超教育展レポート「2歳~6歳の子ども対象にしたオンライン教育 『Khan Academy Kids』が目指すものは」

活動報告|レポート

2019.3.7 Thu
超教育展レポート「2歳~6歳の子ども対象にしたオンライン教育 『Khan Academy Kids』が目指すものは」

超教育協会では、さる2018年12月1日、東京・本郷の東京大学で「超教育展」を開催しました。「Khan Academy Kids」創設者 講演会では、オンライン学習プラットフォーム「カーンアカデミー」のキッズ版「Khan Academy Kids」(以下、カーンアカデミーキッズ)を立ち上げた責任者の一人であるCaroline Hu Flexer氏が登壇。カーンアカデミーキッズとはどのような特長があるのか、どのような考え、手法で教育コンテンツを作成しているのかといったことについて説明しました。

世界中のどこにでも誰にでも「教育」を提供する オンライン教育プログラム「カーンアカデミー」


Flexer氏は、まず、カーンアカデミーの使命について、「世界中のどこにいる人にも、世界レベルの教育を無料で提供すること」と説明しました。そして、カーンアカデミーでは、子どもたちが学んでいて、何かわからないことがあって授業に遅れを取ってしまっても、オンラインの学習プログラムで、きちんと遅れを取り戻せるように工夫されています。Flexer氏はそのことを、ある高校の男子生徒の例をだして説明しました。Flexer氏によると、その男子生徒は高校1年のときに、高校を中退しましたが、カーンアカデミーで2年分の遅れを取り戻し、「高校に戻って、1年中休まずに学校に通っていた生徒たちと同じ試験を受けました。その結果、クラスで1番、あるいは2番といった成績の点数を取ることができたのです」(Flexer氏)。

男子生徒は、カーンアカデミーについて、「本当に人生をがらっと変えてくれたものです」と語っていました。そして、その男子生徒は卒業生総代として高校を卒業し、プリンストン大学に進学し、現在、コンピューター科学を専攻しているとのことです。

カーンアカデミーでは、プログラムをさまざまな言語で提供しています。スペイン語、フランス語、中国語、ヒンズー語などです。 Flexer氏は、「モンゴルやオランダ、アルメニア、インド、ガーナなど、インターネットに接続できるところで、パソコンさえあれば、カーンアカデミーにアクセスできます」と魅力を語りました。

子どもたち一人ひとりに パーソナライズ化した教育プログラムを提供


Flexer氏は続いて、カーンアカデミーキッズについて説明しました。カーンアカデミーキッズでは、無料で楽しみながら学べる教育プログラムが提供されています。2歳から6歳までの、就学前の子どもたちを対象にした包括的な教育プログラムです。そして、「生涯を通して、学びや発見をする気を起こさせるようなオンライン教育プログラム」(Flexer氏)であることが特長です。さまざまな活動やアクティビティ、本が用意されていて、スタンフォード大学の大学院の教育学者と共に作成されたプログラムとのことです。

網羅しているのは、子どもたちの読み書き、算数、形や図形などの理解など幅広く、しかも、それらを学ぶ過程で、子どもたちの社交性、創造性などをも育むような仕組みが組み込まれています。「子どもたちの学びにおいては、こうして、勉強以外のところにも力を入れて教育プログラムを考えることが、とても重要なのです」(Flexer氏)。

Flexer氏によると、カーンアカデミーキッズが他の教育アプリと最も大きく異なるところは、「テクノロジーの使い方です」とのことです。具体的には、「学びの体験を子どもたち一人ひとりに『パーソナル化』しています」(Flexer氏)。つまり、子どもたちが、「学びの道のり」を進んでいくにつれて、子どもたちごとに、子どものレベルにあわせて異なるレッスンを提供しています。「ですから、どの子どもも学びに『遅れをとる』ことがないのです」(Flexer氏)。

子どもたちがカーンアカデミーキッズを どう使っているかを観察する


カーンアカデミーキッズでは、子どもたちがただ遊んでいても、楽しい時間を過ごしていても、その裏側でカーンアカデミーキッズのスタッフが、「子どもたちはどう質問に答えているか」、「さまざまな概念をどう学んでいるか」などを観察しています。

具体的には、子どもたちに、カーンアカデミーキッズのオフィスに来てもらい、さまざまな教育プログラムを使ってもらって、その様子を観察しています。どうやってテクノロジーを使っているのか、気に入ってくれているのかどうか、それとも何かトラブルがあるのかどうかなどを確認し、それぞれの子どもの学びのレベルに合ったレッスンをどう提供していくかを検討しているのです。Flexer氏は、「私たちがデザインしているのは、観察を通じて、子どもたちが楽しみながら学べる教育コンテンツです。子どもたちが、回答の正誤をわかるだけではなく、どうやって自分がその回答をしたのかを確認できるようにもしています」と説明しました。

もう一つ、Flexer氏はカーンアカデミーキッズの特長として、キャラクターを活用していることを説明しました。「学びの体験の中で、キャラクターを作り、キャラクターが子どもたちにガイダンスを提供し、導くようにしました」(Flexer氏)。そして、キャラクターは、異なる大陸にいるさまざまな動物をモチーフにし、ジェンダーにも配慮し、性格も異なります。これらのキャラクターが、子どもたちの社交性、情緒的な部分を育みます。そして、全てのレッスンがインタラクティブに構成されているのも、カーンアカデミーキッズのプログラムの特長です。

教育プログラムの「効果」を定性的に把握し プログラム開発に活かす


Flexer氏は、講演の後半、カーンアカデミーキッズのプログラムの評価・分析についても紹介しました。Flexer氏によると、「カーンアカデミーキッズでは、どの程度の子供たちがレッスンをマスターしているのか、それとも苦戦しているのかということをパーセンテージで把握しています」とのことです。

これにより、子どもたちが、学習の道のりでどのように発達しているのかということを確かめているのです。コンテンツを常に子どもたちに合わせて修正したり、きちんと機能していないレッスンを除いたりといった取り組みもしています。「子どもたちがやっていることを、アプリケーションの中で追跡できるのです。そして、最も子どもたちがのめり込んで、できているものは何かを確認しています。それが製品開発で一番大切なところです」(Flexer氏)。

その他に、例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)と幼児の読み書きの能力に関する共同研究をするなど、学術研究もしているとのことです。「幼児の数学、算数、読み書きの能力を、例えば貧しい家庭の出身の子ども場合にはアプリケーションの効果はどのくらいあるのかなど、さまざまな視点から研究しています。また、カーンアカデミーキッズのアプリケーションを数ヶ月間、使った後にテストをして、データを細かく比較するなどし、アプリケーションに本当はどのくらいの効果があるのかの検証もしています」(Flexer氏)。

未就学の子どもたちを対象に 世界一流の教育を世界中の誰にでも


講演の最後にFlexer氏は、「私たちのチームはとても小さなチームですが、これまで『魔法』を作ってきたクリエイティブなチームです。アニメーターもいれば、イラストレーターもいます。そして、何人かエンジニアもいます。また、製品開発担当者もいますし、教職の経験がある人たちもいます」と説明。続けて、「私たちのミッションは、無料で世界一流の教育を誰にでも、どこででも提供することです。私たちは、特に幼い子どもたちに力を注いでいます。子どもたちが、早い時期から勉強を始めて、『強い基盤』を作れるようにすることが大切です」と語り、講演を終えました。

Flexer氏の講演の後は、来場者との質疑応答でした。質疑応答では、6歳の女の子が、流暢な英語で、Flexer氏にカーンアカデミーキッズを利用している感想を「簡単ですが、とても楽しいです」と語りました。Flexer氏は、「とても楽しいけれど、簡単過ぎるということは、もっと難しくした方がいいですね。もう少し待ってくれれば、あなたのレベルに合ったレッスンを、もっとたくさん作りますね」と約束。和やかな雰囲気のまま終了しました。

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