入試も日々の学習も身に付けるべき能力も全てが変わる!
第134回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.10.6 Fri
入試も日々の学習も身に付けるべき能力も全てが変わる!</br>第134回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は20238月23日、東京大学 理事・副学長(教育・情報担当)の太田 邦史氏を招いて「生成AIの登場は教育にどのようなインパクトを与えるか」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では太田氏が、生成AIChatGPTと同じ仕組みの東京大学公式チャットボット「Chatbot UI」の活用例を示しながら、教育現場で生成AIを使いこなすために重要なポイントを説明した。後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

>> シンポジウム動画も公開中!Youtube動画

 

「生成AIの登場は教育にどのようなインパクトを与えるか」

■日時:2023年8月23日(水)12時~12時55分

■講演:太田 邦史氏
東京大学 理事・副学長(教育・情報担当)

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が実施された。

生成AIの活用で個別最適な学習を実現できる可能性がさらに高まる

石戸:「太田先生が発信されたメッセージは、放っておくとネガティブに捉え『使わない』という方向に引っ張られがちな日本において、大きな社会的影響をもたらしたのではないかと思います。教育への生成AIの利活用については、世界中、賛否両論いろいろで混乱しています。国によって禁止したり、禁止して訂正したり、初めから積極的に利用したり、と大きな違いがあります。東京大学で太田先生がこのメッセージを発信されたときに、教員の反応はどうでしたか」

 

太田氏:「提示したメッセージの基本的な方針は、学内の情報系が集まった『どこでもキャンパスプロジェクト』で議論されたものをベースにしています。多くの先生方の共通認識で書かれているもので、的確に書いてくださったというコメントが多くて、あまり大きなクレームは出てきませんでした。ただ、先生の中には、やはり生成AIのような確率的に出てくる文章は、人間の言語生成とは原理的に全く違うものなので、それを安易に使うのはよくないのではないかという指摘はありました。実際その通りだと思いますが、そのようなことを踏まえつつ、使える形で使っていくのがよいのではないかと思います。ただ、使わないという選択はしにくいフェーズにきていると思います」

 

石戸:「超教育協会としては、AIを使いこなす力はこれからの必須のリテラシーだと考えていて、全授業で使うことを提案しています。東京大学の先生方の現状の活用度合いはどのぐらいの割合でしょうか」

 

太田氏「まだ最初の学期が終わったところなので、調査結果はまとまっておらず、正式な比率は分かりません。先進的な取り組みをされている先生方はアクティブラーニングなどでの活用を始めています。まだ躊躇されているところもあると思いますが、だんだん増えてくると思います。それから大学公式のシステムがうまく回ってくると、使いやすくなってくると思います。今は個人の負担で利用されている可能性があるので、そこをブレイクスルーすると一気に広がると思います」

 

石戸:「使い方の事例が共有されてくると、使う先生も増えていくと思います。講演では、今後、必要となる力の変化についても言及されていらっしゃいましたが、大学側が求める『入学までに身につけておいてもらいたい力』にも変化はあるのでしょうか。またそれに伴い入学試験や学力感はどのように変わっていくでしょうか」

 

太田氏:「新しく『情報』という科目が入ってきます。情報のリテラシーが重要になってくると思います。その中には、例えば生成AIに関する知識なども入ってくるのではないかと感じています。よい面と悪い面を早い段階で知っておいて、危険な使い方もリテラシーとして持っておいた方がよいと思います。こう使うとすごくよくなるということが分かっていれば、おかしな使い方もしなくなるのではないでしょうか。新しくできたツールはやはり負の側面があり、SNSなども同様ですが、犯罪に使われたり巻き込まれたりする可能性も充分あるわけです。それも含めて若い人たちに知っておいてもらうのはよいのではないかと思います」

 

石戸:「これまでも東京大学の入試は、社会全般で言われているような、詰め込みの暗記ものでは対応できない思考力を問うような問題が多かったと思います。以前、京都大学で『Yahoo!知恵袋』を使ったカンニング事件が起きましたが、一方で、社会に出たら多様な手段を活用して課題を解決する力が問われるわけです。これからは生成AIも使ったうえでどういう解を求めるかを社会では求められ、それにあわせて入試も変わってくることを期待します。入試のことなので、なかなか言えないとは思いますが、東京大学としてはこれから入試の在り方についても検討する可能性があるということですね」

 

太田氏:「最初のプロンプトをどうするのか、それによって出力のレベルが全然違ってきますので、そこで実力が分かるのです。個人的な感想ですが、将来はそういう要素も、入試に取り入れると面白いかなと思います。なお、デバイスの試験会場への持ち込みを許可すると、性能のよいデバイスを持っている人、悪いのを持っている人で差が出てしまいます。公平性がなくなってしまうので難しいと思います。スマートグラスなどいろんなものが出てきていて、本当に危ないなと思っています。こちらもいろいろと技術的なところを検討しているところです」

 

石戸:「藤井 聡太さんも、性能の良いパソコンを使われています。これから先、スマートグラスどころか脳にチップを埋め込むというような話も出てくる時代に、どういう試験が良いのかは考える必要があると思います。先ほど、文部科学省の初等中等教育のガイドラインについても言及いただきましたが、初等中等教育に関する質問もきています。『太田先生が考える生成AIの登場による初等中等教育への影響、また理想とする教育カリキュラムとはどういうものか、ぜひ具体的に知りたいです』という質問です」

 

太田氏:「個々の学生に、適正に合った形で教育ができるようになるきっかけになると思っています。先ほど発達障害の学生が使うとよいという話が出てきましたが、今までの、判で押したようなマスプロ的な教育で落ちこぼれてしまう人もいますが、そのような人をきちんとカバーできるような仕組み、補習などが、この生成AIでできるとよいのではないでしょうか。落ち込んだときに『あなたはここが分かっていないので先が分からないのですよ』と見つけるなど、いろいろな使い方があると思います。初等中等教育の教育開発でもイノベーションが起こる可能性がありますので期待しています。それができると、『誰一人取り残すことのない教育』が実現できると考えます。それから、日本人は普段、英語を使わないので、語学が壁になっています。いろいろな知識を持っているのですから、語学の壁もうまく乗り越えられるとよいのではないかと思っています」

 

石戸:「私も、変化する可能性がある、というより変化を起こさなくてはいけないのではないかと思います。一方で「現状維持バイアス」が働いてしまうように、教育現場は変わりにくいという実体もあると思います。その中で東京大学は最近すごく革新的に、さまざまな新しい試みをしていますよね。そういうことを実現できる背景には、どんなことがあるのでしょう。どうすれば初等中等教育も時代に合わせて迅速に変わっていくことができると思われますか」

 

太田氏:「私が教養学部長のとき、コロナ対策で教養学部の2,000以上の授業をすべてオンライン化しようと動きました。当初は「何を言っているのか?」という雰囲気でしたが、うまくブレイクスルーできた理由は、先生方に『学生一人も取り残さないための学生のためにやることです』という話をし、全員が賛同してくれたことです。『日本人は、やるときはやるんだ』と、希望を感じました。つまり、多くの人たちに『これはやらなければならない』と納得していただけること、将来を見据えて必要であるとリーダー層がきちんと決断して取り組んでいくことが大切です。東京大学は執行部、総長含めてそのようなことができる環境になっています。それが、今の東京大学の活動のアジリティが高まっているひとつの要因だと思います」

 

石戸:「保守的と思われがちな東京大学ですが、むしろとても革新的なことをされていると感じるところです。こんな質問もきています。『小中学生が、これからは生成AIがあるから勉強なんかしなくていいんだよ、と言ったとき、一言で納得させて諭すには、どのような言葉が、効き目があるでしょうか』というものです。太田先生でしたら、どのように答えられますか」

 

太田氏:「先ほどお話しましたが、『自分の書いた文章を中国語に翻訳して、それが本当に中国人に通用するかどうか、君は分かるの?』みたいな。『中国語を知らなかったら、生成AIがまともなことを書いているかどうかも分からないからね。本当に正しいか、よいか悪いか分かるためには、自分も生成AI以上にいろいろと勉強しておく必要があるんだよ。AIに使われてしまうか、使う立場になるかは、自分が勉強するかどうかで決まって、ものすごく大きな差を生むから、勉強しておいたほうがいいよ』と言います」

 

石戸:「小さいうちに使いながら学んでいくことがよいのでは、と思う一方で、正しいか正しくないか判断するためにある程度の知識が必要なのに、それが身に着く前に生成AIを使う、そのときにどうしていくかは悩ましい問題です。

 

少し教育からは離れますが、太田先生の前段のお話で、ありとあらゆる研究領域の研究スピードがすごく加速するだろうと感じました。それに関する東京大学の先生方の反応、研究の視点ではいかがでしょうか」

 

太田氏:「使いこなしている人はまだそんなに多くないのではないかと思います。使っている人といない人の差が出てきたと思います。使っている薬学部の先生などは、これなしではやっていないとおっしゃっています。そういう人と、全く我関せずの人と、大きく分かれていると思います」

 

石戸:AIを味方につけて使いこなす人と、全く使わない人で、大きな差が生まれてしまう状況に、もはや突入していると思います。視聴者には初等中等教育の情報化に関わる方々が多いのですが、最後に教育全般に関するメッセージ、もしくは東京大学がこれからチャレンジしていきたいことなど展望がありましたら一言いただきたいと思います」

 

太田氏:「情報教育はやはり、これから我が国が活力を高めていくためにも非常に重要です。初等中等教育からいろんな情報リテラシーも含めてぜひ協力いただければと思っています。東京大学としても、新しい教養として情報、統計、データサイエンスは全ての学生に幅広く学んでもらおうと考えています。日本は少子化で、これから先大変だと言われていますが、人材を高めていくことが絶対に必要です。是非そこへ一緒に進んでいきたいと思います」

 

最後は石戸の「東京大学がさらに革新的な挑戦を続け、世界ナンバーワンの大学になる日を夢見て、引き続き応援していきたいと思います」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

おすすめ記事

他カテゴリーを見る