概要
超教育協会は2023年8月30日、株式会社ドワンゴファウンダー、角川ドワンゴ学園理事の川上 量生氏を招いて「オンライン大学『ZEN大学』 開学に向けた取り組み」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では川上氏が、2025年4月に開学予定の日本初のオンライン大学・ZEN大学について説明。ZEN大学を通じて、日本の高等教育のあり方を変えていきたいという想いを語った。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。
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「オンライン大学『ZEN大学』 開学に向けた取り組み」
■日時:2023年8月30日(水)12時~12時55分
■講演:川上 量生氏
株式会社ドワンゴファウンダー、角川ドワンゴ学園理事
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。
AIが急速に進化する社会でZEN大学が考える「実社会を担う力」とは
石戸:「たくさん質問がきています。講演の中のビデオで、実学実社会を担っていく力を育むと仰っていたと思います。実社会を担っていく力、それを川上さんが言語化すると、生成AI時代のこれからの社会を生きていくために必要とする力をどのように定義されていらっしゃいますか」
川上氏:「ひとつは文理の融合です。ずっと大事だと言われていましたが、それが避けられなくなってくると思います。今、あらゆる学問でデータサイエンスが必要だと言われています。とはいえ、数学が必要でもすべての人が学ぶのは難しいし、データサイエンスも非常に難しい。現実的には『大事なんだけれどね…』で止まっていたと思います。今ならそのギャップをAIが埋める可能性があると思います。ChatGPTなら、理系だけでなく文系の人も使えるわけです。そういう意味でのAIも含めたAIツールの実践的な経験が、重要になってくると思います。オンライン大学だとそういったツールが必然的に学べるように設計して、学生の能力を自然と上げることが可能です。例えばN高生は不登校生も多いので、模試の偏差値レベルは全国平均よりも下ですが、なぜか国語だけは全国平均よりも高いのです。これは明らかに普段からオンラインで、Slackで文章のやり取りをしているから、文章でのコミュニケーション能力があがったからだと考えています」
石戸:「AIがユーザーに近づいてきて、これまではAIを学ぶことはハードルが高かったようにも思いますが、AIが身近になり、どう活用すると自分たちの生活や社会が便利になるのかとの視点を持って、学びやすくなっているとも思います。国語の力とありましたが、正確にきちんと日本語を書いて使える力があれば、自動翻訳のレベルもあがっているので、英語学習そのものもまた変わってくる可能性がありますね」
川上氏:「はい、その視点でいうとZEN大学には外国語教科は作りません」
石戸:「もう必要ない、という判断ですか」
川上氏:「というよりも、外国語の代わりに例えば『竹内 薫と一緒にネイチャーを読む』のような授業をやります」
石戸:「そうなのですね。どんなツールを使ってもよいから外国語を読み必要な知識を得たり、理解したりできればよいという考えですね」
川上氏:「そうです。重要なのは英語ではなく、英語で書かれている情報です。もともと日本の外国語科目は、海外の文献を読むために勉強してきたという経緯があります。その意味では、むしろAIツールを使った実践にすべきだと思っています」
石戸:「複数人から、ZEN大学卒業後のキャリア、就職就学サポートに関する質問がきています。川上さんはいろいろなところで、これからは働かない社会が本当に実現するかもしれない、みんながAIを使い、理想的にカスタマイズされたAI空間で過ごせればそれが幸せかもしれない、とお話しをされていると思います。川上さんとしてはZEN大学に入学した生徒たちの卒業後、社会がどう変わり、それに合わせて進路がどうなっていくとお考えでしょうか」
川上氏:「それはだいぶ先の話だと思います。私が考えているのは、いま社会が欲しい人材は何なのかということです。例えば10~20年前はExcelや一太郎が使えるだけで多くの職場で重宝されました。これからの時代、例えば花屋やレストランで働くなら、PythonでAIのプログラムを書けるようになる必要はないでしょう。でもインスタグラムで宣伝したい、外国人が来たときに応対したいなどを考えると、そうしたことに対応できる人が求められます。つまり、以前はパソコンが使えれば役立ったのと同様、AI、ITツールが使える、SNSへの宣伝方法を知っている、そういった人が「役に立つ人間」になると思います」
石戸:「この1年でAIを使える必要性を、リアリティを持って理解したと思います。最後に一言にいただきたいと思います。視聴者のみなさんは初等中等教育×ITの分野に関わっている方が多いです。川上さんが考える、大学に入るまでの子どもたちに提供したい学びの場とはどのようなものか、お考えを聞かせてください」
川上氏:「まず思い浮かぶのは、うちの子もそうですが、最近の子は習い事が多すぎてかわいそうだと思います」
石戸:「余白の時間を多くすることによって、自分がどう過ごしたいか、何が好きかを考えるなど、そんな時間があるほうがよいということですか」
川上氏:「個人的には、余白の時間のような学びの場を提供したいと考えています。ZEN大学が目指すものについて、次回は2024年2月頃により詳細な説明会をします。本日いただきながらもお答えできなかった質問のほとんどは、説明会でお話しできると思います。ぜひ来年2月の発表を楽しみにしていてください」
最後は石戸の「アリゾナ州立大学をモデルにしていると仰っていましたが、アリゾナ大学をモデルとしながらも、ドワンゴだからこそできるコンテンツ×ITで、日本ならでは、そして世界を先導する新しい形の大学をZEN大学がつくってくれるのではないかと期待します。ぜひ日本の教育業界を変革してください」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。