特異な才能を理解し支援し伸ばす社会へ
第107回オンラインシンポレポート・後半

活動報告|レポート

2023.1.13 Fri
特異な才能を理解し支援し伸ばす社会へ</br>第107回オンラインシンポレポート・後半

概要

超教育協会は2022年11月30日、放送大学長の岩永 雅也氏をお迎えし、「特異な才能を理解し支援し伸ばす社会へ」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

個々の子どもが持つ特異な能力を伸ばす「才能教育」への関心が高まっている。そこで、才能教育の重要性、日本の才能教育の充実に向けた取り組みなどについて、文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」の座長を務める岩永氏に伺った。

 

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「特異な才能を理解し支援し伸ばす社会へ」

■日時:2022年1130日(水)12時~12時55分

■講演:岩永 雅也氏

放送大学長

■ファシリテーター:石戸 奈々子
超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、後日、参加者からの質問を交えて岩永氏が答えるかたちで質疑応答が実施された。

質疑応答

石戸:「学習面で早修したとしても、精神面での成熟が伴わず、結果として精神的な不調を訴える可能性が大きいと思いますが、精神的な成長に関するフォローや対策はあるのでしょうか。国内外において、具体的な取り組みがあればご教示ください」

 

岩永氏:「確かに、アメリカの早修プログラム(ワシントン大学、カリフォルニア州立大学LA校などのEEP)の例では、そうした懸念が想定されるため、早修入学者のための特別な部屋を設置し、アドバイザー、カウンセラー等を配置しています。ただ、それはEEPなどの特別プログラムを持っているところであって、単に飛び入学だけを認めて早期入学者を入れているような大学(そうした大学の方が普通)では、そのような対応は必ずしも取られていないと思います。ちなみに、これまで累計100人ほどの早期入学者を受け入れてきた千葉大学の先進科学プログラムでは、先進科学センターを設置してその中に自習室を設けたり、センター所属の教員が随時相談に乗ったり、早期入学者向けの特別な教養セミナー、海外研修などを実施したりといった対応が取られています。一般学生に比べて、非常に手厚い対応が行われているという印象です」

 

石戸:「ギフテッドの1つの特徴として、『得意な事への異常な特化(逆説的には、不得意な事への無関心)』といった非同期成熟があると思います。その場合、ご紹介があったアメリカ型の早修でも対応が難しいのではないかと思いますが、諸外国ではどのように対処しているのでしょうか」

 

岩永氏:「三菱UFJR&C社の調査によれば、アメリカ以外の海外の才能教育は二つの類型に分かれます。一つは国家が推進して才能育成に重点を置くアジア諸国型(中国、韓国、シンガポールなど)で、英才教育、エリート教育との関わりも深く、そもそも個別の子どもたちへの心のケアまでは対応は考えられていないようです。もう一つは西欧北欧諸国などで見られるものですが、才能教育自体が個別最適をめざした活動であることもあって、ケアには力を入れているところが多いようです。とりわけ、フィンランドでは、多様性の尊重に重点を置いているため、早修自体もほとんどなく、その点で大きな問題になることもないようです。(文科省のサイトから『平成30年度 社会の持続的な発展を牽引する力の育成に関する調査研究』を検索していただきますと、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査報告書がダウンロードできるサイトがありますので、その海外調査報告、特にp.45~73のフィンランドでの詳しい事情などが参考になると思います)」

 

石戸:「ギフテッドが原因で学習面や生活面での生きづらさを感じ、いま不登校になり困っている人たちに対して、制度が整う前のいま取りうる手段があれば教えて下さい」

 

岩永氏:「学校外の才能教育機関、NPO、ICTの利用などでカバーする、ということになりましょうか。フリースクールなどの活用も積極的に考えるべきかと思います。ただ、地域格差、経済格差があり、アクセシビリティに偏りがあります。そこは大きな問題として残ります」

 

石戸:「諸外国でのプログラムやカリキュラムで参考にできるものは、具体的にどのようなものがありますか」

 

岩永氏:「拡充型でインクルーシブ型、ということであれば、フィンランドの例が一番参考になろうかと思います」

 

石戸:「これまでも課題として認識されていたと思いますが、このタイミングで文部科学省の有識者会議で議論することになった背景を教えてください。また、これまで諸外国と比較して日本においては飛び級制度が広まらない等、遅れをとってきた理由を教えて下さい」

 

岩永氏:「タイミングとしては、社会からの要請(突き上げ?)や問題の顕在化による、ということではなく、文部科学省が諮問に動いたのはやはり中央教育審議会が「令和の日本型学校教育」を出したことが大きいと思います。中央教育審議会答申と有識者会議の設置はほんの数ヶ月しか離れていません。日本で飛び級制度(飛び入学も含め)が広まらない要因は、一つには『学校教育法』第17条の『保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。・・・② 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う』という厳格な年齢主義にあると思います(したがって落第もほぼ皆無です)。ただ、それを成立させ、現在まで維持させているのは、背景にある(形式)平等的な、個人の自由よりも集団の調和を重要視する日本文化の在り方そのものだとも思います」

 

石戸:「学校で集団での学習・生活することのメリットは強く実感していますが、同学年・同年齢での学習に対するこだわりの弊害が現れていると感じます。既存の学校教育のシステムからの脱却が求められると考えますが、今後にむけて、どのような変化が望まれるとお考えですか」

 

岩永氏:「アメリカや西欧諸国では、むしろ取り出し型の弊害を重視し、インクルーシブ型の方へ全体として移行している印象です。日本でも、そうした形の才能教育の方向へと進んでいくのではないでしょうか。特に小学校段階では、学級集団を維持しながら、その中で特異な才能ある子どもへの対応を考えるということになりましょうか。その際、ICTの活用や学校外の才能教育機会などがますます重要な役割を果たすことになると思います」

 

石戸:「年齢・精神・肉体的に未完成な状態で、大学院等修了の能力を習得した場合、社会に出ていくにあたり、どのような状況になるのでしょうか。実例がありましたらご教示下さい」

 

岩永氏:「残念ながら実例の情報は持ち合わせていません。ただ、暦年齢の通りに大学院を修了しても、精神的に未熟な人間は山ほどいると思います。それでも大半は何とかうまく社会に適応しているのではないかというのが私の見立てです」

 

石戸:「子どもの困難がなくなるように支えることと、一方で才能を伸ばすこと。両立はできるものでしょうか。保護者はどのようなサポートをすればよいでしょうか」

 

岩永氏:「もしその子の困難が、他の子どもたちからぬきんでた特異な才能に起因するものであるならば、多くはその才能を少し抑制することで他と調和させ、困難を回避させようとするでしょう。特異な才能をそれ以上に伸ばすことは危険だと判断されることが多いからです。しかし、保護者だけでなく、才能に対して理解のある周囲の人々の支援を常に受けられる体制があれば、才能をさらに伸ばしながら、集団にも適応することができるような発達が可能となると思います。そういうスキルのある人材を養成していくことが鍵となるのではないでしょうか」

 

石戸:「特異な才能を持つ子どもたちのための制度を早期実現するために、具体的にどのような方策が考えられるでしょうか。またそれにあたっての課題があれば教えて下さい」

 

岩永氏:「まさにその方策を手に入れるため、次年度からの実証研究プロジェクトを立ち上げているところですが、短期的に実行できる具体的な方策としては、『教師が才能を見出し、理解して対応できるスキルを身に付けられるよう研修を行う』『学校内に、特異な才能を有する子どもたちの居場所を作る』『才能探索のアセスメントツール等を標準化する』『地域差なくアクセス可能な才能教育機会のためのプラットフォームを整備する』といったことが考えられます。実証研究の結果として、飛び級を容認するなどの制度改革を提言することもあるかも知れませんが、そちらに舵を切ることは、現状、かなり難しいものと思います」

 

石戸:「日本では、特別支援教育におけるギフテッドや2Eへの支援などに、実際に取り組まれている学校などはないのでしょうか。また、学校外での才能教育の事例はどのようなものがありますか」

 

岩永氏:「特別支援の領域での2E教育は、現状では対象の数が非常に少なく、学校単位での取り組みは現実的ではありません。2E教育と才能教育について正面から体系的に論じた松村暢隆『才能教育・2E教育概論』(東信堂、2021)によれば、アメリカでの事例には事欠かないものの、日本での事例はそれほど多くないということです。それでも、横浜市の通級指導教室での『サマーキャンプ』や東京大学の『ROCKET』、『PHED』、京都大学の『HEAP』等のほか、大阪大学、九州大学、富山大学などでも小規模ながら実践は行われてきたようです。また、今話題のN高なども2E生徒が学びやすい教育システムとして紹介されています。そのほかに松村暢隆編『2E教育の理解と実践』(金子書房、2018)も参照されてはいかがでしょう」

 

石戸:「ギフテッドと発達障害を見分けるポイントはどのようなものがありますか」

 

岩永氏:「私自身は2E教育が専門ではないので、軽々には言えませんが、前者は何か特定の分野で特異な才能を発揮することが認知されている子どもで、後者はそれが見出せない子どもだ、ということではないでしょうか」

 

石戸:「いわゆる進学校では高校3年生の授業はまるで予備校のような科目が多いようですが、そんなことより、日本版のAPのような先取り履修を普及させ、大学学部の早期卒業、学部+修士=5年修了をスタンダードにできるといいのではないかと考えますが、放送大学又は大学間連携として具体的な動きはありますでしょうか。大学側が取り組まない要因としてはどのようなことが考えられるのでしょうか」

 

岩永氏:「『日本版AP』については、私も同じような先取り学習としての利用を考えておりました。実際、放送大学では大学レベルの授業(特に語学、数学、物理、天文、心理など)を15歳から学習でき、単位も取れる仕組みになっておりますので、その意味では日本版APと読み替えてもあながち無理ではないかなと思っております。ただ、現在のところ、その単位を放送大学以外の大学の単位として使うことは困難な状況です。個々の従来からの大学が、どの大学の先取り学習の単位も相互に認定し合うようになればこの制度も広まると思うのですが・・・。いずれにせよ、東大や京大といったところで『日本版AP』の単位を認定するということになれば状況は一気に進むものと思われますが、入試のハードルが高い大学ほどそうした外生の単位を認めたがらないという傾向は依然強いようです」

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