる時代に
本日は、生成AIと教育をテーマに、まずは生成AIと研究成果について紹介し、その後に、教育との関連について考えます。すでに多くの人が生成AIを使ったことがあると思います。2023年8月には、経済産業省が生成AIの急速な普及に対応して、デジタルスキル標準に生成AIに関する要素を追加しました。デジタルスキル標準に追加ですから、生成AIに関するスキルは、これから社会で生きていく上で欠かせないものになりつつあると言えます。生成AIを適切に使うスキル、プロンプトの習熟などとともに、戦略的思考や批判的考察力も重要であるとされています。クリエイティブなスキルやビジネスデザインスキルも重要で、経験を通じて培われる問いを立てる力や仮説を立てる力、検証する力などが求められているともされています。
こういった中で、現在、企業活動の中でも生成AIがさまざまな場面で活用されています。例えば建設業です。
▲ スライド1・建設業における
生成AIの活用事例
大林組は、スケッチや3Dモデルから瞬時にデザイン案を生成して、顧客との迅速な合意形成を実現するところに生成AIを活用しています。設計用のプラットフォームと生成AIを連携させることで、生成されたデザインをすぐに3Dモデル化しています。従来、顧客との対話の中で出てきた要件からスケッチやパースを作るのに時間がかかっていましたが、生成AIで自動的に作ってしまえば、はるかに簡単で効率的に顧客と合意形成ができるのが魅力的です。
次は製造業の例です。
▲ スライド2・製造業における
生成AIの活用事例
パナソニックコネクトがかなり早い段階から生成AIを業務に導入しました。1万2,500人に導入した結果、導入後3カ月で26万回の利用があり、これは想定の5倍以上でした。例えば、プログラミング業務のコーディング前のチェック時間が3時間から5分に、社内広報業務のアンケート分析が9時間から6分に短縮され、非常に生産性向上に寄与しています。さらに、生成AIを活用したAIアシスタントサービス「ConnectAI」の不適切な利用については、OpenAIが提供している公式チェックツールを活用して、機密情報の漏洩がないか、変な使い方をされていないかなどを監視しています。今後の展望として、自社固有の社外秘情報に回答してくれるAIの活用や、従業員個人に特化したAI、特定の業務や情報に最適化された自社特化AIへの進化を計画しているようです。
次は食品業です。
▲ スライド3・食品業における
生成AIの活用事例
コカ・コーラでは、キャンペーンに生成AIを活用しています。さまざまなアーティストに参加してもらい、参加アーティストは生成AIでコカ・コーラのロゴなどを使って自由にアートを作ることができます。その作品が、ニューヨークのタイムズスクエア、ピカデリーサーカスのデジタルビルボードに掲載される可能性があるという大々的なキャンペーンをしました。さらにワークショップも開催しました。コカ・コーラがこういった先端的な技術を活用してキャンペーンしている前向きな企業であるというアピールをし、並びに技術を駆使して消費者と対話してブランドイメージを強化するということに繋げています。
本日のテーマとも関わる教育産業の分野でも生成AIの活用は進んでいます。
▲ スライド4・教育分野における
生成AIの活用事例
ベネッセの事例は、生成AIを活用して小学生向けの自由研究サポートサービス、「自由研究お助けAI」をベータ版で提供しています。対話の中で自由研究のアイデアを小学生自身が見つける手助けを生成AIがするというアシスタント的な役割です。その効果として3つのことが示されています。1つめは、生成AIによって児童が研究に必要な情報を効率的に得ることができ、自由研究にかかる時間が大幅に短縮すること。2つめは、児童が自分の興味に基づいて研究を進めることで、探究心が深まりより個別最適化された学習体験が可能になること。3つめは、教育現場全体の負担軽減に繋がる可能性があることです。
このサービスでは生成AIから良い回答を引き出すテクニックも示されています。それをヒントにテクニックを身に付けることも学びです。自由研究をしながら、自由研究の良いアイデアをもらう過程で生成AIの使い方を学んでいくという仕組みです。
以上のようにさまざまなメリットがある生成AIですが、さまざまなリスクも存在します。偽・誤情報の蔓延、知的財産権の侵害、情報漏洩、サイバー攻撃、戦争・プロパガンダへの利用、詐欺、ハルシネーションなどさまざまなリスクが指摘されています。
▲ スライド5・生成AIに存在する
さまざまなリスク
私の専門のひとつに、この偽・誤情報があります。簡単に紹介しますと、例えば一番左の例は、2022年の静岡県の水害の時に、ドローンで撮影された静岡県の水害が悲惨すぎるというテキストとともに3枚の写真が添付されました。確かに非常に酷い状況を表していますが、この3枚の画像は全て生成AIで作った偽物でした。これは、Stable Diffusionという無料の生成AIサービスを使って作られていました。
その隣は、岸田首相の偽動画が話題になった例です。この2つに共通して言えるポイントは、これを作った人たちは何の技術的背景もない、ただの一般のネットユーザーだということです。つまり技術に詳しくない人でも簡単に偽画像や偽動画を作れてしまうというのが今の時代です。これを私は、ディープフェイクの大衆化が起きたと呼んでいます。つまり、誰もが自由にディープフェイクを作ることができるということです。その結果、何が起きるか。偽の動画や偽の画像、偽のテキストが簡単に作れると、誰もが簡単に世論誘導したり詐欺でお金を儲けたりできるようになります。今後デジタル空間の中にフェイク情報が溢れていく時代になると懸念しています。これを私は「withフェイク2.0時代」と呼んでいます。
2016年の米国大統領選挙以降、我々はフェイクとともに生きてきました。しかし生成AIによってこのステージが一段階上がると感じています。すでに災害、戦争などの有事、あるいは政治的意図をもった情報、詐欺行為などさまざまなものに生成AIが利用されてしまっています。だからこそ、適切な利用が重要なのです。
「Innovation Nippon 2024」の研究成果 生成AIを「なぜ使う」のか、「どう使っている」のか
ここからは、「Innovation Nippon 2024『生成AIと日本』」の研究成果について紹介します。日本における生成AIの利用実態について調査した結果です。予備調査1万5,000件、本調査4,000件の有効回答を得ています。
まず、各生成AIサービスについて知っている人に対して、サービスごとの関心度を訊ねたところ、かなり関心度が高いことが分かりました。
▲ スライド6・生成AIサービスの関心度は
比較的高い結果に
「やや関心がある」以上は6割から9割程度で、全てのサービスについて、知っている人の間では関心はかなり高まっているということがいえます。認知度でいうと、ChatGPTの認知度はすでにかなり高いです。少なくない人が、生成AIに注目して使ってみたいと思っているということは間違いないと思います。
分野別の関心度を見ると、やはりテキスト生成AIに対する関心度は非常に高いです。
▲ スライド7・生成AIの分野別と
年代別関心度
すでに35.6%の人が「関心がある」と回答しています。次いで画像生成AIです。年代別に見ると、全ての分野において20代が高くて60代が低いです。若い世代を中心に、生成AIに対する関心が高まっていると解釈できます。では実際に使っている人はどれくらいか。調査時に人口比に応じた割り付けをしていますので、かなり生の数値に近いと思います。テキスト生成AIはすでに18.9%が使っています。続いて画像生成AIが2.5%、動画と音声は0.9%です。少なくない人が生成AIをすでに使っているということが言えます。20代は27.4%、30代は24.8%がテキスト生成AIを使っています。20代でいうと、4人に1人以上の人が使っているということです。2024年2月の調査結果なので、現在では、数字がもっと上がっていると思います。かなり生成AIが浸透していると思います。
では、なぜ生成AIを使うのか。例えば、仕事や学業で使う理由としては、生産性や効率性を高めるという理由が非常に多いです。特にテキスト生成AIはその回答が多かったです。画像生成AIについては、特定のプロジェクトやタスクに必要だったため利用したという回答が多く、動画音声については周囲の人の勧めや職場や学校での推奨をきっかけに利用するという回答も多くありました。一方、生成AIをプライベートで利用している理由ですが、新しいテクノロジーへの興味や好奇心からという人が多いです。これからマジョリティに普及していく過程の中で、必要と感じたからとか、特定の目的のためにという動機も出てくると思います。画像、動画、音声については、エンタメとして使っている人も多くいました。
実際の活用の仕方、どんな活用をしているかについて、テキスト、画像、動画、音声全部で調査していますが、一番メジャーなテキスト生成AIについて紹介したいと思います。
▲ スライド8・仕事や学業での
テキスト生成AIの活用は「情報収集」が最多
仕事や学業でのテキスト生成AIの活用の仕方は、情報の収集や検索、調査全般が最も多かったです。次いでメールや広告見出しなどの短文作成支援や、レポート、ブログ記事、ウェブコンテンツの作成支援が多い結果となりました。ポイントは、情報の調査で使われているというところです。昨今、Googleが生成AIの活用に力を入れ始めていますが、それは自社のビジネスの核となる検索サービスの地位が危うくなってきたということです。生成AIがかなり普及していますので、それに対抗するために自社でも生成AIを発展させて、自前の検索サービスに生成AIを融合させて、情報の整理に活用してもらおうということを積極的にやっています。
一方、プライベートで使う理由は、学習や調査のためが一番多いです。続いて翻訳です。仕事や学業と同様、プライベートでも調べものが多いということです。
ここで、生成AIリテラシーについても調査しました。例えば生成AIの機能についての正確な説明に関する問いを出して、それに対する正答率を見ました。
▲ スライド9・生成AIリテラシー
に関する調査結果
その結果、正答率が低い項目がありました。比較的高かったのは著作権関連ですが、低かったのが回答の偏見を軽減するための工夫や、画像生成AIで作った商品の広告イラストが有名なデザインに似ている際の対応などです。つまり、生成AIを利用するに当たっての、生成したコンテンツとそのリスクの存在、これは比較的知られています。しかし実際に問題が起きた時にどう対応すべきかについての正答率は低いという傾向が見られました。全体で見ると、平均点が4.2点で、10問中なので半分を下回っています。あまり正答率は高くないということと、生成AIを使っている人でも正答率は半分以下だったので、啓発が十分に行き届いていないと感じています。
生成AIは社会的変化をもたらすと言われていますが、ポジティブな社会変化に対してどのように評価しているかという質問に対し、「評価する」と答えた人の割合は約5割から6割でした。例えば、「医療診断が生成AIの高度な画像解析により精度が向上する社会」や「生成AIにより各個人に合った教育コンテンツが充実する社会」などさまざまな項目について多くの人が評価しています。特に評価されていたのが、医療診断についてと、「異なる言語間の翻訳が生成AIでスムーズになり国際的なコミュニケーションが強化される社会」、「視覚や聴覚に障害を持つ人が生成AIの変換技術で情報にアクセスしやすくなる社会」などです。
一方で、ネガティブな問題に対して懸念している人が多いです。全般的に6割から7割が心配しているという結果でした。最も問題だと考えられているのは、生成AIによって作成されたニュースで誤った情報が広まることや、生成AIが回答する誤った情報が広がること、生成AIが作った偽の音声や動画による詐欺が増えることなどです。傾向はもう明確です。情報の信用度に関する問題や、偽のコンテンツによる世論操作など、フェイクに関する懸念が社会では非常に多いと言えます。
「生成AIで仕事が奪われる」ということに関しては、半分以上の人が懸念しています。割合としては51.7%。海外の人と話していると、生成AIが仕事を奪うことに対しての嫌悪感が強いと感じることが多いですが、日本は比較的そこに関してはポジティブというか、相対的にネガティブな人が少ない印象です。それはおそらく終身雇用や解雇規制の話などが関わっているかと思います。
「Innovation Nippon 2024」で示された 政策的含意の5項目とは
もうひとつ、生成AIの利用と社会階層という社会学的な分析もしました。ChatGPTの利用行動と社会階層の関係を見てみると、一貫して社会階層が高い方がChatGPTを利用する割合が高くなる傾向があるということです。
▲ スライド10・ChatGPTの
利用行動と社会階層の関係
文化資本度数や経済資本度数などさまざまな指標がありますが、より分かりやすいのは学歴や職業の地位や個人年収かと思います。例えば、学歴で言うと大卒の方が圧倒的に利用していて、職業でいうと正社員が圧倒的に利用しています。個人年収でいいますと、利用している人の年収の方が遥かに高い。こういった傾向がかなり顕著に見られました。
また企業においてもこういった格差が見えています。所属している企業での生成AIの活用状況について調査したところ、全社的に活用しているのが3.9%、一部の部署で活用しているのが13.2%。すでに17.1%の企業は活用しています。さらに、検討中で具体的な活用イメージまで待っている企業を含めると約20%で、5社に1社はすでに具体的なイメージはついています。ただ、企業規模別に傾向を見ると、100億円以上の大企業では36.8%が使っています。ところが1,000万円未満だと9.5%です。企業の規模によって生成AIの活用の割合が全く違うということが言えます。大企業は使っていて、中小企業は使っていないという差が露骨に見えてきたと感じています。
では、生成AIを使っていない人に対して、何が障壁や懸念になっているか聞いたところ、適切な利用方法が分からないという回答が最も多かったです。次いで導入するための人や技術が足りないから、あるいはプライバシー保護や個人情報流出などセキュリティ面の懸念があるからという回答が多い傾向にありました。つまり興味があるなしに関わらず、適切な利用方法がそもそも分からない、導入するために必要な技術が足りない、導入したいと思ってもできないというケースが多いと読み取れます。
また、生成AIのリテラシーについて調査をしたと話しましたが、その調査をするに当たってさまざまな文献調査をしていまして、生成AIの活用に関してどのような能力が必要かということについてまとめたのが右側です。
▲ スライド11・生成AIの活用に
必要な能力とは
例えばプロンプトの習熟は大事だと示されています。そのためには、実践で使って経験値を蓄積していくことが重要です。試行錯誤を通して、生成AIがどこまでできてどこができないかを理解していく必要があるとも書かれています。さらに、利用前に規約を確認してデータがどう学習されるかよく見る、機密情報や個人情報は基本的に入力しないことが大事とも書かれています。また、生成AIによる出力は誤りを含むことがあるので、出力内容を批判的に検討する、そして内容を修正することが大事だと書かれています。その生成物についても、一定の知識や自分なりの問題意識をもって、根拠の裏付けを自ら確認することが大事だと言っています。これは非常に重要だと思っています。
個人ベースで気を付けることは心がけの問題ですが、例えば企業で100人に導入、200人に導入となってくると、全員が自分なりの問題意識を持って根拠を裏付けて、自ら確認することを意識し続けることはなかなか難しいのではないかと思います。出てきたデータをいちいち自分で確認することを果たしてやってくれるかどうか。これが懸念としてあると思います。なので、正しい使い方、適切な使い方を一回啓発するだけでなくて、繰り返し忘れないように啓発することが、導入する際には重要だと考えています。また、著作権もリテラシーの中に入ってきます。
このレポート内では政策的含意についてもポイントを5つ挙げています。1つめが、我が国においても生成AIの普及を拡大していくため、適切に活用が促進されるような施策が求められるということ。2つめが、生成AIの適切な利用に関する啓発を促進し、格差なく多くの人が生成AIによる利便性を享受できる社会を作ること。3つめが、適切な利用方法を示すような事例集、導入する際のガイドライン、セキュリティ対策について幅広く啓発を進めること。4つめが、生成AIについて実際に活用されている方法の啓発を進めること。5つめが、官民双方において、プライバシー保護、セキュリティ対策、透明性、犯罪の対策、偽・誤情報対策、倫理的使用に関するガイドラインなどの観点から、生成AIについて多角的な対策を充実させることで適切な利用を促進することです。
▲ スライド12・レポートで示された
政策的含意の5項目
生成AI使用を前提に適切な授業を設計する 教育現場に求められていること
以上が研究成果です。最後に以上を踏まえた「教育×生成AI」で考えるべき論点を出して終わりにしたいと思います。1つめは、生成AIの利用には格差が存在しますが、実際にはコスト面や操作の難易度を考慮しても、格差なく多くの人が利用してその恩恵を十分に得られるものであることは間違いないと思います。かなりハードルが低いサービスだと思っています。格差なく適切な生成AIの利用が進むような教育啓発の推進、これが欠かせないと思います。例えば、私は偽・誤情報というテーマで総務省と教育啓発教材を作りました。
▲ スライド13・生成AI利用を
進める教育啓発の事例
YouTubeでの啓発キャンペーンも実施しています。YouTubeクリエイター9名と連携して、偽・誤情報に関するショートムービーを作りました。内容や構成について助言しましたが、このような9本の動画を公開した結果、現在1,600万回以上再生されています。このように、教材では講座形式で縦に深掘りし、インフルエンサーなどと組んで横への広がりを持たせる、縦の深掘りと横の広がりを意識して多角的な方法で啓発していくことが大事だと思います。総務省には、私が座長を務めている有識者会議で議論した生成AIの啓発教材「生成AIはじめの一歩」という資料もありますので、こういったものも活用して啓発を進めていくのが大事だと思っています。
2つめは、生成AIを教育に活用するという視点が欠かせないと思います。例えば、あるアプリでは生成AIを活用してフリートークをして、その中で英会話の勉強をします。あるいはMITは学習体系に生成AIを組み込むことができると指摘しています。そのうえで「学生が生成AIを使用する際に結果を批判的に評価するよう指導し、生成AIを活用しながら思考力や戦略的スキルを養うための課題を導入している。プレゼンテーション作成やノートの整理など、効率を高めつつ学習を個別化している。言語学習において、自分と生成AIが生成した文章を比較し、深い理解を促進できる」と指摘しています。
今後もこういった研究、実践が進められていくと思っています。
3つめは、学生の生成AI利用と教育のあり方です。教育現場で生成AIを一律に禁止するのはデメリットが大きいと感じています。一方で、全部使ってよい、レポートも生成AIのコピペでよいというのもまた違うと思います。何が大事かというと、年齢制限を守りつつ、適切な活用スキルを身に付けるように設計する、これが非常に重要です。例えば私が授業する時は文章で書かせます。今の学生たちは年々、短い段落や箇条書きでレポートを書いてくるようになっていますが、それはウェブコンテンツに慣れているからです。
しかし、この時代だからこそ論理的な文章力は大事だと思います。論理的な文章力を身に付けてほしいがために、さまざまな正解のない問いを毎週課題で出しますが、それに対してChatGPTをコピペされると能力は向上しないです。なので、アイデアを生む補助に生成AIを活用してくださいと言っています。ただそれをそのままレポートにしては駄目ですと話します。この教育の目的に応じて適切なルールを作ることが、大事な視点だと考えています。
今では、日本の大学生の半数は生成AIを使用していると指摘されています。ですので、生成AI使用を前提に課題を再設定したりなど、工夫が求められていると思います。生成AIの活用にはポジティブな効果もネガティブな効果もあるので、それを前提にどのように授業を設計すればよいか、適切な活用とは何かということをしっかり考えていくということが、今教育の現場では求められていると思います。
>> 後半へ続く