誰一人として取り残さないインクルーシブ教育の実現のために
第56回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2021.9.10 Fri
誰一人として取り残さないインクルーシブ教育の実現のために<br>第56回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2021年728日、日本マイクロソフト株式会社  パブリックセクター事業本部 業務執行役員 文教営業統括本部 統括本部長 中井 陽子氏を招いて、「Microsoft Education が目指す児童生徒主体の学びと教育変革」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

前半では、マイクロソフトの教育向けパッケージ「Microsoft 365 Education」を活用して、児童生徒の将来を生き抜く力「Future Ready Skills」を育む教育を支援する取り組みが紹介され、後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

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「Microsoft Education が目指す児童生徒主体の学びと教育変革」

■日時:2021年7月28日(水)12時~12時55分

■講演:中井 陽子氏

日本マイクロソフト株式会社

パブリックセクター事業本部 業務執行役員

文教営業統括本部 統括本部長

■ファシリテーター:石戸 奈々子

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 ソリュ-ションスペシャリスト 中田 寿穂氏も加わり、ファシリテーターの石戸 奈々子より参加者からの質問が紹介され、中井氏と中田氏が回答するかたちで質疑応答が実施された。

教育現場で収集・取得される児童生徒の
学習に関連したデータの利活用についての質問が多数

 石戸:GIGAスクール構想で目指した『11台端末』の普及率が米国に次いで2位になったということは、非常に喜ばしく驚きました。公的な調査結果があるのでしょうか」

 

中井氏:「マイクロソフトの米国本社が入手している第三者機関からのデータです。公的なものだと捉えています」

 

石戸:「講演の中で紹介された事例やデータに関する質問がきています。『ブリズベンやワシントン州の件は非常に興味深いです。日本においてもデータの利活用が議論になりつつありますが、ポジティブな意見だけではないです。諸外国はデータを教育に活用することに関して、どんな反応があるのでしょうか』というものです」

 

中井氏:「事前に保護者にデータの利活用について告知することが大前提です。米国では、データを集めるクラウドベンダーに、第三者機関が早い段階でデータの取り扱いに対する責任と宣誓を求めます。ヨーロッパも同様と聞いています。『データは個人のもので、クラウドベンダーはそこには触りません』という宣誓です。プライバシーを守ることを国や社会全体で基盤を作っていて、それをベースに各教育地区では『今度、このようなデータを集めます、こういう目的です』と、保護者に対して事前告知しています」

 

石戸:「今後、日本で教育データの利活用を促進していくにあたり留意すればいい点は、どういったことでしょうか」

 

中井氏:「海外でも議論が続いており、データは児童生徒個人が持つべきではないか、教育委員会や学校が児童生徒に代わって持ち、学習をよりよいものにする目的で使うのが良いなど、意見はいろいろです。ある程度貯まったデータを可視化するのは児童生徒のためになることを、保護者や児童生徒に説明して理解を得ておくことが大前提です。

 

日本でもすでに始めている地区や学校はありますが、個人情報保護条例との関連は自治体ごとに工夫をされていると思います。どこがデータを持つのかは、考え方が2つあると思います」

 

中田氏:「データを可視化するときに大切なのは、そこからどんな改善ができるかを明確にすることです。先ほどの海外事例では、『卒業できない人達が多い、改善するためにはどんなデータを取ればいいか』からスタートしています。一方で日本の場合は残念ながら、とにかくデータを集めてそこから何かを見出そうとするケースが多く、必要なデータ以外の不要なデータまでたくさん取っていることもあります。現場の先生や児童生徒が困っていることは何で、それを解決するにはどんなデータを取ればいいのか、からスタートしないとデータの利活用はうまくいかないのではないかと感じています」

 

石戸:「つぎの質問です。学習状況の見える化に関して、学習ログを集めて可視化する仕組みをオープンソースとして提供しているとのことですが、実際導入はどのぐらい広がっているのでしょうか」

 

中田氏:「コロナ禍でリモート学習になったことでさまざまなログを集めることができるようになりました。マイクロソフトでは、202010月から学習ログを集めて可視化するプロジェクトを開始しました。現在は、世界のいくつかの教育機関、学校、日本でいう文部科学省のようなところと一緒に検証しているところです。その結果をベースに製品の中に取り込んでいこうとしています」

 

石戸:「教育のプラットフォームに関する質問です。『デジタル教科書のプラットフォームは、各社独自に音声読み上げなどの機能の開発・搭載を進めていると思います。御社との協働連携など何か意識されている点はありますか』という質問です」

 

中田氏:「今一番問題なのは、教科書会社ごとにプラットフォームが異なることです。学校現場では科目ごとに教科書会社が違うので、国語の授業と算数の授業では別のアカウントでログインしなければならない。文部科学省は『11アカウント』と言いますが、現場は『1人マルチアカウント』になってしまっています。同じアカウントで全てのクラウドサービスを使えなければ利便性が上がらないと思います。

 

頭が柔らかい児童生徒は、教科書ごとに使い勝手が違っても柔軟に対応できるとしても、新しいものに慣れない年齢を重ねた教員たちが、非常に苦労しているという意見を現場から頂きます。本来であればプラットフォームを統一して、誰がどこのページをいつ見た、のようなログを共通仕様で取得できる基盤があると、学習ログとして非常に有用になると思います。仕様の標準化は文部科学省主体でやっていただくとよいと思います。

 

また、デジタル教科書はネットワーク配信型がほとんどなので、現状の学校のネットワーク環境では、すべての児童生徒がオンラインでリアルタイムにデジタル教科書を使うことには耐えられないと思います」

 

石戸:「つぎの質問です。『Future-ready skillsを育てるための小中学校の具体的な授業例を教えてください。特に想像力を育てるための授業例があればお願いします』という質問です。いかがでしょうか」

 

中井氏:「先ほどお見せした『マインクラフト for Education』は、プログラミングだけでなくものづくりの世界にも非常に向いています。マインクラフトカップでは、目の前にあるものではなく自分が想像するものを形に作り上げていきますので、想像力を育てる意味で向いていると思います。

 

それから、マインクラフトは1人でもできるのですが、複数の小さいグループで何かを作っていくことをずっと続けていきます。これは、チームメンバーに『こういうことやってくれない』と問いかけるときに、相手の視点を理解して相手に分かるように説明する訓練をずっとしていくことになります。デジタルの世界ではありますが、他者の視点や気持ちを理解して依頼できる力もついていく、これはまさに協働型探求型学習です。先ほどご紹介した素材ポータルサイトの方に授業案として公開していきます」

 

石戸:Microsoft Teamsに関して『心の天気リフレクトは、Teamsのみで実現可能なのでしょうか』という質問です。コロナをきっかけに若年層のメンタルヘルスの問題も指摘されています。この機能を搭載した背景もご説明いただけますか」

 

中井氏:Teamsだけの機能です。Teamsはオンライン授業のツールだけではなく、あらゆるコミュニケーションハブとして使えます。こういう機能が出てきた背景はまさに、去年から続いているコロナ禍で、何かしらの心に抱える問題があるなら把握したいというところです。オンラインだとどうしても児童生徒の表情や気持ちが読み取りにくい、学習と表裏一体の気持ちの部分をちゃんと把握してケアしていかなければならないと開発された新しい機能です。世界中からニーズがあったと聞いています」

 

中田氏:Microsoft Teamsには、Windows OSと同じようにアプリケーションを追加できます。『リフレクト』もTeams上で動く一つのアプリケーションとして無償提供されていますので、Microsoft 365の無料サービスをお使いいただいている学校でも、簡単に追加して利用できます。

 

この機能がリリースされたのは20215月です。いくつかの教育委員会から全学校で使ってみたいと回答は頂いていますが、実際にお使いになっての効果や結果はまだ頂いていません。夏休み明けにでもヒアリングしたいと思っています」

 

石戸:「最後の質問です。『特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議が開始されましたが、米国などでのギフテット教育に関して、Microsoft Educationの対応を教えていただきたいです』という質問です。データを活用して個々の特性を把握しつつ、ギフテット教育に活かすことも考えていくのでしょうか」

 

中井氏:「米国では早い段階で先ほどの教育ダッシュボードが立ち上がるなど、やはりICTの活用は極めて進んでいて、2014年に国を挙げて既に『1人1台端末』を行って、もう2周目に入ったところです。例えば全米で3番目に大きい都市、シカゴの教育委員会も、2014年に『1人1台端末』導入したけれど、使わなかったなどの学びを経て、2周目は完全に新しい教育プランを進めています。特に高校は、大学に入ることを前提に生徒の学習履歴をかなり取っていると聞いています。例えばコンピュータサイエンスを専攻したいならそれに向けた授業を選択するとか、先ほどの『MS Lean』も組み込んでいると聞いています。

 

入学を希望する大学が求めるスコアが取れているかどうかもしっかりデータを取って、将来のキャリアに向けて個別指導を行う実践ももうしています。教育地区としてのシカゴは、全米でもあまりレベルが高くなかったのですが、この数年で大学への進学率は飛躍的に伸びて、シカゴ全体の教育レベルも上がってきているそうです。ギフテットに限定した回答ではなく申し訳ないですが、まさにデータドリブンに個別のケアを行っている地区の例です」

 

最後は、石戸の「データが活用されてどのように教育が改善されたか、どういう効果が出たか、海外の事例も豊富にお持ちですので、引き続きどんどん情報発信していただけるとありがたいです」という言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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