日本はeスポーツ後進国? スポーツという認識を広めて学校教育に活かすには
第117回オンラインシンポ・後半

活動報告|レポート

2023.4.21 Fri
日本はeスポーツ後進国? スポーツという認識を広めて学校教育に活かすには</br>第117回オンラインシンポ・後半

概要

超教育協会は202338日、一般社団法人日本eスポーツ連合 副会長の浜村 弘一氏を招いて「日本におけるeスポーツの普及と学校教育」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、浜村氏が、日本におけるeスポーツの現状、教育機関に取り入れられている事例、学校教育に取り入れるメリットなどについて説明した。後半は超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、視聴者を交えての質疑応答が実施された。その後半の模様を紹介する。

 

>> 前半のレポートはこちら

 

「日本におけるeスポーツの普及と学校教育」

■日時:2023年3月8日(水)12時~12時55分

■講演:浜村 弘一氏
一般社団法人日本eスポーツ連合 副会長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

シンポジウムの後半では、ファシリテーターの超教育協会理事長の石戸 奈々子が、参加者からの質問も織り交ぜながら質疑応答を実施した。

eスポーツの教育現場に導入するときのハードルや活用の可能性についての質問が多数

石戸:「ありがとうございました。スポーツとメディアの関係からひもといていただき、歴史的背景も含めて、非常によく分かりました。たくさんの質問がきています。日本はeスポーツの後進国というお話がありましたが、日本が後進国となってしまった背景には、どのようなことが挙げられるのでしょうか」

 

浜村氏:「ひとつには、日本はゲームというものを遊びとして見てしまうことが多くあると思います。海外では、例えばマリオやメタルギアソリッドの開発者が認められ、映画監督よりも高い地位で評価されていたりしますが、日本ではゲーム自体の地位が非常に低いと感じます。そのため、eスポーツもなかなか認められないのだと思います。

 

もう一つは逆説的で、日本が家庭用ゲーム大国であるからです。任天堂、ソニー・プレイステーションの母国です。eスポーツはもともとパソコンで、オンラインでつながりプレイするところから始まっていますので、パソコンでゲームをする人が少ない日本は遅れをとりました。韓国や中国では、逆に家庭用ゲーム機がなかったことでオンラインゲーム大国になり、eスポーツが先進的に普及したのです。

 

日本もゲームへのリテラシー自体は高かったので、eスポーツの技量もとても高く、世界大会でも上位を狙えます。しかし日本全体のeスポーツ認知度が低いため、彼らを支える環境がないのです。eスポーツに関わらずスポーツ選手は、スポンサーが付いたり、リーグ戦の放映権が設定されたりすることによって報酬を得られるのですが、eスポーツはそのような環境が整っていないのです。数年前まで、日本のeスポーツ選手は自費で海外へ渡航して賞金を稼いで、スポンサーを見つけなければなりませんでした。しかし2018年以降はeスポーツへの注目度が上がってきたことで、スポンサーが付く選手やチームが増えてきていますので、今後、後進国から急激に先進国への仲間入りをする可能性は十分あると思います」

 

石戸:「なるほど、そういうことですね。もともとポテンシャルはあったにも関わらず、家庭用ゲーム機の大国であったことが反って、ゲームに対する固定的なイメージをすべての人に植え付けてしまった側面もあるかもしれないですね。ちなみにeスポーツをスポーツとして認めるかの議論が多いのも、日本の特徴でしょうか」

 

浜村氏:「日本だけでなく、世界でもeスポーツ先進国でも『スポーツなの?』という人はいます。でもそれほどは多くないです。

 

日本と海外ではスポーツの概念が違うと感じます。例えば、国際オリンピック委員会にはチェスの競技団体も入っていますよね。スポーツの語源はスポルテックという言葉で、楽しむ、競技、から始まっています。人々が何か競技を楽しむことですが、日本語に訳すときに「体を育む」という言葉にしてしまった。当時の体育協会が、かけっこはスポーツではないと言ったように、後進的な考え方と根性論で片付けられることが多く、最近もそれで問題が起きています。しかし、これまで『楽しむスポーツ』や『見るスポーツ』をなかなか認めてこなかったスポーツ協会も、最近は見るスポーツという考え方を用いるべきであると言っていますし、アジア競技大会で「コンストラクションブリッジ」(トランプのゲーム)がスポーツとして正式種目になったときには、トランプの協会が承認団体に入ったりしていますので、だんだん変わりつつあると思います」

 

石戸:「確かに、スポーツの語源は気分を変えるなど楽しむ、ですが日本は身体鍛錬というイメージがすごく強くなっていますから、『eスポーツで身体鍛錬になるの?』という意見にもつながるかと思いました。

 

視聴者は教育に関心がある方が多いため、教育に関する質問や学校での事例に付随する質問がきています。『養護学校の体育の時間のお話がありましたが、それ以外は部活動での紹介が多かったと思います。体育など教科科目にeスポーツを導入する動きは、国内でどのぐらいありますか』いかがでしょうか」

 

浜村氏:「校長先生や教育委員会の権限など色々あり、授業に入れることがなかなか難しい現状です。部活で認めることにも難色を示す高校も多いです。ただ、プログラミング教育が小学校から始まり、子供たちがモチベーション高くプログラミングに取り組むためにゲームを作り、競い合った中からeスポーツの高校選手権も始まっていることから、学校の知名度を上げるためにも検討してくれているところはあります。通信制の高校で増えてきている状況です」

 

石戸:「部活に関して、メディアの方から質問がきています。『現実的な部活動としてのeスポーツは、ゲームへの偏見や設備の調達の面でハードルが高くなっているように見えます。このようなハードルを取り除くためにはどのような支援が必要でしょうか』いかがでしょうか」

 

浜村氏:「学校ではパソコンやタブレットを授業で使うことも増えていますし、理解のある学校では教育の機材としてeスポーツ用の機器などを揃え始めています。パソコンメーカーからの寄付も進んでいますので、設備に関しては進んでいる気がします。それよりも問題なのは、顧問になる先生がなかなかいないことのようです。実際、本当に色々と細かい話の相談はきています」

 

石戸:「どちらかというと、人、指導者側の方が課題なのですね。今の質問でも、ゲームへの偏見がハードルの一つとして挙げられていましたが、その手の質問はやはり多数きています。『視力が悪くなるのではないか』など、きっとよく聞かれていると思いますが、ゲームに対するネガティブな声に対して、いつもどのように対応していらっしゃいますか」

 

浜村氏:「まず一番多く聞かれる言葉は『ゲーム障害』、ゲームを多くする人は中毒症状を起こすのではないかと言われています。WHOが認定しましたが、本来1020万の症例がなければ認定されないものが、数千数万レベルで認定され、この話が先走っています。我々としては、この話が本当なのか検証するべきであると考えています。

 

なおゲーム障害と認定した一方で、WHOはコロナの時期に、ゲームを通じて人とつながって孤独になるのを避けましょうという『Play apart together campaign』も実施しました。ゲームのメリットも認めています。ぜひご認識いただきたいと思います。

 

功罪どちらもあることについては、野球をやって肩を壊す、重量挙げで腰を悪くするなど、やりすぎや指導方法に問題あることは、どんなスポーツでも一緒です。

 

我々としてもそのような認識の下で、JeSU(日本eスポーツ連合)だけでなくCESA(コンピューターエンターテインメント協会)と協力して、ゲーム障害に関する研究への働きかけやキャンペーンをしっかり行っています」

 

石戸:「特に若年層との関係でいうと、これまでも新しいメディアの利用に関して、マイナス面が過度に発信されてプラス面の発信が不足してしまうこと、私も感じています。科学的根拠がなく提示されているネガティブに関してはしっかりと反論していく必要があること、同時にプラスの面に関しても、エビデンスを示しながら発信していく必要があるのではないかと思います。

 

その点において諸外国では、プロを育成する目的ではなく、教育カリキュラムへ普通に導入する動きもあると思います。eスポーツの教育的な効果に関して、今どのようなデータがありますか。また諸外国ではどのように捉えられているのでしょうか」

 

浜村氏:「まだ研究中のため明確には出ていませんが、チームワークや戦略については非常に奥深いものがあるので、そこを研究している方もいます。動画文化との側面から説いている方もいます。JeSUとして12回ぐらいの講座を作り、超教育協会と一緒に発表したものはあります。プログラム、動画制作、eスポーツそもそもの概念、国によってアプローチが違うものもるので、そちらも参考にしていただければと思います。

 

eスポーツが語学教育に使える例は、日本でも増えてきています。コロナの時期に外で遊べなかった子供が、気づいたら英語が話せるようになっていた。その子供は、スマホのオンラインゲームをするのに、チームを組んだ韓国や中国の人と意思疎通するために、自然発生的に英会話を身に着けたのだそうです。実際、eスポーツのジムではeスポーツのための英語学習講座を持つところも増えてきています。ぜひご報告したいと思います」

 

石戸:「よいですね。幼少期から、好きなことを通じて国際交流までしているとは。自分のやりたいことをより一層深めるために、学びにもつながっていくことは、理想的な姿です。

 

このような質問もきています。『不登校や引きこもりの支援にeスポーツを取り入れる事例が広がっている記事を拝読しました。そのあたりどうなのでしょうか』」

 

浜村氏:「それは数え切れないくらいあります。例えば学校に行けなくなった子、学校に行きにくくなった子たちが、オンラインの高校でオンラインを通じて友達を作り、ゲームしながら交流を深めた結果、eスポーツという団体競技に参加する例がとても増えています。先ほどの高校選手権でも、ルネサンス大阪高校やN高が優勝している例を報告しましたが、不登校だった生徒たちがチームとして優勝し、いきなりスターになっている例も聞いています。

 

本当に小さなきっかけで引きこもりになってしまった子たちが、同じ価値観の人のチームで同じ目的に向かって勝ち抜いていったことで自信を取り戻し、表舞台で話せるようになることもすごく多いです。不登校だけではないと思います。体育祭の一環で行われた例もありますが『自信をもって前へ出てきて活動すること』という広い意味で捉えてeスポーツを使っていただけると、多くの子供たちが自信を持てるチャンスになると思います」

 

石戸:「外の人たちとつながる、しかも家にいながらつながることができる、よいきっかけになると思いました。

 

こんな質問もきています。『体育の授業にダンスが入ったのと同じように、今後eスポーツも義務教育課程に入る可能性があるのですか』私からもこれに関連して聞きたいことがあります。JeSUさんとしては、これからeスポーツを盛り上げるための人材育成も大切だと思いますが、教育現場にどのように普及するのが理想的だと思われますか。授業に正規で入るのがよいのか、全国の部活ができるぐらいが理想なのか。どのような形で教育機関とつながっていくことをお考えでしょうか」

 

浜村氏:「段階を経て認められていくべきものだと思っています。我々もeスポーツは、ゲームでありながら競技でもあるという側面を見ていただき、プログラミング教育の中で設備を整えながら、まずは部活から始められればよいと思っています。都道府県eスポーツ選手権のような、目指すべきものが増えてくれば、部活もより活性化すると思います。指導者がなかなかいない問題も、長い目で見ればそのうちZ世代の方が教員になる時代が来ますから、その人たちがeスポーツの良さを発信し、メリットも含めて教育に活かしていけるようになればよいなと思います。段階的に進めていくために、JeSUとしては、全国大会で活躍できる場を作ること、国際大会で選手のステータスを上げる場を作ることを重要視したいと考えています」

 

石戸:「ステップ・バイ・ステップですね。次の質問です。『eスポーツに打ち込んだ方が、他の分野で活躍した事例はあるのでしょうか』例えばeスポーツはパソコンを使うので、パソコンに詳しくなっていって才能を発揮するなどeスポーツに打ち込んだことが多様な人生の選択肢につながる事例ありましたら、お伺いしたいです」

 

浜村氏:「『eスポーツ』と一括りになっていますが、実はジャンルはとても広いです。例えばレースゲームのグランツーリスモから本当のレーサーになった事例は実際にあります。それから、サッカーゲームのレバ選手は、サッカー選手からカウンター戦略などいろんな解説を受けたあと、とても緻密なゲーム展開ができるようになったと聞いています。シミュレーター的要素があるeスポーツを通じてサッカーや野球の戦略を立てることに長けるようになり、リアルスポーツに進んでチームのシミュレーターとして活躍している例もあります。他にもカードゲームや陣取りゲームで培ったさまざまなスキルを活かしてプロになったり、コーチや指導者になったりする例もあります。eスポーツは多様性があるため、その能力を身につけた選手には次へのステップが用意されていると思います」

 

石戸:「子どものために、2つの質問がきています。『eスポーツのプロを目指す子どもが親を説得するコツは何でしょうか』、もうひとつは、『小4の子どもがプロゲーマーを目指しています。今後スキルを高めてステップアップしていくためにはどのような進路があるのでしょうか』というものです」

 

浜村氏:「これは、他のスポーツもすべて同じだと思います。ローラースケートなど、現在は認知度が上がった競技のプロ選手として活躍している方も、初めてプロになりたいと言ったときは『何を言っているの』と、きっと言われたと思います。社会的認知度が低くても、自分が好きだから続けたい、ということに最初反対するのはご両親だと思います。そこでご両親も認める価値の中、例えば大きな注目を集めるオリンピックeスポーツシリーズや国体の種目になれば、わりと説得しやすくなると思います。

 

それと『きちんと稼げるのか』がポイントです。一部のeスポーツの大きな大会では高額な賞金がつきますが、選手の主な収益はスポンサーや放映権の分配です。経済活動として回るeスポーツを産業面で作り、選手が食べて行ける状況ができると、社会的ステータスも認められていきます。eスポーツ選手になりたいことを両親に説得できる環境は、我々が作ってあげたいと思っています」

 

石戸:「『eスポーツ発展のために何が必要だと思われますか』という質問がきています。ここまで語っていただきましたが最後に一言、抱負やメッセージなどをいただければと思います」

 

浜村氏:eスポーツはスポーツなのか、体によいのか悪いのかなど、本当にいろんな議論がされています。しかし先ほど申しあげたようにスポーツもエンターテイメントもすべて、功罪は必ずあるものです。Z世代が支持している潮流を、止めるのではなくメリットを把握したうえで一度、彼らが夢中になっているものを一緒に見てあげてほしい。彼らを前に押し出して活躍できる場を作り、やさしく温かい目で見てあげてほしいと思います」

 

最後は石戸の「JeSUさんと超教育協会で『超eスポーツ学校』という取り組みも始めています。eスポーツの発展に寄与できることを教育の側面から考えていきたいと思います」との言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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