概要
超教育協会は2022年10月19日、ワオ高等学校 校長の山本 潮氏を招いて、「多様化する学びへの挑戦~『議論と対話』を中心におくワオ高等学校の学びとは」と題したオンラインシンポジウムを開催した。
シンポジウムの前半では、山本氏が、学習塾を母体に設立されたワオ高等学校の歩みと「議論と対話」を重視する学習内容に関する講演を行い、後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。
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「多様化する学びへの挑戦~『議論と対話』を中心におくワオ高等学校の学びとは」
■日時:2022年10月19日(水)12時~12時55分
■講演:山本 潮氏
ワオ高等学校 校長
■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長
▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子
シンポジウムの後半では、ファシリテーターの超教育協会理事長の石戸 奈々子が、参加者からの質問も織り交ぜながら質疑応答を実施した。
他の広域通信制校との違いなどユニークな学習内容について高い関心が集まる
石戸:「楽しく学びながら、なおかつ自分の将来の姿が見通せる学びを提供されていることがよく分かり、こういう選択肢、場がある今の高校生は幸せですね。
最初の質問は『オルタナティブスクールに関して世間の変化はありますか』というものです。オルタナティブスクールというと、全日制高校への通学が難しいなど何らかの事情のある人が選択するイメージが強かった一方、コロナ禍で多様な学び方への関心も集まっています。実際に運営していて世の中の意識の変化を感じているか、合わせて実際に通っている子どもたちはどういう思いや背景があって選択してきたのかについてお伺いできますか」
山本氏:「本校は開校2年目ですが、初年度に入学した子どもたちは、通信制高校を探していてワオ高校にたまたま巡り合ったケースが多く、具体的には8割以上が不登校の子どもたちでした。ところが初年度後半から本年度の入学者は、普通に学校に通えていた子どもがこの勉強をしたいとダイレクトにワオ高校へ進学するケースが半数以上で、中には起業の勉強ができる学校を探してワオ高校に巡り合ったという子どももいます。通信制高校は、全日制高校に通ってうまく行かない子どもが編入学するケースが多いのですが、本校では高校1年生の4月から入学する子どもの割合が明らかに増えていて、社会の変化を肌で感じています」
石戸:「自分の進路の最適な選択肢として、子どもたちがワオ高校を自らの意思で選んでいるわけですね。それに対する保護者の反応はどうですか。意識の変化も感じられますか」
山本氏:「はい、昨年は子どもが本校を探して進学を希望しても、保護者が了解しないケースが多く、中には学校の先生に反対されたケースも散見されました。しかし、今年はほとんどそういうことがなく、むしろ保護者から子どもに勧めるケースが増えてきています。保護者の間でこういった新しい教育への認知が広がり、必要性を感じている方が増えている印象があります」
石戸:「アンケートでは、子どもたちが『友たちができた』ことが良かったと答えていましたが、バーチャルでさまざまな場を提供していると、対面/リアルと同様に人間関係トラブルが起こる可能性があると思います。現状運営されていてどういう状況か、もし仮にトラブルがあるならどのような対策を取られているのかについて、お伺いできますか」
山本氏:「現状では大きなトラブルはありませんが、オンラインで伝えたいことがきちんと伝わらないなど、文字情報が先走って違うニュアンスになってしまい揉めかけたことは数件あります。ただ、教員がバーチャルキャンパス上を巡回していますので、「今こんなことが起こっています」とか「ちょっと揉めています」といった連絡を受けて間に入って解決するケースがほとんどです。もちろん、見えないところでトラブルが起こっている可能性はありますが、週に2回以上は必ず子どもたちとコミュニケーションを取る仕組みを取り入れていますので、大体そういう問題は明らかになって解決されています」
石戸:「メタバースが広がる中で、ワオ高校の子どもたちはいち早くバーチャル上でのコミュニケーションスキルを身につけていけるわけですね。
次の質問は、探究的学習やディスカッション型学習について、『それにより生徒たちにどのような効果が表れているのか』という質問と、『それをどのように評価しているのか』という質問ですが、いかがでしょうか」
山本氏:「効果については個人差もありますが、最初はオンライン上でもなかなか発言できない子どもが多く、年に2回のスクーリングでも初回の6月はまだ、全員の前でプレゼンできる子どもは少数派です。しかし、テキストベースでのやり取りなど段階を踏んでいくことで2回目の12月にはきちんとプレゼンできる子どもが明らかに増えています。
手法はいろいろありますが、自分で思ったことを書いたり話したりするチャンネルをたくさん用意して、やれる所から少しずつやっていくことで効果が出ることは実感しています。
評価については、教養探究などは授業自体に対してどれだけ積極的に参加しているかをみています。例えばコメントをちゃんと書いているか、Zoom上で議論の中に参加をしているかといった「態度」を重視していて、自由な発言を促すためにも内容については実はそれほど重視していません。もちろん、教科系の科目についてはレポートや試験で評価しますが、それ以外はほとんど態度をしっかりみてその部分を動機付けし、できるようになったかどうかを主眼において評価しています」
石戸:「プレゼンに慣れることができず、探究的なディスカッション型の学びの場に入れない子どももいると思いますが、そういう子はどうフォローしていますか、という質問もきています」
山本氏:「教員による一対一での声かけを基本としています。テキストベースでの発言は全てチェックしていますので、なかなか発言しない子どもには教員が個別連絡かバーチャル上での面談を実施し、『ここはどう思ったの』などと意見を聞き、『こういうことを書けばいいよ』などとアドバイスして後押しします。こういうことの積み重ねが大切です」
石戸:「次の質問はカリキュラム設計に関してです。『学習指導要領との対応を取る上での課題や留意すべき点があれば教えていただきたい』というものですが、苦労された点はありましたか」
山本氏:「学習指導要領に関しては特にありませんが、評価に関してどれだけ公平にやれているのかとか、オンラインで試験運営をどのようにやっているかといった部分にはかなりチェックが入りました。これらは文部科学省の担当者を招いて実際の仕組みや内容を見せながら説明し『これなら大丈夫ですね』とお墨付きをいただきましたが、その辺りは非常に苦労した印象があります」
石戸:「次は『N高との違いは』という質問がきています。最近はN高のほかにもさまざまな特徴を持つ通信制高校やオンラインのオルタナティブスクールも増えていますが、その中で『ワオ高校はここが違う』と言うところがあれば教えていただけますか」
山本氏:「一番大きいのは哲学を中心に置いて、議論と対話をやっていくことです。さまざまなスキルを身につけることは多くの学校がやっていますが、私たちはその元になる部分を大切にしたいと考えています。そのために、少人数でしっかりケアしながら、物事の考え方や、自分の哲学を持って何かをやることを大事にしているのは大きな違いだと考えています」
石戸:「次は、『議論や課題解決といった取り組みでは、苦手な部分が足を引っ張る場面もあると思います。仲間同士の助け合いにつながるので良いという考え方もありますが、学び直したい生徒もいると思います。そういう場合のフォローはどのようにしていますか』と質問ですが、いかがでしょうか」
山本氏:「よく保護者の方からも聞かれる質問ですが、学び直しについては教員がお昼の間に個別指導の時間をとっています。学習でつまずいたり不安になったりした子どもはその時間にキャンパスに入ってきて個別指導を受けることができます。これも少人数でやっているメリットの一つで、オンラインだからこそ緻密にコミュニケーションを取り、個別最適化の学習をしっかり行っていくことが重要だと考えています」
石戸:「ここまで伺っていて、とてもきめ細やかに子どもたちに対応していると感じていますが、『このような取り組みは小学校や中学校での展開は難しいですか。早い時期から取り組んだ方が個々の才能や自己肯定感が高まるのではないでしょうか』という質問もきています。すでに展開を考えていらっしゃる、あるいはそれは難しいなど、ご意見があれば教えていただけますか」
山本氏:「学校として展開するには、ご存知のようにさまざまなハードルがあります。フリースクールのようなところから、学びの内容などを取り入れたいという話がくるなど少しずつ動きは出てきています。私たちも、学校というよりオンライン上の塾みたいな形で、こういう学びを展開する構想がありますが、当面はワオ高校でしっかりやっていこうと考えています」
石戸:「ノウハウの共有という意味では、『ワオ高校が提供する魅力的なプログラムを通常の高校が採用しない理由は何だと思いますか』という質問もきています。実際にワオ高校を運営されていて、既存の高校などに対して感じていることがあれば教えていただけますか」
山本氏:「質問の趣旨とは少しずれるかもしれませんが、ワオ高校のような勉強をしたい子どもたちは全国に分散していて、例えば岡山県だけでこういう学校を始めようとしても子どもがなかなか集まらず、システム的には難しいところがあると思います。保護者の方からも、『アントレプレナーの学びやデータサイエンスなどやっている内容自体はよく分かるが、大学受験もある中でそれだけでよいのか不安を持っている』という意見もあり、そういう学びを本当に大事だと思っている方はまだ少数派だという印象を持っています」
石戸:「自分で考える力は大切と理解しつつ現実問題として受験も大事という人が多いということですね。次は『塾を運営していたからこそできること、気づかれたことはどういうことか』という質問ですが、いかがでしょうか」
山本氏:「この学校に行きたいと一生懸命勉強し、私たちも一生懸命指導した結果、晴れて第一志望校に入学したのに、ゴールデンウィーク明けから夏休み頃になると休みがちになって、ずっと塾に入り浸っている子どもは何人もみてきました。そういう子どもたちは決してサボっているわけではなく、例えば英語がものすごく好きな子はずっと塾で英語の勉強をやっていたりするのです。
学校の教師は、勉強が苦手な子どもはケアしなければいけないという使命感を持っていますが、よくできる子どもや、特に自分で学習を進められる子どもは放置されがちです。塾としてもそういう子どもたちの面倒をみていますが、学校でそういう子どもがきちんと学べる場所を作れないものか、ということは塾をやっていると感じますね」
石戸:「塾をやっているからこそ取り残される子どもの存在に気付き、その子たちに対する学びの場を提供しようとされたということですね」
山本氏:「通信制高校のさまざまな説明会に参加する機会がありますが、そこで会う子どもたちはどこか悲しげな雰囲気の子が多く、保護者も何か悲壮感が漂っている方が目立ちます。そういう子どもたちにはいつも『きっとあなたにも好きなことはあるでしょう』と話しかけます。そのことに目を向ければ、今はそれをちゃんと伸ばせる環境が、私たちのような学校を含めてたくさんありますから、それに目を向けて自信を持って学校選びをしなさいという話をよくします。皆と一緒でなくてよいので、自分のやりたいこと、できることをちゃんと自信を持ってやる。今はそういう時代なのだから、胸を張って学校選びなさいということを皆さんに伝えたいですね」
最後は石戸の、「今は学びの選択肢が幅広くなっている。全ての子どもたちに、各々に合った学びの場を届けられれば、それほど素敵なことはない」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。