教育分野におけるメタバースの活用とは
第122回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.6.9 Fri
教育分野におけるメタバースの活用とは</br>第122回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は427日、クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤 直人氏を招いて、「バーチャル空間が創る新しい学び~メタバースの活用」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、加藤氏がメタバースの現況や教育分野におけるメタバースの活用について講演し、後半では超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

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バーチャル空間が創る新しい学び~メタバースの活用」

日時:427日(木)12時~1255

講演:加藤 直人氏
クラスター株式会社
代表取締役CEO

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、石戸 奈々子をファシリテーターに参加者から寄せられた質問も交えて、質疑応答が行われた。

 

メタバースなら「歴史を体験して学ぶ」こともできる 教育分野でのメタバース活用の留意点と可能性に関心が集まる

石戸:「加藤さんの本を読み、メタバースで革新的なのは体験をともなった教育を提供できることだとありました。体験をともなうメタバースを活用した教育とはどういうことか具体的に説明いただけますか」

 

加藤氏:「インターネットやコンピューティングが発達していく中で、人間が物事を学ぶ速度がどんどん変わっていると思います。読み書きで学ぶのが中心だった時代から、動画を見たり聞いたりして学ぶようになっています。私も最近は物事を学んだり勉強したりするのに、できるだけ耳や目を使うようにしています。YouTubeやポッドキャストで勉強しています。読んだりするより見たほうがよい、百聞は一見に如かずです。体験したほうが強烈に記憶に残るし、すっと入ってくると思っています。

 

例えば歴史を学ぶといった場合に、歴史の教科書を延々と聞いていても面白くないです。だから映像を見て学ぼうとなりますが、映像もそこまで頭に残るかといったらそうでもない。強烈なのはその時代を体験してしまうことです。バーチャル空間に入って、体験を身体にインストールしていく、そういった教育こそが、メタバースを教育に役立てるのに一番面白いところだと期待しています。

 

単に教科書をバーチャル上に表示した、みたいなことをやっても人間のラーニングのスピードは上がりません。人類のスピードが加速するのかが重要だし面白いところだと思っていて、今まで到達できなかったところに人類が到達するのがテクノロジーの面白いところであり、テクノロジーのあるべき姿です。その観点でいうなら、まずは情報や体験をインストールするためのツールとしてのメタバースが、メタバース時代の教育のあり方として大事だと思っています」

 

石戸:「国内外で、教育での良い使い方の事例がありましたら教えてください」

 

加藤氏:「学校の教育ではまだそれほど使われていません。スポーツで使われたとか研修で使われたとか、宇宙空間での船外活動のために使われたというのはあります。また、教育機関に大々的に導入されたという事例はありません。ただ、クラスター社がclusterを使って中学校に教えに行くことは何回かやっています。

 

その中のひとつで、これは面白いと思っているのは、コラボレーションを学ぶ場としてのメタバースです。人類が他の動物と違ってこれだけ発達したのは言葉やコラボレーションによると言われていますが、コラボレーションのあり方を大きく変えるのがメタバースだと思っています。空間的な制約や時間的な制約も取り払うことができるかもしれません。例えば大きい建造物を作ろうといったときに、物理的な時間の制約がありますが、バーチャルだと融通が利きます。一緒に物事を作っていくことを通じた遊び方や学びが肝になると感じています。

 

何回か中学生向けに勉強会をやりました。clusterを教えながらclusterの中で学ぶ取り組みをやりましたが、すごく感じるのは中学生や小学生はメタバースとの「相性が良すぎる」くらいだということです。ゲームで遊ぶことに慣れすぎていて、バーチャルというと大人の方が身構えてしまう。子どもにはゲームみたいな文脈で遊ばせながらコラボレーションを学ばせて、そこに体験を入れていくのが教育のあり方として面白いと思っています」

 

石戸:「バーチャル上でのコミュニケーションやコラボレーションと、リアルのコミュニケーションやコラボレーションとのスキルの違いは何でしょうか。また、バーチャル空間のコミュニケーションとして子どもたちが具体的に身につけるべきスキルやリテラシーについて教えください」

 

加藤氏:「メタバースの世界はデフォルメの世界だと言っています。どういうことかというと、現実世界と同じだけの情報量を送れないということです。現実世界はレンダリングコストゼロですごい情報量を一気に送ることができます。対して、例えば私は今このシンポジウムでアバターを出して話していますが、アバターは明らかに私の表情の豊かさより情報が欠落しています。つまり、デフォルメされています。

 

デフォルメされた中でのコミュニケーションは、対人のコミュニケーションとは求められるものが違います。わかりやすい例は、手紙のコミュニケーションやメールのコミュニケーションと、対人のコミュニケーションは違うということです。それと同じくらい、バーチャル空間でのアバターでのコミュニケーションは、情報が欠落している部分を脳内補完しながらコミュニケーションしないといけません。その補完の仕方や、相手に考えを励起させるという考え方が大事になります。

 

京都大学の元総長とディスカッションした時の話です。京都大学はDNAが人間と限りなく近いゴリラを研究しています。人間とゴリラの違いは言葉を扱っているかいないかですが、言葉は考えを伝達するための手段ではなく、相手の考えを励起させるための手段であると話されていて、面白いと思いました。コミュニケーションというのは、情報をどう伝えようではなく、相手にどう考えさせようとするものということです。メールを書く時は伝えるために頭を使います。これを読んだ相手がどう捉えるだろうということを考えます。メタバースにおけるコミュニケーションも、情報が欠落している部分を相手がどう捉えるだろうと想像する必要が出てくるので、その能力が大事だと思っています

 

石戸:「コミュニケーションが苦手で不登校になった子どもにとって、メタバースは入りやすいのではないでしょうか。リアルな世界でコミュニケーションが難しい子にとってのメタバースの意味、不登校や引きこもりにとってのメタバースの意味についてのお考えを教えてください」

 

加藤氏:「私の考えですが、コミュニケーションが苦手な子は、言葉だけでなく相手の表情や仕草から、読み取らなくてよいものを読み取ってしまう、考えなくてよいことを考えてしまうというところがあって、それがコミュニケーションの苦手さの一因ではないかと思います。バーチャル空間で、対人恐怖症だった人でも喋れるようになったというのはよく聞きます。おそらく、バーチャル空間では情報が欠落している分、余計なことを考えなくてよくなったのでしょう。自分の目を見ていないから自分に興味がないのでは、という恐怖はアバターでは考えなくて済みます。

 

バーチャル空間では情報を削ぎ落しているがゆえに、よりピュアに本質的な情報が伝わります。対人恐怖症やコミュニケーションが苦手な子たちがバーチャル空間内でコミュニケーションの仕方を学び、克服することはできると思います。私は、物理空間でコミュニケーションするのが贅沢だと思っているので、バーチャル空間に集まっているという幻想を抱かせるメタバースというツールを使って、ソーシャルな活動をすればよいと思っています」

 

石戸:「メタバースを教育で活用するにあたってのデメリットや障壁、気を付ける点があれば教えて下さい」

 

加藤氏:「2つあると思っています。ソフトの部分とハードの部分です。clusterやバーチャル空間のよいところは暴力によるいじめがないことですが、代わりに精神性が丸裸になるため、精神的ないじめやハラスメントは存在します。精神的なハラスメントに対してどう対処していくか大事です。私はそういったハラスメントを完全になくすことは不可能だと思っていますし、それ自体ナンセンスだと思っています。メタバースのよいところは、すべてレコーディングが可能なことです。デジタルで構成されているのですべてサーバーに保存されます。プライバシーの問題があるのでそのデータを簡単に使うことはできませんが、喋っていた状況をすべて再現できることが強みです。言った、言わないなどあの時どうだったなど、自分を振り返るのが可能なのがメタバースの素晴らしいところで、それをいかに使っていくかが肝になります。これがソフトに関する問題点です。

 

ハードに関することは、今のオンライン教育やコロナ禍でも言われていたことですが、家庭のインターネット接続環境の差やデバイスの差があるということです。家の背景や家庭環境が丸裸になることはバーチャルではなくなるというよさはありますが、よいハードウェアと悪いハードウェアの動きの差はすごくあって、よいハードウェアを買える人達の方がメタバース空間を快適に使えます。そういった家庭間の差をどうやって埋めていくかが難しいところだと思います」

 

石戸:「AIとメタバースを組み合わせることによって、効果を発揮できるような教育での活用ではどのようなものがありますか。メタバースが普及することによって教育にどんな変化をもたらしますか。この2点についてお伺いしたいです」

 

加藤氏:「マシンラーニングの大きい方向性は2つで、パターンを認識して何かを探っていく、明確にしていくという方向性と、何かを生成していく方向性があって、生成していく方向性では今、生成系AIが注目です。AIの活用の観点でいくと、対話するエージェントの存在は物理世界よりメタバースの方が楽なはずです。今、AIと会話しようとすると、スマートフォンを取り出してChatGPTの画面を開いてそこに向かって入力する必要があります。いくつかステップが存在します。そうではなく、AIには常に執事のように目の前にいてほしい。一緒に存在するAIを実現する空間はメタバースと相性がよいです。自分の背後霊、守護霊としてのAIのような存在がメタバースによってもたらされるでしょう。

 

今、AI活用で一番インパクトが大きいのは教育だと思っています。自分は将棋が好きですが、将棋ではAIに人間が勝てなくなりましたが、将棋の人気は今が一番ではないでしょうか。なぜかというと、AIによって強くなった藤井 聡太さんと羽生 善治さんが戦っているのが今の世界観で、しかも彼らが何を考えているのかAIが解説してくれるからです。棋士は400人くらいいますが、将棋の棋力はAIの登場によって平均で上がっています。ただ、ひとりひとり見ていくと、上位陣が上がっていることが分かります。より勉強が得意な人たちが、AIをより活用して強くなったということです。自分の学びにAIをうまく使ってさらにレバレッジがかかるという世界観が今の状況です。コミュニケーションを重ねながら自分を高めることが大事だと感じています」という加藤氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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