今楽しんでやっていることから世界をじわじわと広げていく
第102回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.11.18 Fri
今楽しんでやっていることから世界をじわじわと広げていく</br>第102回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2022105日、不登校児のための家庭教師『夢中教室WOW』を運営するワオフル株式会社 代表取締役社長の辻田 寛明氏を迎えて、「オンライン×11で「好き」から自己肯定感を温める『夢中教室』が取り組む不登校サポート〜自分らしく豊かに生きるためのこれからの教育とは」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、学校という画一的な教育環境に馴染めず、自己肯定感を失い不登校になる子どもが急増している。そうした子どもたちが人目を気にせず自信を持って楽しく生きられるようにするには、どんなサポートが必要か。『夢中教室』の取り組みと事例について辻田氏に伺った。後半では、『夢中教室』の取り組みと事例について、辻田氏に話を伺い、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「オンライン×11で「好き」から自己肯定感を温める
『夢中教室』が取り組む不登校サポート
〜自分らしく豊かに生きるためのこれからの教育とは」

■日時:2022年10月5日(水)12時~12時55分

■講演:辻田 寛明氏
ワオフル株式会社 代表取締役社長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

後半は、『夢中教室』の取り組みと事例について、辻田氏に話を伺い、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その模様を紹介する。

「受験がゴール」以外の選択肢を

 

石戸:「夢中教室は、学びの場は学校だけではないこと、世界はもっと広いことを教えてくれるサービスですね。日本と海外の不登校への対応の違いや、日本の子どもたちの自己肯定感が低い理由について、質問がきています。いかがでしょうか」

 

辻田:「日本では海外に比べて不登校が大変多いと言われています。たとえばドイツでは、学校が合わない場合は別の学校に転校できる制度があるそうです。オランダでは先生1人が担当できる子どもの数が17人とか19人というように決まっています。日本の子どもの自己肯定感が低く不登校が多い理由は、ひとつには、大人数が合わない子どもたちが一定数いるということです。これには副担任制を導入したり、子どもを見る大人の数を増やして、より個別の対応をしやすくするという対策があります。

 

自己肯定感の低さは、生きづらいということです。それは、レールが1本しかないからです。ヨーロッパでもアジアでも、自己肯定感の低下があまり問題になっていない国では、受験をゴールとしていません。いい大学に入って世界を広げるために受験勉強をするという道もあってもいいと思いますが、それだけになってしまうと生きづらくなる。料理学校やマジシャンの学校で学ぶことが、受験と同じ立ち位置で受け入られて、社会として当たり前になれば、自分がやりたいことに対して素直に『これでいいんだ』と感じられるようになると思います」

聞き取りと面談で慎重にマッチング

石戸:「伴走先生と生徒との相性もあると思いますが、そのマッチングはどのようにしていますか」

 

辻田:「まずは心に傷を負った子どもとの関わり方を、伴走先生全員の共通必要スキルとしています。その上でのマッチングなのですが、申し込み時に好きなことや特性や希望などを細かく聞き、それに適した先生を選んでいます。しかしそれでも不安になる子もいるので、とくに繊細なお子さんの場合は、保護者と事務局員とで事前面談を行い、細かくすり合わせをしています。その方法で、今のところはマッチングの問題は起きていません」

今後は自治体と協力してオフラインの居場所も

石戸:「全国には居場所がなくて困っている子どもたちがいます。より多くの子どもたちに夢中教室を届けるための取り組みについては、自治体との協力なども含めてどうされていますか」

 

辻田:「始まって2年目でようやく事例が増えてきた段階なので、まだ自治体との取り組みはありませんが、今後は連携していきたいと思っています。オンラインでやっていますが、オフラインも大切なので、夢中教室から自治体が運営する場所に通えるような連携を増やしていきたいと考えています」

学習より前に寄り添うことを重視

石戸:「不登校が急増して、不登校の子どもに対応する類似のオンラインサービスや、探究型の学習サービスも以前よりも増えてきました。他のサービスと夢中教室との違いがあれば、教えてください」

 

辻田:「おっしゃるとおり探究型の学習サービスが増えてきています。(夢中教室との)違いは、探究を目的化し過ぎていないところです。ボクたちは伴走を重視しているので、まだ探究にまで気持ちが向かない子どもに無理矢理探究を勧めることはしません。授業の60分間で、ひたすら悩みを聞くこともあります。教育というよりは、寄り添うという色合いが夢中教室には濃いのだと思っています」

好きなことをどうやって見つけるか

石戸:「好きなことや夢中になれることが、なかなか見つけられない子もいますが、そのよう場合は、どうされていますか。保護者が対応する際のヒントを教えてください。という質問もきています」

 

辻田:「実際、入ってすぐのときには、『好きなことがない』と話す子どもが多くいます。そんなときは、『好きなことは何かな』とは聞かないようにしています。大人でも、いきなり聞かれたら答えられません。むしろ、この1週間で楽しかったことや、昨日やっていたことなど、体験ベースで聞いていくようにしています。何もしないで座ってるだけの子は、ほとんどいません。何かしらやっています。そこにその子が好きなことや、ワクワクするもののヒントがあります。

 

たとえばゲームなら、ゲームを通して世界を広げていくパターンが多くありました。ある子どもはゲームの実況を見せてくれました。うまくできた場面のスクリーンショットをGoogle スライドでまとめてくれました。そこで、まとめて伝えることが楽しいと感じるようになり、何かをデザインして人に見せることが好きだったと、その子は半年ぐらいかけて気づきました。そこから、広告を見て真似るなど、デザインに興味を持つようになりました。

 

短期間で好きなことがバシッとわかるとは限りません。中長期的な目線で、今やっていることからじわじわと世界を広げていく方法で、けっこう成功しています」

日本の教育はきっと変わる

石戸:「最後に、子どもたちのコミュニケーションを円滑にしたり、子どもたちのやりたいことをサポートするものとして、あったらいいなと思うツールはありますか。また、受験がゴールになっている日本の教育が、今後変わっていく可能性はありますか、という質問がきています」

 

辻田:「コミュニケーションツールで言えば、カメラオフで話すことが多いので、顔が見えなくても手元で何をしているのかが見えるものがあるといいと思います。また、うまく話せないけれど書いて伝えるのが得意な子がいますが、まだタイピングができない子もいて、オンラインでの文字ベースのコミュニケーションは限られます。そうした子のために、一時ミュートにして話したことが文字になって、それを表示できるようになればいいと思います。待って欲しいときは『ちょっと待ってね』マークを出せるとか、そんなことができると、オンラインのコミュニケーションがもっと円滑になりそうです。

 

日本の教育のあり方ですが、ボクは変わっていくと思っています。歴史を見ると、教育が変わるタイミングは、社会が大きく変わった5年後10年後なんですね。今も社会が変化している過渡期にあります。受験がゴールの教育は、終身雇用型の大企業への就職一辺倒だった時代の名残です。しかしこのコロナ禍を経て、金融資本主義から倫理資本主義への移行が加速され、もっとほかの道があっていいという考え方が広まりました。今後10年間でもっと変化が起きてきます。そうして社会が変われば、教育も変わっていくと楽観的に考えています」という辻田氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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