デジタル・シティズンシップ教育の普及には、学校と地域のつながりが大切
第106回オンラインシンポ・後半

活動報告|レポート

2022.12.23 Fri
デジタル・シティズンシップ教育の普及には、学校と地域のつながりが大切</br>第106回オンラインシンポ・後半

概要

超教育協会は20221117日、法政大学 キャリアデザイン学部教授 坂本 旬氏を迎えて、「デジタル・シティズンシップ教育〜ICTをポジティブに活用する善きデジタル市民への学びとは」と題したオンラインシンポジウムを開催した。

 

シンポジウムの前半では、今や先進的な教育現場はもとより、総務省や内閣府が言及する機会も増えた「デジタル・シティズンシップ」とは何か。欧米で進むESD(持続可能な開発のための教育)に基づいたデジタル・シティズンシップ教育の内容と現状について、さらに立ち後れている日本の教育現場での具体的な活動展開について、坂本氏に伺った。後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。

 

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「デジタル・シティズンシップ教育〜ICTをポジティブに活用する善きデジタル市民への学びとは」

■日時:2022年11月17日(木)12時~12時55分

■講演:坂本 旬氏

法政大学 キャリアデザイン学部教授

■ファシリテーター:石戸 奈々子

超教育協会理事長

 

▲ 写真・ファシリテーターを務めた
超教育協会理事長の石戸 奈々子

 

デジタル・シティズンシップ教育を日本に普及させるためには何が必要なのか。世界と日本の現状について解説いただいた前半に続いて、後半は、超教育協会理事長の石戸 奈々子をファシリテーターに、参加者を交えての質疑応答が実施された。その模様を紹介する。

メディア情報リテラシーの問題に国境はない

石戸:「アメリカでは7割の学校にデジタル・シティズンシップ教育が導入されているとのお話でしたが、ヨーロッパ・アジアなどの状況はいかがでしょうか」

 

坂本氏:「韓国は、日本よりも早くデジタル・シティズンシップ教育を取り入れています。この夏には、マレーシアでメディア情報リテラシーの教員向けの研修会があり、その場で私は実践的な話をしました。このようにアジアでも取り組みが進んでいます。この問題に国境はありません。ロシアのウクライナへの侵攻も、当事者だけの話ではなくグローバルな問題になっているように、偽情報も陰謀論もみな、国境を越えた問題です。アジアも含めた世界中で、同様の取り組みが行われています。

 

報道の自由が危ういフィリピンが、意外なことにユネスコのメディア情報リテラシーの本拠地のひとつになっています。メディアの問題が深刻な地域ほど、一生懸命やっています。また、アジアのデジタル・シティズンシップの調査研究は、バンコクのユネスコ事務所を中心に進めています。今は国境を越えて協力しなければならない時代なので、アジアも決して例外ではありません」

大人のデジタル・シティズンシップ教育で最大の問題はデジタル・インクルージョン

石戸:「デジタル・シティズンシップは子どもに限らず、すべての人の問題ですよね。大人に対する啓蒙活動の状況はいかがでしょうか」

 

坂本氏:「私は総務省に強く訴えたのですが、大人で一番の問題はデジタル・インクルージョンです。デジタルの恩恵を受けられる人とそうでない人との格差が非常に大きい。今は行政でDXを進めていますが、DXが進むほどデジタル・インクルージョンは不可欠になります。すべての人がデジタルツールで社会参加できるようにするのがデジタル・シティズンシップですから、高齢者も含めたすべての人にデジタル環境を保証すべきです。ですが、そのための施策がまだまだ足りません。日本語が話せない在日外国人やインターネット環境のない高齢者が、デジタルの恩恵を受けられないのは不公平です。そうした問題が土台にあります。

 

もっと難しいのがオンライン上のデマや誹謗中傷の問題への対策です。これは教育だけでは解決できません。プラットフォーム運営者にも責任があるため、企業も巻き込む必要があります。

 

もうひとつは社会教育です。そこではデジタル・インクルージョンやデジタル・シティズンシップの考え方がまだまだ弱いため、社会教育団体と一緒に新しいデジタル時代の社会教育を考えていく必要があります。そこで公共図書館がとても大事になります。日本の公共図書館を取りまとめている日本図書館協会と総務省は、すでに議論を始めたと聞いています」

韓国では公共施設メディアセンターが大人のデジタル社会教育を推進

石戸:「その点において、海外で参考になりそうな取り組みはありますか」

 

坂本氏:「イギリスは2021年の夏に、全世代型の『オンライン・メディアリテラシー戦略』を出しています。ここでも公共図書館が重要視されています。韓国にはメディアセンターという公共施設があり、そこが中心になって進めています。

 

日本にはメディアセンターがないため、公民館、生涯学習センター、図書館が中心になりますが、それだけでは足りません。そのため、NPOなどの団体と協力して進めないといけません」

1年に6コマ、道徳科でも情報科でも可能

石戸:「デジタル・シティズンシップ教育の具体的な導入方法に関する質問が多くきています。長時間のカリキュラムのように思えますが、アメリカの学校では実際にどれほどの時間を充てているのでしょうか」

 

坂本氏:「アメリカでは10月に、『デジタル・シティズンシップ・ウィーク』があります。このときにみんなで一斉に教えます。授業でパソコンを使うからには当然必要なことで、だったら学期始めにまとめてやろうという考え方です。日本でも実施できたらいいなと思います。

 

最低でも1年に6コマできればいいので、そんなに難しいことではありません。道徳科で実施するというのがひとつの方法ですが、そもそも情報モラル教育は必修で、そこでデジタル・シティズンシップを教えることもできます。

 

日本でも、すでに各地で取り組みが始まっています。1カ月に1回行っている日本デジタル・シティズンシップ教育研究会のオンラインゼミでは、いろいろな学校の実践報告がされています。また、デジタル・シティズンシップ教育をやりたいという自治体もたくさんあるので、そこへ出向いて支援するという活動も行っています」

日本でのデジタル・シティズンシップ教育の実践事例

石戸:「具体的な実践事例があれば、教えてください」

 

坂本氏:「12月に吹田市の大和大学で、日本デジタル・シティズンシップ教育研究会のゼミを開催します。吹田市はもっとも早くからデジタル・シティズンシップ教育を導入した自治体です。なぜ早かったのかと言えば、いじめのない学校を作ろうと、いじめに対するソーシャルスキル・プログラムを行っていて、しっかりとした人権教育の土台があったからです。

 

来年(2023年)1月19日に予定しているオンラインゼミは、神奈川県にある横須賀学院小学校の先生の報告があります。この学校では英語の時間にデジタル・シティズンシップ教育に取り組んでいます。英語の先生がコモンセンス・エデュケーションの人と知り合いだそうで、アメリカの実例も聞けると思います。

 

そのほかにもたくさん事例があります。毎月のオンラインゼミでは、さまざまな実践報告が聞けるので、ぜひ参加していただけたらと思います。日本デジタル・シティズンシップ教育研究会(JDiCE)のホームページに予定が載っています」

※2 JDiCEのホームページ

日本向けの教材も揃っている

石戸:「小中学校で使える教材には、どのようなものがあるでしょうか。またどのような教材があればよいとお考えでしょうか」

 

坂本氏:「教材は『デジタル・シティズンシップ プラス:やってみよう! 創ろう! 善きデジタル市民への学び』という本にいくつか載っています(※3)。また、コモンセンス・エデュケーションの教材を翻訳したものをYouTubeで公開しています(※4)。経産省のSTEAMライブラリーでもデジタル・シティズンシップのオリジナル教材を作って載せています(※5)。2023年の春には追加バージョンが公開される予定です。

 

アメリカの教材をそのまま使うのは難しいです。アメリカの3年生向けの教材は、日本の5年生レベルになります。そこで、日本の学校文化に合わせた教材を、コモンセンス・エデュケーションの基本的な考え方をそのまま踏襲して用意しました。それを使ってもらうのが、一番わかりやすく早い方法だと思います。

 

現在、我々のメンバーが全国を走り回って、授業をやって見せています。授業を受けた先生が試してみて、私たちがアドバイスをするという活動です。一度やってみて理解するまでのプロセスが大切なのです」

※3 『デジタル・シティズンシップ プラス:やってみよう! 創ろう! 善きデジタル市民への学び』(大月書店、2022年4月)

※4 デジタルシティズンシップ教材(日本語字幕版)
※5 STEAMライブラリー

情報モラルを推進する文科省の取り組み

石戸:「『文部科学省はデジタル・シティズンシップ教育にどうコミットしているのでしょうか。具体的な内容を聞かせていただけますか』という質問がきています」

 

坂本氏:「文部科学省には学習指導要領の縛りがあり、今のものを変えることができないため、次に向けての話になります。文部科学省は情報モラル教育を進めていますので、デジタル・シティズンシップ教育という用語は使っていません。

 

ただ、情報モラル教育だけでは不十分です。さらにデジタル端末を活用したESD(持続可能な開発のための教育)につながる教育実践が必要です。たとえば、生徒が端末を家に持ち帰って使う場合、デジタル・シティズンシップ教育では、保護者に意見を聞くなどの活動がかならず伴います。それによって、保護者にもデジタル・シティズンシップについて学んでもらえます。そうした、情報モラルの拡大版という形で進めていくのがいいと思います」

デジタル・シティズンシップ教育を妨げる自治体の温度差

石戸:「日本では情報モラル教育が浸透しているために、デジタル・シティズンシップ教育がやりにくいのではないかという意見がきています。デジタル・シティズンシップ教育を普及させる上での障壁はありますか」

 

坂本氏:「自治体によって、温度差が非常に激しいですね。すぐにやりたいという自治体もあれば、まったく関心がない自治体もたくさんあります。児童生徒が家に端末を持ち帰って、もっと活用してもらいたいと考えても、それは情報モラル教育の範囲を超えてしまう可能性があります。そこをデジタル・シティズンシップ教育で補おうと考えてくれる先生がいます。

 

しかし、そもそもそんな面倒なことはやめようと教育委員会が考えてしまったら、先へは進めません。『情報モラルのままでいいじゃないか』となり、授業での端末活用さえも不十分なものになってしまう。その考え方の違いが大きいんです。

 

昨日、たまたま三鷹市のコミュニティースクールの人たちが訪ねてきました。コミュニティースクールは地域で学校の運営に加わるもので、子どもも参加しています。子どもたちもデジタル・シティズンシップに関心を持っていると聞いています。

 

自治体や教育委員会、それに多くの議員も関心を寄せています。地方議員の集まりに呼ばれて話をしたこともあります。九州のある自治体では、保護者や地域代表を含む未来教育プロジェクト会議が教育委員会に提案する制度がありますが、その議事録を読むと、デジタル・シティズンシップ教育を取り入れるべきだと議論されていました。こうした地域での議論が大切です。議論はまさにシティズンシップなわけで、子どもと大人で考えていく必要があると思っています」

 

地域と協力して学校にデジタル・シティズンシップ教育を取り入れる

石戸:「デジタル・シティズンシップ教育を取り入れる上で、地域で必要になる仕組みやインフラ、または期待されているソリューションはありますか」

 

坂本氏:「地域には、コンピューターで社会参加しようとする団体がたくさんあります。プログラミングに関する団体などは、そもそも社会貢献を目指して活動しているところが多いので、デジタル・シティズンシップは浸透しやすいですね。SDGsの側面では、教育分野だけでなく、さまざまな企業や団体が取り組みを行っています。ESDでは、そうした地域の企業や団体との関係を重視しています。『社会に開かれた教育課程』です。そのため、デジタルで社会の課題を解決したいと思っている団体とつながることが大切です。それは学習指導要領が求めていることでもあります。社会の課題に取り組み行動することが目標となれば、学校だけでは困難です。地域のさまざまな団体とつながりながら、学校教育を育てていくという発想が必要であり、そこでデジタル・シティズンシップが重要なキーワードとなります」

デジタル・シティズンシップ教育の普及には「つながり」と理念の共有が力になる

石戸:「デジタル・シティズンシップ教育を普及させるために、学校教育のほかに方策があれば教えてください」

 

坂本氏:「学校もそれ以外も、どちらが先ということではなく両方必要です。世代ごとに課題が違うからです。学生たちと自主夜間中学校によく行くのですが、そこは日本語の読み書きすらうまくできない人たちが来ています。しかし、読み書きができなくてもスマートフォンを使っている。聞けば、声だけで操作できると言います。だから、文字の読み書きができなければデジタル・シティズンシップやメディアリテラシーの教育できず、それらが身につかないと考えるのは間違いです。

 

このことは、2018年に発表されたユネスコの報告書『低スキル・低識字者のためのデジタル・インクルージョン:展望評価』にも示されています。デジタル環境の整備と並行してデジタルリテラシー教育もできるのです。決してリテラシーが先ではない、と言われています。このように、世界の課題に対して、それぞれのニーズに合わせた活動をするべきであって、地域のさまざまな団体と、それぞれの世代が解決できる取り組みを行い、ネットワーク化していく。これは、デジタル・インクルージョンやデジタル・シティズンシップという共通の目標に向けてつながっていくことであり、世界の不正義に対してアップスタンダーになることも含め、共通の理念を持つことがとても大事だと考えます」という坂本氏の言葉でシンポジウムは幕を閉じた。

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