概要
超教育協会は、2024年7月31日、スクールエージェント株式会社 代表取締役 田中 善将氏を招いて、「教育における生成AI利用の本質~完全個別最適な探究へ~」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、田中氏が生成AI、主にChat GPTの教育現場での活用状況について講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「教育における生成AI利用の本質~完全個別最適な探究へ~」
■日時:2024年7月31日(水) 12時~12時55分
■講演:田中 善将氏
スクールエージェント株式会社 代表取締役
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
生成AI時代の学校の在り方とは 「講義形式の授業」を減らし探究型に
石戸:「子どもたちは、生成AIを使ってこのような高度なことに取り組まれているのですね。私たちも、今度、小学生を対象に生成AIを使って香水をつくるワークショップを行うのですが、これも可視化しにくい感性を生成AIの力で可視化するワークショップでもあります。その経緯もあり、さきほどのアロマテラピーの話は大変興味があります。
生成AIの学校での普及状況について、既にパイロット校では生成AIを使った授業は行われています。デジタルの時は反発が大きく、普及に時間がかかりました。それに比べて生成AIに関しては、前向きに見受けられます。
一方でこのような質問がきています。『教育委員会が認めていないところもあるようですが、年齢制限を設ける場合があり、AIの進化に追いついていないところもあるのではないでしょうか。その対策としてどのようなことが考えられますか』つまり生成AIをより一層教育現場に普及させていくにはどういうことが大事だと思うかということですが、いかがでしょうか」
田中氏:「対策はひとつしかなくて、『偉い人に見せる』ということです。偉い人が生成AIをそんなに触っていないのに、決裁権を持っていることが問題だと思っています。公聴会で生成AI検証をやるのはもちろんですが、もっと上で、教育委員会の偉い方々で検証する必要があると思っています。例えば、これからICT活用の計画を立てていこうとか、実行していこうというときに、最新の生成AIの現状を知らないまま方針を定めたりされると目も当たられない状況になります。教育委員会が認めていないという実態があるならば、そこの『一番偉い人』に何らかの力を使ってアプローチし、体験をしてもらうのが重要だと思います」
石戸:「田中先生から見て、どのくらい校務を効率化できていると感じていますか。また、校務の効率化という視点において、最も効果があるものトップ3を教えてください」
田中氏:「私はあくまで教育セグメントの話をします。なぜこんなに生成AIに注目しているのかというと、先生方に生成AIを使ってみようというワークショップをやると、今までICTが苦手だった人もまず楽しいと感じて、『何だこれは!』となるのです。Teamsを使ってみようとか、GoogleのClassroomを使ってみようといった研修をしたときには、こうはなりませんでした。
ところが、生成AIでは『絶対に役立つ』となって、明らかに知的好奇心が湧き出るような反応になるのです。まず楽しいということが、これまでのICTとの違いのひとつとしてあって、その中でどこが効率的かという問いに答えると、まず自分の考えているようにテキストを出してくれるところです。つまり、なんらかの資料の『叩き台』を作ってくれるのが早い。例えば校長先生だったら始業式の言葉、卒業式の言葉などを自分で書くと何十分とかかってしまうと思いますが、それをわずか1分以内で作れ、あとは修正するだけです。これが1つめです。
2つめは作問です。先生の主な業務の中で多くの割合を占めるのが、子どもたちの評価の部分です。テストをしたり小論文を書かせたりというところです。ここにおいて、まず作問というハードルがあります。算数、数学のテストは簡単に作れます。国語や社会や英語などの作問は大変です。そういう作問が簡単になります。
3つめはアイデアを練る時に、話し相手がいた方が良いアイデアが生まれる傾向が強いです。一人で発案するよりも、同僚と話をした方がアイデアが湧くということは、皆さんもご経験があると思います。今まで一人だとそれができなかったですが、Chat GPTと対話するとアイデアが出てきます。アイデアをもらうという感じではなくて、自分の中に見つかる感覚になるでしょう」
石戸:「毎回出てくる質問が、『子どもたちに対して、もっとも生成AIを使うのに効果的な教科、もしくは授業の中での場面はどういうところか』というものです。これからチャレンジする学校で、効果を感じてもらうのにはどこに導入すると良いか、これもトップ3を教えていただけますか」
田中氏:「何の効果をはかるかというのがあやふやな状態で言うのは難しいですが、何の教科かということでは、たぶん国語です。私たちの知能は日本語で思考されます。その日本語で思考して、日本語でアイデアを練って日本語で表現していくことが基本になります。その言語能力の上昇ということが、全ての能力に関わってくるという意味で、大言語モデルを日本語で使う、壁打ちをする、新しい知識を得る、そしてそれらを自分の意見として述べてみることや、具体的な情報のやり取りから『つまりこういうことなんだ』と抽象化して理解することができるようになるでしょう。
この具体と抽象の往来をChat GPTとやらせる授業が国語です。具体的に事例が出ていて、千葉の飯山満中学校では国語の授業でとある作品を要約する、また別の作品を要約するということをやっていました。要約したところの差分を取って、魅力的な文章を作るためにはどんなポイントがあるのかと、一段抽象化したレベルで子どもたちに課題を与えていました。そうした授業でChat GPTを活用すると、要約された内容をどんなテーマでも当てはまる形にフレームワーク化ができました。フレームワークになったら、別にテーマが富士山だろうが戦争だろうが他のものだろうが、魅力的に要約するための枠組みがあります。転用できます。こうした言語本来の抽象化のうまみみたいなところに辿り着くと思うというのが1つめです。
2つめは、生徒のレポートを評価させるものを作りました。何かというと、レポートを評価することに特化したチャットボットです。生徒のレポートを読ませると、そのレポートをこの観点で評価しますということで、例えば研究の背景と目的について評価してくれて、一方で書き方が甘いところについてはこういうところが記載されていません、こういうところが明示されていません、研究成果の整理と分析についてもこういうところが欠けていますなど、最終的に三点満点でスコアを出してくれます。先生たちがこの授業でこういう観点で生徒のレポートを評価したいとなった時に、わざわざ先生が言う必要がないことってありますよね。例えば数学の証明問題で、日本語の使い方がおかしくないかというのは、数学の理論からすれば関係ないです。そういうところを生成AIに任せてしまい、先生たちは重要な理論の部分、発展性がある部分、今回この授業で身に付けてほしい本命の所だけをフィードバックすることが重要だと思います。
3つめは、生徒の数学の点数を加工用に生成して、データとして読み込ませるとヒストグラムにしてくれて、その平均点や分散を調べてくれます。データの可視化などに有効です。クラスの各教科の分布も調べると、クラスごとに点数の散らばりがある、なんでこんな散らばりがあるのだろうみたいな、先生たちが業務の中で使える分析はエクセルでもできるのですが、Chat GPTだとパッとできます。しかも無料でできます」
石戸:「これまで個別に対応するのが難しかった探究型の学習において、各々が探究を深め、高度化させることにおいて、生成AIが極めて有効ではないかと思っています。そういう視点から、子どもたち自身が生成AIを使って、興味関心を深めた事例はありますか」
田中氏:「それが今まさにやっているアロマセラピーの事例です。ポイントは、生成AIは『生データを作れない』ということです。シミュレーションをして架空のデータを作ることはできますが、フィジカルでフィールドワークをして、データを作るというのができません。さっき私が潜在空間での学びと学校でしかできない学びというのが本質だと思いますと言ったのはそこで、生成AIができるのは、データの取り方をガイドするところまでです。自分の興味に合わせてデータを取ってみようと動き始めるというのは、学校の先生と学校の現場に集まっている人間にしかできません。これが日本人だけだと、あまりブレイクしないかもしれませんが、海外の学校とコラボレーションしてオンラインで繋がりながらやってみるとか、多様な観点が入りやすいようにすることで、興味関心と取るべきデータ、実験すべきことがどんどん深まっていくと思います。事例としてはまだ全く出ていないです。生成AIを活用した探究というのはこれから出てくることだと思います」
石戸「学ぶ意欲さえあれば、動画コンテンツと家庭教師、つまり生成AIを使うとかなりのところまで学びを進めることができる状況が生まれていると思います。そんな中で、学校はこれからどうあるべきかを、もう一回考えねばならないかと思います。田中先生が今から学校の授業、学校のカリキュラム、学校の役割を再設計できるとしたらどのようにデザインされますか」
田中氏:「まず校長が『授業をしないように』と命令することです。先生方が授業をしに行くのをやめさせるのが重要だと思います。時間割が、一斉に学ばせて平均を向上させることについてはある一定の成果を出してきたのですが、時間割という枠組みが生成AIというイノベーションにそぐわない形になっています。授業に行かないというのは、先生たちに職務怠慢をしろということではなくて、教室までは赴いていただくのですが、そこで講義形式の授業をしないということ。講義形式の授業をゼロにするのではなくて、今100あるとしたら20くらいに下げて、残り80の時間、生成AIを用いて、テーマに応じたインプットに当てる。そのインプットの時間が30時間取れたら残り50時間はフィールドワークに出られるわけですよね。なのでリーダーシップが重要で、これを公立でいきなりやろうとすると大変なことになるのですが、渋谷区は今年、小中学校で探究の時間を作っています。これは、授業をしないということを自治体のリーダーレベルで実行しているということで、すでに実例は生まれ始めているということです」
石戸:「入試のあり方や学校制度のあり方に関して、田中先生がここはもう改善した方がよいのではないか、ここはもう古いのではないかと思っているところがありましたら、ご指摘いただきたいと思います」
田中氏:「私は大学入試の変化については評価していて、一般入試と言われる筆記で学力を競って入れるというものは、悪いように見えて実は分かりやすいというメリットもあります。どんなに経済状況が悪くても、ある一定の努力をすれば確実にその学校に入れる入り口を用意しているという側面ではよいところもあります。
ただ一方で、これまでどういう経験をしてきたかという経験値や、プレゼンテーションによって人間性を評価されて一本釣りされるような入試の形態は、大学入試だけでなくて高校中学にも一部始めているところがあって、この流れを私は評価していて、頑張ってもらって半々ぐらいの割合になればよいのではないかと思っています。一方で学校に何を求めるかという問いでいうと、子どもたちが勉強する目的を認めろということです。つまり、ゴリゴリ受験勉強をやりたい生徒もいる、探究をやりたい生徒もいる、どちらか決められないけれど、取り敢えずみんなについていきたいという人もいる。勉強する目的は子どもたちによって違って、それでよいと思います。ところが蓋を開けてみると、この学校は全部受験でレッツゴーとか全部探究でレッツゴーといったムードになっている。これだと、公立の学校だと色んな目的を持った子が集まっているのに、全員で探究しろってどういうこと、となるわけです。これも違っていて、非効率だということです。学校だからこういう生徒を集めるというのはよいとして、ただ子どもたちの学びたい目的に教師や学校が寛容になって対応できるようにするのが、公立の学校ではまず大切だと思います。授業をやめろというのは、そういうところにも機能すると思っています」
最後は石戸の「私も全く同感で、大事なことは自分自身の幸せをどう定義するかだと思います。自分はどう生きたいかもそれぞれ違います。もちろん自分にとって学びやすい学び方も一人一人違う。それがこれまで一律に規定されていました。それがある種、子どもたちにとっても苦しさに繋がっていたのではないかと思うと、価値観が多様化していることを学校がどのように吸収できるかが、これからの学校にとって大事だと改めて思いました」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。