AIの進化でよりインタラクティブな教育に
第116回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.4.14 Fri
AIの進化でよりインタラクティブな教育に</br>第116回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は37日、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授の松尾 豊氏を招いて、「AIの進化で教育はどう変わるのか?」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、松尾氏が、注目を集めている対話型AIChatGPT」をはじめとするAIの現状や、AIの進化で教育がどう変わるかについて講演し、後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

日時:37日(火)12時~1255

講演:松尾 豊氏
東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻 教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

後半の質疑応答では、超教育協会の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者からの質問を交えながら、松尾氏との質疑応答が実施された。

自分が発見する」「自分が学ぶ」 教育においては自分にとっての創造性が大事

石戸:「人間はこれからどのような力を育むべきなのか、どのような力が基礎教養として必要となるのか、たくさんの質問がきています。余りの進歩の速さにどのように対応していけばよいのか日々悩むところです。お話の中にありましたが読書感想文も書いてくれる、そうすると人間は長い文章を書く必要がなくなるのではないかと超教育協会のワーキングでも議論になりました。英文も書いてくれる。課題に対する解決方法も提示してくれる。アイデアも提案してくれてリサーチもしてくれる。そうすると学校教育において必要な科目、必要な学びとは具体的にどういうことになると思われますか」

 

松尾氏:「わからないというのが正直なところです。敢えて言うと最初のきっかけでしょうか。何かをやろうと思うことです。こういうことをやりたいと思うから問いが発生するわけで、問いが発生するからChatGPTに切り分けたので、その動機になるところをどう持つかだと思うし、あとは実行するときに人を説得したり巻き込んだりしないといけないので、そういった力だと思います

 

石戸:「どういう問いを投げかけるとより自分がほしい答えに近づけるか、問いの投げ方がChatGPTにおいても重要だと思うと、問いの立て方や課題の発見の仕方、そういうことが今まで以上に重要になってくるということでしょうか」

 

松尾氏:「今までは学習させるデータをどうするかという話をAIの世界ではしていましたが、学習させるデータは、インターネット上のたくさんのデータで事前学習させておけばよいし、ダウンストリームのタスクに対しての学習データが少しあればよいです。最近はそれすらいらなくなり、プロンプトを変えると挙動が変わる、プロンプトエンジニアリングと言われますが、どういう文脈、前提を置くのかがポイントになります。人間も同じで、設定を変えると違うことを言います。学生にコミュニケーション力を高めろというとみんな嫌がりますが、人間相手のプロンプトエンジニアリングをがんばろうというととっつきやすくなります」

 

石戸:「教育のなかでAIをどう活用すべきかをお聞きしたいと思います。『小学生が教育現場でAIを使うことに松尾先生は賛成ですか、反対ですか』というシンプルな質問がきています」

 

松尾氏:「賛成です。わからなくなった時に聞けるのは大きいです。今の教育はボトムアップ型で積み上げるのが得意な人に向いています。何で勉強しなくてはいけないのか教えてくれないですよね。これが知りたい、というのが先にあって、説明されて、でもこれがわからない、また説明されてと、目的から辿っていく型の思考が強い人は置いて行かれている気がしています。そういう子にChatGPTはすごく向いています。そういう意味で、伸ばせる才能はすごくある気がします。ただ、影響が大きいのである程度、慎重にする必要はあると思います。でも、使っていった方がよいと思っています」

 

石戸:「私もChatGPTを含めAIを使うことに賛成ですが、仮にAIの利用を前提とした教育の現場を作る場合、留意するべき点はどういうことだと思われますか」

 

松尾氏:「伸ばす面もある一方で衰えさせる面もあるはずで、それが時代の変化とともにそういうものだと割り切れればよいのですが、その影響がどうなのかが見極めながらやる必要があると思います」

 

石戸:「新しい技術が出てくると、必要となくなる力も出てくるため、必然的に落ちていく力は必要とされない力と考えることもできます。一方で本質的な力を落としてしまう可能性もあるということでしょうか」

 

松尾氏:「自分が小さいころはインターネットもなかったし、知りたいことがあると広辞苑などを開いていました。ChatGPTがあると知りたいことを聞けるため、世の中の知識を小さい時から獲得した天才ができるかもしれないですね」

 

石戸:「百科事典や辞書の時代から、検索の時代になって、また次のフェーズを迎えようとしている時の教育のあり方が問われていると思います。もうひとつ伺ってみたいことは、これまでも幼少期からICTリテラシーをどのように育むかと言われてきましたが、AIを使うにあたって、幼少期から育むべきAIリテラシーについてどのようなことが想定されると思われますか」

 

松尾氏:「倫理的な点も必要になってきますが、それもすぐ整ってくると思います」

 

石戸:「創造性という言葉を使う時に、先生は必ず前置きしていました。創造性の定義をこれから考えなくてはいけないと思います。画像生成AIの登場によって、コンテンツがこれまでに比べて大量に生成される時代になりました。例えば図工や音楽など創造性を育むと言われてきた教科に与える影響もあると思いますが、そのあたりはどのような見解をお持ちですか」

 

松尾氏:「個人にとっての創造は毎日起きていると思っています。創造の過程が発達の過程でもあると思います。ただ、世の中一般でいうときの創造性は、個人にとって新しいことではなくて、コミュニティや社会にとって新しいことを創造的と言います。それでも多くの場合の創造性はわりと単純な組み合わせで、昔見たことと今日見たことの組み合わせであることもあります。在り来たりな組み合わせでない創造性というのは、本質を見抜いた上でないとできないはずで、そこまでいく創造性は数がすごく少なく、世の中にインパクトをもたらすこともまれなことで、その意味でも創造性というのは色んな意味があります。教育においては自分にとっての創造性が大事です。自分が発見する、自分が学ぶ、そこを鍛えていくのが大事だと思います」

 

石戸:「教科書や教材のあり方についてお聞きします。さきほど、昔は百科事典を調べていたという話もありましたが、教科書や教材は今後どのようにあるべきかについてご意見がありましたら、お伺いできますか」

 

松尾氏:「オーソライズされたものであるというシグナルは大事だと思います。何が信頼できて何が信頼できないかわからないのは困ります。少なくともここに書かれてあることは信じて大丈夫ですと言ってくれることはありがたいことで、そういう意味での意義はあると思います。ただ、それが万人にとって同じ形の一形態でよいかと言うと、そんなことはなくて、人によって読みやすい形とか知りたいこととか違うので、そういう意味では決められたひとつのものが教科書だというのは違ってくるのではないかと思います」

 

石戸:「これからの教育を考えるにあたって、『ここから先のAIの発展はどこまでいくのか』という質問が複数きています」

 

松尾氏:「ChatGPTは技術的な限界はあると思います。人間の知能と違う方法で実装しているので。ただ、そのしくみが上手にできていて、かなり近い学習ができています。ただ根本的に違うため、苦手なこともこれから顕在化してくるはずです。でもそれはたぶん克服されるでしょう。5や10年のスパンの中では、必ず克服されてもっとすごいAIが出てくるはずなので、シンギュラリティがChatGPTによってきたわけではないけれど、かなり近づいている感じはしています」

 

石戸:「最後にお伺いしたいのは、日本のAIの研究者は世界の動向をどのように受け止めて、これから先どのような方向を目指しているのかについてです」

 

松尾氏:「ビッグテックの戦いは、日本からすると見ているしかないため、すごいことが起きているという感じなのと、そうはいっても自然言語処理の研究者は日本語について長年研究してきた実績もあり責任感もあるため、自分たちが日本語に対して何ができるのかということを考えている人もたくさんいます。あとは、ChatGPTAPIもオープンにされ、何か面白いものを作ってやろうみたいなエンジニアがたくさんいます

 

石戸:「今回は民間の教育関係者が多く参加しています。最後にメッセージをいただけますか」

 

松尾氏:「変化が起きる未来に対してワクワクしてくれると嬉しいと思っています。変化が少ない時代に比べて色々なことが起きるけれど、驚きや楽しいことも起きるので、そういう世界に子どもたちを送り出してあげるとよいと思います。ぜひ一緒になってこの変化を楽しんでいただけるとよいと思っています」

 

最後は石戸の「変化を楽しむ力がこれから一番大事な力かもしれないですね」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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