雇用がセットになったデジタル人材育成が重要
第77回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2022.3.4 Fri
雇用がセットになったデジタル人材育成が重要<br/>第77回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は、202222日、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パブリックセクター シニアマネジャーの町田 幸司氏を招いて、「デジタル人材育成とNextステップ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、町田氏がICTを活用したデジタル革新(DX:デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けてどのようなデジタル人材が求められているのかを解説。後半では超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに参加者を交えての質疑応答を実施した。その後半の模様を紹介する。

 

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「デジタル人材育成とNextステップ」

日時:202222日(水)12~1255

講演:町田 幸司氏
デロイトトーマツコンサルティング合同会社

パブリックセクター シニアマネジャー

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

 

シンポジウムの後半では、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、町田氏と質疑応答が行われた。

デジタル人材育成で最も大切なことは人材が活躍できる場=出口を整えること

石戸:「視聴者からの質問です。『町田さんはコンサルタントとして人材育成に長らく携わっていますが、そのような立場から小中高等学校の情報教育について、具体的にどのような教材やカリキュラムが必要だと思いますか。町田さんのご意見をお聞かせください』というものです」

 

町田氏:「デジタル人材を育てていくにあたって、テクノロジーを身に着けるだけではなく、新しい価値を生み出していくのがDXの本質だと思っています。プログラミング教育などが行われる一方で、そのデジタルテクノロジーを使ってどう新しい価値を生むのかという視点がセットになってくると、より良いと思っています。日本全体でいえば、せっかくデジタル教育をしっかり受けてきた人材がいるのに、その活躍を阻むような社会的な課題を解決することが、これからの日本においては重要です。

 

小中高等学校では既存の教育をしっかりやりつつ、あえてひとつ加えるなら、社会課題やビジネス課題とセットの教育が導入されるとより良いと思います。大学では、ビジネスとセットの教育プログラムをベンダー各社が講座として提供しています。そこでは、ビジネス課題の解決や顧客課題の解決をセットで行っているので、それの小中高版があれば良いですね。例えば、SDGsをかけ合わせてデジタルテクノロジーをどう使うのかにフォーカスしていくと、もっと楽しい教育ができると思います」

 

石戸:「『デジタルに関する専門的な知識ではなく、組織をトランスフォームしていくためのコアコンピテンシーはどのように育成すればよいと思いますか』という質問です」

 

町田氏:「まず、『教育できるのか、できないのか』で考えると、教育はできます。我々もトランスフォーメーションしていくための具体的なノウハウや、失敗などもナレッジとして持っているので、それを教育教材に置き換えるような形で、まずは座学の研修をします。ただ、座学は頭で分かっているものだけになるので、実践の現場に出ないと身についていきません。

 

それでは、DX『X』の部分、トランスフォームする能力を身に着けるにはどうしたらよいかというと、知識としてノウハウを頭に入れることはもちろんありますが、やはり実践しかないと言えます。その為、実践の機会を与えることが大事です。現場に出て、完全にビジネスの現場ではない一歩手前のOJTの機会を作っていくことで実践を磨いていきながら、トランスフォームのスキルを身に着けていくことが大事です」

 

石戸:「『多くの企業のコンサルをされてきて、DX人材が育たない最大の理由は何だと思いますか』という質問です」

 

町田氏:「実際の現場で聞いている話から言いますと、経営者の意識があると思います。DX自体が目的になっていて、新しい価値を生むなど企業として社会課題をどう解決していくのかのところに焦点が向いていない経営者がまだまだ多いです。もちろんそうではない経営者もいます。そうした方々からよく聞くのは、デジタルの必要性は分かったので社内で進めていくために内部で人材を育成しようというのと、コア人材を育てても受け入れる土壌がないので、会社全体のリテラシーを上げていかないといけないという方向の話です。DXが進まない理由としては、経営者が必要性に気付いていても現場側に受け入れる土壌がないというのが多いでしょう。会社全体の底上げという意味でも、DXの推進にはデジタルリテラシー教育が非常に大事だと思います」

 

石戸:「こちらも参加者からの質問です。『40代の中間管理職の4割がDXには関わりたくないと答えているという報道についての見解をお願いします』というものです」

 

町田氏:「実感としてそうなんだろうなと思います。ただそのまま変わらないでいて、この先ビジネスとして成り立っていくのかが疑問です。例えば、単純労働がロボットに置き換わっているなかで、新しい価値を生み出していかなくてはならないというのは、40代を含めて全てのビジネスパーソンに当てはまると思っています。今はまだ大丈夫かもしれませんが、その先に備えることがポイントだと思っています」

 

石戸:「次の質問です。『他の国ではどのようなデジタル人材育成をしているのか、諸外国の事例を教えてください』」

 

町田氏:「デジタル人材育成に積極的に取り組んだ国としてシンガポールがあります。単純にデジタルスキルを身に着けるだけではなく、出口となる雇用まで大手ITベンダーと連携しながら取り組みました。またシンガポールは、2016年くらいから、デジタルプラットフォームの構築を国主導で取り組み、デジタル人材として5万人くらいを育成しました。国主導でデジタルに関連したリカレント教育を実践したのがシンガポールです。

 

一方、デジタル人材が日本で育たなかった背景としては、企業がITベンダーにシステム化、IT化を丸投げしていたことが本質的にあると思っています。他国の企業は自前でテクノロジー部隊を持っていて、実装できる環境を整えている。なのでDXが当たり前のように進んでいく現状がありました。日本はITを外出しして、企業側とITベンダーが分かれてしまったがゆえに、教育となかなか結びつかなかったところがあると思います

 

石戸:「次の質問です。『常にIT人材が不足している企業において、社内のIT人材育成施策では、そこまで高いスキルを身に着けることができない問題があると思いますが、企業における具体的な育成施策がありましたら教えてください』というものです」

 

町田氏:「育成が目的ではなく、あくまでDXで目指すゴールに向けて進むための要素としての人材だと思っています。そこが企業のなかでしっかり定義できているか。社内で抱えるべきデジタル人材がどういうものなのか分からないままでは、デジタル教育は難しいと思います。逆に言うと、それさえ分かれば、巷にも教育コンテンツは溢れているので、そういうもので学んでいくことはできると思っています。ただ、ハードスキルについては巷にコンテンツはたくさんありますが、ソフトスキルは実践の現場でないと身に着けられないところがあるので、そこは組織変革もセットで行っていく形になります」

 

石戸:「2つの質問を紹介します。『危機感はあるけれど、具体的に何から取り組めばよいのか分からないという企業が多いと思います。デジタルコア人材を6タイプ提示されていますが、一気に6タイプ社内で育成するのは難しいと思います。まず取り組むべきなのは、強いていえばどのタイプとお考えですか』というもの。もう1つが、『デジタル人材を育成するノウハウが一般企業にはなく、研修などでは限界があると思います。何か今まで見た成功事例はありますか。例えば外部のデジタル関連企業に派遣するなど、ある程度実践的な手法が必要になると思いますが、成功事例があれば教えてほしいです』という質問です」

 

町田氏:「ニーズが多いのは、デジタルとビジネスをかけ合わせて新しい価値を生むデジタルビジネスプロデューサーでしょう。特に経営者向けのデジタル人材育成では、このビジネスプランナーのニーズが多いです。経営者がDXとは何かがわかっていないと、その先に進めないからです。もうひとつ近々のニーズとしてあるのはサイバーセキュリティ。セキュリティの部分はITベンダー丸投げではなく、自社で対応する必要があります。セキュリティバイデザインでプラットフォームを構築していくには、人材を内部で育てなければいけないと危機意識を持っている企業も多いです。このビジネスプランナーとサイバーセキュリティスペシャリスト、ここがまず取り組むべき人材と思っています。

 

研修では限界があるというお話ですが、企業によって色んなアプローチがあると思っています。弊社で成功しているパターンをお話すると、営業の方々にビジネスプランナーになっていただくような研修を行っています。というのも、クライアントと接点を持っている営業の方々が、企業の収益を伸ばすために何をしなければならないか一番よく分かっている人たちだからです。さらに、彼らがクライアントから聞いてきたビジネス課題をデジタルを通じてどう解決できるのか伴走支援することで、クライアントもこうすればよいのかと腹落ちして、その人が原動者となって内部へ普及させて成功するケースがあります。ただそこまでいくのはなかなか難しいので、出向のような形でOJTを受け入れて、DXコンサルの現場に入ってもらい、DX はこう進めるのかと体得してもらうケースなどもあります」

 

石戸:「企業がDXに成功した事例を知りたいという声が届いています。これから取り組む場合、参考になる事例があれば聞かせてください」

 

町田氏:「具体的な成果が見えやすい形でやるには、クライアントに接点がある営業、フロント層、あるいはマーケティング層の部分のデジタライゼーションから始めていくのがよいと思います。フロントでクライアントの価値に応えられたみたいな小さな成功体験の積み重ねが、大きなうねりになって成功へと導きます。フロントから始めていって、徐々に内部へ浸透していくのが成功している企業と見ています」

 

石戸:「地域のDXについても質問がきています。『介護施設のDXにおいて、コスト負担がハードルになっているという番組がありました。このことについてどのようにお考えですか。地域の活性化には時間がかかるので、もっと短期的な支援策も必要と感じました』という質問ですが、私から追加で、地域DXにおいて注意すべきポイントは何かということと、地域DXに関しても成功事例があれば共有していただきたいのですが、いかがでしょうか」

 

町田氏:「確かにコストはハードルになる部分です。私はパブリックセクターのコンサルをやっていることもあって、社会課題を解決するための政策を提言することが多いです。民間側の経済ではうまく立ち行かないところに介入していくのが政府の役割だと思います。例えばDXを進めるなかで、初めのイニシャルコストを超えていくのが難しいということが本質的な課題であるならば、そこに対する一定の補助、助成などを原資にハードルを超えていただくことができます。

 

政府のなかでも、さまざまな補助制度がありますが、それがなかなか知られていないなど、知っていても使い勝手が悪くて申請に手間がかかるという欠点はあります。ただ、メニューとしては豊富で、中央政府だけでなく地方自治体でも補助制度があります。特にデジタル田園都市国家構想のなかで、地域のデジタル化に対して政府の予算を分配していくというのが流れとしてあります。

 

一方で地方のDXを進めていく上での注意すべきポイントは、地域に根差した産業から始めていかないと最終的に成り立たないということです。例えば製造業が強い地域、サービス業が中心の地域、観光が中心の地域など、地域の特性によってDXすべき課題が変わってくると思います。画一的にスマートヘルスケアをやるべきという話ではなく、地域固有の課題や特性にフォーカスして進めていくことが大事だと思っています。では成功している事例があるかということですが、はっきり言ってないと思います。ないからこそそこが課題になって、政府も含めて取り組むというモードになっているので、あとはやるかやらないかだと思っています。そのために我々もコンソーシアムを立ち上げて推進していこうとしています。そこで重要なのは、地域に根差した産業のDX化と人材育成をセットで進めていくということです」

 

石戸:「参加者から『学習塾のDXとしてはどんなものがありますか』という質問がきていますが、学習塾と限定せずに教育のDXは教育現場全体においてこれから重要なトピックとなります。ほかの分野のDXをさまざま手がけてきたことを踏まえ、教育DXを手がけるみなさんに町田さんからアドバイスや参考になる事例があれば教えて下さい」

 

町田氏:「教育DXが教育機関の高度化なのか、教育コンテンツそのものなのかによって違うと思います。デジタライゼーションが先走っていて、目的が何なのかが見えてこないなかで、学習塾や教育機関のDXを語るのはあまりよくないと思っています。とはいえ、教育DXの本質は、生徒の成績データを分析して教育内容の高度化を図ることだと思っています。書類がデータに置き換わるなかで、置き換わっておしまいではなく、そのデータを活用して自分の教育スタイルに生かすような新しいインサイトを生み出してほしいです」

 

石戸:「次の質問は、『ビジネスおよびデジタルの知見、スキルまた社会問題を解決するという視点を持てるようになるとすると、やはり大学の学部までの学びでは難しいのではないか。そのあたりは現場で学ぶべきかそれとも大学院などで学ぶべきか』というものです」

 

町田氏:「私も社会に出てから大学院で学び直した経験もあるのですごくよく分かります。大学は卒業して終わりではなく、何度も帰ってくる場所なのではないかと思います。社会に出てさまざまな気付きがあるなかで、それを一回学問に落とし込んだり、最新の知見を大学に戻って整理し直してまた社会に出ていくというのを実体験でやりましたが、それは私としては価値がありました。それも一回で終わるのではなくて何度でも戻る、何度でも出ていくのが本質だと思っています。社会ではさまざまな気付きがあって、それをどうやって解決していけばよいんだろうと悩んだ時に、大学に限らず教育機関に戻って勉強し直すプロセスはどんな場面でも起こり得ると思っています。卒業して終わりではないのが、大学の位置づけられ方だと思っています」

 

石戸:「最後は『デジタル人材育成について一番重要な点は何だと思いますか』という質問です」

 

町田氏:「出口です。人材育成した先にあるビジネスは何かということを見据えて、逆算で人材を育てていくことが大事だと思います」

 

最後は石戸の「超教育協会のワーキンググループでも、DX人材を育成し、様々な領域においてDXが達成されることの一助になるよう、活動を推進していきたい」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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