概要
超教育協会は2022年12月21日、株式会社NTTコノキュー取締役の岩村 幹生氏をお迎えし、「NTT QONOQが目指すXRの世界とメタバースの可能性」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、XR(複合現実)技術の開発と展開のためにNTTグループの子会社として発足したNTTコノキューはXRで何を目指すのか、XR技術は世の中をどう変えるのかについて、事業事例を交えて岩村氏に解説していただいた。
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「NTT QONOQが目指すXRの世界とメタバースの可能性」
■日時:2022年12月21日(水)12時~12時55分
■講演: 岩村 幹生氏
株式会社NTTコノキュー取締役
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その模様を紹介する。
XRで幅広い教育機会が提供できる
石戸:「視聴者の大半が教育関係者ですので、メタバースと教育との関係に関する質問が多くきています。学校でのメタバースの活用の可能性はあるでしょうか」
岩村氏:「大いにあります。例えば、分子構造のモデルや生物の生体モデルなどをリアルな3D動画で見てもらえれば、学習効果の高さがわかると思います。また、不登校やいじめが問題になっていますが、アバターとなってリモートで授業に参加できたり、教室にとどまらず各国の生徒とインタラクティブにやりとりができたりといった教育機会を幅広く提供できます」
XRを使った研修で職場の定職率が向上
石戸:「有効な活用事例や、効果検証がなされた研究結果があれば、教えてください」
岩村氏:「学校に限らず、社会人の研修、とくに医療分野での研修ではXRの利用が活発です。効果が高いと言われているのは、現実に体験するには危険すぎたり、お金がかかりすぎたりする事柄です。建設現場の高所作業員の訓練では、バーチャルで高所に馴れてもらうことで、定職率が高くなると言われています。医療現場でもXRの活用によって定職率が向上しています。また、防災訓練でメガネをかけると実際の建物のなかに炎や煙が見えて効果が高まるといった取り組みが、事例としてあげられます」
子ども向けヘッドマウントディスプレイの可能性
石戸:「ヘッドマウントディスプレイは、視覚の発達期にある13歳未満の子どもは使えないという年齢制限があります。13歳未満の子どもでも使えるデバイスの研究や開発の状況はどうでしょう」
岩村氏:「現状ではヘッドマウントディスプレイは、人によって20〜30秒で気持ち悪くなることがあります。ディスプレイの表示と三半規管が連動しないことが原因で、改善が求められますが、まだ技術が追いついていません。私は、目を完全に覆ってしまうVRゴーグルよりも、ARメガネのほうが可能性は高いと思っています。現実世界が見えている上にいろいろな情報がオーバーレイされるため、酔いません。そうした技術を用いれば、この先、子どもでも装着できるデバイスが生まれるだろうと考えています。
ただし、今のメガネ型デバイスは、サイズが大きかったり重かったり、価格も20万円から100万円と、まだ一般に使えるものではありません。価格がこなれてくるまで、あと5年ぐらいはかかるだろうと考えます」
学校での普及に向け、デバイスの進歩を想定してエコシステムを整える
石戸:「学校現場にXR技術を普及させるための課題は何でしょう」
岩村氏:「今はまだ、いろいろな業者がトライアンドエラーを続けているところで、成功事例がありません。ただ、ポテンシャルは非常に高く、裾野もとても広い技術です。大きな起点になるのは、やはりデバイスの進歩だろうと思います。私たちもメタバースやデジタルツインの事業を展開していますが、いずれ優れたデバイスが現れることを想定して進めています。ですが、まだそうしたデバイスが登場するまでには時間がかかるため、そのときエコシステムとして成立できるように、デバイス以外のコンテンツ、プラットフォーム、ネットワーク、パートナーシップといった要素を、現在普及しているスマートフォンなどのデバイスを活用しながら整えています。こうした要素がすべて揃ったときに、大きな社会的インパクトになるのだと思います」
XRで人々をスマートフォン依存症から解放したい
石戸:「XRの世界で生きていくには、新しいリテラシーが必要ではないかとの質問がきています。子どもたちがこれからXRの世界で生きていくために、何を身につけておくべきでしょうか」
岩村氏:「私たちはスマートフォンを軸にサービスを提供していますが、世の中にはスマートフォンを触り続けている人がいます。公園でも、ベンチに座ってずっとスマートフォンでゲームをしている子どもを見かけます。スマートフォンを売っている側としては非常に恐縮ですが、あの小さな画面にあまりにも時間を奪われすぎていて、不健全だと感じています。
神経科学者のヴォルフラム・シュルツ氏による実験があります。サルにジュースを与えたときのドーパミンの分泌量を測りました。機械のレバーを押すと報酬としてジュースが出ます。そのときドーパミンが分泌されます。次に、電球が光ってからレバーを押すとジュースが出るようにしたところ、実際にジュースがもらえたときよりも、電球が光った時点でドーパミンが分泌されるようになりました。今の私たちには、スマートフォンがその電球になっています。そのため、電車で向かいの席の人がスマートフォンを触っていると、自分も無意識に触りはじめてしまう。レストランのテーブルにスマートフォンが置いてあると、無意識に触ってしまう。スマートフォンを開くこと自体が目的になっているのです。
スマートフォンは、予測誤差のある報酬がたくさん提示されますが、その報酬に至る手続き、つまり認知負荷が削減され、簡略化されてきました。昔は4桁や6桁の暗証コードを入れなければ開けなかったのが、今は顔認証で開けます。どんどん電球が光りやすくなっているのです。サービス提供者が、アクティブユーザー数を増やそうと手数を減らす改善を重ねてきたことが、依存症を促す結果となってしまいました。リテラシーと言えるかどうかわかりませんが、デジタルデバイスにはそうした要素があると認識することです。
そこでXRでは、手のひらに載る小さなデバイスから人類を解放したい。顔を上げてリアルな空間に溶け込んだ形でデジタルコンテンツを表示して、目の前で起こっているリアルな出来事に関心を向けられるようになればと思います」
NTTコノキューは教育現場で生まれるコンテンツをXR技術で支援する
石戸:「講演ではウェルビーイングの話も出ました。子どもたちのウェルビーイングにXRやNTTコノキューが貢献できる領域として、どのようなものがありますか」
岩村氏:「私たちは、XR、メタバース、デジタルツインの技術を、みなさまに使いやすい形で取り揃えて提供する協力事業者です。その技術を利用して、いろいろな方にサービスを展開していただくわけですが、重要な要素のひとつとして教育を捉えています。私たちには教育コンテンツは作れません。技術やプラットフォームを提供しながら、現場の方と一緒に教育現場の課題解決につながる取り組みをしていきたいと考えています。
今後10年で技術は大きく発展するはずです。放っておくと、今のスマートフォンの依存症のようなことにもなりかねません。倫理感を持って、いろいろな現場のみなさんと社会の問題解決に活用していけたらと願っています」という岩村氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。