教育を変えるVR(仮想現実)の可能性 ~「VR×教育公開型ワーキンググループ」レポート(2/3)~

プロジェクト活動|レポート

2019.3.11 Mon

超教育協会では、2018年12月1日、東京・本郷の東京大学で「超教育展」を開催しました。「VR×教育公開型ワーキンググループ(WG)」では、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった最先端の技術が教育にどのような影響をもたらすのか、また、VRやARをどのように教育に取り込んでいくのかといったテーマで、8人の参加者が持ち時間10分でプレゼンテーションを展開。ここでは、後半4名のプレゼンテーションを紹介します。
 
リンク:VR(仮想現実)は教育のあり方をどう変えていくのか ~「VR×教育公開型ワーキンググループ」レポート(1/3)~
VR(仮想現実)の教育への活用には多様性がある~「VR×教育公開型WG」レポート(3/3)~

防災と医療分野でのVRの活用とその効果に期待


 プレゼンテーションの後半、4人目の登壇者は、学校法人電波学園 愛知工科大学工学部情報メディア学科教授の板宮朋基氏でした。板宮氏は、自身の研究室で取り組んでいる、防災と医療の分野でのVRの応用をテーマにプレゼンテーションしました。
 
 板宮氏のプレゼンテーションの中で、来場者の関心を集めたのは、国立成育医療研究センターで実施した「ブラックジャックセミナー」でのVRの応用です。これは、外科医を目指す子どもたちを増やしていく取り組みで、その中でVRで子どもたちに「外科医を体験」できるようにしました。また、板宮氏の研究室では、横浜市立大学医学部や国立病院機構名古屋医療センターと協力して、HoloLens(ホロレンズ)を使って、実際の患者の臓器や患部をバーチャルに再現して手術中の術野に重ねて表示し、外科医を支援しています。板宮氏は、「VRは医療分野で、難しいとされる外科手術のトレーニングに非常に有効です。現在、外科手術などの臨床応用に加えて医学教育においてもVRの活用に向けて取り組んでいます」と紹介しました。
 
 一方、防災の分野におけるVRの活用について、板宮氏は、まず、2018年に起きた西日本豪雨について触れ、「実際の自然災害の発生時には、ハザードマップが必ずしも活かされないということが起きてしまいます」と指摘しました。つまり、ハザードマップがあったのにもかかわらず、地域住民が実際には見ていなかった、しっかりと確認していなかったといことです。
 
 板宮氏は、「ハザードマップがあっても、リスク情報が正確には伝わらないのが実情です。さらに、実際に災害が起きてしまうと、どう行動すべきかわからなくなってしまい、逃げられなくなってしまいます。そこで、災害発生時に自己判断で行動できるように、VRやARを活用できないかと取り組んでいます」と説明しました。
 
 また、板宮氏の研究室では、VRゴーグルを使い、自動車を運転中に津波に巻き込まれる状況を体験できるドライビングシミュレーターも開発しています。板宮氏は、「VRを活用して、実際に災害を体験できるようにし、冷静な行動と避難ができるような訓練に役立てています。VRでの体験、被災地の実際の動画、ハザードマップの3つを使い、一般の人たちにどの方法が最も危機感を持つかを評価してもらったところ、やはり、VRでした」と、VRによる効果を紹介しました。
 
 さらに、「興味深かったこと」(板宮氏)として、「早く逃げる」、「車に乗らないようにする」、「車に窓ガラスを割るようなハンマーを常備する」などの具体的な行動に起こそうと思ったかどうかを質問をしたところ、「VRで『自分ごと』として体験できることで、『そう思った』という人が、ハザードマップよりも多くいました」(板宮氏)といいます。板宮氏は、「今後、VRによる効果を検証し、その結果、VRに対する評価を多くの研究者と共有していきたいと考えています」と語り、プレゼンテーションを終えました。

VRを実現するためにソフトウェア技術は不可欠「Unity」でVR普及の課題を解決したい


 板宮氏に続いては、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の日本担当ディレクターを務める大前広樹氏が登壇しました。VRを教育分野で活用するには、多くのソフトウェアやコンテンツの開発、活用が不可欠です。大前氏は、VRを活用する際のソフトウェア開発という視点でプレゼンテーションをしました。
 
 VRとは、いわば、現実の世界を3D空間で再現する技術です。それには、VRゴーグルのようなハードウェアはもちろん、高度なソフトウェアの開発が不可欠になります。大前氏は、「すでに約20年前から日本でVRが研究されてきましたが、なかなか進んでこなかった理由のひとつがソフトウェア技術にあると思います。そこで、私たちはUnity(ユニティ)という、3D空間を作りやすくする統合開発環境を提供しています」と説明しました。
 
 Unityとは、統合ゲーム開発環境ソフトウェアです。おもにゲームの開発に利用され、高度で複雑なゲームやVR、ARのコンテンツまで幅広く開発できます。最近では、ゲーム開発だけではなく、建築、医療、教育、エンターテインメントなど、さまざまな分野で活用されています。大前氏は、「Unityによって、VRのソフトウェア開発は難しいという課題を解決したいのです。誰でもが開発できるようにしたいと考えています。すでに、VRのコンテンツの約60%がUnityで作られています」と紹介しました。
 
 続けて、大前氏は、VRを教育分野で活用することの効果として、VRで「体験する」ことで、「記憶や学習を補強できるという効果があります。とくにVRで『体に覚えさせる』ことができます」と説明。さらに、「見えないもの、実際には扱えないものを具体的に理解できる」と語り、「例えば放射線などは人間の目には見えないのですが、VR空間だとそれを見せるようにもできます。同じような考えで、空気抵抗のない空間を作ることなども可能です」とVRの可能性を示しました。
 
 最後に「VR体験を『超開発』して、『超教育』に役立てましょう」とメッセージを伝え、プレゼンテーションをまとめました。

「3Dだから『ピンとくる』」のがVRの大きな魅力

 7人目に登壇したのは、グリー 開発本部XR事業開発部部長の原田孝多氏です。原田氏は、「教育とVRというテーマで考えると、VRには3つの特長があります」語り、プレゼンテーションを始めました。
 
原田氏は、「高い体験性とポータビリティの両立」、「3次元で『ピンとくる』」、「インタラクションで興味を深掘りする」の3つの特長を示し、その上で、VRを教育に活用するには、大前提として「正しい情報」をベースにすることの大切さを強調しました。例えば、VRで宇宙空間について学ぶとき、その宇宙に関する情報が不正確なままVRで宇宙空間を作りだしてしまっては、学習者は誤った情報をもとに学ぶことになってしまいます。原田氏は、「JAXA(宇宙航空研究開発機構)とグリーでは、2017年から相互連携の覚書を結び、正確なデータをもらってVRで活用するとりくみを始めました。正しいデータを用いることで、VRの宇宙空間で何かに取り組むと、正しい体験、正しい結果を得られるようになります。これが大前提として大切です」と説明しました。
 
 そのうえで、「体験性とポータビリティ」という特長については、現実に近い体験をパソコンやゴーグルといった持ち運び可能なハードウェアで再現できることを紹介。「まさに『実物大のポータビリティ』が特長のひとつです」(原田氏)。
 
 続けて、「3次元で『ピンとくる』」という特長については、ご自身のお子さんが小学5年生であることから、「月の満ち欠けなどを学ぶとき、月と地球と太陽という3つの物体の位置関係を、3D空間に再現すれば、どう動いているのかを理解しやすくなります。まさに『ピンとくる』のです」と話しました。
 
 さらに、「インタラクションによる興味の深掘り」という特長では、子どもたちに月の表面の状態を学ばせる方法を例に説明しました。月の表面は、空気がなく摩擦がないために「ギザギザしている」といいます。そのことを、子どもたちにいかに興味を持って学ばせるか、興味を深掘りするかについて、原田氏は「月で一番早く走れるタイヤを選ぼうということから始めました」と紹介しました。
 
 そして、月の「正しいデータ」をもとにVRで再現した表面を、子どもたちが選んだタイヤの車で走らせてみると、どのタイヤがもっとも速く走れるかの結果がでます。「その結果をもとに、なぜ速いのかを考えると、ギザギザだからとなり、『だから速いんだね』ということがわかります。これが興味の深掘りに繋がっていくのです」(原田氏)。
 
 原田氏は、最後に「正しいデータをもとにVRで再現し、ストーリーを追って学んでもらうことで、子どもたちが、楽しく事実を学べる機会を作りだせます。そこにVRが役立つ可能性が広がっています」と述べて降壇しました。

人間の制約を超えた想像力を広げられる でそこにVRの大きな可能性が


 ピッチプレゼンの最後は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授の南澤孝太氏でした。南澤氏は、まず、東京国立博物館、凸版印刷と協力して「インタラクティブに楽しめる伊能忠敬の地図」を展示したことを紹介しました。
 これは、伊能忠敬の地図に懐中電灯の光を当てると、その部分だけが現在の地図に変わるというもの。昔の地図をライトで照らすと、そこだけ現代に変わることで、「なるほど、海岸線がこうなくなっていたのか」とか、「今、自分が暮らしている町は昔、海の上だったんだ」などと興味を持って地図を楽しめます。しかも、その体験をした後に、別室で学芸員の説明を受けると、以前であれば眠くなってしまうような話しでも、「積極的に興味を持って来るので、みんなすごく前のめりに話しを聞いているということがわかりました」(南澤氏)とのことです。
 
 こうしたVRの活用とあわせて、南澤氏は絵本とVRの組み合わせについても紹介しました。例えば、「ドスン、ドスンとゾウさんがやってきました、とただ読み聞かせるだけでなく、ドスンにあわせて揺れるような仕掛けをVRで作れば、子どもたちが本に魅きよせられるようになります」(南澤氏)。
 
 さらに、南澤氏は、障害を持っている子どもたちの教育におけるVR活用の可能性についても言及しました。南澤氏は、神奈川県横浜市の中村特別支援学校でワークショップをやったことを紹介し、「普段は読み聞かせのときに子どもたちの反応がほとんどなかったそうです。耳が不自由、目が不自由などいろいろな子どもがいますが、それでもVRで読み聞かせと同時に身体的な刺激を与えられると、前のめりに集中していたのです。自分から声を出して『あっ、あっ』と、『これがこうだったよ』と先生に伝えようとする。子どもたちが主体的に関わろうとするという状況を作り出すことができました」(南澤氏)。
 
 南澤氏によれば、VRを子どもの教育の分野で活用していくと、子どもたちからもアイデアがでてくるといいます。例えば、「ウサギを紙粘土で作り、そのウサギに自分の心拍を入れると、すごく生き生きしてくるような仕組みです」(南澤氏)。南澤氏は、「このように、さまざまな体験のイマジネーションを、実際に形にしていくのがVRの本質だと思います」と考えを示しました。
 
 プレゼンテーションの最後に南澤氏は、VRでさまざまなものを「変えられる・超えられる」ことを説明しました。例えば、教育における「教わる」という行為の受動性が能動的なものに変わります。VRによって、伊能忠敬の地図や絵本の読み聞かせのように、学びに主体的に関わることができます。そして、「個人差という壁をも越えることができます。さらには、『想像』を超えることも可能です」(南澤氏)。
 
 VRによって、これまでは、現実空間でしかできなかったことから離れて、想像を実際に形にしていくことができるようになります。南澤氏は「人間の制約を超えた想像力を広げられるでしょう。そこにVRの可能性を強く感じます」と語り、プレゼンテーションを終えました。
 
 
—その3 VR(仮想現実)の教育への活用には多様性がある~「VR×教育公開型WG」レポート~に続きます。

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